019 勇者との邂逅、そして別れ
「いや、助かったよ。君たち強いなぁ」
そう口にしながらやって来る優男はすでに持っていた剣をカードに戻して戦闘状態を解除していた。もっとも、こっちの方も戦闘は終わっているから武器はカードに仕舞ってある。
結局二体目のロックゴーレムはリリムがバテたから俺がひとりでやるしかなかったわけで、まあ右の竜腕のパワーで竜鋏を投げて捕まえて、動けなくしたところを雷の矢でチクチクと倒したんだけどな。胸を中心に崩していって核石を破壊してお終いだった。
竜鋏も一応レアなんで一応魔力を変換して鎖を伸ばせるなんて能力もあって、竜腕の腕力で投げ飛ばして上手く噛ませられれば使えそうだってのは収穫だったかな。
で、俺たちが倒したのは二体、その間にリリム曰く勇者様はひとりでロックゴーレムを三体倒していた。しかもこいつ、息ひとつ切らしてない。俺らが来る前も背後にいた馬車を気にかけて慎重にやってただけで、多分ひとりで倒せてたんだろうなぁ。
「ゴーレムが五体出てきたときは正直焦ったんだよ。ズズって岩が起き上がって……ここらにロックゴーレムが出るなんて情報はなかったから油断していたしね」
そういって優男は肩をすくめて苦笑している。
仕草ひとつひとつが絵になるやつだな、本当に。
けど、まあ実際凄いやつなんだろう。何しろ勇者様だし。
「ま、気付けなかったって言っても馬車には手を出させてなかったんだしさ。三体をパッパとひとりで片付けたんだから、やっぱり勇者ってのは凄いもんだな」
「ははは、僕を知っていたのか。まあ一応言われるだけの腕は持っていないといけないからね。あの程度の相手なら何体来ようが負けない自信はあるかな」
何体来ようともか。この勇者様は下手な謙遜もしないみたいだけど、実際そういう自信がないと勇者なんて務まらないんだろうよ。
ちなみにだがリリム曰くロックゴーレムの核石は金貨10枚な上にドラゴンと同様に国から報酬が金貨10枚出るらしい。魔法生命体みたいに物理攻撃が無効なわけではないけど岩だから単純に攻撃が効き辛い。なんでロックゴーレムはかなり倒すのが難しい部類に該当するんだそうな。
だから目の前の優男は六十万円、うちらには四十万の大金が入ったってわけだ。
「お初にお目にかかります。腕輪の勇者様ですね。私はこちらのタカシ様の従者、リリムと申します」
「これはどうもリリムさん。天使族の方は相変わらず美しさの中に愛らしさがある。僕は確かに腕輪の勇者マキシムだ。そちらの君はタカシって呼んでいいのかな?」
「ああ、いいぜ。あんたはマキシムって呼んでいいのか?」
「そう呼んでくれて構わない。近い年代でここまでやれる人は少ないから、なんだか嬉しいな」
おお、笑顔が爽やかだ。あかんな。同性だってのにこっちの顔が赤くなってくるわ。いや、ホモじゃねえよ。けど、イケメンでリア充。女にも男にもモテるタイプのパーフェクト超人。こいつはきっとそういうヤツだ。仲良くなっておくに越したことはないね。
それにしても腕輪の勇者か。それってやっぱり身に付けてるアレか?
