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014 墜ちた天使の肢体は濡れて

 やっべぇ。調子に乗りすぎたわ。昔からちょっとそんなところがあったよね、俺。参ったね。うふふ。

 リリムはガタガタ震えてるし、ザキルは泣きながら鎧馬を操作している。俺に何か言いたいことがあるだろうが、俺が喉袋射ってないとブレスを吐かれて焼け死ぬのは分かってるから何も言わないんだろうなぁ。

 けど、これはどうしたものか。町からも遠ざかってるし。ていうか、どんどんデコボコしてきたんだが……


「なあなあ。ちょっとこの道、ヤバくないかザキル?」

「分かってる。話しかけんな」


 あ、こいつ。俺に話しかけないんじゃなくて悪路の移動に集中してて話しかけられないだけだったわ。こりゃあ、不味いな。と、おっと。


「ああ、クソッ。道が悪い!」

「キャアッ」


 え、今の声? おいおい嘘だろ。あの天使娘、落ちやがったのかよ。さすがに不味い!? ああ、クソ。仕方ねえ。


「ザキル、お前は逃げてろ!」

「おいタカシ!?」


 迷ってる暇はねえんだよ。離れ過ぎたらドラゴンにリリムが食われる。覚悟を決めろよ。行くぞ俺。


「俺は大丈夫だ。おらっ」


 おし、馬車から飛び降りたぞ。そんで着地は魔力強化した右腕を使えば……


「グッ、ぁああああ!?」


 お、おお。なんとかなった。コエエ。ガリガリと地面を削ったがしこたま魔力ぶち込んだこのドラゴンっぽい腕が見事に落下の衝撃を吸収してくれた。魔力を注げば力が増すとはいえ、ここまで耐えきれるのか。けど、それよりも今はリリムだ。


「ライテー、サンダーレインを使う。ドラゴンの後ろから攻撃をしたように見せたいができるか?」

『ん、頑張る』


 頑張ってくれよ。ドラゴンがリリムに向かって直進してるが、今ならまだ間に合うんだ。


「ライテー頼んだ!」

『ラーイ!』


 俺が神弓で雷の矢を射り、それがドラゴンの背後に到達したところで拡散して黒雲が生まれていく。用意は整った。あとはライテー!


『落ちろ!』


 良し。ライテーがジャストタイミングでドラゴンの背に雷の雨を降らせたぞ。狙い通り、あのトカゲ野郎も後ろを向いて警戒してやがる。

 だったらチャンスは今だ。加速のスキルジェムを使ってリリムの下までダッシュ!


「おい、リリム。大丈夫か!?」

「うぅ……タカシ様?」


 おーし、生きてはいるな。けど不味いな。近付いて分かったが頭や翼から血が流れてる。当たりどころが悪かった……わけじゃぁないか。

 むしろ、あの速度で落ちてこれだけで済んだのは普通じゃない。翼をクッション代わりに使ったってことだろう。その翼も折れてるし見てるだけで痛そうだ。で、意識はまだあるな。


「タカ……シ様、すみません。さ、最後まで……役に立てずに」

「おい、バッカ。最後とか死ぬ直前みたいなこと言うんじゃねえよ」


 ヤバいなこいつ。目が虚ろで、意識も朦朧としてる。おい止めろ。その空に向かって手をかざす仕草は、その、それはこのまま死ぬ人の動作だぞ? パタリって手が地面に落ちたらお前……満足そうな笑みを浮かべて半透明なお前が体から抜け出るぞ?


