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013 餓竜、憎悪に燃ゆる

 翌日。なんだかんだと言いくるめられた俺は町の中心にいた。

 何しろ町長の手は早かった。ドラゴンにダメージを与えられる俺の存在を知るとすぐさま囲い込んで住人たちと一緒に説得に入ってきた。

 ヤツらのいやらしいところはできないことを口にしないこと、また情を訴えてくるところだ。未亡人の奥さんが死んだ夫の仇をって涙ながらに訴えてくるのを町長が「そこまで求めるのはお門違いじゃ」なんて言って必死になだめていたのには感心したんだけどさ。そもそも今回の襲撃の死者ってゼロなんだよな。じゃあ誰なんだよ、その死んだ夫って。

 そんなわけで気がつけばオレは胸を叩いて「任せとけ」と言っていた。俺なしじゃあこの町が詰むのは理解できていたしな。まあ、仕方ねえよ。安全には配慮するって言われたし、絶対大丈夫って言われたし、報酬ももらえるらしいし?

 ともあれだ。ここは四方に通じている中央通りのド真ん中で、どの方角からドラゴンが来ても逃げられるようになっている。

 そんで俺の目の前には装甲だけで造られた馬が佇んでいる。それは討伐者のザキルが所有していたスーパーレアの召喚馬で、生きた鎧ことリビングアーマーの馬版だ。で、俺は今その鎧馬と繋がった屋根のない馬車に乗っている。


「いいな、こういうのも。ザキル、こいつはどこで手に入れたんだよ?」

「交易都市の限定ガチャだ。騎乗用の魔獣の捕獲依頼を受けた際に限定ガチャが出てな。まあ、だからってこんな平和な町でドラゴン相手に駆り出されるとは思わなかったけどな」


 そう言いながらザキルが苦く笑った。まったく同感だ。あんな危ない目は二度とごめんだと俺も思ってたよ。安全マージンマシマシで楽に勝てるようになるまではあんなのと戦うまいってな。


「お互い災難だったなザキル」

「まあなぁ。断ったら何されるか分かったもんじゃなかったものなぁ。ああ、アザス様。俺を救いたまえ」


 アザス……それって俺をこの世界に連れてきた旅立ちの神様だったっけ?

 で、とりあえず指示された作戦はこうだ。ドラゴンが町に来たら俺が矢を射って注意を引き、ザキルの鎧馬で町の外に置いてある生肉のところまで誘導してそいつを手土産に帰ってもらう。

 昨日はそれで対処できたらしいから一応は実績がある作戦ってわけだ。


『タカシ、大丈夫か?』

「ん。問題ない。ともかく逃げりゃあいいんだろ」


 そんで、すでに神弓と一緒にカードから出てるライテーが俺の横に座っているんだが以前と違ってこいつには角が生えている。

 これはあの持っていたドラゴンの角を重ねた結果だ。

 町長に打診して前払いとしてドワーフの鍛治師にカードの強化をしてもらったんだよな。

 神弓のカードの上に角を置いて金槌で叩き始めたときにはどうしようかと思ったが、実際にそれで吸い込まれてこんな感じになったんだからなんでもありだな。

 ともかく神弓は竜の角を取り込んでパワーアップしたわけで、雷の矢に竜属性が加わったことで以前に比べて雷に赤みがかかって放電のビリビリが荒ぶるようになった。

 同じドラゴン相手に通じるのかとも思ったが、同属性である竜の魔力を中和してくれるから以前よりも効くらしい。


「ライテー、お前の方はどうだ?」

『ブイ!』


 お、Vサインか。絶好調ってことだな。

 で、対照的に馬車の後ろにいるリリムさんはブルブル震えていた。


「なあ、リリム。お前、本当に良いのか? 正直今回はお前が無茶をする必要はなかったと思うんだけど」

「は、ははは。私はガチャ様の神託によってあなたの従者となった身ですから。当然、ついていきますよ。それに少しは役に立つはずですしね」


 そう言って涙目のリリムが握っている流水の槍を俺に見せる。

 ごくわずかだが水属性の槍は炎のダメージを軽減できるって話なんだが、正直効力自体は気休め程度らしいんだよなぁ。ただ、町長が確保したっていうブレス対策の術者が来ないのと本人の志願により止むなく乗せているんだが……


