128 清浄なる者
あらすじ:
やったねタカシちゃん。仲間が増えたよ。
今回の霊峰サンティア奪還で俺が得たもので一番の大物は飛行船メルカヴァだ。こいつは引き継ぎとセットになる操縦士の訓練もあるんで、引き渡しにはしばらくかかるって話になった。まあ自動車の納車も何ヶ月かかかるものはかかるわけだし仕方のない話だ。
それから中級魔族と低級魔族、以前にアルゴを助けたときに倒したワイバーン、川で仕留めたリバージョー、そんで不意打ちアタックで始末した悪虚竜メイベルの核石。これら全部を換金して金貨が1200枚。
特に悪虚竜メイベルの核石と報酬は高額だった。それにリバージョーのヒレとメイベルの爪は魔導器強化の素材になるそうで、これは換金せずに自分の魔導器に使用するつもりだ。
さらには今回サンティア奪還の報酬が金貨4000枚。これは奪還の参加メンバー全員に一括で与えられた報酬から分配された俺の分の報酬だ。教皇様曰く、メンバー内での分配ならば口は出せない……とのことで全体の三分の一を俺がもらうことになった結果だった。
そしてアルゴからの報酬の神意の黄金符二枚に神意の白銀符を三枚。
黄金符は竜族専用装備が当たる確定ガチャチケットで白銀符は竜族専用のジェムが手に入る確定ガチャチケットらしい。人間とは違い、個体数が多くはなく、そもそも貨幣というものが定着していない竜族は神の報酬としてソレを得るのだとか。
「でもお前使ってなかったよな?」
俺の左腕にコアラみたいにしがみついている、オマケの報酬としてもらったアルゴに俺はそう言った。
『ドラゴンってのはなぁ。本来は魔導器なんざそもそも必要としねえんだよ。己の肉体を進化させて武器にする。お前の神竜の盾の防御力も炎のブレスも元の俺様なら持ってたもんだ。道具を使ったら効率が悪くなるだけだ』
「じゃあ、なんで竜族専用装備なんてあるんだ?」
『俺様みたいな最強のドラゴンにゃぁ必要ねえが雑魚竜にはそうじゃねえ。例えばテメェが引き当てた神竜の盾を使えば、氷のブレスしか吐けねえブルードラゴンがセイクリッドブレスも扱えるようになる。効率が悪かろうとそれだけで有利だろうが』
なるほど。こいつが最強のドラゴンとか言われてもピンと来ないがそういうもんなのか。
『とはいえ、俺様は直々に姉御の力を得てもいたんでな。つまりは俺様自身がウルトラレア……デミディーヴァに近い状態だったから他の力が入る余地なんぞそもそもなかったんだぜ』
キリッとした顔をしているが、その余地がないところに神の薬草を食ったことで限界を超えたんだったか。
『んだよ、その目は? マジだぞ。あのくそデブドラゴンに不意打ち食らわなきゃ、本来は勝ってたんだからな』
俺の視線に気づいたアルゴがそんな言い訳をする。
その言葉が事実か否かはもう確かめるすべはないけど負けは負けだ。オマケにその元くそデブドラゴンに職場奪われたんだよなコイツ。可愛そうなヤツだよ?
「いや、お前。いい加減離れろよ」
『うるせえ。落ち着くんだよ、この腕には姉御の気配が残ってる』
「擦りつくな気色悪い!?」
アルゴが仲間になった。俺はアルゴを装備した。アルゴは呪われている。装備は外せなかった。クソッタレ。
昔こんなオモチャがあったらしいがその頃にまだ俺生まれてねえんだよな。しかもアルゴ自身が浮いているのか、別に重くもねえから喋らないと気になんねえくらいだし。
「タカシいいじゃないか。似合ってるよ」
「アルゴニアス様と一緒にいるんですよ。これはもう凄い栄誉なんですよ」
人の部屋でくつろいでるふたりがそんな事を言う。
「リリム。アルゴだ、アルゴ。名前間違えんな」
「あ、すみません。アルゴニ……アルゴ様も」
『様も付けないでいいぜ。俺たちゃ仲間……なんだからよ!』
アルゴがキリッとした顔で言っている。仲間という言葉に何か打ち震えているが、嬉しいのかこのトカゲ。まあずっとボッチだったみたいだしな。
ともあれだ。アルゴが仲間になったが、その正体を知られるのは色々と不味いってんで俺たちはアルゴニアスではなくアルゴって呼ぶことにしたわけだ。
こんなんでも誰も略して呼ばねえくらいには大層なヤツだったらしいからな。それに今のこいつは神竜の幼体だから元の姿と一致させるのは困難だ。あのチンドラにあやかって名前を付けたって言えば、誰でも納得するだろうって話だし。
「ハァ、まあいい。ここに金貨5200枚がある」
「全部ピカピカしてますね。新品です」
実弾は基本だ。
