023 雷の運命
「強い意思……か」
鑑定屋を出て歩いている途中で俺はふと、そんな言葉を口にしていた。
パスカルの言葉が頭の中をよぎったんだ。神の薬草。それはどうやら、ゴッドレアの中でも相当珍しい……少なくとも過去に存在したことが確認されていないものらしい。
ただ使った後の反動は大きい。特に俺以外の人間が使うとなると相当にシンドイことになるのはリリムで実証済みだ。となると俺が使うしかないんだが、暴れ回ればその反動で効果が切れた後にはブッ倒れて数日単位で動けなくなるわけで……そう考えると、なかなか使いどころが難しいシロモノだ。
「強い意思ですか。別のことに集中するとそちらに向いてしまうかもしれないということですよね?」
俺の独り言を聞いていたらしいリリムの問いに俺は頷く。
使う際の問題も大きいんだよな。正直に言ってタガが外れた自分がとんでもないことをしでかさないという自信はない。
「気をつけてくださいよタカシ様。タカシ様も男の人ですしエッチな気持ちのときに使ってしまうと、効果が切れるぐらいには十人ぐらい妊娠させてしまっているかもしれません」
リリム。なぜ、そんな例えを……いや、ないとは言えないが。怖いな。異世界でレイプ魔とか。どの程度の罪に問われるんだろうな。
「自重はするさ。けど、何かしらあったときの……本当にどうしようもなくなった時の切り札には使えるからな。ドラゴンと戦う羽目になった時とか」
「私はもう二度と御免ですけどね。ただ、その後に動けなくなるのは正直デメリットです。私もタカシ様を抱えて運ぶ体力はありませんし」
それなぁ。ま、とりあえずの神の薬草の疑問は解けた。基本的に使うのはピンチのとき限定だ。その後に動けなくなることを考慮して、俺以外に使う場合には慎重に……って感じか。制限多いわ。
まあ、とはいえ今は目の前のことに集中しないとな。俺は歩く先にある施神教の神殿を見た。そうさ。鑑定も済んだし、俺もようやく雷属性召喚限定ガチャができるってわけだ。ははは、希望に満ちた時間のお待ちかねだ。
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「タカシ様。ピックアップされたウルトラレアはボルトスカルクィーンとかいう召喚体だそうです」
そして、学都の神殿内にあるガチャ祭壇の間に辿り着いた俺たちはさっそく雷属性召喚限定ガチャを行うことにしたんだ。
祭壇裏に灯されている炎に手をかざしたリリムはピックアップを判別できる。なんでも鑑定屋と同じように神官もアクセスの魔術に近いことをしていて、情報を読み取っているらしい。
で、骸骨の女王様? 強いのかね。まあ、すぐに会えるんでしょうけど。
「それとタカシ様、今回は私も参戦しますよ!」
「お、ずいぶんと乗り気だな」
「ふふふ、毎月もらえる聖貨一年分と購入した分を合わせての10回だけですけどね」
微課金勢か。ちなみに俺はすでに聖貨を100枚換金してある。
これでガチャ五十連。さらに金貨21枚は生活費として残してあるのだ。俺も成長したものだな。男子三日会わざればどうとかこうとか刮目しろってヤツか。
そして、今回俺たちが挑む雷属性召喚限定ガチャは1回につき施しの聖貨2枚が必要だ。四百万円で50回しか引けないとか改めて考えると酷い。限定によっては1回聖貨5枚なんていうアホみたいなガチャもあるらしいが……で、リリムの結果だが。
「やった。やりましたよタカシ様」
ほほお。リリムは単発8回目にして召喚獣を引き当てたか。
スーパーレアの召喚獣、カーバンクルボルト。リスみたいなやつで、肩に乗って雷のシールドを張る魔獣だとのことだ。なかなかのものだな。しかし……
「もう引かないのか?」
「ええ。当たりが出ましたし、これで十分です。次の機会にとっておきますよ」
なるほど、謙虚なやつだ。微課金勢の嗜みか。
それもいいだろう。だったら前菜は終了だな。メインディッシュってヤツを見せてやるよリリム。
「じゃあ、行くぜ!」
さあ、見ろ。これが廃課金勢の実力ってヤツだ。俺は振りかぶって聖貨20枚を大きな壺へとダンクシュートした。そして壺の中から光が迸り、10枚のカードが飛び出てくる。
「タカシ様……凄い」
リリムが思わずそう口にした。
だろう。ははは、見ろよ。雷の薬草。10枚。ノーマルだってよ。十連、全部ノーマル。舐めてんの? スーパーレア1枚確定とかないのかよ。
「それは食べるときのピリッとした刺激が堪らないと一部では好評の薬草ですよ」
「リリム、その薬草。例えば雷属性の付与効果がついたりは?」
「効果は普通の薬草と同じです」
ゴミじゃねえか。クソッ、次だ。リリムがスーパーレアを引き当てたんだ。その偏りが生きているうちに!
