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149 ザ・タワー

あらすじ:

 哀れ。タカシとリリムは爆発四散……という夢を視た。

「いきなりか。みんな大丈夫かい?」

「ああ、問題ない」「はい。ギリギリセーフです」『ケッ、ヒヤヒヤさせやがる』


 俺とリリムとアルゴが同時にマキシムに返事をする。リリムの天翼結界はすでに解除し、俺たちは王の間の奥にまで退避していた。今のはマジでギリギリだったな。未来視がなければ確実に死んでた。ついでにマキシムは普通に避けてた。未来視でもこいつの死は映らなかったし。アルゴは知らん。俺と一緒に爆発四散してモツ的な感じで混ざってた可能性が高いのかね。

 で、パラオはすでに消えていると。あの野郎。俺を捕えるとか言った次の瞬間に殺しに来たとか情緒不安定なの?


「ひとまずは防げたが、これからどうする? 俺としては転移門を壊される前にさっさと逃げるの一択なんだが」


 最悪トネリの泉に避難すれば助かるが、転移門が破壊されればこの地下都市から地上に出て徒歩で帰らにゃならん。確か上は砂漠で、エギンスト王国滅亡以降は国もできておらず、少数部族の集落が点々とあるだけらしい。しかもこっからガチャリウム聖王国までは地中海ともうひとつ海を越える必要があるし、距離的に言えばサンダリウム王国の方が近い。近いと言っても普通に陸路で何ヶ月って話だ。トネリの泉があるから寝食の心配はないけどこのまま大陸横断編突入とか冗談じゃねえぞ。


「タカシ、僕は連中を逃したくない。アレは脅威だ。再度戻って戦力を揃えたところで転移門は壊されてしまっているだろうし、地上に上がられれば外は砂漠だ。確実に見失うだろう。そして連中が動けば、いくつもの街が破壊され、多くの人々の命が危険にさらされる」

「いや、マキシム。言いたいことは分かるが現実問題として対処する手段がないだろ。神の薬草を食ってもとてもじゃないが倒しきれないと思うぞ」

「確かにね。けど……」

『おいマキシム、死ぬ気か?』

「いえ、アルゴ様。ですが、ひとつだけ試してみたいことがあります」


 その言葉にアルゴが目を細めて『ふむ』と口にする。


「マキシム、どうするつもりだ?」

「うん。タカシ、君の力を貸して欲しい」

「俺たちはパーティだ。手を貸し合うのは当然だけど……神の薬草食って死なば諸共って話じゃないんだよ?」

「もちろん、僕はここで君たちと死別するつもりはないさ。ただね」


 マキシムは少しばかり申し訳なさそうな顔を俺に見せてこう言った。


「どうしたって『何かを犠牲にしないといけない』時もある。タカシには悪いけど、今はその時なんだ」




  **********




 我が名はエギンスト王国最後の王パラオ。

 闇の神クライヤーミリアム様の眷属にして、真実を知り偽りの世界を終わらせる者。

 無論、今一度世界を終わらせるには余だけの力では叶わぬ。故にこのゴーレム軍団を率いて、地上に降臨しているであろうデミディーヴァ『様方』の元に馳せ参ぜねばならない。その際にあの勇者と共にいる転移門を操作する娘は良き土産となるだろう。問題は如何に我が軍勢の被害を抑えて、あの今代の勇者を仕留めるか……だ。

 あの娘を狙えば勇者が庇うと思っていたのだが、あの天使族の娘に邪魔をされた。けれども未だ連中が我が王塔に留まっている以上、物量に任せた圧殺が良いか? しかし我が手勢の一部は彼奴らに城内で倒されている。室内での戦いに特化している可能性もあるとなれば、転移門を人質にして誘い出すのが……む?


『なんだ、この力は?』


 王の間から強大な力が放たれている? おかしいぞ。あの連中にこれほどの力を持つ者などいなかったはず。しかもこの気配はまさか白神のデミディーヴァだとでも言うのか?


「たあっ!」


 そう考えた余の視界に王の間より飛び降りた者の姿が映った。

 それは巨大な水晶の剣と巨大な木の盾を背負っている者。先ほど王の間にいた勇者がひとりでフル装備で飛び降りてきたのだ。

 普通に考えて人間があの高さを落ちて無事に済むわけはないが、勇者はそのまま地面の石畳を砕いて着地した。魔力の流れを見れば、腕輪から全身に強化が行き渡っているのが分かる。勇者のゴッドレアはあの腕輪で、特性は身体能力強化か。それにしても……この力は、余を超えている……か?


「僕は軍勢レギオンの二つ名を持つ腕輪の勇者マキシム。いざ、参る!」


 そして勇者は名乗りをあげた直後、踏み込みだけで石畳を砕きながら突撃してきた。

 不味い。不味い。不味い。不味い。不味い。不味い。不味い。これは不味い。

 間違いなくヤツは余よりも強い。こいつは危険だ。まともに組み合えば殺される。


『オリハルコンゴーレム、あれを押さえろ!』


 であれば余は最強の一体を前に出そう。

 先ほどの岩石弾を放った膂力に強固な装甲を持つオリハルコンゴーレムは余とて容易には打ち崩せぬ。無論、それだけで倒せるとは思わん。しかし足止めをして数で圧せばアレを消耗させられる。そうだ。騙されるな。所詮は人の身。あんな力を維持し続けられるとは思えん。恐らくアレは勇者の最後の手段なのだ。自分を囮にして仲間たちを逃す時間稼ぎをするつもりなのだ。転移門を操作できる人間は貴重だろう。それだけの価値はあるはずだ。ああ、そうだ。追い詰められているのはヤツで、追い詰めているのは余だ。

 なれば……


「アーツ・クリスタルスパイク!」


 余が指示を飛ばそうとした次の瞬間、距離があったはずの勇者が水晶の剣を持って高速で突撃し、周囲のゴーレムを弾き飛ばしながらオリハルコンゴーレムを貫いて砕いた。


『なん……だと?』


 最硬と謳われるオリハルコンを一撃で砕くだと? 普通に考えればあり得んことだ。一体あの刃にどれだけの魔力が込められておるというのだ?