「そんで520枚はお前のものだリリム」
「あ、ありがとうございます。うわぁ……今回私ほとんど何もしてないんですけど」
リリムが恐る恐る俺が分けた金貨を手に取った。
働きに比べて過剰にもらっている自覚はリリムにもあるようだな。けど渡さないと俺が死ぬからな。実際死にかけたからな。
それとこいつも奪還作戦参加メンバーではあるから個別に報酬を金貨500枚ももらっている。隠れている間もアルゴが他の連中を信用しなくてお守り役としていたらしいから妥当な報酬なんだとか。まあ、今後の事を考えればこいつにも資金は必要だ。
「契約だからな。それよりもケチらずにガチャを回して戦力アップしろよ」
「はい。これから実家への仕送りは月給だけにいたしますので、こちらはキチンと使わせていただきます」
リリムも戦力不足を反省したのか、ガチャの神様の説教が心に響いたのか、積極的にガチャをする心算らしい。で、あとは……
「マキシム、そしてこいつはお前が受け取ってくれ」
「ふふ。これで縁も切れた……なんて言わないでくれよ?」
「言わねえよ」
そう返して俺はマキシムに金貨800枚を渡した。
これで借金はチャラ。俺は綺麗な身の上になったわけだ。金の問題は厄介だからな。先輩も言ってたよ。身内から金を借りた時点で上と下の関係ができちまう。純粋な身内じゃいられなくなるってな。
そして俺の手元にあるのは金貨が3880枚。つまりは施しの聖貨1940枚分ということだ。こいつで俺は神降臨ガチャに挑む!
「ええと……あの、タカシ様。その意気込みよう……まさか、全部使うつもりですか?」
「ははは。そりゃあ神降臨ガチャなんて限定は二度とこないかもしれないからな。俺はチャンスを棒に振るつもりはないぜ」
「リリム、例えタカシが無一文になったとしても僕が養うから大丈夫だよ」
「そうだ。大丈夫だぜ」
「大丈夫じゃないですよ、それ!?」
うるさいぞリリム。男にはやらなきゃならんときだってあるんだ。
いや、今や男ですらない俺が男を取り戻すためには力が必要なんだ。
マキシムによって生活の保障がされた今、俺は無敵だ。
「リリム。人という漢字は人と人とが支え合う形を表したものなんだ。人はひとりじゃ生きていけないんだよ」
「カンジの意味が分かりません。というかタカシ様、理解してますか? 今のあなたはナチュラルにクズですよ」
「大丈夫だよタカシ。タカシがクズでも僕だけは決して見捨てないから」
ははは、こやつめ。けど、おかしいな。マキシムと俺はもう相思相愛。男に戻ったら俺マキシムとニャンニャンするんだ……とか思ってたけど……うん。けど、なんだか深い沼にハマったような妙な気分になる。おっかしいな。なんでだろうな。
つか、マキシムはやっぱり俺を甘やかし過ぎる。このまま甘やかされ続けたら俺は駄目になるかもしれねえ。元の世界では先輩がいたからな。あの人がいたから俺はまともに社会人ができてたんだって今さらながらに思うよ。
元の世界に戻りたいかというと微妙だけど、先輩にはもう一度会いたかったな。まあ、会ったら会ったらで怒られるんだろうけどさ。あ、テンション落ちてきた。うんうん。大金を前にちょっと盛り上がり過ぎたらしいな俺。テンション上がり過ぎるとワケ分からんことになるのは俺の欠点だな。
「ふっ、大丈夫だマキシム。俺は正気に戻った」
「さすがだよタカシ」
「ああ、リリム。お前にも心配をかけた。そうだな。金貨10枚は残しておこう。それで生活費には困らないはずだ」
「じ、じゅう……いえ、残そうと考え直してくれただけでもタカシ様は成長したと思います。今までのタカシ様なら全部使い切ったでしょうしね。それに今のタカシ様なら稼ぐだけならそう難しくはないでしょうから」
「だろう。ははは、俺は学ぶ男だよリリム」
「ええ、まあ……もう好きにしてください。小市民の私がどうあれ結果を出しているタカシ様にグチグチ言うのも虚しいですし」
おいおい、そう諦めた顔をするなよ。先輩ほどではないが一応お前の忠告も頼りにはしてるんだぜ。俺ってちょっと調子に乗っちゃうことがあるからな。
ま、ともかくだ。手持ちの資金は金貨3870枚だ。さっそくガチャの神様の神殿に行ってガチャをしてやろうじゃないか!
全肯定彼女マキ:
無自覚に堕落を促す天然少女。
頼られる事に喜びを感じる彼女はそれ故に頼りになる幼馴染には興味を持たない。タカシと出会わなかった場合でもアルトの運命は変わらないのである。
勇者気質とも言う。