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016 新たなる地、そして汝は道を歩む

「よぉーし、着いたぞ」


 ザキルが御者席からそう声をかけてきた。

 その言葉に馬車の中にいた俺とリリムが窓から外を見ると、あのロウトの町よりもずいぶんと大きい都市の姿が見えた。

 あれが学都オーリンというこのサンダリア王国の中でも三番目に栄えている都市か。まあ、ここがサンダリアって国だってことも俺は知らなかったし、三番目って言われてもよく分からんのだけどな。

 それにしても二日ほどの旅だったけど結構早く着いたわ。

 鎧馬は普通の馬と違ってザキルの魔力が尽きるまでは疲れることもないし、やっぱり色々と便利だな。俺も欲しい。

 で、学都オーリンだけど、やっぱりロウトの町とは全然違う。周囲を白い壁で覆っていて、高い建物も多いし、如何にも栄えているという感じが出ている。

 こんな街なら市長もきっと討伐者を軟禁して無理やりドラゴンと戦わせるようなことのない人格者に違いない。ともあれ、ザキルとはここでお別れだ。


「そんじゃ、助かったぜザキル。またどこかでな!」

「お世話になりました」


 ザキルは俺たちに「じゃあな。旅立ちの神のご加護を」と別れの言葉を口にするとすぐさま鎧馬を走らせて去っていってしまった。

 まあ、金も手に入ったわけだしさっさと行きたいところがあるらしい。またどこかで会うこともあるのかな。どうだろうな。ないかもしれないな。

 ともあれ、俺たちはあの忌々しいロウトの町を無事離れ、こうしてこの学都にまでやってきたわけだ。あのクソ町にはもう用はねえし、この学都でやることが俺たちにはある。それはもちろん、神の薬草の鑑定だ。

 せっかく神様からもらった特別だものな。上手く使いたいところだけど、俺の時もリリムの時もおかしなことになっていたからな。ともかく注意事項を確認してまともに使えるようにはしておきたい。

 そして、俺たちはさっそく学都オーリンの中へと入った。

 普通街に入る場合には入場料が取られるらしいんだが、そこはリリムが現在も神殿の神官扱いであるため素通りできた。施神教を信奉している町であればそういうのはいらないんだと。商売で来ている商人でもなければ、ひとりやふたり程度は一緒に通っても良いそうで俺も同じように無料で入れた。神官ってのは結構な身分証明になるらしい。


「しっかし、中もやっぱりロウトとは違うな」

「そりゃあ、そうですよタカシ様。あまりキョロキョロして田舎者感出さないでくださいね」


 さりげなく毒吐くなよ、お前。前よりも遠慮がなくなって来てるぞ。あ、もしかして心の距離が近くなってるってこと? 照れるわ。

 とはいえ、ついつい見ちまうのは仕方がないさ。実際、珍しいんだし。

 大体は石造りの建物が多いんだけど、ロウトの町と違って装飾が細かくされていて、ところどころに女神像なんかも並んでいるんだよな。姿は当然あの神様まんまだ。

 時折俺らと同業らしいヤツらも見かけたな。市場は遠目で見ただけだけど、人は結構いるみたいだ。栄えてるってのは一目瞭然。多分、ここはこの世界での渋谷とか池袋みたいなもんなんじゃないか?

 それから俺は学都内を色々と観察しながら移動しつつ、とあることを思い出してリリムに尋ねた。


「リリム。あの……なんだっけ、ドラゴンの炎を弾いたやつ。あれって天使の力なんだったよな?」


 そう。ドラゴンとの戦闘のとき、炎のブレスをリリムが羽根を使って塞いでいたのが気になってたんだ。あれは天使族の能力だってのはすでに聞いていたんだけど、あのときのことを尋ねると不貞腐れるから、これまでそれ以上はツッコめなかったんだよなあ。で、今回は……というと


「はい。天翼結界といいます。私も初めて使えたんですけど……感覚だけは覚えていますからまた使用はできるはずです」


 特に気にせず答えてくれたよ。地雷は踏まずに済んだみたいだ。


「ただ、緊急避難的なものなのでそう何度も使えるものではないですよ」

「ああ、そうなんだ。それってガチャでもらったもんじゃあないよな?」


 俺が気になってたのはそこだ。スキルやスペルについてはガチャでジェムを手に入れれば使えるというのは理解しているが、自分の力で使える方法をここまで俺は教えられていない。とはいえ、スキルやスペルのジェムは元々神に奉納された人間の力なんだよな。そりゃあ、つまりジェムを使わなくても力を使う方法はあるってことだ。


