148 裏切りの神
あらすじ:
マキシムが封印を解いたことで世界がピンチになった。
「うわぁ、アレ不味いよなぁ……けど、俺らでどうにかできるもんじゃないぞ」
王塔の前に並ぶゴーレムの群れは塔内どころか街の中からも集まってきていて、さらに鈍い金色をした大型ゴーレムも中心にいるときたもんだ。この地下都市にどんだけのゴーレムを用意してたんだよって感じだが、さすがにこの数は勇者がいようと勝算がある相手じゃないよな。
「タカシ様、マキシム。どうします?」
「できれば倒したいところだけどね。アレは残しておくのは危険だ」
「危険なのは分かるし、倒したいとも思うがよ。あれ全部回収できればガチャし放題だし? けど、倒す手段がねえぞ」
「マキシム、こういうときこそ軍勢の名の見せ所では?」
軍勢はマキシムの二つ名だ。
神巨人の石剣を振り回して魔物の軍勢を相手に無双して、その力は一軍に匹敵すると讃えられたことからついた二つ名だったな。
「情けない話だけど、神巨人の水晶剣と神剛力の腕輪を以てしても、あの数のゴーレム相手をまとめて叩っ斬るというのはちょっと無理だよ。いや……本当に軍勢の二つ名持ちとしては情けない限りだけどね」
マキシムが少しだけ落ち込んだ。まあ、あいつら硬いから仕方ないけどさ。ただマキシムが軍勢の異名を示したところとか一緒に旅してきてここまで見たことないしなぁ。ちょっとマキシムのいいとこ、見てみたい……と言っても無理なものは無理。あ、待てよ。神の薬草に頼ればその硬さもクリアか? いや、可能だとしてもあの数を倒しきる前に時間切れで終わりそうだな。
『お前ら。とりあえず、ここからどうするよ? このままあいつらが動くと不味いぞ』
「いやアルゴ、あんなのが地上に出てきたら不味いのはそりゃ分かるがさ。けど、俺らじゃあ」
『戦うか、戦わないか……って話をしてんじゃねえよ。分かってるのか? 地上に出る途中で連中は転移門のある道を通るし、あの数のゴーレムが踏み潰さないとも限らねえんだぞ?』
「ああ、確かに」
この地下都市の転移門はこの黄金都市から別のエリアに通じてる道の途中にあったからな。あの数で進軍すれば破壊されかねないし、俺らがあそこから来たってバレたら多分壊される。アルゴの言う通り、このままここに留まってるのは不味いか。
「そうだな……マキシム、確かに連中は危険かもしれねえが今は情報を持ち帰る方が先決だと思うぞ」
「うん、そうだねタカシ。口惜しいけど教皇様の判断を仰ぐなりして……」
『ほぉ、教皇だと? ただの盗掘者かと思えば聖王国の手のものだったとはな』
なんだ? いきなり声が? あれ、玉座のあった場所に誰かいるぞ。
『姿を見せぬから死んだと思ったが入れ違いであっただけか。確かに予定よりも合流するゴーレムの数が足りていないとは思っていたが、お前たちの仕業であったようだな』
「ミイラ男!? こいつは外にいた……マキシム!?」
「分かってる。斬る!」
マキシムが即座に駆けた。一瞬で重神剣グランを顕現させてミイラ男の首を刎ねたがわずかに空間が揺らいだだけで手応えはなかった。となればアレは……
「幻術ってことか?」
『くくく、聖王国の者は礼儀を知らぬと見える。顔を出しただけで首を落としに来るとは、そこいらの蛮族と変わらんな』
ミイラ男が愉快そうに笑いながら両手を広げて、例の寿司で三昧のポーズをとった。
『我こそはエギンスト王国国王パラオ。跪け下郎ども!』
「何が国王だ。その見た目で分かるぞ。自らの国を闇の神クライマーミリアムに売り飛ばした人類の裏切り者め」
『余は誰もが目を背けている真実に向かい合うことを知っただけのこと。それを裏切りとは言わぬ。そもそも裏切りとは白の神たちの方であろうに』
「世界を滅ぼそうとするお前たちが正しいと言うつもりか?」
『そうだとも。裏切りの神の僕よ。我は闇の神の僕にして、大神の子たるイシュタリアの意志を引き継ぐ者たちなり。義は我らにある!』
「訳わかんねえこと言いやがって」
『貴様ら愚者にはこの世の真実が見えておらぬだけよ。哀れな話だ』
笑いやがった。馬鹿にしやがって。けどマキシムの言う通り、あれが幻術だとすれば本体はやはり王塔の下にいるのか。
『しかし教皇に転移門か。アレが稼働して、しかも扱える者がいるとはな。そして扱えるのは……』
あ、ヤバい。俺はとっさにミイラ男と目をそらした。ふぅ、危ねえ。
『そこの女か』
「バレた!?」
『やはりそうか』
なんだと? 俺は高度な誘導尋問に引っかかってしまったのか!?
「タカシ様、顔に出過ぎです」
「畜生」
こっちの反応で察するとは頭の良い奴め。なるほど、一国の王だっただけはあるな。
「マキシム、こいつは頭が切れるぞ。気を付けろ」
「え、う……うん。そうだね」
俺を哀れんだ目で見るんじゃない。
『ふむ。そこの女は後で確保するとして、逃さぬためにもまずは転移門の方は破壊させてもらうとするか』
「おい待て。転移門がなければ俺がいても意味ねえぞ?」
『転移門があるのはここだけではないだろう?』
「チッ」
ほれ見ろ、あいつ頭いいぞ。分かってやがる。俺をとっ捕まえて他の転移門を使わせるつもりか。
『だからすぐに死んでくれるなよ。まあここまで生き残ったお前たちなら問題ないと信じているがな』
「は?」
大型ゴーレムから発射した岩石弾が俺とリリムをブッ飛ばす姿が視えた。
「チィ。リリム、天翼結界だ」
「は、はい? え、はい!」
直後、王の間へと無数の岩石弾が放たれた。