018 勇気を冠する者
「しっかしさぁ。やっぱり乗り物欲しいよな」
サンダーミスト討伐を受けた俺たちは学都を出て予定通りにこのモザン峠まで来ていた。そして、さっきから岩場の道をずっと歩いている。
最初探索も森の中でしんどかったけど、今回も都会っ子にはしんどいな。
神の薬草を食べた影響で以前に比べて筋力はついたんだけど、それでも俺の中身はサラリーマンだしな。精神まで筋肉になったわけではなく、つまりは疲れた。辛い。
道中は近くの村まで馬車で乗り継いだけど、そこからはやっぱり徒歩だからな。もう少し楽に移動したいんだよなぁ。
「あの鎧馬みたいにですか。確かにあれば便利ですし、その手の限定ガチャについて調べておきましょうか」
「そうだな。頼むよリリム」
ザキルは交易都市の限定ガチャで手に入れたって言ってたな。
馬もそうだけど、馬車とかも欲しいな。後、家? とかガチャであるのかね。コテージとかさ。住む家もガチャで出せたりしないかなって思うんだよね。ついでにそこらへんも調べておいてもらうか。
で、サンダーミストの探索だけどリリムによれば場合によっては四、五日くらいかかるかもって言ってたな。学都に戻るにしてもここから三日はかかるし、この仕事が終わるのに半月ぐらいかなぁ。
「サンダーミスト十五体倒したら二百四十万円かぁ。ボロい商売っちゃあ、ボロいよな」
「ウルトラレア持ちならそうかもしれませんね。それでも命はかけていますが」
ポロッと口に出た俺の言葉にリリムがそう返してきた。
「実際強力な魔導器を手に入れた方の多くは一、二年である程度の財産を得ると危険なこの仕事から足を洗うことが多いそうです。そうではない方もそれなりの数いますけど」
「そうではない?」
「はい。稼いだお金をすべてガチャに費やし続けていつまでもお金がたまらない人も時々います」
「そうか」
そうか。
まあ、そういう奴がいてもいいだろう。るみにゃんがいなくてもガチャは楽しめる。ただ、最初以外はめっきり引きが悪いな。ツキがそろそろ貯まっていると思うんだが……あれ、見通しの水晶に反応ある?
「リリム。魔物を見つけた。複数だ」
「思ったよりも早かったですね」
「ただ、他に青い光もふたつある。これって人間だよな?」
人族は青、天使族は金、魔物は紫だ。他にも種族によって色が違うらしいが、青ということは人間だろう。
「それはまずいかもしれませんね。多分、襲われてるんじゃないかと」
「だよなぁ。サンダーミストって確か物理無効なんだよな?」
「はい。対抗手段がなければ逃げるしかありませんし、囲まれれば何もできずになぶり殺しにされます」
「そりゃあ不味い。とりあえず急ごうぜ」
「はいっ」
目覚めが悪いのはごめんだからな。早く助けないと……と思って駆けつけたんだけど、俺たちが辿り着いた先では予想外の光景が繰り広げられていた。
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「デヤァアアアアアアア!」
俺たちが戦いの場に辿り着くと、そこでは気合の入った声と共に巨大な人型の岩の塊へと斬りつけている優男の姿があった。その優男の背後には荷を積んだ馬車と商人風の男もいる。どうやら護衛が馬車を護っているってところか。それにしても……
「なんだよ、あのデッカい岩は? 人間の形をしてるぞ」
「ロックゴーレムです。サンダーミストとは違いますが、あれも物理攻撃が効き辛い相手です。けれども五体のロックゴーレムを相手に馬車を守り続けているなんて、凄いですよ、あの人。あれはもしかして」
リリムが驚いているが確かにそうだな。踏み込もうとすると別の個体が迫ってくるから倒しきれていないみたいだけど、どう見ても対等以上に戦ってる。なんなんだ、あいつは?
