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020 雷の霧を散らす稲妻

「それにしても……まさか本物の勇者様と出会えるとは。それだけでも町を出た甲斐はありましたよ。うん」


 あー、マキシムと会ってからこの天使娘は妙にテンションが高いな。ミーハーかよ。あと俺への態度がだんだん悪くなってる気がするんだが、これは心の距離が近づいたとポジティブに捉えればいいの?


「なあ、リリム。あのマキシムってヤツ、そんなに有名人なのか?」

「もちろんです。あの方は現在この国でふたりしかいない勇者様なんですよ」


 勇者がふたり。それもこの国でってことは別の国にもいるんだろうな。となるとそんなに珍しくない? いや、一国にふたりならやっぱり珍しいんだろうけど世界にただひとりってわけじゃあないのか。

 そういえば、あの商人のおっさんが本来の武器って言ってたよな。あれはなんの話だったんだ?


「リリム、マキシムってさぁ。あの剣以外にも武器があるのか?」

「そりゃあ、勇者様はガチャも相当こなしていますから様々な武器を持っているはずです。ただ、腕輪の勇者様の代名詞とされているのは神巨人の石剣という武器ですね」

「神巨人?」


 ずいぶんと大仰な名前の武器だな。つか、あんま勇者っぽくないというか。


「それはレアリティこそスーパーレアなんですが、長さが5メートルを超える石の剣なんです」

「は……5メートル? 身長の倍以上あるんだが……そもそも石?」

「そうです。勇者様はその石剣を縦横無尽に振るって魔物をまとめて葬ることを得意としています」


 何それ、怖い。あいつ、緑の巨人か何かか?


「タカシ様。基本的な話になりますが、町で依頼されるような魔物討伐が討伐者の領分なのはここまでの神殿などを見てきて理解できていると思います」


 まあな。実際、俺が生活していられるのも魔物を倒して金を得ているからだし。


「ですが、その魔物が徒党を組んだ場合、討伐者では対応が難しくなります」


 そりゃあひとりで大量の魔物を倒すのは厳しいしな。パーティ組んでも六人程度。数十って相手を倒すのは難しいだろうが……


「討伐者でも数で挑めばなんとかならないか?」

「もちろん討伐者を編成して対処するケースもありますが、大概の場合あまり徒党を組んで魔物を倒しても報酬が割に合わないんですよ。だから大群で押し寄せてきたときや強力な魔物が出て対処が困難になった場合には王国軍の出番となるんです。ロウトの町でも王国軍が来ましたよね?」


 へぇ。軍がいるのな。まあ、そりゃあ国なんだし普通にいるか。


「けれども、あの勇者様はたったひとりでも軍が相手をするような数の魔物と戦うことが可能な方でして……軍勢レギオンというふたつ名も持っています」


 ふたつ名か。なるほど、なんというか……良いな、ふたつ名。俺にもつかないかな。

 けど、5メートルの剣ね。要するにあいつは本来の武器だと馬車を巻き込むかもしれないから使わなかったってわけだ。思ったよりもすごいヤツだったのか。仲良くしといて良かったなぁ。




  **********





 そしてマキシムたちと別れた俺たちは予定通りにモザン峠を探索し始めた。

 もっとも着いた初日には結局サンダーミストの群れは見つからなかった。道中ですれ違ったのは商人のキャラバンとゴブリン三匹。商人には飯をおごってもらったし、ゴブリンから核石みっつもらえたりもしたんだが本命は現れず。

 リリム曰く探索にかなりの日数を必要とすることもあるらしいんだけど、ただ幸いなことに俺たちは翌日にはそいつらを見つけることができた。



「あれか?」


 俺が岩陰から離れた場所を慎重に覗き見る。峠の道より随分と離れた川の近くに奴らはいた。少し湿った場所を好むってのは聞いてたからな。川沿いを歩いて探してたんだが見事にヒットだ。見通しの水晶で先手を取れるってのは便利なもんだな。何気にこいつ、かなり活躍してるわ。

 それであいつらの数は一匹、二匹……んー、多分十匹以上はいるんだろうけど、ミストって言うだけあって重なると何匹か分かんねえな。


「そうみたいですね。どうしますタカシ様?」


 リリムが後ろから聞いてくるが、当然射るさ。


「距離も取ってる。やれるだろ。ライテー、どうだ?」

『イケるー』 


 イケるーかぁ。んじゃ、いこうか。

 俺はすでにカードから取り出してあった雷霆の十字神弓を構える。

 カードから出すとき派手でいいんだけど雷光でバレるからなぁ。アレどうにかして欲しい。カッコいいんだけどさ。


「そんじゃあ、まずは一匹」


 ゆっくりと雷の矢を向ける。

 弓なんてまったくの素人の俺だけど、今はなんとなくコツが分かってきている。意識を集中して刺さるイメージが見えると見た通りに刺さるし、雷の矢は放物線を描いて落ちたりはしない。真っ直ぐ飛んで魔力が消えれば消滅する。多分普通の弓矢を使えって言われたら勝手が違いすぎて今でも全然駄目なんだろうけどさ。

