122 ライアー
あらすじ:
困った時の神頼み。頼んでいないが即解決。神凄ぇ。
「……ここは?」
見知らぬ天井なんてなかった。
目を開けた俺の視界に入ったのは一面、ただの青空だ。
そして真横にはチンチクリンと言っていいのか悪いのか、小さいが妙な迫力ある白髪、銀目の少女がいた。つまりはガチャの神様である。はて、なんでここにいるんだ?
「ようやく意識を取り戻したか」
「はぁ……ええと、神様? ここって以前にお会いしたとこですかね?」
「うむ、妾の領域よ。魂のみなので元の姿に戻っておろう」
「あ、本当だ」
俺の聖剣がちゃんとあるよ。立ち上がって腰を振るとプランプランするよ。なんか安心する。あるべきものがようやく戻ってきた感じ。それに胸部装甲もなくなってる。ストーンってなってる。貧乳なんてもんじゃねえ。壁だ。だが男ならそれでいい。
「あ、肉体の方は変わっとらんからな」
「マジっすか」
「あと見苦しいから腰を振るな阿呆が」
名残惜しいので感触を覚えてきたいのですが。まあ目の前にいるのが神様とはいえ、見た目からすると事案にしか見えないものね。残念。
「ちなみに妾の外見年齢は15から16じゃぞ?」
「ははは、ご冗談を」
見た目10歳前後にしか見えない。神様なんだから見栄を張る意味もないと思うんだが。まあ、仕方ない。諦めよう。魂の聖剣はまだ無事だった。今はそれで我慢しよう。
「ハァ。それでそなた、今の状況は分かっておるのか?」
「ええと……神の薬草を食って、それからなんかスンゴイのが体の中に入ってきたことぐらいは覚えてるんですが」
「それ、妾じゃ」
「へ?」
「そなたの中に妾が入った」
あのスッゴイのが神様? 以前に神の薬草食ったときとは比べものにならん感じになって頭ん中スッ飛んだ感はあったが……
「ええと、それってマジっすか?」
「うむ。神域の中で、そなたが己に大量の神気を満たしたことで門として成り立ったのじゃ。本来であればデミディーヴァなどは門の適性を持っておるのじゃがな」
「それって、神の薬草を食べるとデミディーヴァと同じ状態になるってことじゃあ?」
「それは使用者にもよるし短期的じゃしな」
「けど、デミディーヴァが神の門で、神域でなら神様を降ろせるってことは……もしかして?」
「デミディーヴァであるクライマー、悪母竜アヴァドン。連中の狙いは闇の神クライヤーミリアムの現世顕現であったのだろうな。聖王都の深淵堕ちどころか、世界の危機一歩手前だったというわけじゃ」
マジかよ。そんなこと誰も話してくれなかったんですが、それは。
いや、それはそれとして……問題は今だよ。俺は神様降ろして意識失ったわけだし、今の状況ってどうなってんだ。
「神様。外はどうなんですか?」
「うむ、決着はついたぞ。無論、こちら側の勝利という形でな」
おおおおお、良かった。となると……
「で、俺は? 今神様の前にいるのって魂なんすよね。肉体の方って大丈夫なんですか? まさか死ん」
「いや、そなたの肉体は今は治療を受けておる。いつものようになってな」
なるほど、良かった。神様降臨とかそんなんなったらもう、なんか色々とヤベーことになったのかと思ったけど、大丈夫だったか。
「すでに戦いから三日経っておるが、すでに肉体はほぼほぼ元に戻った。まあ慣れてきているということとそなたの中の16パーセント程度は神気を受け入れるのに問題はないのでな。そして目を覚ませる程度に魂も落ち着きを取り戻した故に妾がここに呼んだというわけじゃ」
「じゅうろくぱー?」
「こちらの話じゃ。気にするな」
「ハァ。あれ、けど今回出てきたのって俺が神の薬草を神域で食ったからって話だったよな?」
「うむ、そうじゃな」
「前にここで食ったアルゴはどうなるんだ?」
あいつも神域内で神の薬草を食ったよなぁ。けど、パワーアップこそしたが神様なんて降りてこなかったし。
「ふむ、妾は神ではあるが人族の女性がベースであるために、ああも肉体的に違う姿に降臨するのは難しい」
なるほど、女神様だもんな。そういう問題もあるのね。
「やりよう次第ではあるのじゃがな。ただ、あのときのアルゴニアスは己が力でどうにかなるとも考えてはおったのじゃろう。結果はあのザマじゃ。その上に人間に騙されたなどと言い訳をしおって。そうした不測の事態を含めて管理を任せておったのにデミディーヴァの策略に安易にかかりおって。あの駄竜はリストラしてやったわ」
あーかわいそう。けど、そうですね。大失点ですよね。
「で、それはそれとしてだ」
「はい?」
「確かに妾は以前に自らの意志で選択するのであれば止めはせぬし、怠惰に生きるも、逃避するのでも構わぬ……とは言ったがな。何をしているのだそなたは?」
「何って……聖王国の戦いに巻き込まれている?」
神様が不機嫌な顔をしてらっしゃる。なぜ?
「巻き込まれている……というよりは、ほぼ中心人物であったように見えたが」
「神様の神託を聖王国に伝えにいったらこうなったんですけど……そもそもこの状況って神様が仕組んだことなんじゃないですか?」
「仕組んだ? 妾が仕組むというのか」
「いや、ホラ……異世界から闇の神を倒すために呼ばれた救世主的なヤツ?」
だってさ、いくらなんでも俺がこんな事態に巻き込まれてるのおかしいじゃん。ただの悪運だけでこうなったとは思えないんだけど。って、鼻で笑われた?
