135 天使羽ばたくとき
あらすじ:
リリムテコ入れ回。
「見えた。あれはガーディアンゴーレム。色からしてブロンズ級だね」
マキシムがそう口にした通り、近づいてくるのは青みがかった二体の青銅の巨人だった。ちなみにゴーレムとは言っても以前に倒したことがある岩が集まって人の形になったようなタイプではなく、鋳型に流し込んで作られた金属の人形という感じだ。
「なあマキシム。ブロンズ級ってことは、あれはあまり金にはならないのかな
?」
「いや、核石はあるしゴーレム化したことで魔力が通しやすくなってるから通常の青銅よりも高く買ってくれるよ。内部には蓄積された魔力によって貴金属化している部分もあるはずだしね」
なるほどな。ともあれ、今はリリムに頑張ってもらう時だ。
「まずは一体を仕留めます。落ちろ、極限の神罰!」
そしてリリムの声とともにガーディアンゴーレムの頭上に魔法陣が生まれると、その場に光の柱が出現した。威力は以前にリリムが薬草を食って出したときとは比べるまでもなく低そうだが、曲がりなりにも最上位魔法だからこれはこれで当然強力だ。右側のガーディアンゴーレムが熔けて砕けただけではなく、左側にいたガーディアンゴーレムの片腕も巻き込まれて消し飛んでいった。
やるなリリム。以前のように泣き言しか言わなかった哀れな天使娘がついに自分の足で前に出るようになったか。さすがは自らを律して聖魔法戦士ガチャを回しただけはある。
うん、そうなんだ。今回リリムは持っている資金をすべて費やしてガチャったんだが、回したのは限定ガチャではなくて聖王都ならいつでも回せる恒常の聖魔法戦士ガチャをやったんだよ。
この聖魔法戦士ってのは聖属性寄りの魔法戦士って意味で、出てくるガチャも聖属性によっているらしい。
そもそも魔法戦士って部類はイメージからして物理も魔法も中途半端感があるけど、実際印象通りの職業なんだと。スキルジェムもスペルジェムもスロットにさせる数は有限。両方を……となるとどうしてもそれぞれに特化した編成に比べて劣ってしまう。その上に魔法戦士は魔術一辺倒で生きてきた者よりも魔力量が少ないことが多い。
なのでリリムがやった魔法戦士ガチャには魔力不足を解消するためのアイテムが多く出てくる。まあ、そうなるとそのアイテムにスロットが占有されるからパッシブバフ的なスキルの恩恵を受け辛くなるんだけど、リリムにはゴッドレアの神々の法衣があるからな。
聖王都で鑑定してもらった結果、アレには武神の法衣にもあった戦闘技量と技能習得率の向上効果が強化されている上に、攻撃に神属性付与が追加されるようになってた。ついでにGRだから重なっていなくともスロットは4つある。さすがはゴッドレアというところだろう。
そして聖魔法戦士ガチャのピックアップはURの聖魔杖の腕輪だった。聖なのか魔なのか。杖なのに腕輪なのか。よく分からん名前だが、聖魔杖の腕輪は聖属性と神属性のスペルの魔力消費を半分にしてくれる杖代わりの腕輪だ。
属性が限定されてることもあって通常のものよりも消費量軽減率が良いらしい。
ついでに竜水の槍もすり抜けで重なったんだから、あいつの運の良さは半端ない。おかしいよな。そういうのって俺の特権なんじゃねえの? リリム曰く「レートが違うんだからそりゃ回せる数も違いますし」とか言ってたが。
そんで、現在のリリムの構成はこうだ。
SR 竜水の槍2枚
◆剛力
◆加速
◆加速
GR 神々の法衣
◆魔力増量
◆魔力増量
◆魔力増量
◆魔力増量
UR 聖魔杖の腕輪
◆極限の神罰
◆魔力増量
◆集中
見ての通り、リリムは極限の神罰をひねり出すためにスロットのほとんどを魔力増量のスキルジェムで埋めている。これでようやく極限の神罰が一発とアーツを一度出せる程度の魔力を得たとのこと。
ちなみに俺は神桜の杖をガチャの神様に移植されたついでにまた魔力が上がってた。まあどっちつかずになりそうだから魔術メインの構成にするつもりは無いけどな。その事をリリムに言ったら「ぐぬぬ」って顔をされた。まあ人は平等ではないからね。仕方ないね。
「リリム、よくやれてるね」
「ん、まあな。極限の神罰が一回は使えるだけでも十分だと思ったが、ちゃんと戦えてるな」
