143 増殖する者
あらすじ:
なんかいるらしい。
「魔人か上級魔族? は? ここに? なんで?」
なんなのあいつら? なんで俺の向かう先にいつもあいつらがいるの? ストーカーなの? あ、でも近づいてるのは俺の方か? つまり俺がストーカー?
『知るかよ。けど、ちょいと無理をしてな。この体になっても感覚だけは前と変わらないままにしてある。むしろチッこくなったことでそういうものに対する鋭さは増したつもりだぜ』
なるほど。それはナウラさんを乗っ取っていたデミディーヴァにむざむざ自宅へ踏込まれたことへの反省によるものかな。
「けど、急な話だな。そいつって元からここに巣食ってたのか?」
『さあな。俺様だってこの国については闇の神の勢力に滅ぼされたってことぐらいしか知らねえし、昔からいたのか最近来たのかなんて分かんねえよ』
「けれどもアルゴ様。こんな地下にある都市ですし、ここまで踏み入れた者も多くはないはずです。この王塔を拠点にしていたのでしたらもう少し派手に改築するなり……その、何かしら痕跡があると思うのですが」
確かにな。転移門で来た俺たちはともかく、通常ここまで降りて来るのにはひどく時間がかかる。それにゴーレムだっている。隠れてるというなら既にこの黄金都市に入った時点で達成してるよな。この中でならもっと大っぴらにしていてもいいはずだ。
「あ、もしかして……」
「マキシム、何か思い当たることがあるのか?」
ちょっと顔が青いぞ。
「今までずっと封印されていた……とかさ」
「都合良く目覚めたときに俺らがきたと?」
『あー。というよりも、もしかすると昨日の……アレじゃねえか?』
アルゴの言葉に俺たちの視線が一斉にマキシムに向けられる。そういや、ここに門をブッ壊したやつがいますね。
「かも?」
「い、いや。そうと決まったわけじゃないぞ。なあリリム?」
「そ、そうですよ。知らないで復活されるよりはマシと言いますか」
おい、リリム。それはマキシムのやらかしを肯定してる。肯定してるぞリリム。そのフォローはもう一段階後のフォローだ。
「グッ、こうなれば僕の命を賭してそいつを倒すよ。勇者としてやり遂げてみせる!」
「お、おう」
悲壮な決意だな、おい。けど、まあ……
「マキシム、無理はしなくていいぞ。それに報酬上乗せが来たと思えば悪くはないんじゃないか。切り札だってあるしな。なあリリム?」
「え、ええ。そうですね……ですねぇ」
俺の問いにリリムが遠い目をした。多分、自分の未来を察したな。
そうだ。俺は終わった後ガチャに挑まなければならないし、この場で一番強いマキシムはそう簡単に使い潰せない。そんでもってアルゴは幼竜だから無理はできない……となれば最後の切り札が必要な時に神の薬草を食べるのは……な?
**********
「ここの通路は地下につながってるのか」
「地下と言っても都市全体が地下だけどね」
そりゃあそうだ。階にしたら地下何階だろうな? 何百か、もしかすると千越えしてるかも? そんで回り道をした先の通路は徐々に下に向かっている。上が正解か下が正解かも分からんし、とりあえずは進んでみようってことになったわけだが。
「この先はただの牢屋だな。ここまでの見た目からしてそうだとは思ってたけどさ」
『ああ、そうだな。特に気配も感じねえしハズレっぽいぞ』
『らーい』
風化して崩れてはいたが頑丈そうな木の扉に、見張り用のテーブルに、妙な器具も散乱してたからおかしいなとは思ってたんだけどさ。そこにあったのは牢屋でした。見張りのゴーレムもいたが、ブロンズゴーレムの小型版。マキシムの一撃でぶっ壊れたよ。うん。
「こりゃあ、金目のものはないか」
「タカシ様。牢屋の中を見てください。結構な財産があるっぽいですよ」
リリムの言う通りに牢屋の中には宝石や金や銀でできてるらしい装飾品がゴロゴロ転がっている。それを身に付けた無数のミイラと一緒にだけどな。
「んー、なあリリム。こういうのってもらっちゃっていいものなのか?」
「身元が確かなら身内の方にお売りすることもありますけど、基本的には所有権は発見者にありますよ。非業の死を遂げた方の身につけたものだと呪われていることも多いですけど」
なるほど、自己責任か。神に仕える神官さんの反応がコレで、マキシムも特に気にした風でもないんだからこれが普通なんだろう。さすが異世界。サバサバしてるっちゃーしてんだな。しかし、このミイラだけど妙だな?
