144 火と水の乱舞
あらすじ:
神の気まぐれにより聖王国が滅亡の道を歩み始めた。
「あの……タカシ様、結局もらっちゃわないんですか?」
「うん、止めとこう。宗教上の理由? ってヤツで?」
俺は牢屋の中の亡骸に手を合わせながらリリムの問いにそう返した。結局俺は死体剥ぎは行わないことに決めたのだった。
「タカシ様って変なところで律儀ですね。もしかして頭でも打ちました?」
「失礼だなお前は。育ちがいいんだよ俺は」
マキシムは特に気にしたそぶりはないがリリムは牢屋の中を名残惜しそうな顔をして見ている。こいつの実家とか借金まみれらしいし、そっち方面の執着は俺以上なんだよな。とはいえ俺もさっきまではもらっちゃってもいいんじゃないかな……なんて思ってたんだけどな。
ただ、俺が金を集めているのはガチャをするためだ。あくまで俺は俺の欲のためにガチャを引く。必要に駆られているわけじゃない。誰のためでもない。戦力を増やしたいから? 魔族に勝つため? いいや、違う。全く違う。全然違う。俺はただ引きたいから引く。これは挑戦なんだ。俺自身の、俺とガチャ神の戦いなんだ。絶対がない、忖度のない運だけで俺は高レアを引く。その喜びを享受するために引く。だけど、そのなかに変に重い、不純物が混じるってーのがなんとなく嫌だった。
仮に、仮にだ。お墓にお供え物として1万円が置かれていたとして、そいつをネコババしてガチャをして心が痛まないのか? いや、痛まないヤツもいるだろう。けど使った金の出自を答えることはないんじゃないかね。心にしこりを残すってのはそういうことだ。
俺はストレスレスなオープンな俺でいたい。だから多少なりにでもひっかる要素があるなら触らないのが正しいと考えているだけだ。
借金? 本人との合意の上での貸し借りはオーケーだ。な?
ま、こっちの世界にいりゃそのうち慣れるかもしれないけどな。
『テメェが育ちが良い糞坊ちゃんなのは理解したがよ。これを回収しないってんなら、もうここに用はねえだろ。さっさと出ようぜ。この場所、辛気臭えし』
『らーい。たかし、いこう』
「分かったよ。つってもどこにいけばいいのやら。総当たりで期間中に全部回れるか?」
「タカシ、まずは王の間を目指そうよ」
悩む俺にマキシムがそう提案してきた。
「王の間か。お前の予想通りに敵がエギンストのお偉いさんだった場合、やっぱりそこにいるってことになるのかね?」
「かもしれない。そうじゃなくても封印されたのだとすれば、魔力が集中している場になるだろうから、ある程度は絞られる。候補としては王の間が一番分かりやすい」
「そうですね。気配を隠蔽されているようですし、可能性があるところを順に潰していくしかないと思います」
よく分からんが……リリムもアルゴも頷いてるし、そういうもんなのかね。そういう知識が俺にはない。今後の事も考えればどこかで勉強しておいた方がいいのかもしれないな。
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そして牢屋を出た俺たちは通路に戻って、ここまで通っていない方へと進んでいく。王の間を目指すと言っても案内の看板もないし、メインの通路は崩れて通れないから結局は総当たりで調べていくしかないわけだ。ともあれ、いく先々で見つけた良さげな調度品、骨董品らしいのをとりあえず転移門に放り込む。
「そういうのは気にならないんですね」
「死体剥ぎじゃなきゃオーケーだろ?」
ただ魔術が付与されたアイテムではない美術的価値があるだけのシロモノは換金に時間がかかる。ギリギリまでここで回収してガチャ前にまとめて換金するつもりだから、今回のガチャ資金にはならない可能性が高いんだよな。一度聖王国に戻って調べてもらうのも手だけど、移動にも時間は取られる。それよりはプレシャスメタル系のゴーレム狙いで粘った方が良い。マキシム曰く入り口で倒したミスリルドールもかなりの額になりそうだという話だし、教皇様がここを融通してくれたのも頷ける。
「タカシ、ミスリルドールだ」
「そうそう、あいつがまた来てくれればいいんだけど」
「来てますよ」
『ボーッとしてるんじゃねえぞモドキ!』
「は?」
え? ミスリルドール?
