132 正しき道
あらすじ:
150連目のRがゴッドヒール、170連目以降も引ききってRゴッドヒール、SR神鏡の円盾を入手。ついでに神銀のインゴットは最終的に計6枚となりました。
竜族専用ガチャはとある事情により保留。マキシムとリリムのガチャは次話以降に説明はいります。
あれから俺は残りの聖貨すべてを注ぎ込んで2枚目の神鏡の盾と4枚目のゴッドヒールと神銀のインゴットを計6枚手に入れることに成功した。まあ引いた数を考えれば渋い結果ではあるが、当初の目的であるトネリの泉は手に入れたので問題はない。自分がやったことが無駄ではなかった喜びと安堵。どれだけ注ぎ込んだとしても何かしらの結果さえ出れば頑張れる。この気持ちはガチャをやっている人間にしか分からないだろうなあ。
恐ろしいのは己の労苦が無に帰すことだ。何ひとつとして手に入らなかった時の虚脱感。アレだけはどれだけガチャろうとも慣れない。慣れちゃいけないものなんだ。
そして、今回のガチャの結果はこんな感じだ。
UR神域トネリの泉
SR神鷹の目
SR神巨人の石剣
SR神鏡の円盾2枚
Rゴッドヒール4枚
Rゴッドファイア2枚
Rゴッドアイス
R神火の短剣
HN神銀のインゴット6枚
まずハイノーマルの神銀のインゴット6枚は予定通りに俺の防具に回すつもりだ。
そんで最初に手に入れたSRの神鷹の目は頭上から俯瞰して状況を見渡せるスキルだな。十字神弓の未来視は俺の肉眼で見ているから視界に映ったものしか確認できなかったんだが、このスキルと合わせればずいぶんと利便性は高くなるはずだ。
神巨人の石剣に関してはこれで2枚目となる。マキシムみたいな怪力系のスキルがあれば使えるだろうが、残念ながら今の俺には使用できない。右腕の力を使えば持てるだろうが支える体は変わらないからな。ただ大型のボルトスカルルークに持たせることはできるはずだから機会があったら試してみようと思う。
それから神鏡の円盾だ。こいつには魔術反射の効果があるんだと。一枚で一回反射。重なったので二回反射できるらしい。回数制限はあるが、なかなかの当たりと言っていいだろう。
そしてRのゴッドヒールは最大枚数の4枚重なった。スペルは重ねの恩恵を受けやすい。魔力が必要な分、燃費は悪いけどな。
まあ元々ヒールのスキルジェムは持ってたが、俺は弓使いであまり怪我もしなかったから使ってなかったし、これからも使うかは分かんないけどさ。
そんでピックアップのUR神域トネリの泉だが……
「はははは、これは凄い」
俺は今トネリの泉の前にいて、俺の横で感動のあまり高笑いをしている教皇様を見ていた。俺が報告ついでに頼みごとをしようとしたら逆に連れていってくれと頼まれて来たわけだが、トネリの泉に着いた途端にやたらハイになったんだよ。
「まさか転移先が神域になっている転移門の魔導器が存在するとは。やはりガチャは奥深い」
教皇様の言う通り、この神域トネリの泉はカードを発動すると豪奢な扉風の転移門が現れて、その扉を開いて中に入ると神域のトネリの泉に転移できる……という魔導器だ。門は俺の意志で出し入れできるが、トネリの泉側の出れる場所は固定で、外には門を出現させた場所にしか戻れない。
そしてトネリの泉の効果だが、この泉の水を飲むと一回限りの不可視のシールドが発生すると自称神域博士のアルゴから聞いている。つまり回数1のオートガードだ。この場で飲まないと効果はないが非常に有用な能力だな。
そんでトネリってのは舎人、確か偉い人の護衛って意味だが、ガードの効果があるからそういう名前がついたのかね? まあ俺にかかってる異世界翻訳機能がちゃんと機能してくれてればの話ではあるけどさ。
そのトネリの泉だが、実は教皇様に会う前にすでに俺とマキシム、リリムにアルゴで探索をしている。
広さは大体全長1キロメートル程度。泉の周りは開けているけど、泉から離れると森が広がっていて奥に進むと途中で進めなくなる。不思議なことに木や水や鳥なんかはすり抜けるのに俺らは出れないんだよな。アルゴ曰く、神域ってのはそういうもんらしい。結界がどうとか、空間変異や因果同調がどうとか色々と言ってたが俺にはサッパリな話だったぜ。