「さあ、二投目! どうだ!?」
「ええと。雷の薬草に、雷のナイフですね。あ、サンダーアローのスペルジェムもありますよ!」
ほぉ、スペルジェム。つまりは魔術が使えると?
「凄いのか?」
「十字神弓の矢と同じくらいですかね。ただ物理干渉力が弱いので総合的な威力自体はやや落ちるかも?」
マジかよ。自分の魔力を使う分、スペルの方がコストも高え!?
それ以外は鎧とか剣とか。つってもただのハイノーマル。魔力付与もない普通の武器だ。
「クソッ、次だ。三十連! 行ったろ、これ!?」
「あー、サンダーアローのスペルジェム2枚めです。加速のスキルジェムと同様にひとつの魔導器に一緒にはめれば二倍の威力が」
神弓の三本重ねの矢で十分だろ、それ。マジ使えねえ。というか、下位性能のが出ても仕方ねえんだよ。もしかして雷属性魔術の限定ガチャ引いてたら結構悲惨なことになっていたのでは? ということはそれを回避した俺はついてるのか?
「だったらイケるぜ。神よ。俺に神引きを与え給え!」
「まさか、そんな……」
はははは、見ろよ。飛び出てきたカードを見てリリムが驚愕の顔を見せた。こりゃあ、すげえぞ。
「雷の薬草がまた10枚!? ちょっとグロくないですか、この引きは!?」
「フザッケンナァアアア!」
バカな。四十連。つまり聖貨80枚。それはようするに金貨160枚で三百二十万円。おぉおおおおおおおおお、ヤバイ。薬草いっぱいです。このクソ引き。マジでキレそう。いやいや、ないだろ。三百二十万だぞ。車買えんぞ。
「落ち着いてくださいタカシ様。ちょっと人前に出せない顔になってますよ。というか泣いてます? 泣いてますよね?」
「こ、心の汗だ。泣いてなんかいない」
「顔見せてください。ほら、泣いてますよね。ねえねえ」
「うるせえ。五十連め。これで! 今度こそ!」
お、これまでと違うカードが……スーパーレア? あれ、これって?
「あ、ボルトスカルポーンが出ましたよ。やりましたねタカシ様」
「おぉぉおおおお、嬉しいけど……それは嬉しいけど」
けど、なんだ。この敗北感は?
こいつはスーパーレアを8回めで出して、俺は50回めで出して……駄目だ。ガチャでそういう比較をしては……けど、俺は、俺のガチャは……いや、まだだ。まだあるぞ。前が歪んで見えない。畜生。目に溜まる水を拭うんだ。それは心の汗だ。今俺の手には金貨21枚。だったらいける。やれるはずだ。俺は。
そして俺は呼び止めるリリムの制止を振り切り、金貨20枚と聖貨1枚をすぐさま交換してきた。そう、まるで光のごとき速さでな! 善は急げと言うからな。俺の中で何かが終わってしまう前に回さないと!!
「タカシ様ぁ、それって生活費にするんじゃなかったんですか?」
「生活費? 何それ、食えるの?」
「食べるためのものだと思いますが」
「はっはー、バッカじゃないの。金貨1枚あれば数日は食いつなげるんだよ! でも俺のこのガチャは今だけなんだよ」
「いや、期間は一週間で……」
「うるせぇええええ」
飛び蹴りは避けたか。クソッ、腹から落ちた。痛い。
成長したなリリム。だが甘いぞ。その隙に俺は!
「出ろぉぉおおお!」
そして俺がぶん投げた聖貨2枚は小さな壺の中に落ち、カードが中から……お?
虹色に光ってる? もしかして、本当に?
「や、やりましたよ。『雷獣騎士ロードサクリファイス』」
「お? おお?」
「出ましたね。タカシ様。それはウルトラレアです!」
おぉぉおおおおおおおおおおおおお。
嬉しい。ウレシィイイイイイイ!
やったぞぉぉおおおおおおお!!
うわぁあああああああああああ!!!
……という夢を見たんだ。
「雷の薬草ですね。前から思ってたんですけど薬草率高すぎません。普通、もう少し色々と出るんですけど」
あ、はい。ガチャってやっぱりクソだわ




