146 激突する巨人たち
あらすじ:
4日目の成果
・ミスリルドール2メートル級5体
・ブロンズゴーレム2メートル級3体
・王塔内の財宝(骨董品、調度品など)
ズドドドド……という振動が足元から響き渡ってくる。建物全体が揺れている。となるとこの中にいて果たして大丈夫なものなのかとも思うが、特に建物が崩れる様子はないな。まあ、この王塔は地下洞窟を支えているみたいだし、かなり頑丈なんだろう。それにしても……
「なあ、この振動音ってもしかして足音じゃないのか?」
「は、え? 足音ですか!?」
リリムが驚いた顔をするが、未だに止まず、変わらぬテンポで振動が続いているし地震というには不自然だ。そして、その俺の予想をマキシムが頷いて肯定する。
「うん、そうだろうね。原因は多分ゴーレムの集団……まるでこの王塔内のゴーレムが一斉に動き出したかのような振動だ。どうも僕たちの知らないところで何かが起きていると考えたほうがよさそうだよ」
マキシムが正面の通路の先を見ながらそう口にした。徐々に振動音が近づいて来ている気がする。こりゃあ、ここまで来るだろうな。いや、もう来たか。
『おいタカシ。前見ろ。通路の角からいっぱい姿を見せてきたぞ』
おお、マジか。3メートルぐらいのゴーレムが次々と姿を現してきてやがる。
「どうするタカシ? あの数は流石に厳しい。撤退するかい?」
「逃げる……か」
そうだな。どうするか。見た感じミスリルドールこそいないけど、メタル系のゴーレムも結構いるな。アレを全部確保できれば結構な金額で売れるはずだ。まさかこいつはボーナスステージか?
「タカシ様、何を考えているかなんとなく分かりますが、アレとぶつかっても普通に死にますよ?」
「分かってるよ。ちょっと思っただけだ。幸い、連中の速度はそれほど速くない。とりあえずは一旦下がって、広いところで削れるかを……ん?」
そう俺が口にしている途中で背後からドゴーンという音が響き渡った。
「なんだ!?」
「罠の隔壁が落ちたんだ。これは閉じ込められたね」
『おいおい。なんで逃げる方向の隔壁だけ落ちやがったんだ』
タイミングが良すぎるぜ。まさか誰かこっちの様子を見てやがんのか?
『クククク』
「誰だ!?」
いきなり笑い声が通路に響いてきた。すぐさまマキシムがグランを抜いて周囲を警戒するが、声の主らしき相手はいない。どちらかというと通路全体から響いてきているような……
『愚かなる人間たちよ。知るが良い。後方は我が鉄壁の石壁。前方からはゴーレムの軍団。もはや退路なく、活路もない。貴様らはここで己の無力を嘆きながら全身を潰され、骨砕かれ、臓腑を撒き散らしながら死ね』
なんと邪悪な台詞。こいつはアレか? 例の封印されてた王様(仮)なのか?
「どこにいる? 姿を見せろ!」
『どこにいると? 我が分からんのか、愚か者め。我はこの場にいる。貴様らも知っているはずだ。我のことを!』
俺たちが知っているだと。どういうことだ?
「まさか……」
「知っているのかマキシム?」
「ああ、そういうことか。盲点だったよ」
『理解したようだな。そう我こそは水責めの罠なり!』
「水責め!? 罠!?」
何言ってんだこいつは!?
「そういうことですか」
『チッ、盲点だったぜ』
リリムもアルゴも納得しているだと!?
『昨日は仕留め損ない、魔力の水生成もさすがにまだできぬが……しかし私は私の役割を果たそう! 侵入者に死を! 人間に死を! 我のすべての力を、利用できるすべてを使って貴様らを滅ぼそう!』
「言ってることがいちいち大袈裟なんだよ。なんなんだ、こいつは?」
「インテリジェンストラップだよタカシ。知性を与えられた罠そのものだ。だから昨日もミスリルドールに近づいたところで道が塞がれて、倒したあのタイミングで水責めにあったんだよ」
いんてりじぇんすとらっぷ? ああ、ファンタジーってインテリジェンスって付けときゃ何が喋っても問題ない感あるよな。
『最高のタイミングで最高の罠を仕掛ける。それこそが我が能力。己の無力を嘆きながら後悔のうちに果てるが良い!』
「なんでお前、さっきからラスボスみたいな喋り方なんだよ」
しかし、どうする? またトネリの泉に戻りゃ回避はできるけど、今回の件をこの罠が学習したら次は待ち構えているかもしれないよな。それに……多分だけど昨日の要領でやりゃあ、なんとかなるか。
「タカシ、どうするんだい?」
「ちょっと試してみたいことがある。駄目だったら一旦退くさ」
『お前たちに退路などないわ!』
うるさいな、あいつ。まあいい。俺はすぐさま神樹の腕にはめたサモンジェムを発動させてボルトスカルポーンを召喚すると、そのまま流れるようにクィーンへと昇格させた。まったく最近はこいつに頼りっぱなしだ。
『参上いたしました。我が王よ』
「頼りにしてんぜクィーン。さっそくだがルークを一列目5、二列目4で並べてくれ」
「まさか押さえつけるんですか? さすがに数が違いますよ」
「スクラムを組ませる。そんでマキシム、その後ろをお前が支えてくれ」
「了解。神剛力の腕輪の力を見せてあげるよ」
そして俺の指示通りに大盾を構えて二列に並んだボルトスカルルークたちが迫るゴーレムと激突した。
「わずかに押されてるか」
「大丈夫!」
そう声をあげたマキシムが武器をグランから神巨人の水晶剣に代えて床に刺して支えにしながらルークたちが下がるのを食い止める。さすがにゴッドレアの神剛力の腕輪持ちだな。普段は力よりも技量を頼りにしているからそうは思えないが、あいつは本来パワーファイターだ。
「さすがマキシムですね。アレを止めますか」
『しっかし、あのままじゃあいずれは突破されちまうぞ。人間は疲れるし召喚体も魔力切れになりゃ消えちまう』
『問題はありませんわ。神竜様』
『どういうこった雷の姉ちゃん?』
アルゴが訝しげな顔をするが、当然止めるだけじゃねえよ。ちゃんとその後も考えてはある。
「アルゴ、昨日と同じってことだよ」
『同じ? ああ、なるほどな。そういうことか』
ゴーレムとぶつかる前に前衛のルークの一体には神竜の盾をあらかじめ渡している。そして俺がカードから出した鎖と繋いだ神竜鋏で神竜の盾持ちのルークを挟めば、ここから俺の竜気を流し込めるってわけだ。
「というわけでジ・エンドだ」
「うわぁ、セイクリッドブレスでゴーレムが熔けてく。しかもそれがくっついて後ろのゴーレムも動けなくなってますよ」
「発想の勝利だな」
ははははは、ゴーレムどもが溶けて金属の塊になっていってるぜ。
しかもこいつら、全く回避も後退もしないし、完全にカモじゃねえか。おし、このまま焼き続けてやるぜ!
なんとか7月中に二話入れられた……