「私を置いて行ってくださいタカシ様。これでも私は神の……眷属の一族。ガチャ様より従者の役目を授かった以上、主人を危険な目に合わせるわけには」

「うっせ。えいっ」

「ムグッ」


 気分出してんじゃねえよ。

 いいからお前は草を食え、草を。ほら。お前も忘れてんじゃねえよ。

 俺には神の薬草っていう便利なもんがあるじゃん。変な副作用はあるけど、基本これ回復アイテムだしさ。別に俺専用じゃないじゃん? 多分。


「さっさと飲み込んじまえ! それで回復すんだろ。神様の力なんだしさ」


 咀嚼しろ。咀嚼。ほら顎をこうやって、わっさわっさと……


「ばっかやろうタカシ。炎が来るぞ」


 うん? 離れた場所からザキルの声が響いてきた。

 あいつ、まだ逃げ出してなかったのか。ていうかドラゴンがもうこっちに顔を向いてやがるじゃねえか。のんびりし過ぎたか。喉が膨らんで……ありゃブレスか。だったら神弓で当てれば……けど、もう間に合わない。これ、まずっ


「守……る、私はタカシサマを……」

「リリム?」


 って、何してんだよ。いきなり起き上がって俺の前に立って?

 そもそもその怪我で立つとか。それにどのみちブレス相手じゃお前が盾になったってなぁ。


「待てリリム、うわぁあ!?」


 赤い炎が迫ってくる。ああ、これ駄目だわ。死んだわ。

 いや、リリム?


「私が護る」


 あ、リリムの白い翼が広がって、舞った羽根がブレスの炎を吹き飛ばしていく?


「な、なんだ。これって天使の力なのか?」


 スゲえ。けど、なんだ? 俺の前でリリムの姿がブクブクと膨れ上がっていってるんだが。嘘だろ。ちょっと待て。本当になんなんだ? 何が起きてる? リリムの服がビリビリと破れて、中から肉が、雄々しい筋肉が盛り上がって膨らんでいってる。ヤバい。なんだか分からないけど、なんかヤバい!?


「タカシサマ……」


 うわぁ、うわぁ。誰だお前。このムキムキで、口から煙を吹いてる全裸筋肉ダルマの天使はなんだ? は? あれだろ。映画のVFX的な……というか、怖い怖い怖い。マジでバケモンだ。なんなの、その虚無感溢れる目は? 俺を見るなよ。ていうか、まさか薬草食った俺もこんなんだったのか!? 嘘だろ。


「な、なあ。お前、本当にリリムなのか?」

「ソウ……デスヨォ」


 こいつ、間違いない。お相撲さんの声をしている。マジか。性格は微妙だったけど見た目だけはいいと思ってたリリムが……全裸なのに全然エロくないことになってる。ヤバい。マジ怖い。


 グギャァアアオオオオオオオオオ!!

「ポッポォォオオオオウ!!」


 おかしいなあ。こいつ、ドラゴンと吠えあってるよ。けど、あの時の俺と同じようにパワーアップしてるんならイケるのか?


「り、リリム。俺の声が聞こえるか。あいつに攻撃を仕掛けられるか?」

「オ・マ・カ・セ!」


 そう答えたリリムの身体がさらに膨張した。もう女の子の原形をとどめていない。完全な筋肉の怪物じゃあねえか。そんで、肉化け天使が持っていた流水の槍を一気に振りかぶって投擲したぞ! うわぁあお。衝撃波が起きた! 地面が割れた!?


 クギャァアアアアアアア


 そして槍がドラゴンの右目に深く突き刺さった。けど……


「おい、リリム。どうした!?」

「ポォォオオオオオオオ」


 イカン。筋肉ダルマの天使が全身から煙を吹いて縮んでいってる。ヤバいな。これはヤバい。色んな意味で危険な状態だ。けど、驚く俺の前でエンジェルマッチョナーがドラゴンに向かって指を差しきた。何だ、何が言いたいんだ。このリリデブは?


「タカシ……サマ。タオ……シテ。アレ、今ナラ雷ノ雨ヲ」


 指先にあるのはドラゴンの目に突き刺さった流水の槍。

 あれがどうした? いや、雷……そうか。落雷、避雷針! そういうことだな肉ダルマさん!


「分かった肉天使。お前の意図は伝わったぞ。ライテー、サンダーレインを撃つ。あの槍に集中させられるか?」

『お? おー、イケる!』


 ライテーも理解したようだな。そんでイケるとのこと。だったらイケるわな!


