131 渇望
あらすじ:
人は極限の状態にこそ、己の本性を見せるもの。
ガチャ残り192回、タカシの人間性が試される時が来た。
「ふぅぅううううううううう」
俺は大きく息を吐き出す。己の内に溜まった怒りを外に逃すように、クールになるために熱を外に吐き出していく。
最初の十連はNが9枚にHNが1枚と控えめに言ってもゴミだった。なるほどな。オーケー、オーケー。こいつは警告だ。異世界ガチャは遅れているなんて考えた俺に対してのこの世界のガチャからな。
まったく、忘れていたぜ。こいつらと来たら人間様の思うようには決して動いてくれない生き物だってのによ。分かってる。俺が悪かったよ。
『マジで薬草ばかり出るのな。神の薬草持ちなだけはある』
「うっせぇよアルゴ」
まあ薬草なんて所詮ノーマルで出るアイテムだろ。ノーマルに何が出ようが関係ねえのさ。俺に必要なのはウルトラレア、それと実用性の高いスーパーレアが出てくれればなお良しってところだな。
「じゃあ、今度は油断なんてしないぜ。さあ虹の輝きを俺に見せてみろ!」
俺は再び十連の壺に聖貨をダンクシュートする。そして……
HN白神の像
HN儀礼の神短剣
N神樹の薬草
N神凰の紐
HN神銀のインゴット
N神樹の薬草
SR神鷹の目
HN神銀のインゴット
N神樹の薬草
N神樹の薬草
「おお、SRのジェムが出たか。URほどじゃないにせよ、良い出だしだな」
神鷹の目? このガチャ、全部神が頭についてるからありがたみないんだよな。
「神鷹の目……鷹の目の神属性付きですか」
「知っているのかリリム?」
「ええ。鷹の目のスキルジェムについては。確か上空から敵を通せる斥候や弓使い向けのスキルです。神属性が付いているので恐らく邪悪な存在を察知するのに優れているのではないか……と思いますけど」
リリムが少し考えながらそう口にした。
「思うって……自信ないのか?」
「鷹の目は比較的、よく出るスキルジェムなんですけど。神が付いているのを見るのは、初めてです」
つまり神鷹の目は俺にとっても有用なスキルになりそうってことだな。
「それとタカシ、神銀のインゴットは良いかもしれない」
「んでも、ハイノーマルだよな?」
「だからといって馬鹿にしたものではないよ。魔導器であったり、ジェムであったりとそういう効果が付いていないだけで、神銀のインゴットは力ある金属だ。これで防具を作れる。君の魔導器は攻撃手段に偏っているから防具にまで回せないだろ?」
「ああ、なるほど。確かに」
神桜の杖が融合したらしい左腕の分、俺は他の人間よりも使える魔導器の数は多いにせよ、十字神弓と神罰の牙に神竜の盾を使ったらそれで終いだからな。弓使いといえど防御力が高いにこしたことはないか。
「もう少し数が出てくれれば、十分に君の装備を作れるだろう。この聖王国なら神銀の扱いにも慣れているしね」
「よし、じゃあインゴットを集めるためにも続けてやるか!」
調子出てきたな。そんじゃあ三十連目!
N神樹の薬草
N神酒(低級)
N神樹の薬草
N神域の水(低級)
N白神の御守り
N神樹の薬草
N神樹の薬草
N神樹の薬草
N神域の水(低級)
N白神の御守り
お、オールノーマルだと。あっちの世界での400万円が一瞬でゴミクズに……俺の年間の給料の二倍近い金額がかかってるんだぞ。
『ほぉ、エゲツネェ引きをしてやがる』
チッ、スーパーレアを引いたことで油断したか。だがこちらにはまだ手持ちの聖貨が十分にある。それじゃあ四十連目だ!