 それで狙いは頭……じゃなく、核石だ。破壊しても値段が変わらないのはいいことだな。これで核石は壊さずにって言われたらさすがに面倒だったが……じゃあ射るぞ。


「やりました!」


 分かってるってリリム。一発目は見事命中。核石を破壊すれば一撃か。けど、さすがに気付かれた。まあ距離は取ってるし……おし、二発目も当たったか。イメージさえ視えれば本当に思うように当たるな。


「思ったよりもチョロいですね」

「そういうこと言うな。なんかのフラグみたいじゃねえか」


 それじゃあ、右の竜腕に魔力を注ぐか。

 そういやこの魔力ってものもリリムの受け売りだったな。

 よく分かんねえもんだけど体の中にあるってのは分かる。あっちの世界じゃあ感じることもできないものだったけど、今じゃあはっきりと理解できる。よし、三本出た。


「ライテー、当てるぞ」

『ラーイ!』


 うーん。今度は核石に当たったのは一本。残り二本はダメージは与えたけど仕留められてないな。もっともイメージ通りではある。結局三本とも当たるイメージが掴めなかったから妥協した結果だ。これが俺の限界なのかな。

 ま、ドラゴンみたいにデカい的ならともかく、さすがに核石を狙うような精密さを要求するなら一本で狙ったほうがいいってことだ。


「あ、タカシ様、あそこ。サンダーレインならまとめて倒せそうですよ。やっちゃってください」

「よし来た、アーツ・サンダーレイン!」


 ほいなっと。うん、狙い通り。ちょうど密集地帯に黒雲が出たな。雷の雨に打たれて死にやがれ!……って、あれ? ダメージ与えてなくないか?


『タカシ、あれダメ』

「え、なんでだよ?」


 ライテーの言葉に俺は思わずそう返した。いや、確かウルトラレアの雷の方が高位だからダメージは入るって話だったよな? でも、なんかあいつら喜んで踊ってるような。


「ああ、そういうことですか」

「そういうことって、どういうことだよ?」

「サンダーレインはあくまで黒雲を生み出すアーツなんですよ」


 黒雲? それで?


「量は異常ですが雷自体は自然現象。ニュートラルなんでしょう。つまり神弓の力を帯びたものではないのだと思います」

『正解。アレ、元気になる』


 ライテーが指を差す先であいつらが……げ!?


「が、合体してますね」

「してますね……じゃあねえよ。どうすんだよ、あれ?」

「知りませんよ。射ったのタカシ様じゃあないですか。ヒッ」

「うおっ」


 やっべえぇ。バリィっと感じで周囲に雷の雨を降り注ぎやがった。

 あんなのに近付かれたら普通に死ぬぞ。


「どうしましょ、逃げます?」

「逃げたいところだけど……てりゃ」


 当たってる。効いてはいるがさすがに核石まで届いている感じがしないな。


「逃げましょうよタカシ様。大丈夫です。私、タカシ様が魔物をパワーアップさせたことは言いませんから。ええ、ですから互いの関係を円滑にするために一言ください。サンダーレインはタカシ様が自分の意思で射ちましたと」

「お前、言質を取ってどうするつもりだ!?」


 なんて天使だ。だが矢でチクチクいくにしても、その前に近付かれて感電死しそうだな。甘くみ過ぎていたか。そもそも遠距離攻撃って別に俺だけの専売特許じゃないよな。対策取っておかないとこの先、普通に俺死ぬんじゃね?

 いや、今は目の前のことに集中。一本じゃあ効かない。じゃあ、数を増やすか?

 核石まで届かせるには……


「どうしましたタカシ様?」

「ちょっと黙っててくれ」


 今、集中してるんだ。右腕に魔力を溜めて矢を限界まで出してみる。

 五本出た。けど、射ってみたが……駄目だな。まばらに当たる。一点に集中させないと……数は五だと安定しないなら四、いや三本まで減らしてみるか。


「近いですよタカシ様」


 だから急かすな。集中しろ俺。考えろよ。これは矢だけど、魔力でできたものなんだ。実体があるわけじゃない。だったら、それを重ねることもできるんじゃないのか?


「なあ、リリム。俺の故郷にはいい話がひとつあってさ」

「昔語り。ああ、アレですね。死ぬ前に語っちゃう系の」


 うるせえ黙れ。違うっての。一本だと折れても三本の矢なら折れないっていう……ああ、もういいや。できたし。


『タカシ、いける』


 ライテーがグッとガッツポーズした。

 なら、問題ない。俺は三本の矢を纏めるイメージで生み出した、捻れて重なった大きな一本の矢をあの合体した魔物に向けた。そうだ。威力は三倍……いやそれ以上のものを感じる。この合体矢ならいけるな。それにもう距離は限界。これで倒せないとヤバい。けど、この一撃で……


「タカシ様。もう!?」


 分かってる。当てるさ。


『キュルォォオオオオオオオッ』

「悪いが、俺の勝ちだ!」


 勝ったイメージはすでに頭の中に浮かんでる。

 そして神弓から放たれた巨大な矢が勢いよく飛び出し、デカブツの雷の霧を貫いて、そのまま胸にある核石を打ち砕いた。おお、雷の霧が黒い霧になって消えていく。危ねえ。ギリギリだったわ。

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