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026 魔性、霧より産まれん

 さて、ダンジョンの中へと入ったわけだけど、そこは真っ暗……というわけではなく壁に生えている水晶が光っていて、薄暗くはあるもののちょうど自分たちの姿が見える程度には照らしてくれていた。

 途中で水晶の生えていない通路もあったが、それはライテーが乗っている金色の雲が照らしてくれたおかげで見えないということはなかった。そんで、このライテーが乗っているのはサンダークラウドからドロップした金雲というアイテムで、ライテーとは相性が良かったのか鍛治師に鍛えてもらわなくてもそのまま取り込んだ形で神弓をパワーアップできたんだよな。


「ふたりとも気を付けてね。一応、出現するのは低級のゴブリンやコボルトのはずだけど、今は闇の神の力が増幅されていてどんな魔物が出るか分からなくなっているから」

「ああ、その状態をどうにかするために俺たちが来たってわけだろう。しっかし、街の中にこんなものがあるなんてな」


 外からじゃあ、こんなでっかい迷宮が地下にあるなんて分かんねえよ。


「ここは元々古代イシュタリア文明の遺跡があった地だからね。この都市も遺跡を発掘し研究していた過程で生まれたものらしいよ」


 古代イシュタリア文明ねえ。俺の世界とは別の文明がやっぱりあるんだなぁ。いや、当然といえば当然なんだけど。ホント、ここってどこなんだろう?


「それで三百年前だったかな。遺跡を迷宮核石の制御の研究に使ってダンジョン化させたらしいんだよね。まあ、このまま迷宮核石が活性化するとダンジョン化が深まって酷いことになるかもしれないから、早く対処しないといけないんだけど」

「ダンジョン化が深まる?」


 なんだか言葉の響きからあんまり良いイメージではないけど、何かマズイことになるのかね。


「うん。迷宮核石は寄生型ゴーレムと言われていて、成長するとダンジョンを拡張してしまうんだよ。部屋や通路が増えて、階層も増えていく。それに下の階層に行くたびに闇の神の力が濃くなるから手強い魔物も増えてしまう。さすがに成長が続くと都市内にあるには危険過ぎるからね。今のうちにどうにかしないといけないというわけさ」

「ハァ。ゴーレムねえ。なんで、そんなもんが存在してるんだよ?」

「それは諸説ありますが、ダンジョンは神々の時代には闇の神の施しであったとも言われています」


 回答したのはリリムだった。神代の時代だから神官さんの分野なんだろうな。マキシムも頷いているので正しいらしい。


「施しというとガチャみたいなもんってことか?」

「そうです。神々の試練。それはときに様々な形をとります。闇の神もかつては世界を紡ぐ大いなる神の一柱でした。けれども今では狂い、人と神の双方に仇なす存在となったと言われています」


 ああ、確か闇の神が世界の危機を生み出してるって話だったっけ。

 この世界は危険に満ち溢れてるな。怖いわ。俺が思わずプルプルと生まれたての小鹿のように震えていると、マキシムが手を挙げて俺たちをその場に留まらせた。


「どうしたマキシム?」

「見て。あれ、造魔の霧だ」

「お、あれが……」


 マキシムが指差した先では紫色の霧が漂い、その中で赤い結晶体がいくつも浮いているのが見えた。

 あれは核石か。少しずつ大きくなってるな。核石ってああやってできるんだな。そんで核石の周囲に魔力が集まって徐々に人型になっていく様子も見える。多分あれはゴブリンだな。つまり今目の前で起きているのは魔物が生まれる瞬間ってわけか。


「珍しいね」

「あの状態でも倒せるのか?」

「あの核石を砕くことは可能だけど霧は残るし、あの霧自体が有害だからあまり近付かない方がいい。それに核石を砕いても時間稼ぎだけでどの道、あとで霧が再び魔物を生み出すから、あのまま魔物を生み出し切らせて霧を無くした方が安全なんだ。まあ、出現した魔物を倒せるなら……という前提の話だけどね」


