126 アイウォントユー
あらすじ:
報酬に飛行船がもらえることになった。タカシのテンションが上がった。
「いぃぃいやっほーーい」
はいはい、浮かれポンチとなった俺が通りますよっと。
そういえば、この浮かれポンチって言葉、関西の方言のいかれポンチから来てるらしいね。まあ、どっちももう死語っぽいけど。どうでもいいけど。そんなことよりも俺は自由の翼を手に入れたわけだ。空賊王に俺はなる! ひゃっほーい。
「って、なんだよ。お前ら、暗いぞ。アルゴなんて卵から孵ったんだろ? 両手を挙げて喜べよチンドラ」
『うるせえよ。ほっといてくれ』
魔物たちから奪還し、再び人の手に戻った聖王都の中心にある聖城イスィ。その中で自分用と用意された部屋に俺が戻るとお通夜モードのマキシムとリリムとアルゴがいた。なお、アルゴはすでに卵の状態から孵って、小さなドラゴンとなっている。なんというかブサイクだな。JKならブサ可愛いとか言うのかもしれないが俺JKじゃないしな。
『失礼な視線を感じるんだがよ』
「リストラされた社会人はみんなそういう目を向けられるんだ。悲しい話だな」
『……ぐぐぐぐ』
「あ、ゴメン。泣くな、泣くなよアルゴ。まるで俺が悪いみたいじゃん」
あらやだ、この子。メンタル耐性なさ過ぎ。
「タカシ……僕は」
そして、こっちはこっちで神託を受けて反省中のマキシムだ。
こいつは俺を孕ます気満々だったが、神様に禁止されてしまった。
それにマキシムは頭の回転は速いからな。俺が孕まされたくないんじゃないかって薄々は気づいていたんだが、俺との子供を想像したらいても立ってもいられず、現実から目を背けていたとかなんとか……いや、愛され度合いが大きいな。というか重くなってきた気がするな。
「マキシムもな。言い出せなかった俺も悪かったけどさ。まあ、また生えるって」
「うん。そうだよね。君ならきっと生やせるはずさ。僕は待ってるよ」
そうだな。一応、戻る方法についてはガチャの神様に教えてもらってるんだ。あとは自分でなんとかする。闇の神の呪いだって、きっとどうにかできるはずだ。
「そういやマキシム、ザイカンさんたちはどうしたんだ?」
目が覚めてからザイカンさんたちの姿が見えない。
というか、俺の所在は今のところ隠されてるから会えるはずもないんだけど。
「お父さんたちは今、サライさんたちと聖王国の東部に出現した魔物の群れの討伐に向かってるよ。聖王都ほどではないけど、深淵堕ちのせいで聖王国内も魔物が活性化していて被害が出ているからね」
「なるほど」
それからマキシムの口からザイカンさんや他の勇者たちの近況が話されたが、ザイカンさんたちはサライさんとダルシェンさんと合流して勇者パーティを組むとのことだった。
俺が原因での勇者パーティ分裂にちょっと心は痛むが、マキシムに迷いはないようで、しかも俺の護衛継続は教皇様からも賛成されたので問題ないとのことだった。
そして神の薬草の犠牲となった寅井くんの仲間のソニアさんは今、聖王都に運ばれて治療中。リリムの治療記録もあるので経過は順調で、昨日には人の姿に戻ったらしい。それと寅井くんたちは現在、聖王都周辺に逃げた魔物の駆逐に動いているそうだ。
そして、辛気臭いツラーズ、最後のひとりであるリリムだが……
「タカシ様。私心を入れ替えてお仕えしますので。クビにだけはしないでもらえますとありがたいんですが。その……故郷では私の出世がお祭り騒ぎになっているらしく、ちょっともうあとには引けない感ありまして。最悪介錯していただけますと助かります」
「うん。そういうの辛いよね。大丈夫だから。お願いだからそのハイライトが消えた目を向けるのやめて?」
