140 裁きの一撃
あらすじ:
ミスリルドール、あいつ泣かしちゃる。
「おお、あいも変わらずすげえなマキシムは」
俺の視線の先にいるマキシムが5メートルある神巨人の水晶剣を振るってミスリルドールと交戦している。周囲に何者をも寄せ付けぬほどの破壊を生み続けるソレはまるで巨大な掘削機のようだ。
俺がボルトスカルクィーンに召喚させたボルトスカルルークを放ってスティールゴーレムと戦わせ、ミスリルドールがそのどれかに参戦しようとしたところを建物の上からリリムの翼で降下して強襲する……という計画はおおよそ予定通りに進んでいる。唯一予定と違うのはルークが想定よりも多いことで、当然それは良い方の誤算だ。
戦うマキシムにはボルトスカルルークが補助に一体ついていて、リリムも後ろで隙を窺っている。そして他のボルトスカルルークの方は……
『我が軍勢は実力では劣りますが、抑えるだけならば問題はありませんね』
「そうだな」
クィーンの冷静な言葉に俺は頷く。
ルークのパワーと攻撃力ではスティールゴーレムに劣るもののタワーシールドを構えて守りに徹してしまえば、早々やられることはない。これなら十分に保つだろう。いや、もう少し色気を出しても問題はないはずだよな。
「クィーン、今のうちに一体一体を倒していってくれるか?」
軍勢召喚がメインではあるがクィーン自身の実力もナイト以上はある。スティールゴーレムは10体。ボルトスカルルークは12体。一体がミスリルドールについているから二体でスティールゴーレムと戦っているところはわずかに押している状態だ。そこにクィーンと俺の射撃が加われば撃破は可能。戦力を集中し各個撃破を繰り返していけばスティールゴーレムを全滅させるのは難しくはないだろう。
マキシムとリリムに関しても危険を感知すればすぐさま援護に回れる。未来視があれば、その危険を先回りしてフォローに回れるんだ。ああ、そうだ。今なら分かる。十字神弓に未来視という能力が付いていたのはこういうシチュエーションでも広範囲にカバーができるためなんだってな。これこそが後衛の真髄。さすがウルトラレア中のウルトラレアと言われるだけはあるぜ。
「やっぱり十字神弓は凄えな。ライテー!」
『らーい!』
ふ、喜んでやがる。ライテーは可愛いなぁ。
『王よ。妾の戦闘参加は問題ありませんが、護衛はいかがいたします?』
「必要ない。俺にはこいつもあるしな。出ろ守護天使」
俺は神樹の腕のスロットにはめているサモンジェムに魔力を送り、その場で翼の生えた赤さんを召喚する。
『バァブゥウ』
守護天使。サンティア奪還前に神器限定ガチャで手に入れたこのサモンジェムは見た目はどこぞのお菓子のロゴのような赤さんの天使を喚んでシールド代わりにするという鬼畜仕様の召喚体だ。
これがゲームとかなら多分熊とか兎のぬいぐるみとかに差し代わるんじゃないかな。
「加えて、俺には未来視に一応こいつもいる」
腕にくっついてるアルゴも一応神竜だ。危険感知ぐらいはできるだろ。
『一応って言うな。ま、クィーン。お前は召喚主の指示に従ってろ。それにこいつは接近戦のほうがつぇえしな』
『承知いたしました神竜様。では!』
そう言ってクィーンが骨馬を召喚するとそれに乗って戦場に駆けていった。さてと、それじゃあ俺もちゃっちゃとフォローに回ろうかね。
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「はは、さすがタカシだ」
僕の口から乾いた笑いが漏れる。
1日ぶりの再戦だけどミスリルドールは相変わらず強力だった。けれども殺気の篭っていない一撃では勇者には届かない。来ることが読めている攻撃など僕には当たらない。絶え間なく放たれる斬撃は恐るべき速度だけど、それをいなすことは難しくはない。
とはいえ、僕の攻撃も相手に大きなダメージは与えられていないし、掠った程度では修復されてしまう。実際、一対一だと昨日のように決着がつかず、最終的には僕の体力が尽きて負けるだろう。
ただ昨日と違って今はボルトスカルルークが一体協力してくれている。ミスリルドールの攻撃には全く追いつけていないから防御一辺倒だけど、それだけでも十分に牽制にはなっている。
それに他のボルトスカルルークもスティールゴーレムを完全に押さえていて、さらにタカシとクィーンが連携して一体ずつ確実に処理を進めているようだった。
こうなるとこのまま牽制し続けて、スティールゴーレムを全部倒してからミスリルドールを一気に……でもいいかもしれないけどね。ただそれじゃあせっかく立てた作戦が台無しだし、こっちも活躍できない。そうだろリリム?
「ん? マキシム、大丈夫です。私はいつでもいけますよ!」
「了解だ。それじゃああいつを引きつけるよ。ルークも下がってくれるかい?」
そう指示を飛ばした僕とボルトスカルルークが同時にリリムの方へと跳び下がるとミスリルドールも合わせて突貫してきた。単細胞め。戦闘能力は高いが、相手の動きを読むことがほとんどできないから攻撃に回ることしかできないのがこの手の敵の欠点だ。
「護りの翼よ!」
直後にリリムの天翼結界が張られた。それは天使族の固有スキルだ。リリムの話では一日数度、戦闘時には一度しか使えない奥の手。固有であるだけにその防御力は強力で僕の本気の一撃でも弾くほどで、そして当然それはミスリルドールの攻撃も同様だ。
「弾きました!」
「よし、よくやった。それじゃあ、続けて頼むよリリム」
「はい、落ちて極限の神罰。その聖なる一撃を勇者の刃に!」
「来い! アーツ・チャージパニッシュメント!」
僕が水晶剣を振り上げると、天より凄まじい力を帯びた光の柱が掲げた刃へと降りてくる。リリムの魔力によって生み出された神聖魔術の極致が僕の神巨人の水晶剣の中へと吸い込まれていく。
「マキシム!」
「大丈夫だよ。下がってて」
まるで暴れ馬のようになった水晶剣を握り締めながら僕は前に出る。
この神巨人の水晶剣のアーツ・チャージパニッシュメントは神聖魔術を斬撃一点に収束させる攻撃だ。元々これはお父さんとの連携技だったけど、石剣の頃は神聖魔術の中位級までしかチャージできなかった。けれども水晶剣にランクアップした今のこの武器なら最上位の魔術まで吸収できる。恐ろしく制御が難しいけど、僕なら御せる。そして、この攻撃なら……
「こいつはお前にも届くぞミスリルドール!」
そう叫んだ僕は聖なる力を帯びて文字通りの聖剣と化した神巨人の水晶剣を一気に振り下ろした。
極限の神罰は直撃すればそれ単体でもミスリルドールに大ダメージを与えることができるほどの威力を持っている。それほどの魔術を刃の一点に集中しているのだからその破壊力は絶大。
そして、僕の一撃がミスリルドールの腕の刃もろとも本体をも真っ二つに斬り裂き、その先にある門をも砕いた。