 なるほど。


「一応広範囲の魔術なら霧も消滅させられるけど、あの核石のサイズからして出てくる魔物も低級だ。普通に倒した方が早い。それでタカシ、リリムさん。ふたりのお手並みを見せてもらっていいかな?」


 そのマキシムの言葉に俺とリリム、それにライテーが頷く。


「じゃあ、行こうぜライテー」

『ラーイ!』


 ライテーも待ちわびたかのように金雲の上でガッツポーズを取った。よし、じゃあやろう。とはいえ、狙う的は目の前だ。その上に先攻は取れてるから気負う必要もない。俺は雷霆の十字神弓を構え、実態化する瞬間を待った。


「タカシ様、出ます」

「ああ、見えてるぜ。射る!」


 核石に当たるイメージ。おし、放った矢はちゃんと出現したゴブリンの胸を貫いて核石を破壊した。


「へぇ。一撃で。やっぱりやるね、タカシは」


 マキシムが感心した顔してるな。いいぞ。もっと褒めてくれ。俺は褒められて成長する二十二歳児だからな。そして続けて……と。チッ、今度は盾に当たったか。けど弾かれた魔力の矢はその場で放電して消えながらゴブリンを痺れさせたみたいだ。


「うーん、倒せてはいないか」

「その矢は当たれば強力だし、止められても拡散してダメージを与えるんだね。ただ、魔術が付与されている盾だとダメージを与えられずに弾かれることもあるよ」


 マキシムがそう忠告してくれる。盾持ちか。ま、今のはイメージに頼らず普通に射ったからなぁ。刺さってるイメージを掴めると当たるんだけど、イメージするには集中しないといけないわけでなかなか難しい。


「私も行きます。えいやっ!」


 で、リリムが竜水の槍でゴブリンに向かっていってるが、ありゃあ危なっかしいな。


「きゃあっ!?」


 あ、ちょっと今のはヤバかったけど、あらかじめ召喚していたカーバンクルボルトの雷の壁がゴブリンの攻撃を防いだみたいだ。ヒヤヒヤするな。というかリリム、近接戦とか苦手だろ、あいつ。前は普通に戦えてたと思ったんだけど、あんときも多分結構ギリギリだったんだな。

 けど、召喚か。サモンジェムなら俺も手に入れたんだよな。

 昨日引き当てたスーパーレアのボルトスカルポーン、使ってみるか?

 確か召喚は一部を除いて魔導器のスロットにははめずに直接使うんだったか。つまり使用可能なカード三枠のひとつを使うってことだけど、まあ戦闘は神弓しか使わない今の俺には別に問題のない制限だ。


「よし出ろ。ボルトスカルポーン!」


 そして俺がカードを掲げて声を上げると、目の前の地面に魔法陣が浮かんで盾と剣を持った骸骨の兵が出てきた。ちょっと放電してるのは雷属性だからか。


「お、出た。けど、こいつどう使うんだ?」

「おやタカシ、召喚は初めてかい。だったら命令すれば良いよ。無茶な指示じゃなければ大抵のことには従ってくれる」


 後ろからマキシムがそう教えてくれた。そうか。便利だな。


「よし。ボルトスカルポーン。リリムといっしょに戦え」


 おお、俺の指示に頷いたボルトスカルポーンが駆けて、リリムの元へといってゴブリンと戦ってくれている。俺が遠距離専門だからな。あいつが前に出て戦ってくれるなら結構いい感じでやれるかもしれない。


「タカシ、霧の範囲が少し広かったみたいだ。離れた場所からも出てきたよ」


 マキシムの言葉通り、奥の通路からもゴブリンの群れがやってきているのが見えた。まあ、問題はない。


「固まってるならこっちのもんさ。ライテー行くぞ」

『ラーイ!』


 俺が出した雷の矢にライテーが力を込めて金の雲を形成していく。


「アーツ・サンダーレイン!」


 そして俺は並んで迫ってきているゴブリンたちの天井にアーツの矢を突き刺すとその場に金色の雲が出現して雷が一斉に真下に降り注いだ。


『グギャァアアア』


 おお。黒雲が金雲に変わっただけじゃなく、落ちてきた雷も心なしか強力になっている気がするが……ありゃあ、気のせいじゃないな。これがライテーの乗っている金雲の力だろう。なかなかいいパワーアップだぞライテー。