「そうですね。ガチャとは別に種族ごとにいくつかの固有スキルがありまして。まあ生涯で一個か二個覚えられれば良い方なんですけど。私、故郷に帰ったらお祝いされちゃいますね。うふふ」


 リリムが少しだけ照れ臭そうに笑う。こういうところだけ見ると可愛いんだけどな。天使族ってのは神の眷属らしいし、神託を受けたのもエライ栄誉なんだって言ってたっけ。


「そうか。それは良かったが、種族っていうと……あの、俺はなんか使えないのか?」


 本当に尋ねたかったのはそれだ。リリムと同じように俺もそういう力があったりするんじゃないか。なんかこう、空を飛べたりとか……気合いを入れると腕から光線を出したり、空に掲げると光の輪っかが出て投げられるとかさ。


「いえ、タカシ様は純粋な人族のようですから種族に由来する固有のスキルというものはありません」

「マジで?」


 何それ? その人族ってのはハズレ?


「はい。人族は原初の種族と呼ばれておりまして、神々に力を付与される前の最初の存在だと知られています」


 うーん。それって神様の力を注入される前のプレーンな種族ってことか。マジか。俺、両腕を重ねて力を溜めて「ハァアア」とか言いながら光線撃てたりしないのかよ。ガッカリだよ。


「ただ、人族はオリジンのスキルを生み出せる可能性が高いと言われています。奉納されたスキルジェムの多くは人族のものなのだとか」


 そうなのか。あれ、ちょっと待てよ。


「なあリリム。もしかして俺のこの右腕とかもオリジンスキルってヤツなんじゃないのか?」


 ドラゴン的な腕。硬いし、魔力を込めれば込めるほどパワーが上がるって結構すごいよな。ただ、俺の問いにリリムは首を横に振った。


「いえ。確かにその腕は強力ですけれども別のものでしょうね。どちらかといえば変異ミューテーション扱いになると思います」

「んー、そっかぁ」


 まあ、それはいいや。スキル認定してもらわなくても使えるもんは使えるんだし。あ、そういえばもうひとつ聞きたいことがあったな。


「それとさ。新しい都市に着いたけど、記念に聖貨ってもらえたりしないの?」

「今回はありませんよ。初めての国に入ると貰えますけど、同じ国内の都市だと無理です」


 さすがにそこまでは緩くないのね。そりゃあ、そうか。残念だ。


「それでタカシ様。こうして学都までは来ましたし、ひとまずは宿を探すことになりますけど……その後はどうしましょう?」

「そうだな。まず俺らには金がない」

「正確にいえばタカシ様にはないですね」

「そうとも言う」


 リリムの所持金があれば、当面は普通に暮らせるが、貸してとかは言わないよ。ギリギリまではな。俺は預金はないが自制心はある男だ。ギリギリを見極めて戦い続けられる自信がある。


「それにしてもまさか報酬を全部ガチャに注ぎ込むとは……そりゃあガルディチャリオーネ様へと己を捧げた者として考えれば本望ではありますが、タカシ様にお仕えする身としては将来が不安です」


 おいおい。そんな目で俺を見るなよ。辛いぜ?

 けどガチャか。ああ、そういえば……


「ところでさリリム。この都市での限定ガチャとかってあるのか?」


 あ、さらに目がキツくなった。あの、そういう目で見るの止めてくれる? ちょっと傷つくから。


「ハァ。まあ、いいでしょう。この都市では現在学徒ガチャに魔術ガチャができるはずですよ」


 へぇ、ふたつもあるのか。ロウトの町は全ての可能性ガチャだけだったよな。やっぱり学都ってのは違うのか。


「それは都市限定ってことか?」

「はい、そうですね。魔術ガチャはこの都市限定、学徒ガチャはローデンス魔術大学の入学式に向けてのものですから期間限定でもあって、後二ヶ月は開催しています。ピックアップは確認すれば分かると思いますが、そこまでは私も知りません」