で、俺らが今いるのは門を入ってすぐ目の前にある、泉の手前に建っているコテージの前だ。いつ建てられたものなのか分からないけど、掃除をするまでもなく普通に使える程度には綺麗だったし俺らが全員過不足なく住める程度には広かった。こうなると俺は一国一城の主になったようなもんだ。二十代半ばでな。ははは、これが勝ち組か。
「聖都もサンティアの力を得て清浄な空間を維持しているが、この場は比べ物にならないな。なるほど。かつてのガチャの結果が秘されていたわけだ」
「秘されていたわけ……ですか?」
んー、もしかしなくてもこれ表に出しちゃいけない系の魔導器か。いや、分かっちゃいたけどさ。
「ああ、規模こそサンティアほどではないにせよ、これはもう聖都を直接持ち運べるようなものだからね。かつて白神降臨ガチャを行った聖人たちはその後もいくつもの奇蹟を起こしたと聞く。ガチャ様を降ろす資質を持つ上に、こんなものを手に入れていたのであれば納得だ。神職にあるならば命を賭してもこれを手に入れたい……と考える者も少なくはないだろう」
「マジですか?」
『そりゃあそうだろうよ。何しろここの空気はサンティアよりも上等だからな。いや竜の牙なら負けちゃいねえが……いや、俺様にはもう関係ないけど』
アルゴがしがみついたままブツブツと何かを言ってる。こいつ、本当に俺の腕から離れねえな。
「アルゴさまの言う通りだ。我が国は大恩ある神託者殿に何かしらの制限をかけるつもりはないが……個人でこれを持つと言う意味はよくよく考えておいた方がいい」
『ハッ、どの国も囲い込んで手放さねえだろうなぁ。テメェの意思なんぞお構いなしだ。何、今のテメェはベッピンだ。場合によっちゃあこんだけの結納品がありゃあ一国の王妃にだってなれるかもしれねえぜ?』
「……冗談じゃねえ」
「まあ、その点はアルゴニアス様に関しても同様ではありますがな。我が国の守護竜が付いていて神域も有する。神託者殿はもはや移動するサンティアといっても過言ではない」
教皇様の言葉にアルゴがドヤ顔になった。調子に乗り易すぎるだろ、この守護竜。
「神託者殿はまるで施しの神の恩恵を一身に受けているようだ」
「そいつは違うぜ教皇様。こいつは全部自分で掴み取ったもんだ」
それだけは譲れない。伊達に全財産を投げてるわけじゃあねえんだ。神様の気まぐれでおこぼれ頂いたなんて思われるのはごめんだ。
「おっと、すまない。確かに失言だったな。運命は己で掴むもの。ガチャ様もそうお考えだからこそのガチャなのだ。確かに神託者殿の結果はすべて神託者殿が自ら掴み取ったものに違いない」
そうだ。運営からの忖度は駄目なんだ。特に運営に近い人間がそういうことを口にしちゃいけない。一番怖いのは疑心暗鬼になることだ。イベントにゲストで出たイケメン声優がSSRるみにゃん・フル・フロンタル(全年齢版)を引いただけで忖度を疑われてしまう世の中だ。俺も『んなことはないと思うけど、まるで忖度したみたいな引の良さだな』なんて冗談交じりにSNSに書き込んでプチ炎上したことだってある。人間は信じたいものしか信じない悲しい生き物だ。だから言動には注意しないといけない。俺はあちらの世界でそう学んだんだ。
「それで教皇様。お望みの通りにここに連れてきたわけですし、そろそろ話を聞いてもらってもいいっすかね?」
「ん? ああ、いいだろう。他ならぬ神託者殿の頼みだ。聞かぬわけにはいかないさ。それで何を私に望んでいるのかね?」
教皇様が少しだけ構えた感じでそう返してきた。
まあ、教皇様も理解はしているんだろう。白神降臨ガチャの報告はすでに終えている。であれば、俺が次に望むことを教皇様も理解しているはずだ。
そう、ピックアップの神域トネリの泉は手に入った。こいつはユニークと呼ばれる魔導器で2枚目は存在しない為に重ねることができない。つまり一枚手に入ったらもう出てこないんだ。
となれば現在の白神降臨ガチャは十字神弓単独ピックアップも同然ってわけだな。ただ問題なのは俺にはすでに資金がなく、限定ガチャは発動してから一週間で終了する。すでに一日過ぎているから残りは六日だ。
借金をすることも考えたがさすがに額がデカすぎて難し……いや、元から借金するつもりなんてないさ。
幸い戦力は充実しているし荒稼ぎでどうにかしたいところだが普通に稼いでたんじゃ絶対に間に合わない。だが、教皇様なら……そう思って俺は口を開いた。
「お金を稼ぎたいんですが、何かいい仕事ないですかね?」
黄金都市編に続く