「リリム。なんでこの牢屋の中にいるミイラはこんなジャラジャラ高そうなもんを身に付けてここに閉じ込められてたんだ?」
「む、確かにそうですね。普通に考えれば彼らは罪人ということになるのでしょうけど、こんな装飾品を持ったまま入ってるというのはおかしいです」
「急ぎまとめて捕らえて、そのまま放置されたってことだろうね」
なるほど。分かんねえな。
「それって一体どういう状況だ?」
「そうだね。知恵のない魔獣が命令されてやったというのならあり得るかもしれないけど……いや、それにしては亡骸の状態は悪くないから、多分彼らはゴーレムに捕らえられたんだと思う」
マキシムが眉をひそめながらそう言った。
「さっきの兵士の亡骸の側にもゴーレムの破片らしきものが落ちていただろ?」
「ああ、そうだな」
「もしかするとこの国は王族か上級貴族が闇の神に洗脳されたから滅んだのかもしれない」
「つまり、あの兵士たちが戦っていたのって……まさか?」
「うん。多分、ゴーレムだ。内部にゴーレムを乗っ取った敵がいたんだ。歴史自体が知られていないのは身内に中から滅ぼされたからかな? まあ、ただの推測だけど、そうなるとある程度の辻褄は合うと思う」
となるとここにいる上級魔族か魔人は元この国の偉い人ってことになんのかね。下手するとエギンスト王国最後の王様とかかも?
「それに討伐されずに封印だけされていたのだとすればかなり厄介な相手かもしれないし」
「厄介って……相当強いのか?」
「そりゃあ単純に強力な相手ではあるだろうけど、封印されているタイプは不死の可能性があるんだよ」
不死……死なないってことだよな。となるとスケルトンとかゴーストとか、あとはゾンビとか?
「君が戦ったネクロドラゴンゾンビもそうだったけど、内なる魔力だけでなく外からも魔力を吸収して命を繋ぎ止め続ける怪物が時々いるんだ。強力な上に倒しきるのが難しいし、倒した後も呪詛を撒き散らし、場合によっては復活もする」
「倒せないわけじゃないんだよな?」
倒して核石を手に入れて換金ができなきゃ戦う意味はない。骨折り損のくたびれ儲けはゴメンだ。あ、でも報償金はもらえるのか?
「そうだね。やれないわけじゃないよ。完全に浄化するか上回る力で押し潰すか……どちらかというと力押しのやり方の方が多いけど、そうじゃなきゃ再封印するしかない」
『ちなみに姉御がやったアヴァドンをアヴァロンにしたやり方も手段のひとつだが人間にゃあ不可能な奇跡だからな?』
「言われなくても、分かってるよ」
悪母竜アヴァドンはネクロドラゴンとなった後、俺に降臨したガチャの神様の手によって神竜アヴァロンに造り替えられた。ありゃ、ホンマもんの神の所業。俺が神の薬草を使っても無理な手だ。
「アヴァロン様と言えば……マキシム」
「なんだいリリム?」
「アヴァロン様……なんだかタカシ様に似てませんでしたか?」
あ? こいつは何を言ってるんです?
アルゴの代わりに霊峰サンティアの番人になったアヴァロンとはサンティアの転移門を使う際に顔を合わせているが、ヤツはドラゴンだぞ。俺、爬虫類顔なんてしてねえし。
「確かに『マジかよ』とか『ガチャしてえ』とかおおよそ竜族らしからぬことを言ってたし、やる気もなさそうだったし、似てなくも……ないかな?」
『そもそもドラゴンって普通ガチャしねえからな。黄金符とかないと回せないし、あれはそうそう手に入るもんじゃねえんだよ』
そういやそうだっけか。ガチャ文化のないドラゴン。可哀想だよな?
『こっちを哀れんだ目で見んじゃねえ。気分悪いわ。大体、あいつがお前に似てんのは当然だろうが』
「何でだよ?」
『あのアヴァロンって新参竜な。半分以上お前が元だぞ?』
「は?」
何を言ってるんだ。このエセショタ竜は?
『ネクロドラゴン化したアヴァドンは肉も腐り落ちて魂と骨だっただろ。姉御がそいつを浄化して、それ以外の皮とか肉とか脳とか内臓器官とかはテメェの腕から造り出した……ってのは知ってるよな?』
「そうらしいな。着ぐるみみたいな感じに骨に被さったなんて話は聞いてるけど」
俺は乗っ取られてたから見ちゃいないが、こう右腕がドラゴンの頭になってグワーンって広がってアヴァドンを飲み込んだらしい。
『そうだよ。で、だ。つまりタカシ、アレはテメェの肉を培養して足りない部分を補って生まれたわけだ。テメェらの世界で言えばクローンに近い』
「クローンだぁ? マジかよ、それ」
『マジだマジ。魂こそ違うが、魂ってのは肉体に依存するもんだから、ありゃあ半分以上はテメェそのものってことになる。だからお前とアヴァロンは似ていて当然なんだよ』
マジかよ。クローンと来たか。そして俺の分身が聖王国の守護竜か。俺の分身が……ねぇ。あー、長くはないかも知れないな。聖王国も。
アヴァロン『ガチャしてぇ』
教皇「…………」
※聖王国に神意の黄金符と神意の白銀符の探索クエストが追加されました。