130 神の奇跡を呼び込む者
あらすじ:
手持ちの聖貨2020枚でガチャをする。
※作中のタカシの言葉は本人の主観によるものです。
レートがおかしいだけでタカシのガチャの実績自体はソシャゲだと並です。
白神降臨ガチャがリリムの導きによって発動した。
そして、このガチャのピックアップは……
「し、神域トネリの泉と雷霆の十字神弓です!?」
「は?」
俺は思わずそう口にした。
ちょっと待てと思ったが、ちょっと待てという話だ。
神域と十字神弓のピックアップだと!?
しかもダブルピックアップか。なるほど、こいつは一筋縄ではいかないということだな。こりゃあ、参った。
「り、リリム。神域っていうとまさか……霊峰サンティアと同じ神域ということかい?」
「効果については不明ですが……恐らくはそうだと思います」
恐る恐る尋ねるマキシムにリリムが戸惑いの表情を見せながら、そう返す。
施しの神の神官であるリリムでも神域が排出されるようなガチャのことは知らないらしい。
『そいつはアレだな。神域へ繋がる簡易転移門の魔導器だ』
俺の腕に抱きついているアルゴがそんなことを口にしてきた。
簡易転移門か。なるほど、それは結果として神域をもらえるってことになるのか?
「そんなものまであるんだな」
『まあ、数が少ないし知られてはいないんだろうよ。この系統は巫女とか聖女とか司祭などのガチャで低確率で擦り抜けることがあるが、ピックアップされることは稀で、しかもユニークでな。神域は隔離された空間だから、そいつとそいつが招いた者しか入れないし、一度誰かが手に入れるとそいつが死ぬまで他のヤツが引くことはできない』
ユニーク。寅井くんの持つ神威の聖剣キャリヴァンと同じものか。
さすがは神様を降ろした記念の限定ガチャだけはあるということだな。
ただな。まさか『雷霆の十字神弓も同時にピックアップで出て来ている』というのは予想外だ。
「なあリリム。日をズラしてそれぞれ単独ピックアップにすることはできるか?」
「単……独? なんですか、それは?」
この反応……そうか。リリムは知らないのか。
複数ピックアップの場合、日をズラしてそれぞれが単独ピックアップが出る期間が用意されることもあるんだがな。
何しろ高レアならなんでもいいってヤツ以外は基本的に狙いに合わせてガチャるもんだ。けれども、この世界ではそうした概念そのものがないらしい。以前にも思ったがコンプガチャのことといい、異世界ガチャは遅れているな。複数ピックアップは悪い文化。そんな事も分からないとは嘆かわしい。ああ、そうか。だからか。こちらのガチャがこれまで児戯にも等しく感じていたのは。
あちらの世界の最新のガチャを勝ち抜いてきた俺にとってこちらのガチャはヌル過ぎるんだ。そんなことだから俺に良いように引かれるんだよ。
「いや、なんでもない。ともかく十字神弓も出るとなれば、ここで全力で出すしかないな」
確率から考えれば、十字神弓は単独ピックアップを狙うべきなんだろうが正直に言うと神域も欲しい。だってアレだろ。そいつがあれば夜はそっちにいけば夜営の心配とかも無くなるわけだし、アイテムとかも置けるならゲームとかラノベみたいな無限収納やインベントリ的な使い方もできるはずだ。こいつは捗るな。
「じゃあ始めるか。リリム、レートはどうなってる?」
「はい。レートは……一回聖貨10枚です!」
じ、10枚!? おいおい、マジかよ?
聖貨10枚って金貨20枚ってことだろ。それってつまりは40万円ってことだろ。一回40万円のガチャとか、ドバイの金の自動販売機にランダム要素を追加したようなもんじゃねえか。いや、出てくるもののほとんどがゴミのはずだから比較できないか。大当たりが不動産ってのはドバイっぽい気がしなくもないが。
「最高レートは聖貨5枚じゃなかったのか?」
「私も初めて見ましたよ。あったんですねえ幻の神レート」
神レート?
「神レート。尋常ならざるレートのガチャ。金と武勇の双方を兼ね備えた英雄だとしても到達できぬ伝説の域にあるレートだよ。タカシ、今僕たちは伝説と対面しているんだ」
マキシムも感動していた。
まあ金持ちじゃ実際に戦ったり、希少な条件を得て出せる限定ガチャに手を出すのは難しいし、武勇を誇る人物でも女神降臨なんて建国以来三度しかないものに遭遇することは稀だろう。当事者ならなおあり得ない。
あとアルゴがなぜかドヤ顔しているんだが、お前がドヤる要素ゼロだろ。
「となると引けるのは202回か。少々少ないが……まあ最新のガチャの申し子の俺には大した問題じゃあないな」
パキポキと肩を鳴らしながら俺が一歩前に出る。
どうやら気持ちが『乗って来た』みたいだ。俺の細胞のひとつひとつが鼓動している。神引きを呼び込んでやろうと猛ってやがる。ふふ、こいつは期待できるぜ。
「タカシ、頑張って」
「勿論だ。全力で挑ませてもらうさ。ただ……な」
「タカシ?」
わずかに寂しそうに笑った俺にマキシムが首を傾げている。
こいつは気づいていないのかもな。いや、それを理解していてなおお前は変わらないのか。けどな。俺は普通の人間だ。そうはいられない。そして、分かっちまうんだよ。俺は『今日ここでお前を超えちまう』かもしれないってことがな。
追うものと追われるもの。それが逆転してしまうのが現実の怖さってヤツだ。
だけど、俺は振り返らない。俺はこれから俺を追うお前にふさわしい俺になる!
「いや、なんでもないさ。見せてやるよマキシム。神の奇跡ってヤツをよ!」
俺は大きく振り被る。それから力を溜めていく。ここで必要なのは強い意思だ。ガチャに必要なのは必ず出すと己を信じる強固な想いだ。それが未来を切り開く力となることを今、ここで俺が証明する!
そして、俺は己の意思を込めた聖貨を10連の壺に叩き込んだ。
N神樹の薬草
N神域の水(低級)
N神樹の薬草
N神樹の薬草
N白神の御守り
N神域の水(低級)
N神樹の薬草
N神棚
HN白神の像
N神樹の薬草
「タカシ様、全部ゴミです!」
「どんまいタカシ」
「クッ!?」
おっと、そう来たかい。いきなりカウンターでブン殴って来やがった。
どうやらこいつはタフなガチャになりそう……だぜ?
【ノーマル】神樹の薬草:
格調高い香りがする。効果は普通の薬草と同じ。
【ノーマル】神域の水(低級):
ミネラルが豊富。