142 闇の気配
あらすじ:
ファラオのパチモンが現れた。
暗がりの中でポウッとボルトスカルビショップのメイスが光り輝いている。
王塔内は外と同様に地上の光が入ってくる仕掛けになってはいたけど、崩れている場所は光が届かないところもあるから光源はあった方が安全に探索できる。他の駒と違ってビショップはこういう補助的な魔術も使えるのが利点なんだよな。
「しかし、中が色々とボロボロだぞ。お前たちの攻撃、ずいぶんとヤバいんだな」
建物の内部は結構崩れているところも多いようだった。
マキシムとリリムの合体技、恐るべしだな。
「いやいや、さすがにここまで影響は無いはずだよ」
「じゃあ、風化して脆くなってるのか?」
「それもあるだろうけど、大体は戦いによって破壊された……みたいだね。かなり激しい戦闘があったようだよ」
マキシムが周囲を見渡しながらそう答える。
なるほど。ところどころに兵士っぽい白骨死体があるのはそういうことか。死体剥ぎは……罰当たりかどうかはともかく大体は風化して高く売れそうなものはなさそうだな。業物の武器でもあったら拾っておこうか。
あ、けどこっちの世界だと幽霊とか普通に出そうだし、そういうのって呪われてるかもしれないな。
「状況を考えればこの骸骨になってる人らは闇の軍勢と戦っていたのですよね?」
「だろうね。それ以前にここまで攻め込まれたことがあったとしても亡骸が放置されてるわけはないから、ここは陥落したときのままで残っているはずだ」
「だとすると少々、妙じゃないですか?」
「妙?」
何が妙って……
「もしかして敵の死骸がないってことか?」
「それもありますが、ここで死んだ兵士たちの立ち位置からして彼らが奥の方に向かっているように見えません?」
「ああ、確かにそうだね」
なるほど。攻められているのであれば向かう方向は外になるはずだな。
「この兵士たちが実は闇の軍勢だったとか……だけど、着てる装備からしてエギンスト王国のものだよな」
「そうだと思う。それにタカシが指摘した通りに戦った相手の亡骸がないのも気になるね。あと、そこらに落ちている破片がね……どうもゴーレムのもののようなんだ」
「ゴーレムの?」
ああ、確かに横の崩れた壁の破片とは違う色の石が転がってるな。
「ゴーレム本体が残っていないということはスティールゴーレムみたいに回収されただけなんじゃないですか?」
「うん、恐らくはそうだね。けれどこの兵士たちがゴーレムと戦っていたのだとすれば、もしかして……と、あれ?」
話しながら歩いていると正面の通路が瓦礫で埋まってやがった。こりゃあ駄目だな。迂回するしかねえ。
「クソッ、まだなんも収穫がねえのに時間だけ消費してるな」
「だったら僕が破壊して……いや、そんな顔で見ないでくれよタカシ。うん、別のルートで進もう」
マキシム。こいつ、考えなしにスッと剣を抜こうとしやがったぞ。前回やりすぎて建物が崩壊したのを反省してねえのか、この勇者様は?