 しかし見えた。勇者が苦痛に歪む顔を見たぞ。間違いない。余の予測は間違ってはいない。


『貴様、無理をしておるな。ククク、確かに今の貴様は強い。しかし、その様で我が軍勢を倒し切れるとでも思っているのか?』

「ああ、そうだね。確かに僕は今、無理を押し通している。以前よりも制御こそ可能になったけど、この状態を維持し続けるのが難しいのは確かだろう」

『左様。如何に貴様が強かろうと所詮はひとり。数は力だ。であれば』


 我がゴーレム軍団を前に勝ち目などなし。


「だから僕は逃げるよ!」

『何?』


 予想外の言葉が勇者から告げられた。


『き、貴様は勇者だろうに。仲間を置いていくつもりか。そもそも逃げ切れるとでも』

「おいおい、とんだ勘違いだな。別に俺らは置いていかれちゃいねえっての」


 転移門の女の声が聞こえた。どこだ? 


「で、逃げ切れるかって?」


 聞こえたのは勇者の背中の……大盾?


「逃げ切ってやるさ。なあクィーン?」

『その通りでございます、我が王よ』


 いや、違うぞ。あれは余が大きな木の盾だと思っていただけで扉だ。あの勇者、木製の扉を背負っていたのか。しかも扉が開いて中から転移門の女と人外の女が顔を出してきおった。まさかアレは亜空間門か簡易転移門の系統か?

 つまりあの勇者は仲間の囮になったわけではなく、全員で逃げるために飛び出してきたと!?


「クィーン、ルークを十二体召喚だ」

『承知いたしました。出でよ我が軍勢!』


 さらに連中の前には雷が落ちて3メートルある武装した巨人のスケルトンが十二体現れた。


『ボルトスカルルーク、足止めしろ」

『ぬう!? 邪魔だ!』


 巨体とはいえ、たかだかスケルトンが我が道に立ち塞がるか。


「はっはー、アンタは言ったよな。数は力だって。まったくその通りだと思うぜ。賢いなアンタ」

『貴様ぁあああ!』


 コケにしおって…しかし、これは不味い。ここで足止めをされては高機動型ゴーレム以外は追いつけん。


「いやー、トネリの泉はこういう使い方もできんだな。こっちの意思で扉を消さずにいられるし、持ち運べるってことは、あれ? もしかして転移門と併用すれば軍隊をサクッと送り込めたりするわけ? 勇者軍団デリバリー的な?」

「うん、タカシ。確かにそれは有用な使い道だけど今は口にしないでもらえるかな。ほら、パラオの視線が険しくなったよ」


 なんだと? 不味い。不味いぞ、此奴。我らが真に警戒すべきは千兵ではなく一騎当千の勇者たちだが、彼奴はそれを転移門を使い、いくらでも輸送が可能とすることができるのか。危険だ。あの女はあまりにも危険だぞ。


「大丈夫だって。さっきの岩石弾を撃ってきたゴーレムは壊した。あとは逃げるだけだ」

『逃がすと思うか。ええい、巨人の髑髏如きが余の邪魔をするなぁああ!』

「クッソ。ルークをポンポン壊しやがって。リリム、さっさとやってくれ!」

「はい。マキシム、行きますよ」

「ああ、頼んだよリリム!」


 うぬ? 天使族の娘も扉から出てきたか。一体何をしようと……これはあの娘から強力な魔力が発せられている?


「降り注げ、極限の神罰!」


 何? あんな小娘が神聖魔術の最上位を扱うだと!?

 そして光の柱が洞窟内に降りてくる。だが対象は余たちではないな。その下にいるのは勇者……の剣か!?


『まさか水晶剣に極限の神罰をすべて吸収させるつもりか?』

「そうさ。けど、それだけじゃあない。さあ僕に宿る神の薬草の神気よ。そのすべてを我が剣へと注ぎたまえ。刃に宿る神の罰をその名の示す通りに極限まで高めてみせよ!」


 とてつもない力があの巨大な水晶剣に流れ込んでいくのが分かる。勇者から剣の内へと恐るべき力が注がれていく。剣の形状が変わり、水晶か剣か、棍棒かすらも分からなかった無骨なソレが名匠に鍛えられたが如き造りに変わっていく。いかん。あんなものを喰らえば余でもただではすまん。しかしまだヤツと余との距離はそれなりにある。であれば、避け切ることは不可能では……


「アーツ・チャージパニッシュメント・バスタード!」


 チィ、投げてきおったか。しかしその方角は余ではなく、余の頭上を飛び越えて……しまった。そういうことか。狙いはそちらか。


『貴様らの狙いは我が王塔かぁぁああ!?』


 凄まじい轟音と共に水晶剣が王塔に突き刺さり、すべてを貫き砕いていく。そして、この黄金都市ドルチェはあの王塔によって支えられている。あれが折れればここも崩れるしかなく、つまりはこれこそがヤツらの狙いだったということか!?


どうしたって『何かを犠牲にしないといけない』時もある。


何か=地下都市

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ本来の封印って意味では都市の価値は無くなったし ゴーレム狩り場としてももう無理だから、ぶっ壊しちまっても被害は大きくないな!
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