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025 深淵の先へ

「おはようございます勇者様、タカシ様」

「おはようリリムさん」

「うっす」


 宿屋の一階にある食堂に降りるとすでにリリムがひとりで飯を食っていた。うう……こっちは頭痛いってのに、なんでこいつピンピンしてんだ?

 最終的にあいつのほうが飲んでたような記憶があるんだが。て、なんでジーッと見てんだよ。しかもマキシムと交互に。こいつ……まさか、バレたのか?


「勇者様。昨夜はタカシ様を部屋まで運んでいただいて助かりました。世間をあまり知らない方ですので、何か不躾な……その粗相などはしませんでしたか?」

「大丈夫だよ。ねえ、タカシ?」

「あ、ああ」


 そういうことかよ。こいつ、俺への信用全然ないのな。けど、リリムちゃんの予感大当たりなんだよな。良かったな。当たってて。


「はは、変な顔してるよタカシ」

「うるせぇよ」


 クソ。こいつ、昨日のことなんぞ気にしてないって顔してやがるな。

 ただ自分は勇者でみんなのものだから、そういう関係にはなれないってアレから言われてるし、昨日のは一夜限りのアバンチュール的な感じだったのかね。けど俺、もう実績1よ? 凄くない?

 ただ、覚えてないんだよな。全く記憶にない。確かに昨日の夜、あいつといっしょに部屋に入った覚えは朧げながらある。どうにか捻り出した記憶だとちょっとした拍子にあいつが女だって分かって、酔った勢いで土下座をしてやらせてください、お願いします! と頼んだような……そんな記憶もある。酔ってるから断られてもギャグで済ませられるかなって思っていたような覚えもある。

 ああ、いや。さすがに俺も俺がそんな最低な真似をするとは思えないし、ただの妄想だと思うんだけどな。

 けど最悪なのは俺にその後の記憶がないってことだ。そこのボーイッシュでイケメンなボクっ娘とイタしたらしいのに全く覚えていない。ああ、勿体無い。人生で最後かもしれない機会をメモリーリセットしてる。なんてこった。畜生。頭叩いたら思い出さないかな。


「もう、どうしたんだいタカシ? なんだか、複雑な顔をしているね」

「色々とな。考えることがあるんだよ、俺には」


 俺の返答にマキシムは「そうなのかい」と言って微笑みかけてくる。

 その表情、ものすごいイケメンだ。食堂の中で黄色い声がいくつか響いてきたが、どうもマキシムが泊まっていると知った街の娘っ子が集まってきてるみたいだな。さすが勇者様、人気者だ。


「色々というと……ところでさ。君たちはこの後に予定はあるのかい?」

「予定も何も残りの金でガチャを……いや、なんでも」


 リリム、睨むなよ。けど、限定ガチャは惜しいだろ。となると……


「限定ガチャを再戦できる条件ぐらい金が入る仕事を探すかなぁ」

「残り六日ですと難しいですよ。この周囲は治安も良いので魔物も多くありませんし」


 だよなぁ。なんとかして金を捻出して……ん、マキシムが何か言いたげだな。


「あの、だったらさ。僕との仕事を受けてくれないか。君たちの希望にも沿う話だと思うし、期間も二日程度で済むんだ」


 お、仕事? そいつは渡りに船って感じの話だな。ただ勇者が必要な仕事ってことは結構荒事だよな。俺たちでどうにかなるもんなのか?


「実はダンジョン探索任務を今日やる予定でね。君たちには元々誘うつもりで声をかけたんだ。報酬はそれなりのものを用意できるし、どうだろう?」


 ふーん、ダンジョンねえ。やっぱりそういうのもあるんだな。

 しかし、なんで俺たちなんだ?


「なあマキシム、お前って仲間はいないのか?」


 勇者なんだから仲間のひとりやふたりいそうなもんだけど。

 そういえば、商人の護衛をしてたときもひとりだったよな。


「いやさ。それが前回の依頼で仲間はみんな結構なダメージを受けちゃってね。魔族の呪いは強力で、ただの回復魔術じゃあ治らなくて三人とも今は治療中なんだ」


 なるほど。ボッチじゃあなかったか。そりゃあ、そうだよな。コミュ障には見えないもんな。


「それで僕はダンジョンとかそういう狭い場所は不得手なんだ。後ろからサポートしてくれる弓使いがいてくれると助かるんだけど?」


 なるほどなぁ。

 それにしても勇者に頼む依頼って難易度高そうだし大丈夫かなって気もするけど。しかし限定ガチャが終わる前に再度大金を手に入れるには受けるしかないわけで……まあ、やってみるか。


