152 失われた聖剣伝説2
あらすじ:
グッバイ地下都市!
「ふぅ。教皇様、怒ってなかったようで良かったぜ」
『怒られないようにみんなで黙っていようぜって話だったけどな』
聖王国への帰還後、俺は教皇様に一通りの状況報告をしていた。
結果はアルゴの言う通り、サイレントイズジャスティスという判断だった。
もちろん俺らのやったことは正当防衛で正義で正しい。そもそも相手は闇の神の配下で、人類を裏切った王様だ。ヤツはゴーレムを指揮して外に出ようとしていたわけだから俺らは近隣の住人を救った救世主であるとも言えるだろう。
ただあの地域は今国という括りがないそうで、近隣の国が保護している状態だ。そこに今回の件を説明するとなると面倒なことになる上、転移門を自在に使える俺の存在もバレかねない。そりゃ誤魔化すことだってできるだろうが、一番簡単なのはひとまずなかったことにして、善意の第三者として倒壊した地下都市の調査を行う方が良いと言われれば俺も了承するしかない。表向きは功罪問わずとはなるものの、パラオを倒した報酬は依頼料に上乗せしてくれるらしいしな。
プラス回収してきた換金用の品々もすでに引き渡しは完了。後は限定ガチャ最終日の明日までに金を揃えてもらうのを待つだけってわけだ。ドキドキが止まらない。まるで遠足前の小学生の気分だな。
そして今、俺とアルゴがいるのはトネリの泉だ。その俺たちの前では大型ミスリルドールがホウキでせっせとコテージ周辺を掃除していた。
『クククク、穢れなき世界。我は作ってみせよう』
『何をするにしても大袈裟なことしか言わない野郎だな』
「まあ、ちゃんと働いている分には問題ねえだろ」
この大型ミスリルドールはマキシムが倒した個体なんだが、今のこいつにはあの水責めのトラップがコアとして入っている。別に狙ってやったわけじゃないんだが、どうも回収してトネリの泉に一緒に放り込んだ際に融合して大型ミスリルドールを乗っ取って、そのままこのトネリの泉の番人になりやがった。まあここの主人である俺に従ってくれるみたいだし、掃除をするにしてもここに人を雇うってのも難しいからちょうど良かったっちゃー良かったんだけどね。
そんなことを考えながら頷く俺にアルゴが眉をひそめて尋ねてくる。
『けど、本当に良かったのかタカシ? こいつを売れば大金が入ってきたはずだぜ?』
アルゴは俺がトラップと大型ミスリルドールを売り払わなかったことが不思議で仕方ないらしい。ミスリル素材のインテリジェンスドールの価値は相当高いらしく、今回の成果の中では一番高額で売れるはずだったらしいからな。
まあ、とはいえ……だ。確かにガチャは大切だ。己の意志をコインに宿し、不確定な未来から希望を掴む。その喜びを知ってしまえば、人はもうガチャから逃れることはできない。だからこそ全身全霊で金稼ぎに興じたわけだし、そんな俺がこいつを売らないのをアルゴが不思議に思うのも分かる。
けれどもちょっと待ってほしい。こいつは今回のイベントの『限定アイテム』だ。
「確かにガチャも大事だ。けれども俺はイベ限のアイテムを軽んじるほど愚かでもない」
『イベ……限?』
そうイベ限だ。メインストーリーとは別に発生する期間限定イベントはソシャゲには欠かせぬもの。正月、花見、水着、ハロウィン、クリスマス等等の季節イベントから今回のような本筋から離れた突発的なものまで、何もない虚無の期間を発生させず、プレイヤーをいかに飽きさせないかが運営の腕の見せ所と言ってもいい。
そうした期間限定イベントはピックアップガチャだけではなくシナリオクリア後にそのイベントでしか手に入らない限定アイテムを報酬とすることがある。
俺の竜腕や神樹の腕もそうだが、今回はこのうるさいミスリルドールがそうだったってわけだ。復刻イベントが存在していればまた手に入るかもしれないが、リアルにそこまで求めるのは流石に無理だろう。もちろん一日繰り上げな上にガチャ資金がさらに減ったことは痛恨の極みではある……が、魔導器に依存しないレア度最高レベルのアイテムを売るなんてとんでもないことだ。
例え使えなくて倉庫に塩漬けだろうが、取っておくのがゲーマーのサガというものだ。入手数が決まっているエリクサーを結局一度も使わずに死蔵してこそゲーマーなんだよ(※個人の意見です)。
『塵芥ひとつ残さぬよ。イレィィイザァアア!』
『うっせぇえぞ、糞トラップ!?』
確かにうるさいが、いざという時の追加戦力として使えるだろうしこれはこれで正解のはずだ。俺は間違ってない。
「アルゴ。今後はこいつにも世話になるんだ。仲良くしてやってくれ。それとマキシムはこのままでいいのか?」
そう口にした俺の目の前ではリリムに看病されながらトネリの泉に漬けられているマキシムがいた。神の薬草食っても体型が変わらないのは羨ましいが、以前と同様にまだ気絶したまま目を覚まさない。
すぐに病院に連れて行こうと思ったんだが、アルゴの指示でマキシムはトネリの泉に漬けておくことになった。何でも下手に治療をするよりもこっちの方が回復は早いらしい。
『ここは神域で、この泉の水は洗礼された聖水と変わんねえ効果がある。急激に放出された神気に変わって、この穏やかな神の力が染み込んだ水に浸しておくことで少しずつ馴染ませながら体を落ち着かせられるんだ。元々ゴッドレアの魔導器を常時装備しているマキシムなら二日もありゃあ目を覚ますだろうよ』
なるほど。湯治みたいなもんか。違う? まあいいか。
「分かった。というわけだからリリム、マキシムの看病は頼んだぞ。あとで俺も交代するからさ」
そう言いながら俺はマキシムに柄杓で水をかけているリリムを見たが、リリムの様子がどこかおかしかった。
「……………………」
「どうした、リリム?」
「その……タカシ様。私、どうしたら……」
なぜか狼狽えていた。
マキシムの顔を、それから下腹部を、最後に俺の方に向き直してから口を開いた。
「ないんです」
「何が?」
「聖剣です」
聖剣? マキシムは聖剣なんて持っていなかっ……あ!?
「落ち着いて聞いてくださいよタカシ様」
「お、おう」
「私、マキシムの治療のために服を脱がせたんですが」
ああ、聖剣ってそういう……
「ズボンを下ろしたらそこにマキシムの聖剣がなかったんですよ!?」
「落ち着けリリム。女の子が聖剣の話とかするもんじゃない」
「聖剣の話なんて女の子ならみんなしますよ。自分のものしか知らない男と違って女の子は何本も見比べてるんですから!?」
「そ、そうなのか? お前もなのか!?」
「私の鞘はまだ新品ですセクハラ糞野郎。そんなことより聖剣が、マキシムの聖剣が!?」
「落ち着けリリム。裁判は勘弁しろ。それよりもほら、マキシムもどっかで落としただけかもしれないし」
「そ、そうですね。そうかもしれません。もしかしたら神の薬草の副作用で地下都市に落としたのかも? あ、ああ。そうなるとマキシムの聖剣はもう潰れてしまっている!?」
「それは……怖いな」
そうか。マキシムの聖剣、地下都市に眠る……と。
また伝説が生まれてしまったな。
奪われたものを取り戻す王道の一作目に対し、二作目は実は元から奪われたものなど存在しなかったという叙述トリック。