まあ、いい。とりあえずは声をかけよう。
あいつ強そうだしな。獲物を横取りしたとは思われたくない。
「おい、あんた加勢いるか。見た感じ、必要なさそうにも見えるが」
「いや、そんなことはないよ。馬車を守ってもらえるなら助かるが……頼んでもいいかい?」
おっと、加勢の頼みが来たぞ。ま、そういうことならやってやれるな。
「了解。任せろ。リリム、やるぞ!」
「はい」
おっし。じゃあ射つぜ。お、なんだ?
「魔力が上がってる? それとも右の竜腕が成長してるのか?」
力を込めて弦を引いたら三本の矢が簡単に出た。少なくとも力が増しているのは確かだ。
「まあいい。射る!」
けど、やっぱりか。イメージを集中させないで射った矢の狙いはあまり良くない。それに刺さりはするけどあの岩の巨人相手じゃダメージは薄いな。それでも二体のロックゴーレムがこちらに向かって動き出したのだから注意を引いたのは間違いない。
「助かる。無理はしないでくれ!」
おお、あの優男が前に出て戦い始めた。盾を手放して剣を振りまくってロックゴーレムの身体を崩し始めたぞ。見た目、女の子みたいに華奢っぽいのに凄いな。こっちが牽制している間に本当に全部倒しちまいそうだが、こちらも雷属性の魔術ガチャのために稼がなきゃいけないんでね。
「リリム。合体技で行くぞ!」
「はい、お任せください。アーツ・ドラゴニックコメット!」
リリムが振りかぶって投げた竜水の槍が空中で水のドラゴンの形を取って突き進み、ロックゴーレムへと突き刺さった。あれって刺さった後、内部で全周囲に水の針が貫いてるっていうエグいアーツらしいんだけど。うん、ちょうどいい塩梅だ。
「ライテー行くぞ。アーツ・サンダーレイン!」
『ラーーイ!』
俺の呼ぶ声に反応したライテーが顕現して、雷の矢に黒雲を纏わせてくれた。
そして俺がそれを上空に放つとロックゴーレムの頭上で黒雲となった。
『落ちろ!』
ライテーが両手を振り下ろすと同時に竜水の槍に向かって雷の雨が一点集中して注がれ、岩の身体が爆散した。へっへー、どうよ。完全に破壊したぜ。あの上級竜にも効いた合体技だ。いやー強力だな。
それに竜水の槍も水の竜となってすぐさまリリムの手に戻るのも便利でいい。じゃあこっちは残り一体だ。続けて行くか!
「もう一丁だリリム!」
「えっと……タカシ様、その……すぐには無理ですから」
あれあれ? へたってるよこの子。体弱いの? 神の薬草食べる?
あ、ごめんなさい。メッチャ睨んでる。薬草しまうから怒らないで?
「大体ですねぇ。連続でアーツを使えるタカシ様がおかしいんです。魔力有り余りすぎじゃないですか?」
「ん、そうね」
一回程度じゃ俺はめげないからな。まあ、アーツを一発撃つとかなりの魔力が消費されるらしくて、普通は一回の戦闘で一回撃てりゃあいいものらしいけど。ただ俺は三回は行けるぞ。頑張れば四回は。そう考えると俺ってなんだかんだ言って凄くないか?
「ふふ、なあリリム。あれかな。俺って選ばれし者的な。もしかして勇者みたいなもんじゃないか?」
「ちょっとタカシ様、止めてくださいよ。タカシ様が勇者とか。勢いに任せて私に飛び蹴りしたり、もらったお金を全部ガチャに使っちゃうようなロクデナシが勇者なわけないじゃないですか。だいたい本物を前にしてよくそんなこと言えますね」
あれ、いつも以上に厳しいツッコミが返ってきたぞ。というか……
「本物って、何の話だ?」
俺の言葉に、リリムがあっちで戦っている優男を指差した。
「ほら。あの方、本物の勇者様ですよ」
え、いんのかよ本物!?