「ふん。そなたは己がそのようなたいそうな人物だと思うているのか?」
「えー、いや。すんません。そりゃないですよね」
「あるわけがなかろうに」
ないかー。まあ、そうですよね。自意識過剰でしたね。ははは、ワロスワロス。
「とはいえだ。人の世のことはともあれ、我が庭がこれ以上荒らされぬことは喜ばしい。タカシよ、よくやったと褒めておこう」
「神様のお褒めの言葉とか。何かお礼でもくれるんですかい? ゴッドレアのアイテムとか?」
「うむ。ゴッドレアはふたつ持つとそなた自身が耐えきれんと思うので止めておくが」
マジっすか。じゃあ仕方ないか。
「礼に関しては……そうじゃな。望むことは何かあるのか?」
望み。神様に頼みたい望み。あっちの世界に戻る? いや、正直そこまで戻りたいわけではないんだけど……
「あの……あっちの世界と行き帰りしたりできるようにってのは無理ですかね?」
「む、済まぬな。この世界を越えてしまうと我が力は及ばぬのだ」
駄目か。となると限定ピックアップガチャ? それともガチャ資金? いや、ここで頼むとするならば……もっと別の、絶対に叶わないような……そうだ。聖王国でも匙を投げたものがいいかも。
「だったら神様。俺を男に戻して欲しんですけど?」
「む、残念じゃがその願いは妾の力を超えている」
「マジで!?」
神様なのに?
「そんな恨みがましい顔をするでない。デミディーヴァとはいえ、アレは神の力のひと欠片。アレが最期の命を用いて強固にした呪いなぞ、そなた自身の全存在を消し飛ばすのと引き換えにするのでもなければ叶えるのは難しいのじゃ」
「死にますよね、それ」
「当然よな」
じゃあ駄目じゃん。ガッカリだよ。神様なのにガッカリだよ。
「仕方あるまい。それにだ。妾も女神ゆえ、今回、妾を降ろしたときに呪いとはいえ女である状態である方が都合が良くてな。我が加護も上乗せとなってより強固に固定されてしまった感があるのじゃな」
「え?」
ハァアアアアア!? 待って。あんた、何してくれてんの?
「勘弁してくれよ。男に戻れないから俺、マキシムに孕ませを狙われてんですけど?」
「今の時代、女性の扱いについては色々と物議を巻き起こすことも多かろう。であれば男が孕まされるぐらいの方がバランスが取れているのではないか?」
「そういう配慮はいらねえから!?」
「そうか。では、とりあえずはマキシムには神託で告げておこう。孕ませるなと」
「それは助かる」
「では礼はそれで良いか?」
「待って!?」
助かるけど、そうじゃない。さすがにそれでお礼終わりは辛い。
「ふふふ、冗談じゃ。そうじゃな。それでは使い古しとなってしまうが、そなたには妾の剣を授けようか」
「マジで? 何それ、貴重っぽい。けど、俺に扱えるのか、それ?」
そもそも弓使いなんだが、俺は?
「ビームとか出せるから問題ないぞ」
ビーム撃てるのか。凄え。さすが神の剣だぜ。
「じゃあもらうぜ。神の剣!」
「うむ。今回の件で少々縮んだが、あの方がお前には扱いやすかろう。使い道が見つかって良かったわ」
「?」
なんだろう。妙な事をおっしゃっている。けど、もらえるもんならもらっておこう。で、あとは……ん?
「あれ、身体が薄くなってきてる?」
「ふむ、魂が覚醒しつつある肉体に引っ張られておる。となれば、この会合ももう終いということじゃな」
「なるほど?」
となると神様ともお別れか。チンチクリンな姿だが、神々しいので目の保養にはなるのだけれども。けど、時間がないか。あとなんか話すことあったっけ?
「賞賛と褒美は与えた。それと警告を……と考えておったのだが」
「警告?」
何かあったっけ?
「いや、するまでもかったな。そなたは欲望には忠実なれど、それ故に己が欲に対しては誠実であった。よもや一瞬たりとて考えることすらせんとは……」
「???」
何の話です?
「ふふ、大したことではない。それよりもひとつ、教えておこうか」
「何をっすか?」
「男に戻る方法じゃ」
え、戻る方法あんの? 神様でも治せないのに?
「サンダリアの北方の隣国に魔導国ザイランという国がある。そこにいる呪生樹のラゴウを訪ねよ。確証はないが、あれならば解けるやもしれん」
「神様でも駄目なのに?」
「餅は餅屋と言おう。妾は神ゆえに人ひとり程度をどうこうするのは向いておらん。面倒じゃからな」
面倒って言いやがったよこの神。なんか雑なんだよな、この神様。
「雑で悪かったな」
「あ、いや……なんでもないっす」
「ふん。それではこれでな」
「あ、はい。けど俺ザイランっていけるんすかね? 今回ずいぶんとやらかして聖王国が自由にさせてくれるか不安なんですけど」
転移門だけでも拘束案件なのに、ここまでやらかしたからなぁ。
今回はかなり貢献したんだから扱い自体は良いだろうけどさ。正直こっから先、俺が自由にできる未来が見えない。
「ふ、不安な顔をするでない。一応、連中には釘を刺しておいたから問題は無かろう。やつらもここまでの失態をした上に妾の不興を買う真似などせんだろうよ」
「釘?」
「ではな」
「えっ、ちょっと。なんか余計に不安になったような、あ……はぁああああああああ」
お、落ちるーーーーーー!?
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「は!?」
あ、今度はちゃんと見知らぬ天井だ。
いや、それよりも……ここは妙に豪華な部屋でそれに
「お目覚めになられましたか巫女様」
ベッドから少し離れた場所にローエン様たちが膝をついて頭を下げていた。
おい、神様。アンタはいったいどこに釘を刺したんだ?