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002 その手に運命を委ねよ

「ガチャ?」


 いきなり聞きなれた単語が耳に入ってきたぞ。ガチャと言ったのか、この天使娘は? いや待て。まず背中の翼の方がなんだそれという感じだがどういうコスプレだ?


「はい、ガチャです。施神教の神殿の前にいるのですから、あなたもガチャをしにきたのではないのですか?」


 神殿前で掃除をしていた白い翼を生やした少女は曇りなきまなこでそう聞いてきた。

 その言葉の意味を考えながら俺は周りを見回す。状況が分からない。先ほどまで俺はストロベリー社のタブレット端末を開き、SNSのアカウント凍結のお知らせメールを見てポロポロと涙を流していたはずだった。企業という巨大な権力に逆らってはいけない。力なき個人はこうも無残に、理不尽な仕打ちを受けてしまう。そう痛感していたはずだった。

 しかし今、俺がいるこの場は外国っぽいどこかのようだ。よく分からないがヨーロッパの田舎的な感じ。これは夢か? あるいは過度のストレスで俺の頭がおかしくなったのか? どうだろう。分からない。


「あの……ガチャというとアレか。課金をして強力な武器やキャラをランダムで手に入れるという?」

「キャラ? ええと、人身売買はできませんので人はちょっと……ですがお金があればガチャを回すことができる施しの聖貨を購入できますし、ガチャをすれば強力な武器やアイテムを手に入れることはできますよ」

「マジか!?」


 どうやら、本当にあのガチャらしい。


「本当に知らないのですか。よほど田舎にお住みだったのですね」


 驚く俺に、少女は憐れみの目を向けてきた。

 しかし、これはよく分からないけど夢だな。ちょっとあり得ない。それにしても夢でもガチャか。まあ……そうだな。夢ガチャなんて普通ないし、だったら試してみるか。


「ところで、るみにゃんは引けるのか?」

「るみ……なんですか?」


 少女が首を傾げる。知らないのか。

 夢なら初代るみにゃんがガチャに復活している可能性もあるんじゃないかと考えたんだが、キャラは出せないと言っていたし仕方ない。夢ってのは思いの外、自分の思い通りにはいかないものだからな。

 ひとまずはるみにゃんやビーストスレイブからは頭を切り離そう。どうせ夢だ。ならば……俺はそう思いつつ、少女に案内されるままに神殿の中へと入っていった。

 少女曰く、その先にガチャを行う神聖な祭壇があるそうだ。よくよく考えてみると街中で新興宗教の勧誘を受けてるみたいなシチュエーションだけど、大丈夫かなこれ?




  **********




「それではタカシ様。今のあなたは初回ボーナス、成人ボーナス、王国初訪問ボーナス、転移ボーナス? これは初めて見ますね。ともかく各ボーナスの加護を受けていますので、それぞれ施しの聖貨を10枚お渡しできます。それに歳は二十二ですか。一ヶ月に1枚、施しの聖貨をお渡しできますが有効期限は一年ですから溜まっているのは12枚分となります。また十年ごとのボーナスが一回30枚ずつですから合計で112枚です。それとどの限定を受けられる条件にも達しておりませんのでタカシ様が現在引けるのは全なる可能性ガチャのみとなります」


 神殿の中にある石室の祭壇の前で少女が水晶玉を覗きながらそう告げる。

 ここに来るまでに何人かとすれ違ったが、みんな外国人ばかりだった。服装も古めかしく、それに少女と同じ格好の翼の生えた神官らしき女の子たちも何人かいた。

 で、連れてこられた部屋で少女が口にした施しの聖貨ってのがガチャをするために必要なアイテムらしいんだけど。


「112枚。生まれてからの合計と考えると少ない気がするな」

「大抵は期間限定ですから仕方ありません。今まで引いてなかったのでしたら相当損していますよ」


 それは残念だが、そう言われてもどうしようもない。まあいい。百回以上は回せるんだし、夢の中でと考えれば十分だろうよ。


「で、もらえるってのは分かったけど、どうすりゃいいの?」

「はい。それでは、この施しの聖貨をどうぞ」


 少女がそう口にすると空中から硬貨が何枚も出現した。

 スゲエ。なるほど、夢というのはなんでもありだ。

 それから少女は出現した硬貨を俺に渡すと祭壇を指差した。


「それをあの大きな壺には10枚まで、小さな壺には1枚入れられます」

「なるほど、単発か十連ってことか。ところでさっき言ってた限定ガチャってのはなんなんだ?」


 ガチャには季節イベントや別のゲームとのコラボなど、条件によって引けるものが違うことがある。限定のレアキャラなどがピックアップガチャで出ることもあるし、アイテムなどでもそうだ。今の俺はそれを受ける条件に達してないそうだけど、どういうものなのかは気になる。


「例えばドラゴンを倒したり、特定の仕事をこなしたり、都市ごとや季節、それに催し物があると出たりしますよ。残念ながら今のあなたが引けるのは全なる可能性ガチャのみですが」

「全なる……ね。それは限定のもの以外はすべて出るガチャってことだよな?」

「おや、今の説明だけでお分かりになりますか。ガチャにうとい方だと思っていましたが」


 少女の目が俺を値踏みするようなものに変わる。

 おやおや、警戒させてしまったかな? ただ勝手は違えど、ガチャは俺のホームグラウンドだ。例え知らぬガチャと言えども、すぐさま適合できるのが俺という男だ。ま、そこら辺はこれからすぐに分かるだろうよ。

 ともかく、ガチャをやる準備は整ったわけだ。


「その……タカシ様。お誘いはしたものの、ここでは引かず限定ガチャを引けるようになるまで貯めておくという選択肢もありますが」

「悪いが俺には時間がないんでね」


 妙に意識がはっきりとしてるし、夢だって自覚もある。こりゃあ、ほとんど意識が覚醒してるってことだろ。となれば、いつ夢が覚めるかも分からない。

 そして俺の言葉に少女が頷いて両手をあげると、壺の裏で燃えている炎に向かって『全なる可能性よ』と声をあげた。


「おお。色が変わって、炎の中に何か文字が浮かび上がっている?」

「施しの神ガルディチャリオーネ様の御力をこの場に顕現いたしました」


 少女がそう口にする。

 炎の色が赤から青に変わり、炎の中に全なる可能性ガチャという文字が浮かんだ。なるほど、面白い演出だ。夢だというのに、なかなか凝っているじゃあないか。


「なるほどね。お膳立ては整ったわけだ。だったら、いっちょうやってやりますか」


 そう言って俺はニヒルに微笑むと一歩前へと進んだ。

 じゃあ、そこの少女にちょこっと見せてやりますかね。廃課金者のガチャってもんをさ。

 俺はそんなことを心の中で呟きながら、ボキボキと肩を回して鳴らしながら大きな壺の前へと立った。さあ、始めようか!


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