「なあマキシム、腕輪の勇者って名前の由来はその銀の腕輪なのか?」
俺が右腕にはめている腕輪を指差すとマキシムは「そうさ」と言って、右腕を挙げた。
「これは元々スーパーレアの剛力の腕輪なんだけど……ガチャ様の加護がかけられているから効果が段違いなんだ」
加護か。つまりはゴッドレアってことかな。俺の薬草と同じように虹色の光が少し出てるし。
「タカシ様。勇者と呼ばれる方々は神より直接神託を受けた戦士様なんです。だからみなゴッドレアのアイテムを持っています。もっともゴッドレア持ちだから勇者というわけではないのですけれども」
うん、さっきの俺のジョークを警戒して先回りして言ったな。分かってる。分かってるっての。薬草の勇者とか言われてもカッコ悪いし別にいいよ。それに勇者ってあれだろ。ロウトの町でやらされたことを国とか世界規模でやらされるんだろ。興味ないっての……というような意味を込めた視線を俺はリリムに送った。ふ、目をそらしたな。俺の勝ちだ。
「勇者様、それに討伐者の方々もありがとうございます。馬車は無事守られましたぞ」
それから、商人のおっさんが遅れて近付いてきた。ホッとした顔してんな。まあ、あの巨体の怪物五体に囲まれてたんじゃあ生きた心地しなかっただろうしな。
「勇者様も本来の武器であればあの程度の魔物一掃できたはずなのに……私が邪魔だったばかりにお手間を取らせてしまい」
ん、本来のってなんだ?
「いやいや、ニコライさんの護衛が僕の今の仕事ですし、終わりよければ全部良しですよ。それに彼らにも協力いただけましたから手間取るというほどのことはありませんでしたからね」
「こっちも臨時収入が得られたわけだからいいんだけどな」
臨時収入としては結構な額だ。正直あの五体を俺とリリムだけで相手にするのは厳しいし、多分逃げてただろうしさ。
「ところで、勇者様はなぜこちらに? 確か北の地域での魔族討伐に赴かれていたとうかがっておりましたが」
リリムの言葉にマキシムが「よく知ってるね」と言って感心した顔をした。
「確かにリリムさんの言う通りに少し前までは北にいたんだけど、そちらは一応落ち着いてね。今回は辺境の町で上級のドラゴンが現れたと報告があったんでやってきたんだ」
ん? 上級のドラゴン? あ、リリムもこっち見て頷いてる。まあ、他にないよな。ここら辺って一応平和なところらしいし。
「ふたりともどうかしたのかな?」
「いやーな。その上級のドラゴンって俺らが追い払ったヤツかも」
「え、それは本当かい?」
マキシムが驚いた顔をしてるが、確かに俺らが追い払ったってのは意外だろうな。俺も実力じゃあ勝てっこないとは思うけど、まあ一応事実だし。
「はい勇者様。運良く追い払うことには成功しました。ただ、倒せてはいませんので戻ってくる可能性も」
ソノ顔、忘レヌゾ
うわ、戻って来るって聞いたら、あの声を思い出しちった。まさか追ってこないよな。あんときゃ上手くいったけど、正直今の俺じゃあどうあっても勝てる気がしねえ。せめて神の薬草をまともに使えないとどうにもなんねえっての。
「そうか。となると時間差で僕に依頼が来たのか、或いは戻って来ることを前提に呼んだのか。その……タカシとリリムさん。できれば、そのドラゴンのことを教えてくれると助かるんだけど。お願いしていいかな?」
「ああ、いいぜ。それじゃあ……」
そして俺とリリムは神の薬草の部分だけ省き、中級竜を倒し、その後に上級竜が町を襲ったこと、そして囮作戦の失敗と目に突き刺さった流水の槍にサンダーレインを連続で落として追い払ったことまでを説明していく。俺のサンダーレインの集中攻撃はマキシムもさっき見ていたから威力も理解できたようで、頭部に四連続で当ててなお生きていたということにも驚いていた。
それから俺たちは少しばかりの雑談を終えると勇者マキシムと別れた。マキシムは一度学都に行ってから状況を確認するつもりらしい。
ちなみにだが、ロックゴーレムを倒してドロップしたアイテムは魔水晶というものだった。神弓と合わせたら強いのかと思ったが格落ちを重ねると逆に弱くなるらしい。ライテーも『いらない』と素っ気ない。売っちまうか、使えるアイテムでも出たら使用してみるか。
さて、次こそは本来の目的の相手と遭遇できりゃあいいんだけど。