しかし、地下都市ってだけでこっちの技術力って一部は俺の元いた世界を超えてるよな。入口のミスリルドールなんかもそうだけどさ。
「けど……闇の神ってのはこんな栄えた都市も滅ぼせちまうんだな」
「そうだね。それにエギンスト王国に関してはどうして滅びたのか、分からないことも多いんだよ。記録もほとんど残ってないしね」
「へぇ……え?」
一瞬未来が視えて、次の瞬間に視えた未来のままに壁が横倒しに落ちてきてビショップが潰れた。
「なっ」「ヒィ!?」
カラカラと石の破片が転がる前でマキシムとリリムが驚いた顔をしている。
未来視で事前に察知できた俺もびっくりだ。変わった未来は俺たちが止まって破片が当たらなかったことくらいだな。ビショップのバッドエンドはどうしたって回避できなかったんだ。仕方ないね。
「壁が……いきなり倒れた?」
「これはゴーレムトラップだね。魔力感知できないくらいに最小化されたゴーレムを可動部分に仕込んである。この状態なら君の見通しの水晶でも分かるんじゃないかな?」
「ああ、全く気付かなかった……けど、今は見える」
極小の魔力反応を倒れた壁の付け根から感じる。多分感知と罠発動だけを行う命令をしていて、罠自体は普通の仕掛けなんだ。こりゃあ気付くのは無理だわ。
「こんな罠もあるのかよ」
「ゴーレムトラップは高度なものになるとある程度の知恵も回る。しかし自分の根城のメインの通りにこんなものを仕掛けるのか」
「罠を考慮してなかった俺がいうのもなんだけどさ。ここに住んでたのは王様なんだろ。これっておかしいもんなのか?」
「まあね。こんな即死トラップだと誤作動が起きたら王族か貴族が死ぬかもしれない。裏手や重要区画ならともかくこういうところは普通罠ではなく警備兵を配置しておくものなんだよ」
「エギンストはよほど用心深い国だったのですね。これは気を引き締めた方が良さそうですよタカシ様」
「そうだな。だったらこっちも防御を固めるか。守護天使出ろ」
俺は神樹の腕のスロットに入っているスペルジェムに魔力を送り込んで守護天使を召喚した。未来視があったとしても回避不能な攻撃は避けようがないからな。こいつを常時展開しておいたほうが安全だろう。
「タカシ様、その子をずっと出してるんですか?」
「そうするわ。今の俺の魔力量なら問題ないだろうし」
守護天使は防御力が高い分高コストだし本来であれば戦闘時に展開するもんなんだが、若干魔力チートな俺のスペックならこのまま維持し続けることはできる。それほど魔力を消費しない戦闘スタイルだからフル充電である必要もないしな。
「それよりも……マキシムはなんだかんだでどうにかなるだろうけど、リリムは大丈夫か?」
「はい、私の場合は命の危険があれば天翼結界が発動しますので」
「リリム、ソレをあまり過信しないようにね。天翼結界は今みたいな罠なら対処できるだろうけど、閉じ込められてガスでも送り込まれたらどうしようもないから」
「う、はい」
それはリリムに限らず誰にでも厳しいような。
まあ最悪、死んでいなければ神の薬草を使って命だけは繋ぎとめられるけどな。
それから俺はビショップを再度召喚して先に進むことにした。ちょいと心は痛むが囮作戦は有効だし、こいつなら倒されてもまた再召喚できる。便利なヤツだよ。
「ところでアルゴ、お前……さっきから黙ってるけどどうかしたか?」
『いや、ちょっとな』
「そうか。けど、我慢はするなよ。ちゃんと待っていてやるから落ち着いて離れたところで済ませろよ。あと、ちゃんと拭けよ。これは絶対だからな」
『そういうちょっととは違うわっ』
違うのかよ。
『だいたい俺様がこの場で出したところで何の問題があるってんだ。あれって結構人間の中じゃ高額で取引されてるもんなんだぞ』
「どんなマニアだよ!?」
「タカシ様、神竜のものは加工して顔に塗るクリームになるらしいですよ」
「ああ、高級品だったね。入手が難しいからほとんど出回らないけど」
「なるほど。リリム、そのクリームを使ったら教えてくれ。距離をとるから」
「使う機会すらないですよ!?」
女性の美に賭ける執念は怖いな。元の世界でもウグイスのが化粧品として使われてるんだったっけか。ジャコウネコは……あっちはコーヒーか。
「ともかく出すならちゃんと拭けよ。腕についたらマジでオムツ穿かせるからな」
『オムツドラゴンにするのだけは勘弁しろや。というか話戻ってるぞ。そっちじゃねえ』
「じゃあなんなんだよ? さっさと言えよ」
『闇の気配を感じるんだよ。隠してはいるがちょっと普通じゃねえ。多分、いるぜ。上級魔族か魔人クラスがな』
マジかよ。