Rゴッドヒール
HN神チャリ
HN神樹の薬草酒
N神樹の薬草
N神樹の薬草
HN神銀のインゴット
N神樹の薬草
N神域の水(低級)
HN神銀のインゴット
N神の写し絵
「Rのスペルジェムが一枚か。リリム、ゴッドヒールって何だ?」
「神属性のあるヒールです。回復力は普通のヒールと変わりませんが、闇属性などを払う効果があるんです」
「そうなのか。回復手段があるのは悪くはないけどヒールのスペルジェムは元々持っているんだよな。ま、インゴットも手に入ったしいいか」
続けて俺は七十連目まで引いてはみたが……
「白銀のインゴットが四つ。まあタカシの防具を作る分には十分だと思うけど……」
『出たのはRゴッドファイアとゴッドアイスのスペルジェムにSRの神巨人の石剣がひとつか』
スペルは使う機会がなぁ。神巨人の石剣は2枚目だけど、そもそもマキシムみたいな神剛力の腕輪みたいな魔導器がない俺じゃ使えないし。
それから俺は100連目までを引いたんだが……
「クソッ、SRの神鏡の円盾は……まあ悪くはない。Rは神火の短剣にゴッドファイア、ゴッドヒールか」
「タカシ、SRがここまでに3枚。決して悪い引きじゃないよ」
「分かってる。だが……」
100連投資してこの様か。4000万円。家が建つ金額でこれなのか。ああ、いけない。考えるな。正気に戻ってはここから先引けなくなる。クレバーだタカシ。クレバーになれ。このまま何も残せないで終わるなんて考えるな。結果は後からついてくる。今はその過程なのだと己を信じ込ませるんだ。
俺はそう考えて……血を吐き出す思いでガチャを続けていく。けれどもさらに挑んだ俺に対して運命は残酷な結果を見せつけてくる。
「Rすら出ない……だと?」
そうだ。110から140連目まで引いた結果はノーマル、ハイノーマルのオンパレードだった。URどころかSRもRすらも出てこなかった。これはクソガチャだ。不味い。この流れは……明らかに不味い。
「タカシ様。まだ聖貨はあります。ここは一度退いて、仕切り直すのもアリなのではないですか?」
「タカシ、退くことも勇気だ。この場は良くない力が働いている」
クッ、ふたりとも分かっているんだな。確かに今の流れは良くない。
タイムテーブル。俺の世界ではそんな言葉があった。それは表示されている排出率とは別に、運営が意図的に確率をいじっている魔の時間帯があるという都市伝説だ。
もちろん俺は運営を信じているし、そんな事実はないと理解している。俺がルミにゃんエクスペリエンスマークツーを150連でも手に入らなかった時にはわずかにその信仰が崩れてSNSで運営をボロクソに叩いたこともあったが、炎上しかかったのでコメントは削除したし反省もした。俺はもう二度と運営を疑わないと誓った。しかし、しかし……いや、そうじゃない。俺は信じるんだ。そうだ。時間を置こうが置くまいが『出る確率は変わらない』と!
「ああ、そうだ。俺は運営を信じている。ここで時間を置いてやり直す必要などない!」
引かぬ。媚びぬ。省みぬ。
ここで逃げてしまえば俺の心の中に傷を作る。それはきっとここから先、何かがあった時に逃げる言い訳になってしまう。それは駄目だ。俺はこの絶体絶命の状況から結果を掴み取る。
それにだ。ここまで負けているということはすでに確率は収束しているはずだ。つまりは今こそがチャンス。ああ、そうだ。ここで退くわけにはいかない。せめて、せめてR一枚でも出てくれ。
「150連目。R一枚出ましたよタカシ様!」
「うっせぇ! 一枚出ればいいってもんじゃねえんだよ!」
「ヒィイ!?」
「タカシ。駄目だ。ドロップキックはいけない」
「ハッ!?」
危ない。思わずドロップキックをリリムにお見舞いするところだった。だがR一枚でもいいと思ったからといってR一枚でいいわけではないんだ。繊細な俺の心の機微の地雷にリリムは触れてしまったんだ。クソッ、冷静になれ俺。リリムにドロップキックをしていいわけがないじゃないか。
「お、落ち着いたみたいですねタカシ様。どうしますか? これ以上は……止めますか?」
「馬鹿を言うな。こんなところで……こんな、ここまで金を出しておいて……成果なしなどあり得るものか。俺は絶対に退かない。俺は勝ぁぁああああつ!!!」
『うわ、こいつ目が座ってやがる』
「いっけぇえええええええええ」
160連目だ。
「N神樹の薬草、N神樹の薬草、N神樹の薬草、N神樹の薬草、N神樹の薬草」
五連続で薬草か。なんというクソガチャ。草ガチャ。だが、だが……
「N神樹の薬草、N神樹の薬草、UR神域トネリの泉、N神樹の薬草」
草、草、草、草……草ばかりか。クソッタレが。
「次だッ」
「た、タカシ。ちょっと、アレ。アレ見て」
「なんだよマキシム? もう結果は出ただろ。虹色に光ってるからってなんだってんだ。俺はURが引きたいんだよ。さっさと次やるぞ!」
「いや、だから引いてるから」
「え?」
「それ、URだから!!」
マジで? あ、虹色の光出てるじゃん。集中し過ぎて分かんなかったわ。しかもピックアップの神域トネリの泉じゃねえか!? つまり、これは……
「お、ぉぉおおおおおおおおおおおおおお!」
やった。俺は勝ったぞぉぉおおおおおおお!
※当話は某ガチャシミュレーターの結果を反映しています。
150回引いて出なかったので本当どうしようかと思いました。