「分かった。引き受けるのはいいけどさ」

「さっすがタカシだ」


 さすがも何も……いや、いいけど。


「んで、マキシム。そのダンジョンってのはどこにあるんだよ? こんな都市の近くにあるもんなのか」

「あ、それってもしかしてローデンス魔術大学の研究用のダンジョンではないですか。タカシ様、都市内ではありますが施設の地下に厳重に封印された形で存在しています」


 ほぉ。そんなものがあるのか。


「それとタカシ様。初ダンジョンは聖貨十枚ですよ」

「マジで!?」


 マキシムも頷いた。マジかよ。それに報酬も小さくないなら期限は残り六日あるし、こりゃあいけるな。ただ、やっぱり気にはなるな。


「なあマキシム。けど、いいのか? 言っちゃあなんだが、俺はまだ素人に毛が生えた程度のヤツだぜ」

「矢の腕前は以前に見たし十分だよ。それに安心して。何があっても君は僕が守るから」


 お前な。なんかリリムが意味深な顔してるんだが。あらーって顔してんじゃねえよ、お前。周囲にいる町娘ズもあらーって顔してやがるぞ。


「あらあら。随分と親しくなったようですね。男同士で夜の会話にでも花が咲きましたか」

「咲いたね。彼の熱い想いが僕をこじ開けたんだ。あんな経験、初めてだったよ」


 その言葉に町娘がきゃーきゃー言ってるんだが……俺は覚えてないけど多分こいつの言ってること比喩じゃないぞ。というか、なんでこんなにギリギリを攻めてやがるんだ。ひょっとしてこいつ、結構天然なのか?




  **********




 それから昨夜のことは特にバレることもなく朝食も終わったし、準備を整えた後はマキシムに案内されてダンジョンに向かうことになった。

 いやさ。あの天使っ娘に昨夜のことを知られても別に構わないんだけどさ。いや土下座でエッチさせてもらいましたなんて知られたくないか。そもそも致したことを覚えてない。マキシムの態度もあまり変わってないし……まあ、気にしても仕方ないか。

 で、俺たちはそのままローデンス魔術大学の研究用ダンジョンへと辿り着いた。ここ、本当に大学の中心にあるのな。格式高そうな建物を通り抜けた広い中庭の中に妙な柱が並んでいて、柱の上には大きな宝石らしきものが置いてある。

 多分、鑑定屋で見たものと同じ負荷の肩代わりだよな。それに石畳には魔法陣や文字が色々と刻まれてたりしている。これらが全部封印のための装置だってんだから、本当に厳重に管理されてるんだな。


「勇者様、お待ちしておりました」

「うん、学院長。依頼を受けにきたよ」


 それで目の前にいるのがこの大学の学院長様だ。中庭の入り口を兵士が門番しているし、このダンジョンは今閉鎖しているらしい。

 そんで学院長が俺らをチラチラ見てる。まあ、気にはなるわな。マキシムもその視線に気付いて口を開いた。


「ああ、こちらは今回の仕事を手伝ってくれる討伐者です。彼はウルトラレアの神弓を持っていて、そちらはガチャ様の神官。ふたりとも中々の腕ですよ」

「ほぉ。ウルトラレアの……勇者様が頼るほどの腕前であるのでしたら問題はありませんな。ではご案内します」


 学院長も俺らのことは納得したみたいだ。これも勇者の信頼ってヤツか。

 それで移動中に聞いた学院長の話によれば、このダンジョンは五階層しかない低級ダンジョンで、魔物も今までは相応のものしかでなかったらしい。ところが……


「中級ダンジョンに相当する魔物が出てきたということですね?」


 マキシムの問いに学院長が「はい」と頷く。


「ここしばらく、想定外の魔獣が出現して生徒や職員にも被害が出ています。恐らくは迷宮核石が闇の神の力に侵食され過ぎているのが原因と思われます」

「迷宮核石?」

「タカシ様、迷宮核石とはダンジョンの最奥にある核石です」

「なんでそんなものがダンジョンに?」


 核石って魔物の心臓みたいなものだよな?


「ダンジョンのコアなんです。ダンジョンとはゴーレムの一種ですから」

「そうなんだ?」


 よく分からないけど、前に戦ったロックゴーレムと同類ってことか。


「勇者様、それではこの聖符を。これを迷宮核石に貼って頂けますれば闇の神の力を散らし、ダンジョンは正常に機能を戻すはずです」

「ありがとう学院長。タカシ、リリムさん。じゃあ行こうか」

「オッケー。じゃあライテー出てこい」

『ラーイ』


 俺が雷霆の十字神弓を出して担ぐ。強力なのはいいんだが、出すのにビカビカ光って目立つからあらかじめ出しておいた方がいい。で、俺たちはダンジョンの底まで降りて迷宮核石にその聖符ってのを貼って戻ってくればいいってことだな。了解した。


 そして学院長たちに見送られながらマキシムがダンジョンの入り口に入り、俺とリリム、ライテーも続いていく。しかし、ダンジョンねえ。どんなとこなんだろうな?

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