 魔術大学……そういうのがあるってことはそこで魔術は学べるってことだ。


「リリム、魔術の大学で学べばスペルジェム以外で魔術って使えるようになるんだよな」

「ええ、まあ。まず基礎を覚えて、技術体系を学んで、術式を暗記して、何年もかけて構築式をイメージできるように訓練して、そこまでやって実際に行使可能になると魔術師と呼ばれるようになります。それに大学で学ぶためには相当な財産が必要になりますが……いえ、タカシ様のガチャ代を考えるとそれほど高額ではないのかもしれません」


 うん。そうかもね。ここまでに俺ずいぶんとガチャに溶かしてるしね。けど、学問としての魔術か。なんか聞く限りはかなり大変そうだな。二十歳越えて勉強し直したくないしパスでいいや。


「うん、俺はスペルジェムでいい」

「ええ、タカシ様はそれでいいと思いますよ。まあ、魔術研究というのは戦闘用に限りませんし、それがガチャ様に認められてまったく新しい魔術と認定されれば奉納が可能となったりもしますが」

「ああ、強くてニューゲームができるようになるってわけか」

「なんですか、それ?」


 不思議そうな顔をされた。いや、そりゃあクリア後に強い状態でやり直せるっていう『強くてニューゲーム』の概念はリリムは分からないか。文化の差ってヤツだな。


「いや、つまり死後の扱いが良くなるってことだったよな?」

「そうですね。それは大変栄誉なことでもありますし、名声も得られます。需要があれば大金が入りますし、国からの助成金も多くなりますから」


 なるほどな。俺の世界のノーベル賞みたいなもんか。みんながみんな、魔物だけ倒してりゃいいわけじゃあないよな。当然の話だ。


「ちなみにどちらも聖貨3枚です」

「は? 何が?」

「何がって、ガチャです」


 え、1回十二万円? 高くねえ?


「この間の限定ガチャだって2枚だったろ? なんでボッタくってんの?」

「大型魔獣討伐ガチャは出現させること自体が難しいですからボーナス的なものが含まれての2枚です。長期の限定で誰でも受けられるようなガチャは3枚必要になることが多いんです。全ての可能性ガチャよりも高レアが出る確率は高いですし、窓口が広い分1回が重いんですよ」


 うーん。分かったような分からないような……しかし六万か。金持ちだって無限に金があるわけじゃないし、百連ガチャったところでダメな時はダメだものな。実際破産するヤツもいるんじゃないか。これは金銭感覚狂うわ。このままだとガチャに見境なく金を使うようなダメ人間になってしまいそうだ。怖いな。


「当然全ての可能性ガチャもここではできますが、排出率を考えますとそれでも限定の方がお得ではあるんですよね」

「俺のやった限定は、まったくお得感なかったけどな」


 結局有用だったのは竜鋏だけだったぞ。


「まあ運が絡みますからね。ガチャは」

「知ってるよ。何度も痛い目見てる。それでその学徒ガチャとかいうのは何が出るんだよ?」

「教本や指南書などの教材関係のガチャが」


 いらねえ。


「えっと次。魔術ガチャの方、教えてくれ」

「次ですか? まあ入学しないのならいらないもの多いですしね。出てきたものを運命の選択として分野を決める人も多いみたいです」

「それ、気に入らない分野のアイテム出たら辛いな」

「望んだ分野のものが出るまで引けば良いんですよ」


 ああ、まあそうね。


「それで魔術ガチャですが、こちらは杖やスペルジェムなどが引けます。学都はスペルジェムを生み出した者を多く輩出したことで都市限定として選ばれまして、魔術を狙うならこちらです」


 魔術か。使ってみたいが、どうなんだ?


「加速のスペルジェムは重ねられてるから随分と速く走れてるってお前は言ってたけど、スペルも同じなんだよな?」

「そうですね。基本的にはスペルジェムもスキルジェムも同じジェムを重ねるごとに一段階強化されます。ただ魔術ガチャは全属性が出ますので重ねるのは難しいですよ。全ての可能性ガチャほどではありませんが、やはり出るアイテムの種類が多いですから」

「うーん。もう少し絞りたいが……もし俺が使うとしたら神弓にあわせて雷の系統か」


 逆に弱点を埋める方でもいいかもしれないな。けど確かに種類が多いと重ねるのは難しそうだ。


「あのタカシ様、でしたら一度神殿の討伐依頼所に向かいませんか?」

「ん、どういうことだ?」


 首を傾げる俺にリリムがトンっと自分の胸を叩いて微笑んだ。


「実は属性魔術限定ガチャを受ける方法があるんです!」

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