残り一体のガーディアンゴーレムは片腕だけとはいえ、4メートルはある巨体だ。一対一の状況でもリリムは防戦一方になっているが、それでも以前とは比べ物にならないくらい動けている。何しろ振るった拳に当たれば、神々の法衣の防御力なら即死こそないだろうが、リリムなんて軽く吹っ飛ぶ。俺ならビビって退がっちまうだろうが、あいつも神様に説教食らったのが相当堪えたようだな。
「けど、やっぱり槍でゴーレムを相手にするのは難しいよなぁ」
見ている限り、どれだけリリムが突こうとほとんどノーダメだ。関節部を破壊して機動力を落とそうとしているのは見ていて分かるが、リリムの技量じゃまだ狙うのは厳しい。
「まあ今までの彼女ならそうだったけどね。ただ……見ていてよ、ほら」
「うん?」
おっと、リリムの動きが変わった。スキルジェムの効果か、一気に加速して振り下ろされた拳を避けて飛び乗ると、そのまま頭部まで駆けていき、
「アーツ・ドラゴニックスパイラル」
水に変わった竜水の槍が渦を描き、ドリルのようになってガーディアンゴーレムの胸部から上を粉砕した。
「おお、なんだよあれ?」
「竜水の槍の新しいアーツだよ。ドラゴニックスパイラル。見ての通り、流水のドリルで攻撃するアーツで、物理破壊に特化している。ゴーレム戦とは相性がいいアーツだね」
なるほど。リリムも新アーツを覚えていたのか。会った時にはアーツのひとつも使えなかったリリムが立派になったもんだ。
「あの……タカシ様?」
「よくやったなリリム。見違えたぞ」
「い、いえ。これもガチャ様の恩恵の賜物です。それにこれだけでもう魔力切れでして」
「なーに、それぐらいやれれば十分だろ。お前が俺を守ってくれればその分マキシムも動きやすくなるわけだしな」
俺は後衛職だからな。マキシムが前衛で、リリムが護衛として俺を守ってくれるなら十分に使えるさ。と、思ってた俺の横でマキシムが「ただね」と口にした。
「最初に極限の神罰を使ったのは失敗だったかな。ドラゴニックスパイラルがあれば二体をそれぞれ倒すのは難しくなかっただろうし、魔力の温存もできた。実戦に使いたかったのは分かるけどね」
「あ、ああう。すみません」
マキシムの指摘にリリムが萎縮する。
「うん、反省は次に生かそう。状況に応じて使わないと敵も結構引きつけてしまうからね」
「え?」
マキシムに言葉を聞いたリリムが後ろを見ると黄金都市の入り口の門の先で無数のゴーレムが近づいてくるのが見えた。
「通常の魔物なら、あの威力の魔術が放たれれば逃げるんだけど、ゴーレムに恐怖はないんだ。だから異常を察知すればどんな相手でも応戦してくるんだ」
「うう、やらかしました」
リリムが涙目だが、まあいいさ。パワーアップできたところは見せてもらったしな。
「大丈夫だリリム。こっから先は俺に交代だ」
「タカシ。数が多いけど僕も一緒にやろうか?」
「ひーふーみー……んん、問題ねえよ」
そう言って俺は雷霆の十字神弓と爆裂の神矢を取り出した。
ゴーレムの数は全部で十二体か。建物に隠れて姿がまだ見えないヤツもいるが、今の俺には上空から俯瞰して見れるスキルの神鷹の目があり、魔力で敵の大体の場所を把握できる見通しの水晶もある。組み合わせれば容易に捕捉できるし未来視で事前に着弾するか否かも確認ができるわけだ。そんじゃ順に潰していきますかね。
「え? タカシ様、どこに射って!? 無差別ですか?」
ふふふ、リリムにはそう見えるだろう。けれども俺の射った爆裂の神矢は隠れている敵に対して曲線を描いて建物を飛び越える形で正確に当てている。この場からでは絨毯爆撃でもしているようにしか見えないが実際にはすべて狙って射ってるんだよ。
「いや、矢の数と同じだけ敵の反応がある。近づいてくるゴーレム全てを正確に射抜いたのか。まったく恐ろしい技量になったものだよタカシは」
「それに気づけるお前もな」
恐ろしいとか言いながら、どうせこいつクラスだと直感で避けるんだろうなぁ。こっちの世界はガチャを使えば容易に強さを得られるけど、レア度が決まっている以上は単純な強さの上限も決まってる。そうなると結局はプレイヤースキル、本人の技量に依存してくるわけだ。金と力のどちらもが必要なのはどの世界でも同じってこったな。
ともあれ近づいたゴーレムはあらかた片付けたし、素材の回収に向かいますか。さーてゴーレムちゃん。ちゃんと俺の課金の足しになっておくれよ。
良い結果に見えてリリムのガチャはUR一枚と実際にはやや渋めといったところ。
槍が重なったこと自体は豪運。