017 雷精、神弓にて屠るべし
リリムに案内されて、俺は都市の中心より少し離れた場所にある施神教の神殿へと辿り着いた。そこはロウトの町の神殿よりも当然のように大きかったが、同じように魔物の討伐依頼を専門にした討伐依頼所も並んで存在していた。
そんで依頼所にはロウトの町のものと同じ木造りの掲示板があって、やはり多くの依頼が貼られていた。まあ大きい都市だけはあるし、ロウトの町よりも仕事は多く舞い込んでくるんだろうな。
「うーん、結構数があるなぁ。どれを選んで良いのか分かんないな」
「あ、タカシ様。そちらではありませんよ」
俺が掲示板に貼られている依頼に目を通そうとすると、奥の方に進んでいったリリムが手招きをしてきている。こっちの依頼じゃあダメなのか?
「なあ、リリム。今度はゴブリンの数が多い依頼でも受けると思ってたんだけど違うのか?」
「それはそれで稼げますが違います。ロウトの町の周囲はかなり平和なのでゴブリン討伐ぐらいしか依頼がなかったのですが、ここでならタカシ様がもっと稼げる依頼もあるんですよ」
おお、稼げるというのは素晴らしい言葉だな。
俺がトコトコとリリムの近くにまでいくと、リリムがひとつの依頼書を指差していた。
ええと、どれどれ?
「サンダーミストの討伐……何だサンダーミストって?」
「雷属性の魔法生命体の一種です。一体の核石が金貨6枚となります」
「は? ゴブリンの三倍かよ。それって結構デカイよな」
だったらゴブリン相手にするよりもそいつを倒してりゃあいいよな。いや、なんか裏があるんじゃないか。もしかしてメチャクチャ強いとか。
「核石の換金だけでもそれなりに稼げますが、この依頼だとモザン峠の魔物の群れを一掃すれば依頼の報酬がもらえるとのことです。条件は核石15個で金貨30枚となっていますから、実際に十五体以上は確認されているんだと思います」
「ええと、そうなると核石の換金と合わせて120枚か。随分と奮発してるな」
つまり二百四十万円の仕事ってことだよな。ほとんど税金さっ引いた俺の給料一年分くらいじゃあ……あれ、税金?
「なあ、リリム」
「はい?」
「俺さ。ここまで結構お金もらってるんだけど、国に税金を納めたりとかしなくていいのかな?」
「え、神殿でやり取りをしているお金に国が税を? そんな罰当たりなことできませんよ」
ああ、宗教法人は非課税か。なるほど、神様いるしなぁ。
「それでですね。魔法生命体の核石というのは質がいいんです。つまりガチャ様に多くの力を奉納することができるわけですから換金額もそれなりになっているというわけですよ」
「けどさ。だったら、普通に考えればみんなゴブリンよりもそいつを倒そうとするんじゃないのか」
誰だって儲かる方を選択するだろうに。なのに、なんでこの依頼は端っこに分けられて貼ってあるんだろうな。
「それは倒せないからですタカシ様」
「倒せない?」
首を傾げる俺にリリムが頷いた。
「はい。魔法生命体は通常の武器では対処ができません。物理攻撃が無効化されますし、魔術が付与されている……例えば私の槍などの魔導器ならば通用しますが、それでも与えられるダメージは小さなものです」
物理攻撃が効かない? ああ、そういうことか。だから俺向きだとリリムは判断したわけだな。
「つまり、普通の攻撃では倒し辛くても神弓なら魔力の矢を射るわけだから普通にダメージが与えられるってことだな」
「ご明察の通りです。雷霆の十字神弓ならばサンダーミストへダメージを与えることが可能です」
なるほど……とは思うものの、問題があるよな。だいたいサンダーミストって、雷の魔法生命体なんだろ。で、俺の弓も雷の力を持ってる。
「なあリリム。雷の矢ってサンダーミストと同属性だろ。それで射ってちゃんとダメージが通るものなのか?」
「そこは問題ありません。同属性でもウルトラレアの武器は基本的に並の魔法生命体よりも高位の力を有していますからダメージは通ります。現在は竜属性がついたことでさらにダメージは上乗せできるはずです」
そういうもんなのか。まあ、リリムが言うからにはそうなんだろうけど。
「つまり今後はその系統を倒していけばお金は結構貯まるわけか。それにしてもゴブリンのときと比べて結構な金額になっていると思うんだけど……これって依頼してる人間は損しないのか?」
「そこらへんは大丈夫でしょう。そもそも核石のお金は神殿から出ているわけですし、依頼者が出すのは依頼料と成功報酬のみですよ」
ああ、そういえばそうだったな。思ったよりも依頼者の負担って少ないのか。
