141 欲望の末路
あらすじ:
3日目の成果
・ミスリルドール1体
・スティールゴーレム7体
「ゴッドヒール!」
神樹の腕からゴッドヒールを放って腰に当てると痛みがスーッと引いていく。このゴッドヒールは神属性のヒールでスペルジェム4枚重ねなので、それなりに強力だがまあ効力は普通のヒールだ。ゴッドとか付いてるがヒアルロン酸配合とかインドメタシン配合とかまあそんな感じの成分みたいなもんで、他の属性に比べると効くもんが多いらしいが腰痛にも結構効くらしい。
「ハァア……効くぅ」
いい感じだ。鎮痛作用がある。湿布の代わりとしてはなかなかのものだ。これだけでもガチャで引けて良かったと思うよ。
「タカシ様、おっさん臭いですね」
「うっせえ。見ての通り今の俺様は美女様だぞ」
俺はキメ顔でそう言った。何しろ外見は絶世の美女らしいからな。けどおっぱい揉んでもなんとも思えないんだよな。勿体ない。勃つもんもないし精神は肉体に引っ張られるってのは本当なんだろう。まあだからって男が好きになったりするわけでもないが。
で、マイラバーマキシムはと言えば、ションボリしていた。
「ごめんねタカシ。僕の見込みが甘かった。まさかあそこまでの威力になるだなんて」
「いや、もういいって。仕留めたミスリルドールは回収できたしな。まあ、実戦で使う前に試しておくべきだったなとは思うけどさ」
今はミスリルドール戦の翌日だが、王塔内の探索はまだ行えていない。昨日の戦闘終了後に問題が発生したからだ。
実はマキシムとリリムの合体技の威力が凄まじくて門ごと周囲の建物が崩壊して門前の広場に雪崩のように瓦礫が崩れてきたんだよ。それで俺たちは命からがら逃げ出して……昨日の残りの時間は埋まったミスリルドールやスティールゴーレムの回収するための瓦礫の撤去に費やしたってわけだ。俺の腰痛はその際の名誉の負傷だな。まあ、大体は神剛力の腕輪を持つマキシムがやったんだけどさ。
そんなわけで4日目の今日が王塔内部の探索初日となる。
今回の俺の装備は十字神弓と神罰の牙と片眼鏡に装着させた見通しの水晶。それに加えて固定装備の神樹の左腕があるのはいいよな。
それと今日はボルトスカルビジョップを追加戦力として召喚している。今までは直接的な戦力が欲しかったから喚んだことはなかったんだけど、前衛としてリリムがそれなりに使えるようになったからな。
このビショップはメイスと盾持ちで補助と治癒魔術を使う召喚体なんで、今のウチのパーティとしてはちょうどバランスが取れてるんじゃないかと思う。骸骨なんで見た目はモンスターそのものだけど。
「う……ん?」
「どうしたマキシム?」
そして崩れた門を抜けて王塔の中に入るとマキシムが顔をしかめて周りを見渡してきた。何かあるのか?
「なんだか……妙な気配を感じるような。闇の属性に近い」
「このエギンスト王国が滅びたのは闇の軍勢によるものと聞きますし、その名残ではないのですか?」
「かもしれない。そうなるとゴーレム以外も気をつけたほうがいいかもね」
マキシムとリリムが周囲を警戒しながらそんなことを言い合っている。闇の軍勢に滅ぼされた国だけに、また悪竜的なのとかがいるのかね。できれば大きなトラブルなく、良い額で売れるお宝が手に入れば良いんだけど。
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『ふむ……封印が解かれたようだな』
タカシたちが王塔に入ったのと同じ頃、王塔内部のとある部屋の中で何者かの呟きが響いていた。そこは破壊された王の間であり、声を発した何者かは玉座に座っている老人……否、干からびたミイラであった。
『ミスリルドールが破壊された……と。どうやら腕の立つ盗掘者どもが来たようだ』
ボウッと壁に添えつけられたランタンのひとつに光が灯った。
『であれば封印門を崩してくれた礼はせねばな』
次々と周囲のランタンに光が灯り、広間に明かりが満ちていき、周囲に並ぶ宝石を額に埋め込まれた『巨像』たちも動き出す。
この玉座に座る黄金の装飾を身に纏うミイラの名はエギンスト王国最後の王パラオという。このパラオこそがかつて栄華を誇ったエギンスト王国を滅亡に追いやった張本人だ。
すでに伝承はたち消え、エギンスト王国がどのように栄え、どのように滅びたのかは知る者は砂漠を生きる部族の口伝の中にかすかに残るのみである。けれどもパラオの名はその口伝にも残されてはいない。
この王こそがエギンスト王国の汚点。ヤワトがそうなったように、聖王国がそうなろうとしたように、国を深淵に落とそうとして封印された邪悪なる王。
今なおゴーレムたちがこの黄金都市ドルチェを護っているのは、パラオの封印を護るためであった。外よりの侵入者を撃退するためではなく、内の邪悪を封じるためであったのだ。
しかし邪悪なる力では決して破壊できぬ聖なる封印門は今ここに破壊された。欲に駆られた者たちの手によってここに邪悪は再び蘇ったのである。