022 神の祝福せし草wwww
「ふぅ。ゴッドレアか……舐めてたね」
そう言ってパスカルが長椅子にもたれかかり大きく息を吐いた。どうもずいぶんとお疲れのようだ。
「なあ、パスカル。もしかして失敗したのか?」
「ハァ? 何を言ってるんだい。僕が失敗するわけないだろ。ただ、負荷の肩代わりがこうもポンポン潰れるってのはね。これじゃあ収支はプラスマイナスゼロだよ」
マジかよ。金貨30枚は高いと思ったんだけど、そんなことはなかったか。
「ま、世に出ていないゴッドレアの鑑定をしたってだけでハクはつくからいいけどさ」
「そうなのか? で、こいつの能力は分かったんだよな」
俺の問いにパスカルは「まあね」と言って頷いた。
「ところでタカシくん。君はゴッドレアになる前のこの薬草についてどの程度理解している?」
薬草について? ええと、以前にリリムから聞いていたよなぁ。
「確か、そのまま口にすると傷の回復が早くなって、すり潰して傷に塗るとその部分の治りがより早くなるんだったっけか?」
ポーションは飲み薬だし、あっちの方が傷の治りは早いって説明を受けたな。まあ、どっちもすぐに回復していくものだし、ただの草や水なわけもないから普通に魔術と似たようなもんだと思ってるけど。
「うん、それで大体あってる。これはね。ゼノダイム大草という種類の薬草で、効果は回復能力の向上と肉体の活性化なんだ。ただ傷を癒すだけのポーションとの違いは肉体の活性化にあってね。自分の能力が多少だけど上昇する」
「リリムはそんなこと言ってなかったけどな」
「そりゃあ回復力を向上させるための一時的な活性化ですし。それでパワーがグーンと上がるようなものでもないのですけれど」
リリムがそう返してきた。そして、それにはパスカルも同意の頷きを返す。
「そうだね。効能としてはそうだというだけで、弱った体が一時的に底上げされて弱る前の状態に多少近付く程度のものなんだ。戦士職の人間が強敵と戦う際には気休め程度に食べてから挑む……なんて話も聞くけどね」
へぇ。軽いドーピングか。ああ、そういうことか。
「おや、得心いったという顔をしてるね。まあ、そういうことだよ。この薬草はゴッドレアとなったことで回復能力が再生能力にまで昇華され、肉体の活性化率も異常に上昇しているんだろう。効果としてはそれで一応の説明がつくんじゃないかい?」
「まあな。ちょっとぶっ飛び過ぎてる気もするけど」
それに食べたときの俺自身の精神状態の変化もよく分からない。リリムもお相撲さんみたいになってたし。けど、そのことを俺が尋ねようとする前に、パスカルが話を続け出した。
「で、だ。こいつの問題はね。薬草にはそもそも神の加護、神力を受け入れるだけの器がないことなのさ」
「それはどういうことですかパスカル?」
神の加護という言葉でリリムが反応したぞ。こいつ、一応神官職だからな。神様関連は気にはなるんだろう。
「通常のゴッドレアはアイテムに神の加護が宿って効果が上昇する」
それってあのマキシムの剛力の腕輪もそうなんだったよな。神の薬草と違って常時効果があるらしいから、使い勝手は凄い良さそう。俺もああいうのが良かった。
「けれども、このカードの中の薬草には神の力が溶け込み切れていない。負荷が強かった原因はそれだ。神の力がそのまま残ってる」
「まさか……そんなことがあるのですか?」
リリムが驚きの顔をしている。それって結構珍しいことなのか?
「うん、間違いないよ。おそらくだけど、これを口にした者にはその溶け切っていない神の力が入って、自身をゴッドレア化させている可能性が高い」
自分がゴッドレア化? 何それ。
「ただ、人間の身で神の力を受け入れることは基本的にできないはずなんだ」
「そうか? 一応使えたけどさ。筋肉モリモリになって……けど終わった後、体が動かなくなったけどな」
俺の言葉にパスカルが少し考え込んでから、口を開く。
「カードの所持者である君の場合、循環されてその力が自然にカードに戻っているのかもしれない。ただ……君以外が使うとあとが怖いかもね」
「というと?」
それは重要なことだ。リリムのあの惨状を考えるとな。
「身体に入り込んだ神の力に耐えきれる人間はおそらくいない。薬草による強化とのせめぎ合いで一時的には耐えられるかもしれないが、限界が来た時点で拒絶反応が起き、全身から神力を抜こうとするはずだ。巫女の過剰反応をまとめたレポートを大学で読んだことがあるが、身体があらゆる手段を使って外に神力を排出しようと行動を起こすらしい」
「それは……いろんなものが身体から噴水みたいに出てきたりするってことか?」
「ああ、そうだね。多分だけど、そんな感じになるかもしれない」
で、その説明で全部理解できた。なあ、リリム?
「ん? 何か含みのある視線がリリムに……まさか、リリム。君は」
パスカルの問いにニコリとリリムが笑った。けれども目が笑っていない。パスカルも……あ、察したみたいだな。そうだ。踏み込むな。その先には地雷が埋まってるぞ。
「と、ともかく。一応、俺も動けなくはなったぞ。それも神力が抜けたせいか?」
「原因は力を使い続けたことによる負荷によるものじゃないかな。多分だけど筋肉痛に近い感じだったんじゃないのかい?」
「まあ、そんな感じだったな」
「だろう。筋力が上がったときか、もしくは回復か再生をした際に鍛え上げられたんだ。だから毎日使えば……マッチョになれるかもね」
「マジか。けど、アレを毎日ってのはキツいな」
身体が鍛え上げられるのはいいけど、本当に身体を破壊するしグロいんだよ。未だに思い出して夢に見るんだぜ。本音から言えばあまり使いたくはない。
「そうかい。別にお勧めはしないよ。そもそも必要がなければ使わないほうがいい。危険だもの」
「そのつもりだけど、危険ってのはどうしてだ?」
まあ、神の力って時点で危険だろうけどさ。
「まあ肉体的な負担が大きいのはもちろんのこと、元々薬草には活性化に伴って興奮作用もあるんだけど、そこに神の力を得た全能感も加わったことでタガが外れる可能性はある。正直、そのときの気分次第で何をしでかすか分からない」
え、マジで?
「その……パスカル、対策などはあるんですか?」
「どうだろう。結局は気の持ちようだからねぇ。できることと言えば、薬草を口にする前に強く思うことかな」
「思う?」
俺の問いにパスカルが頷く。
「そうさ。何をするべきかをしっかりと決めておくんだ。そして薬草の効果が出た後も決して揺らがぬように、己の意思を強く、硬く持っておく。そうすればきっと薬草は君を誰にも負けない超人にしてくれる……はずさ?」




