151 帰還
あらすじ:
タカシの正義の怒りが爆発して、矢が爆発して、ミイラ男が爆発した。
「うおおおおっ」
俺は叫び声をあげながら瓦礫と共に転移門から飛び出した。
そのままグルグルとデングリ返しをしながら壁に激突。うむ、頭が痛い。
『カァ、ギリギリセーフだったなタカシ』
「ああ、アルゴ。ヤバかった。マジヤバかった。で、ここは……サンティアだな? サンティアの転移門に戻ってこれたんだよな?」
『大丈夫だ。あんの野郎の気配がしやがるし間違いねえよ』
野郎って言うけどアヴァロンは雌だぞ? どうでもいいけどさ。
「それにしても危機一髪だったなぁ。あの街、思ったよりも脆かったか……いや経年劣化でもしてたのかもしれないけどさ」
俺がたった今出てきた転移門には瓦礫が山になって積まれている。それは俺と一緒に地下都市から転送されたもんだ。アレに押し出される形で俺は転移門へと弾き飛ばされて戻ってきた。
『瓦礫も一緒に転送されるとはな。まさか崩落があそこまで早いとは思わなかったぜ』
「まったくだ。マジで死ぬかと思った」
パラオに対して爆裂の神矢二十本をまとめて放って倒し、そのまま即座に転移門を起動して逃げ出そうとしたわけだが、途中で転移門の遺跡の天井が崩れてきたんだよ。あと少しタイミングが遅れてたら危なかった。今はもうあっちはペシャンコだろうな。
「いや、油断は禁物だな。一応、転移門のシステムを確認するか。万が一もあるし」
俺は転移門の横に設置されている水晶に手をかざして魔力を流し起動させる。
すると空中に光が走って状況を表示するモニターが目の前に形成され、そこに出てきた情報から黄金都市ドルチェの転移門は接続不可になってることが確認できた。
「おっし。あっちの転移門は完全に機能停止してる。あの分じゃ間違いなく転移門は埋まったし、あのパラオとかいうミイラ男も生きちゃいねえだろう」
『んー。アレが死んでいるかどうかはまだ分かんねえぜ。あの手の野郎はしつこい。崩落って物理オンリーだろ。元々がアンデッドっぽかったし、肉体が消滅しようが悪霊になって蘇る可能性もあるぞ』
「マジかよ。嫌なこと言うなよ」
俺、超煽っちゃったんですけど。さっきはテンションアゲアゲでやらかしたけど、もうあんなのと戦うの嫌なんですけど。
まあ仮にあいつが生きていたとしても聖王国と黄金都市ドルチェとの距離はあるし、教皇様にぶん投げとけばなんとかしてくれるだろう。
ああ、そうだ。一日早く戻ってきたんだし、教皇様に報告しないと不味いか。換金もしないとだしな。
「アルゴ。トネリの泉からリリムたちを呼び戻して、教皇様に報告に行こうぜ」
『そうだな。地下都市ぶっ壊しちまったことも話しといた方がいいからな』
「そりゃマキシムが……って、あいつ寝てるし。うわぁ、そこの報告をすんのも俺かよ。アルゴ、お前が話してくんねえ?」
『嫌だよ』
チッ、使えねえ。
まあ、大丈夫だよな? 俺たち、闇の神の手先を倒したわけだしな。というか一日繰り上げた分、そいつを倒した報酬で補填できるんじゃねえ。よし、さっさと報告して金をもらおう。そうしよう。
そして俺はトネリの泉に戻り、リリムとヌチャッとしているマキシムと合流し、それから教皇様に今回の件を報告しにいった。とても疲れた顔をしていたが、あの戦いからまだ時間も経っていないし、教皇って大変なんだなと思いました。
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「……ふぅ」
「まだ痛みますかな、教皇様?」
「いや、腕の痛みはもうないが……歳かな」
執政室で書類に目を通している途中で気が抜けるとはな。
まったく、先ほどの報告を聞いたせいで集中できておらんな。
「まだお若いでしょう」