「やるねえ」


 マキシムも感心してるな。

 で、倒したのは三体だが、他のゴブリンもダメージは受けてる。あれなら俺だけで十分片付けられる。けど、リリムの方は防戦一方というか召喚獣がいなかったらヤバい感じだな。俺のボルトスカルポーンが協力してるからどうにかなってるけど、退がらせた方が良さそうだな。いつ怪我してもおかしくないわ。


「マキシム。あっちは俺がやるから、悪いがリリムの方を助けてもらえるか?」

「うん、そうだね。彼女は近接戦闘が得意ではない……というよりは普通に初心者のようだしね」


 うん、面目ない。アーツは役に立つんだが、リリムは今後どうにかせんとマズいかもな。

 で、マキシムだがこいつは元々ゴッドレアの剛力の腕輪ははめてるから使えるカードは二枚なわけだけれど、黒い剣と黒い盾をカードから出してきた。ジェムスロットは剣が三、盾が四つですべて埋まってるか。あのロックゴーレム相手に使ってた装備だな。


「これはウルトラレアの重神剣グランと重神の円盾グラムスだ。見た目以上に重いものでね。ゴッドレアの剛力の腕輪を装備してやっと使えるんだ」


 へぇ、どちらもウルトラレアか。盾の方が穴は多いってことはあっちはカード一枚重なってるんだな。それにあの武具が出てきたと同時にマキシムの真下の床が揺れてたってことは、相当な重量だぞ。


「確かそいつよりも強い武器を持ってるんだよな、お前。スーパーレアの」

「そうだけど、この狭い場所じゃあ使えないからね。じゃあタカシ、見ていてくれよ。僕の活躍をさ」


 そう言ってマキシムが駆けていく。

 おお、速いな。スロットに加速のスキルジェムでも入ってんのか? 

 マキシムはすぐさまリリムの相手の目の前まで近付いて一刀両断すると、それから俺のボルトスカルポーンが相手をしていたゴブリンも真横に薙いで胴を斬り裂いた。おお、すげえ。盾ごと破壊したぞ。あれが無双ってヤツか。

 それから俺も請け負った分のゴブリンをあっさり倒したことで戦いはすぐさま終わった。マキシム、こいつひとりでいいんじゃないかなって感じだ。いや、実際そうなんだろうけど……それで戦闘後の核石の回収をしたんだけど妙に小さい。

 それをなんだか項垂れているリリムに見せてみると「ダンジョンの魔物の核石は通常のものの半分ぐらいなんですよ」という答えが返っていた。


「え、マジで? そうなのか?」

「はい。基本的に込められた魔力量で金額も決まりますので、換金レートも通常の半分です」


 それってうまみ薄いなぁ。ショボイなダンジョン。


「ダンジョンの魔物は核石からだけではなくダンジョン自体からも魔力を得ていますから。ついでに魔力による身体の構成も緩いのでアイテムドロップもしないのがダンジョンの特徴です」


 マジでショボッ。てことは普通に外で魔物倒したほうがお得なのか。

 けど、遭遇率考えると微妙なところか?


「ただ、その代わりというか、ガチャと同じアイテムカードが出る宝箱が落ちていることがあるんだよタカシ」

「マジでか?」

「はい、そうですね勇者様。けれども宝箱から手に入るカードは闇の神の加護を受けていますので、レア以上は神殿での浄化の必要があります。強力な武器などは相応に金額がかかりますよ」


 うーん、外とダンジョンとでは色々と勝手が違うってわけだな。


「ちなみにこの学都のダンジョンはアイテムも期待できません。本当に魔術の実験用に使うだけの用途で利用されているので五階層までとなっていますし、ダンジョン自体の質が低いですから」

「そうだねリリムさん。ただ今は闇の神の力が増しているから、場合によっては強力なアイテムが手に入るかも……しれないね」


 なるほどなぁ。うん、まあ色々と分かったよ。

 それじゃあ、少しは期待して探索してみますかね。

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