「で、依頼の方ですが、この場合の依頼主は通商組合とあります。サンダーミストを倒せないうちは運送時の護衛を増やすかルートを変えて遠回りする必要がありますし、それらの出費を考えれば正直まったく問題のない額でしょう。このまま放置され続ければ依頼の報酬金額も上がっていくでしょうしね」
「あ、そうなんだ」
「はい。先ほども言ったように魔法生命体は対処できる人間が限られていますから、場合によっては討伐されずに放置され続けて、併せて値段も上がり続けます。それでも誰も対応しない場合には高額で専門の討伐者に依頼することになります。タカシ様も実績をあげれば指名で依頼を受けることもあるかもしれませんね」
なるほどなぁ。高いのにはそれなりの理由があるし、金額も適正に設定されているってわけか。それにしても……
「雷霆の十字神弓ってのは、やっぱり有能なんだな?」
「ええ、UR+++は伊達ではありません。それと私がタカシ様にこの依頼を提示した理由はもうひとつあります。依頼書の下を見てください」
下? どれどれ。えーと、初回のみ・雷属性魔術限定ガチャ出現ありって書いてあるな。ということは、もしかして……と思った俺がリリムを見ると、リリムが笑みを浮かべながら頷いた。
「分かりましたか? サンダーミストの討伐をするとドラゴンを討伐した時のように期間限定で雷属性魔術限定ガチャが解放されるんです。初回限定ですので、次に同じガチャをする場合にはまた別の条件を達成する必要はありますが」
初回限定か。確か報酬をもらったときに発生するんだから、そうなるとその前にもう少し稼いでおいたほうがいいのか?
「おっと、お前がタカスィってヤツか?」
ん、なんだ? 人が考え事をしているときに?
「そうですけど。何か?」
誰こいつ? なんか強面のマッチョなヤツがいるんですけど。一言でいうとザ・チンピラ。後ろにも何人かガラの悪いのがいるし……あら、もしかして俺絡まれてるのか。
「随分とヒョロイが天使族の女付き。確かに本物のタカスィだな。ドラゴンスレイヤーだって? 見えねえが」
うーん。ゴッツイ髭面だが不思議と怖くはないな。自分の右腕の気配の方がビリビリくるぐらいだ。
「なあ、あんた。実はよぉ。下級竜討伐の話があるんだが興味はないかい?」
下級竜? なんだ、いきなり。それにリリムが首を横に振っているし……大体ドラゴンはこりごりだし、俺はこのサンダーミストを倒して雷属性の魔術ガチャするんだよ。
「別件があるんで今は興味ないや。悪いけど、他当たってよ」
「おい、お前」
おっと、なんか後ろのやつがマジでガン飛ばしてきてるんだけど……コワ。
「よせ。まあ、別の用事が入ってるんなら仕方ねえか。また声をかけるから、そんときゃいい返事をくれよタカスィ」
そのリーダーらしいの男がそう口にすると、取り巻きらしいのと一緒に離れていったが……なんだ、あいつら?
「タカシ様、彼らはノーク団。あまり評判がよろしくないクランの方々です」
「リリム、あいつら知ってるのか?」
正直、リリムとはまったく接点がなさそうな相手だったけど。
「ええ、ロウトの町でも問題を起こしていたので覚えていたんです。恐らくはドラゴンを倒したタカシ様の評判を知って、クランへの誘いをしたかったのでしょうが……」
「リリム、そのクランってなんだ?」
ゲームで聞いたことはあるんだけどな。大体はぼっちプレイだったからな俺。
「討伐者で寄り合うグループをクランと言います。私とタカシ様のようにパーティを組むだけではなく、クランとして所属していれば色々と情報の交換をしたり、融通が利いたりもするのですけど」
「なるほど。で、あいつらは俺をスカウトしたかったってわけか?」
んー、あんなゴツいのと一緒に入るのはやだなぁ。ガラ悪そうだったし。
「はい。タカシ様はウルトラレアの武器とゴッドレアのアイテムを所持しているわけですし、その右腕も戦力としてみれば非常に強力なものでしょう。ただ戦闘能力が高かろうと、場合によっては使い潰されることだってあります。それに仲間になってしまえば、取り分だってリーダーのさじ加減次第となりますし、ドラゴンを倒しても十分の一の取り分しか貰えなかったりすることもありますよ」
十分の一か。なんてひどい話だ。あれ、最近どこかで聞いた覚えがあるような……気のせいかな?
「まあ、力を持っているということはそれを利用しようとする人間だっているわけです。だからこそガチャ様は私をタカシ様の導き手として従者にしたのですから」
なるほどな。世の中、強い武器だけ持ってりゃあなんでもできるわけじゃないってことだな。悪い人間には騙されないようにしないと。