リリムの実家は借金まみれなんだったっけ。ガチャの神様の眷属的な一族なのに何をやってるんだろうか。そもそもリリムの雇用契約は俺じゃなくて神様がしてるからな。クビにできる権限は俺にはないんだけどな。
「それにさ。お前も装備をゴッドレアにしてもらったんだろ」
「はい。武神の法衣がゴッドレアの神々の法衣になりました」
リリムは俺にガチャの神様が降臨したことで武神の法衣をゴッドレアにしてもらっていた。また俺の『神の』薬草やマキシムの『神』剛力の腕輪のように神がついただけじゃなく、リリムの武神の法衣が神々の……と名前が変わったのは武神アルマーティと白神ガルディチャリオーネ双方の加護を得たからだろうということだった。なお性能については現在、鑑定待ちとなっている。
「あとは付け焼き刃ですけど、今はこの城の騎士様に色々と勉強させてもらってます」
「まあ戦力が増えるのはありがたいからな。頑張ってくれ」
リリムが頷く。さて、それでだ。アルゴに俺は視線を向けた。こいつも色々と辛いところだろうが、それはそれ。これはこれだからな。
「おい、アルゴ。それで一応依頼は達成したと思うんだがよ」
『分かってるさ。問題ない。ちゃんと用意してあるさ』
アルゴがそう言うとポイッと俺の前に金の板をふたつ、銀の板をみっつ投げてきた。
『神意の黄金符二枚に神意の白銀符を三枚。今の俺様に出せるのはこれだけだ』
「おお、サンクスアルゴ!」
神意の黄金符は竜用装備の確定ガチャだ。こいつで出した神竜の盾にはお世話になってるし、たとえ実用的でなくとも普通じゃ手に入らない表記されたレアリティ以上にレアなシロモノだ。それだけで十分に価値はある。もうひとつの白銀符は分からんけどこっちも多分いいものなんだろう。
そして、以前にアルゴの依頼を受けた際の報酬はアルゴだけが出せる特別なものをってことだった。その前金として黄金符を一枚もらってたわけだが、こいつは何が出るのか非常に楽しみだな。
「しっかし悪いな。もう手持ちないんだろ?」
俺の言葉にアルゴの顔がまた少し歪んで泣きそうになっていた。
こいつは今回の失態で職場を追われて今ではもう無一文らしい。ガチャの神様の指示で霊峰サンティアの一切を神竜アヴァロンに譲り渡すことにされたみたいだしな。哀れだとは思うが管理者が管理できなかった以上は責任を取るのは当然の話ではある。こればかりはしゃーないわ。そう俺が思っているとアルゴが滲み出ていた涙を拭ってニヤリと笑った。
『気にすんな。それとよ。追加報酬もあるぜ。豪華なヤツがな!』
え、マジで?
「豪華って……おいおい、聞いてないぞ。なんだよ? サプライズってヤツか?」
『何をとぼけてやがる。すでに話はついてるって聞いてるぜ。姉御に頼んだんだろう? まったく、仕方のねえヤツだな。照れてんのか?』
「ん? なんの話だ?」
何を言ってるのか分からねえが、アルゴがチラチラと俺を見て笑っている。気持ち悪い。
『みなまで言わせるなって。分かってんだよ。俺様が欲しいってんだろ?』
「は?」
『姉御……ガチャ神様に頼んだそうじゃあねえか。俺様を、白神の剣たるこの俺様が欲しいって』
「は?」
『はははは、まったく仕方ねえヤツだな。この欲しがりさんめ!』
「は?」
白神の剣? あ、もしかして……ガチャの神様がくれるって言ってたビームの出る剣ってこいつのことかよ!?
チンピラドラゴンがツンデレドラゴンにアップデート。男のツンデレなんて気持ち悪い。けれども捨てられた矢先に手を差し伸べられればその優しさに堕ちてしまうのも致し方なきこと。
そしてタカシが下す選択とは。
次回『チェンジで』にご期待ください。