「アーツ・サンダーレイン!!」


 俺がやることは決まっている。魔力を込めて雷の矢をドラゴンの頭上に放つ。そして上空へと舞い上がった矢はドラゴンの頭上で黒雲へと変わり、降り注ぐ雷の雨が瞳に刺さった流水の槍一点へと集中した。


 グギャァアアアアアアア


 ドラゴンが悲鳴をあげる。おお、効果はあるな!

 だが、ダメだ。あいつはまだ動いている。

 まあ一発で駄目なら二発だ。俺はさらにサンダーレインを放った。

 あっと、意識が薄れる。これって多分魔力不足の症状だろうけど、今意識が途切れたら絶対に死ぬな。

 それに二撃目を食らってもアイツはまだ死んでいない。よろけたが健在。いい加減死ねよ畜生。だから駄目押しの三撃目だ!


「ライテー、もう一丁だ。アーツ・サンダーレイン!」

『ラーーーイ!』


 ライテーが両手を広げて力を込める。おし、これまででもっとも大きな黒雲が生まれた。


「これで決まってくれ!」


 これで駄目ならさすがにもう手がねえんだよ。


「決まれよ畜生!」


 降り注いだ雷が三度あいつの目に集中する。瞳が蒸発したか。流水の槍が落ちて地面に突き刺さったが、どうだ? 駄目か? いや……

 よっしゃあ。今度こそドラゴンも一緒に崩れ落ちていったぞ。


「倒れた。これでさすがに勝ち確だろ。クソッ、やったぜ。え?」


 いや、嘘だろ。あいつ、まだ立ち上がろうとしてやがる。こっちを睨みながら両腕を地面に付けて上半身を起き上がらせようとしてる。なんで死なないんだコイツ?


「まだ動いてるのかよ。バケモノめ」


 もう流水の槍も刺さっていないから雷の雨を集中させられない。いや、そもそも魔力もほとんどないしサンダーレインは打ち止めだ。それに俺の意識だってもうギリギリなんだよ。

 けどなぁ。ここまで来て食われてたまるか!?


「おぉおおおおおお!」


 頑張れ俺。最後の魔力を右腕に集中しろ。


 グルルルゥゥ


 チッ、睨んできてやがる。怖ぇえ。けど目はそらすな。そらしたら一気に来るぞ。竜腕の力を込めても出てきた矢は三本。薬草食ったときみたいにはやっぱりいかないか。

 まあ、いい。ヤツが口を開けたら中にぶち込んでやる。もうそれぐらいしか手が思い浮かばねえ。


 ソノ顔、忘レヌゾ


「え?」


 なんか声が聞こえた?

 今のってドラゴンの……うわぁ!?

 あいつの翼が開いた。風が吹き荒れて土煙が舞い上がって……クソッ、風の圧力だけで身体がヤバい。けど、攻撃は……来ない?


「あれ?」

「おい、逃げていくぞ。やったなタカシ!」


 離れた場所からザキルの驚きの声が聞こえた。

 土煙で見えないが、どうやらあっちからは状況が見えているらしいな。お、土煙が消えて……見えたぞ。あのドラゴン、マジで背を向けてその場を去っていってるじゃん。Uターンする様子もないな。どうやら、予定通りに追っ払うことには成功したみたいだ。


「あーしんど」


 よっこいしょっと。戻ってくる気配もないしもう座ってもいいだろ。さすがに今回は疲れたよ。それにドラゴンも倒し切れなかったけど、当初の目的は果たせたし十分だろうよ。


「ハァ……今回ばかりは死ぬかと思った」


 今生きてるのが嘘みたいだ。それに最後に声が聞こえた気がしたけど……まあ今はそれはいいや。それよりもリリムだ。


 ビターン、ビターン、ビターン


「……うわぁ」


 一体どうなってんだろう。地面の上で全身から汁を出してる哀れな物体が痙攣ビターンビターンってしてる。なんかホラーゲームでこういうの見たわ。

 正直これはマズいだろう。あの天使娘が人の形をしたウミウシみたいな不可解な生き物になってる。見るだけで正気が削られそうだ。

 うーん。これ、ちゃんと元に戻るのかなぁ?

※次回で戻ります。

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