「なあザキル。水壁のスペルが使える討伐者ってのはどうしたんだ?」

「あーそれなあ。なんでも昨日夜逃げしたって話を聞いたぞ。縄で縛っておいたらしいんだが、水に変化して逃げるスペルジェムも持っていたみたいでさ。近くの川に飛び込んでそのまま行方不明だって」

「マジかよ!?」


 どんなヤツだか知らないが、上手いことやりやがったな。

 まあいないもんは仕方ねえ。ともかく馬車で逃げて街から離してご飯をあげてドラゴンには帰ってもらえばいいんだろ。

 なーに、大丈夫だ。前回だって神の薬草がなくても墜落させることぐらいはできたんだ。今回はバックアップ込みだし、さらに俺もいっちゃあなんだがあのときよりも強くなってる。大丈夫。場合によっては倒しちまうかもしれねえぜ?

 いや、さすがにそれは無理か。まあ欲張らずに……


「ドラゴンが来たぞー」


 おっと、誰だか知らねえがでっかい声がここまで響いてきた。

 ついに来たみたいだな。まあ、いい。やってやるさ。

 で、あいつは……東から来たか。あの森の方角からだな。おっと、遠距離魔術を撃ってるヤツがいる。通用しないまでも注意を引きつけてこっちに誘導してるんだな。ん? んん?


「えーと、なあリリム?」

「はい?」

「距離があるから俺の勘違いかもしれないんだが」

「は、はい。私もちょっと聞きたいと思ってたんですが」

「デカくねえ?」

「デカいですねえ」


 ああ、うん。だよね? あのさ。ちょっと話と違わない? 確かにドラゴンは倒したよ。強敵だったよ。死にかけたさ。だけどさぁ。今来てるのって多分俺が倒したドラゴンのお母さん? てぐらいの大きさが……


「来た。馬車を出すぞ。タカシ、矢を!」


 チクショウ、聞いてねえぞ。同じドラゴンでもアレ大人と子供ほどの差があるじゃねえか!?


「ああ、もう。とりあえず射るぞ」


 仕方ねえ。やることは変わらねえし。

 ともかく矢を射ってドラゴンの注意を引くんだ。


「よし刺さった」


 まずは一発目命中。おっと、こっちを見てやがるな。それにしても的がデカいからよく当たる。横でライテーが『むーん』とか言いながら指差してるし、この命中力もライテーの力なんだろうな。

 良し。いいぜ。ホレホレ。当たる、当たる。翼も裂いてんだが、デカいからそんなに効果はなさげか? ただ膨らんだ喉元を射ると炎のブレスを吐かなくなるのは分かった。これだったらブレスを吐かせずに逃げ続けられる。


 グガァアアアアアアア!!


 おお、悔しそうな顔してやがる。ハッ、馬鹿め。お前は俺の手の平の上で踊っているちょっとでかいだけのトカゲに過ぎないのだよ。

 ほーれ、胸にトントントンと打ち込んでハートマークッだ! あとは太ももに正正Tと……いい感じに上手く刺さって点描写も上々の出来。トンだビッチドラゴンだよ君は! はっはー。あれ? いつの間に町を抜けて……置いてあったお肉も今通り過ぎた……よな。

 けど、ドラゴンは追って来てる?


「なあ。ザキル、お肉通り過ぎたけど、なんかあいつ追って来てねえ?」

「タァカァシィ!? お前なぁ。お前な、お前なぁあ。バッカだろ。やり過ぎだ。注意を向けるだけで良かったのにどんだけ撃ち込んでんのお前?」


 あれ?


「見ろよ。完全にドラゴンブチ切れてるだろ。死んだわ俺ら。終わり。俺とお前とそこの嬢ちゃんの人生ここで終わりだから!」


 あれれ?

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