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147 ただの愚者、自覚なき賢者か

あらすじ:

 ボーナスタイムだった。

『馬鹿な。我が精鋭たちが……まさか全滅だと!?』


 俺の手のひらに乗っている物体からそんな声が聞こえてきた。

 永き時を生き、人生の酸いも甘いも嚼み分けてきたかのような渋爺の声……をしたソレの正体は俺の手に握られている四角いレンガだ。さっきまで壁の一部にはめ込まれていたこいつこそが水責めの罠本人だった。まあ本人といっても人じゃないし、インテリジェンストラップとかいうシロモノらしいけど。


「なあアルゴ。我が精鋭たちって、ゴーレムってこれの配下なのか?」

『いやちげえだろ。どのゴーレムともパスで繋がってる様子はないし、あくまでそいつは罠の一種だ。ただのハッタリだ、ハッタリ。真に受けてんじゃねえ』


 そりゃそうか。アルゴの言う通り、こいつを探した時に使った見通しの水晶でも通路の前後の隔壁部分以外との魔力的な繋がりは確認できなかったからな。


「気付かれずに侵入者を罠へはめるためのインテリジェンストラップは基本自己判断で動くようにできているんだよタカシ。だから他と紐付いているわけはないはず。せいぜいミスリルドールの起動くらいじゃないかな」

「なるほど。こいつがアレを操ってたなら魔力的な繋がりに気づけただろうしな」

『ククク……よもや貴様ら程度が真理に辿りついてしまうとはな。確かに我は孤高に生きし者。縛るべき者がおらぬということは何者をも我を縛ることはできぬということ。努努忘れぬことだな』

「あーはいはい。一々言うことが大げさだなお前。それで、これどうするんだ。壊しゃいいのか?」


 このまま竜腕で砕くか? うるさいという以外は害はなさそうだけど。


「いや、もう壁と切り離した時点でそれは無害になったはずだよタカシ。それに稀少性を考えれば、結構な価値があると思う」

「つまりは高く売れると?」


 俺の問いにマキシムが頷く。おお、マジか。ただの薄汚いレンガが金色の輝きを帯びてきた気がするぜ。


「長期間放置されている間に突然変異したんだろうけど、ここまで喋れるのも珍しい。好事家に高く売れるかもしれないし、人工精霊の研究家も興味を惹かれるんじゃないかな」

『ククク……その娘、矮小な身でありながら我が有り様に気づいたか。確かに我は幾千年に渡る月日を経て我が前に立つ者に言葉を届けるため、弛まぬ努力を積んできた。この身の価値は金剛石よりも価値あるものであろうよ』


 ええと、それはつまり前口上の練習をずっとしていた過程でこうなったということか?

 あとこいつ、今マキシムの性別を当てたな。何気に鋭いのかも。リリムは……うん、今の台詞に気づいてないな。鈍いな。


「そんなに言うなら、とりあえず回収しておくか」

『フッ、我を解き放つというのか。ただの愚者、自覚なき賢者か。いずれその選択が汝に新たなる兆しを与えよう。心せよ我が主人あるじよ』

「うっせえ、あんまり騒がしいと砕くぞ。というか主人あるじ?」


 いつの間にか俺が主人あるじになってた。

 これで売る時の査定額にマイナス入らないといいんだけどな。

 それから俺はこのインテリジェンストラップのレンガをトネリの泉にぶん投げて、続けて熔かしたゴーレムたちも切り分けて回収していった。プレシャスメタル系はいなかったが、ゴーレム素材はどの系統でもそこそこの価格で売れるそうだからな。

 それと作業中も相変わらずゴーレムたちが移動しているであろう振動が続いていたが、この場に追加のゴーレムは訪れることはなかった。

 そしてすべての素材の回収を終えた俺たちが先に進むと、王の間らしき部屋に辿り着き……




*********



  

「もぬけの殻。ハズレだった……て、わけじゃあないよな、これは?」

「だろうね。見てよタカシ、床に足跡がたくさん。それもみんな新しい」


 王の間に入った俺たちを待ち受けていたのは何もない空間だった。

 床は踏み荒らされ、本来置かれているであろう場所には玉座も残っていない。もっともそれは永き時の中で誰かに盗掘された結果じゃない。つい先ほどまでここにいた誰かがやったんだろうな。玉座のあった場所だってぽっかりと四角い跡が残っているが埃も積もっちゃいないし。


「タカシ様、これはどういうことでしょうか? 闇の神の手の者もいなさそうですし……もしかして勇者の気配を察して逃げたのでしょうか?」

「いいや、僕を察したわけじゃあないだろうね。あの手の連中が今の僕に気づいたなら真っ先に殺しにくるはずだ。勇者というのは白神の加護を受けし者。闇の神の加護を受けし者にとっては退くことのできない相手だし今の僕は少人数で探索をしているところだ。戦力差を考えればここで仕留めにこない理由がない。それに見てよ、これを」


 そう言ってマキシムがかかとで床をトントンと叩く。部屋の中は踏み荒らされていて足跡が無数にあるが、その大きさが普通じゃない。


「さっきぶつかったゴーレムたちもここにいたんだろうね」


 ゴーレムは自重を支えるために足が基本デカい。だから足跡ですぐに見分けが付くわけだけど……うーん。普通の人間サイズの足跡もあるがミスリルドールでもいたのか? これだけの数となれば相当厄介だし、倒せればいい金額になると思うけど。


『となると闇の神の手の者はゴーレムと共に移動したっつーことか? けどさっき倒した連中の中にはゴーレムしかいなかったよな』

「そうですねアルゴ様。けど、今も振動は続いているようですし」


 そうだ。結局ここに来る途中も今も振動が止まない。それは今もゴーレムたちが動き続けてるってことだ。


『数が多かったから群れを分けたか? で、その一部と俺様たちはかち合ったと』

「はい、それなら辻褄が合います。問題は彼らがどこに向かったかですが……」


 マキシムが王の間の窓の外へと視線を向ける。今現在、振動音は外から聞こえてきている。そして俺たちはゆっくりと窓へと近づいていき……


「なんだ、ありゃ!?」


 窓の外、眼下にある破壊された正門前の広場にゴーレムたちが並んでいるのが見えた。すでに百を超えているゴーレムたちがいて、街中からもやってきていて、王塔内や外からも集まってきているようでその数はさらに増えている。これはボーナスステージ……とか言ってる場合じゃないな。軍隊が必要だ。それも一国分ってレベルの。


「これは地下都市中のゴーレムを呼び寄せているのかな。こんなのが地上に出てきたらあまりにも危険だ」

『そうだな。チッ、想像以上にヤベエ。それに見てみろよ。あの先頭にいるのが多分親玉だぜ?』


 アルゴの言葉を聞いて俺らの視線が最前列の御輿らしきもんに乗っているヤツに向けられる。見通しの水晶を通せばドス黒いオーラが立ち昇ってるのが見える。


「アルゴ様、あれはまさか……」

『ああ、間違いねえな。魔人か上級魔族クラスの圧を感じる。となりゃアレが闇の神の手先だろうよ』

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