「何を言う。私の歳は知っているだろうに。まあ歴代の教皇様方と比べれば若い方ではあるがね。それよりも頼んだ件は進んでいるかね?」
「はい。ご依頼されました品々の鑑定ですね。ただいま急ぎで調べさせております。目録もこのようにできましたし、明日までには問題ないかと」
「助かる」
神託者殿も予定よりも早く戻ってきたせいで取り分が少ないと嘆いていたからな。この手のことは忖度するとガチャの運が落ちるとも言われているし、余計な手心を加えるわけにもいかん。出来る限り、良い額で売れると良いのだが。
「ミスリルどころかオリハルコンの欠片も混ざっておりましたから商人たちもざわめいておりましたよ」
ああ、巨大なオリハルコンゴーレムもいたと言っていたな。マキシムが破壊した際に飛んできたカケラだけ扉から手を出してキャッチしたと言っていたが。
何にせよ、オリハルコンやミスリルが手に入ったのはこちらとしてもありがたい。魔導器は強力だが、使用できるカードは三枚という制限がある。魔導器に依存しない稀少金属を用いた武具というのは第四の選択にもなり得るのだ。
「それと南の旧エギンスト王国の調度品も多くあり、ちょっとした値がつきそうですが……その」
「どうした?」
「どういう筋のものなのでしょうか?」
「ああ、そうだな。まず目録を見せてくれるか?」
「はい」
マキシム経由と説明を入れてはあるが、それ以上の話はしていない。商売は信用が命。経路不明では怪しまれて当然ではあるが……神託者殿が転移門を操作し、遥か南方の地、旧エギンスト王国の地下都市に赴き、探索をして得てきたものだと……そんな説明は当然できない。
転移門の操作は本来我が聖王国だけが扱える秘中の秘。それを外部の、聖王国に帰属していない者が扱えるなど外に知られるわけにはいかない。それは我が国の国防にかかわるだけではなく、間違いなく神託者殿の自由を奪うものだからだ。どの国も間違いなく神託者殿を取り込もうと動き出すだろう。隔離し、閉じ込めてしまうだろう。
さらにはトネリの泉を経由することで多くの人間を、多くの物資を運べるなどと知られれば、最悪彼をひとり送り込むだけで国を奪える。そんな人物を自由にしろなどとはガルディチャリオーネ様もずいぶんと難しいことをおっしゃられる。
それにあの黄金都市ドルチェを彼らは崩落させた。闇の神クライヤーミリアムの眷属となったエギンスト王国最後の王パラオ……そんな相手を倒すための苦肉の策であったことはすでに聞いているが。なるほどな。そんなものが封印されていようとは旧エギンストの民が滅びの原因を頑なに口にしないわけだ。
あの地下都市は原住民にとってはすでに忌み地として扱われていたのだから崩れたからといって咎められるものではないだろうが……この事実を明るみに出すには彼らが隠していたパラオの件も表に出す必要がある。やはり、この件も話せない。まったく、隠し事ばかりが増えていくな。
「残念だが話せぬ筋からだ。聖王国の名の元に保証する分には問題ない。そう取り計らってくれ」
「承知いたしました」
「ところで目録を見るに大型のミスリルドールがないみたいなのだが?」
私は渡された目録に目に通しながら疑問を口にする。神託者殿からの報告では、王塔前で巨大なミスリルドールとの戦いがあったという話だったが……
「ミスリル ドールですか? 人と同じ大きさのタイプならありましたが……それではないのですよね?」
「そうか。話にはあったのだが……いや、分かった。ご苦労だったな」
「はい」
回収はしたと言っていた。しかしここにはない。まさか私からの指示で対応を頼んだものをガメられたということはないだろう。となれば神託者殿が出さなかったということだ。しかし、アレを売らないとなると……ふむ。これはどういうことだろうか?