「おい、ちょっと待て。なんでミスリルドールのミニチュアみたいのが五体もいるんだよ!?」
「ミニチュアって……確かに入口のより随分と小さいけど、普通に人ひとり分の大きさはあるよ」
あ、本当だ。比較対象がでかいだけでアレ普通の一分の一サイズだったわ。で……アレが五体か。
「マキシム、アレ押さえられるか?」
「外のと同じ機動力なら厳しいね。できて二体……残りは抜けられてしまうと思う」
マキシムが厳しそうな顔でそう口にした。それはつまり、残りは俺とリリムで相手をしろってことだ。けど、強くなったとはいえリリムがあいつらを相手にするのは厳しいし、俺の未来視とカウンターのコンボは勇者にだって勝てるとマキシムのお墨付きではあるが複数からの同時攻撃を喰らう場合にはカウンターが成立しない。俺の腕は二本しかないからな。うん。これはまともにやったら死ぬかもしれねえ。
「となれば一旦、ここは退いて……って、おい。後ろの通路が石壁で塞がれたぞ!?」
「タカシ様、前もです。閉じ込められましたよ」
前後の通路の先が塞がれた。絶対逃がさないという強い意志を感じる。どうする? このままだと最悪全滅するぞ。
「タカシ様、来ます!?」
「ひとまずは僕が押さえるよタカシ」
「いや、待てマキシム。リリム、まずは正面に天翼結界だ!」
「保ちませんよ」
んなこたぁ、分かってるさ。天翼結界は天使族の固有スキルだが、持続時間は短い。すぐに突破されちまう。だが今は少しだけ保てばいい。
「時間を稼いでくれるだけでいい。やれリリム」
「は、はいっ。承知しました!」
正面で構えていたマキシムが下がったのと同時にリリムが翼を広げて天翼結界を発動させる。
「通しませんよ!」
飛びかかったミスリルドールたちが見えない壁にぶつかるのを見ながら俺はすぐさまボルトスカルポーンを召喚し、それをクィーンへと昇格させていく。
『我が王よ。馳せ参じました』
「来てくれてありがとよクィーン。さっそくだが正面にルークを五体、並べて展開してくれ」
『なるほど。良い手です我が王よ。それでは出でよ我が軍勢!』
クィーンが剣を床に突き刺すと、その場で雷が放たれ3メートルの骸骨巨人のボルトスカルルークが五体が正面に召喚された。
さらに出現したルークは大盾持ち。横一列に並んだルークたちは大盾を並べて通路を完全に塞ぎ、ミスリルドールと俺たちを遮断する。
「よし来た。リリム、結界を解け。クィーンは一気に押し込んでいけ!」
「はい、タカシ様」
『ははっ。我が軍勢、突貫せよ』
リリムが天翼結界を解いたのと同時にルークが一斉に突撃し、ミスリルドールたちを押し込んでいく。どうやらパワーはルークがミスリルドールを上回っているな。力負けするようならさらにルークを喚んで押し込む予定だったが、十分だったようだ。
そして塞がった通路の石壁までミスリルドールを押さえ込んだところで、俺は神竜の盾を出して大盾の間にわずかな隙間を開けてセイクリッドブレスを注ぎ込んだ。
『プレスして身動き封じて火炙りか。えげつねえことしやがる』
「はっはっは、勝てば良かろうなのだ!」
押さえつけられたミスリルドールがまるで虫みたいに暴れているがもうどうにもできないだろうよ。それに大盾を乗り越えようとしても勇者であるマキシムも、未来視で事前に予測できる俺も見逃さない。万が一も起きない。
そうしてしばらく燃やし続けるとルークの先でガチャガチャと動く音が消えていった。それから慎重にルークを退がらせると、五体のミスリルドールは熔けて不気味なオブジェと化していた。
「これ死んでるのか?」
「大丈夫だよ。ミスリルドールとか、こういう甲冑系は隙間があるからね。恐らくボディよりも先に内部の核石が熱で破壊されたようだね」
「なるほど、それにしても結構熔けてんな。もしかしてミスリルって熱に弱いのか?」
ファンタジー的にはかなりレアな金属のはずなんだけど、原型こそ留めてるけどチーズみたいになってる。
「魔力伝導がなくなった直後のミスリルは一時的に硬度が落ちるんだよ。核石が機能しなくなったことで一気に熔けたんじゃないかな? まあ炙ってたのがセイクリッドブレスだからってこともあるだろうけど」
「そうなのか?」
けどルークも大盾も問題ないよな?
『我が王よ。ルークは妾を経由してはいますが王の力を具現化したもの。それ故に王の炎が傷つけることはございませぬ』
「へぇ。じゃあ今回みたいにルークで取り囲んで炙る戦法、結構イケそうじゃないか」
ルーク十二体で包囲してキャンプファイアーも問題ないってこった。
「ボルトスカルクィーンを得たことで君はもう一介の討伐者の戦力を超えているねタカシ」
マキシムの言葉にクィーンがしゃなりと頭を下げた。魔力を馬鹿喰いするから常時使えるものではないにせよ、確かにクィーンの軍勢は強力だ。今後も重宝するだろうな。
「まあ、とりあえずはミスリルドールの残骸を回収して、後はふさがった壁を……をを?」
「タカシ様、天井の穴から水が!?」
マジかよ。ダバダバと水が通路に流れてやがる。地上は砂漠だってのにどうやって水を? 地下水でもあるのか? いや、それよりもまずはここから逃げないと……溺死する!?
タカシ……お前、死ぬのか?