119 未来を封じる黒き霧
あらすじ:
ママドラゴン激おこ。
二話連続で似たような引きで終わってたのを反省して今度こそ戦闘開始。
ああ、怖え。アヴァドンから出てる殺気が全部俺に突き刺さってきてチビりそうだわ。デミディーヴァの時とは違って直接ターゲットにされてるからか、これまでにない圧を感じる。まあ、だからってそれで足を止めたら普通に死ねるから止まんねえけどさ。
『ちょこまかと逃げおるな』
「そりゃ、当たったら一発でお陀仏だからなぁ」
アヴァドンが両腕の爪を振り回して斬り裂こうとしてくるが、それを俺は神竜の盾に乗って移動しながら回避している。
今の神竜の盾は表面の竜の装飾が這い出た形で腹ばいになって四足歩行で走っている。見た目は甲羅を逆に向けた亀みたいになっているけど、速度は生身で走るよりも断然速い。その上で俺は取っ手に足をかけてサーフィンみたいな格好で十字神弓でアヴァドンを攻撃してるってわけだ。
そもそも一般人の俺のフィジカルなんて大したことはないんだが、未来視を生かせる機動力が確保できたことでかなり戦術の幅は広がった。そんで、神罰の牙のシルバーエンチャントがあれば……
「これでも喰らえ!」
『グァッ、六本に束ねた雷の矢か。避けたつもりが、吸い込まれるように当たる。何かのスキルか?』
正解。まあ未来視はスキルジェムで得たものじゃなくて十字神弓の能力だけどな。
九本を束ねたナインアローは時間がかかるが、六本のヘキサアローなら短時間でもすぐに放つことはできる。ダメージは……まあまあ通ってるな。けど、敵は奴だけじゃあない。
「ギュガァアアアアア!」
「邪魔なんだよ、お前らは」
降下して爪で切り裂こうとしてくるワイバーンの胸部にカウンターでヘキサアローを撃ち込んで一体を撃破。スキルのカウンターとヘキサアローによる急所攻撃ならワイバーンでも倒しきれるみたいだが……まだ数は十以上いる上にアヴァドンが動くたびに落ちる腐肉から増えていっているな。
「キャアッ」
「チッ、リリム!?」
「こ、こちらは大丈夫じゃ神託者殿!」
リリムたちの方にもワイバーンが仕掛けてきているのか。
ローエン様がバリアみたいのを張って耐えてるが、いつまでも持ち堪えられるもんじゃねえだろうし、こっちはアルゴを殺されたら詰みだ。
『クックッ、ウロチョロする虫よりもあちらの方が潰しやすいかもしれんなぁ』
「させるかよ。ライテー、爆裂の神矢だ!」
『ラーイ!』
こっちは戦えるのがひとりなのにワイバーンが次々と増えていく状況は不味い。だったら強引にでも一気に潰すしか道がねえか。
『なんだと。爆裂の神矢を次々と射って……くっ、そのすべてがワイバーンに当たるだと? 必中のスキルか。それは!?』
そういうスキルもあんのね。だけどこっちは当たる未来が視えたときだけ射ってるんだよ。当たると確定した結果の時だけ射ってんだからそりゃ当たるさ。それにこういう当て方もできる。
『なっ、一度の爆破で我が子を三体同時に仕留めただと?』
ははは、連鎖だってタイミングが視えればできなくはないんだよな。
悪いけど今の俺は妙に冴えてるぜ。ピンチの時にこそ輝く男だからな!
「残りは竜水の聖矢で仕留める。ライテー」
『ラーイ!』
そして放った竜水の聖矢が水の竜となって空中を駆ける。操作は完璧。最後の一体も倒して、後は落としたヤツにトドメを……ん、黒い霧が出てきた?
『なぁめぇるなぁああああ!』
「なんだ、これ? クソッ、逃げきれねえ!?」
黒い霧が竜水の聖矢を覆って、つ、潰された? なんだ今のは? 逃げ道がないから未来視でも回避できないぞ。
『タカシ、ワイバーンがまた増えた』
「わーってる」
アヴァドンが動くたびに腐肉が散るからな。それがワイバーンになってるんだ。だったら
「だったらこうする。神罰の牙を戻し神桜の杖を出して……燃え盛れ、神炎の嵐!」
『ぬぅぅうう、我が体を炎が覆うだと? これにも神の力が混じっているか!?』
前回のガチャで手に入れた三枚重なった神属性付与の炎の範囲魔術『神炎の嵐』。SRだからリリムの極限の神罰ほどじゃあないが、ワイバーンの元はあのアヴァドンの骨にこびりついてる肉だからな。それを全部燃やしちまえばいいだけのことだ。
『存外にやるな。しかし』
『タカシッ』
「あっぶねえ!?」
炎に炙られているアヴァドンが凄まじい速度で骨の尾を振り回してきやがった。とっさに跳んで避けられたが、神竜の盾は弾き飛ばされて転がっていった。
『なるほどな。我が黒霧から逃れることができず、広範囲に及ぶ尾の一撃も避けきれなかった。しかし我が爪はすべて避けた。なるほどな……未来予測か。それも限定的な』
バレてらっしゃる!?
『竜水の聖矢が回避しようとした時間から考えるに、視えるのは一秒から二秒といったところか。加えて必殺の攻撃をいくつも携えている。確かに驚異的ではあるが……我が黒霧ならば対処のしようはあるな』
黒霧? あの黒い霧か。まんまだな。けど、不味い。霧が集まって竜水の聖矢も破壊された。未来視でも囲まれたらどうしようもないぞ。となれば……だ。
「リリム。ここらで一発活躍してみるってのはどうだ?」
「いや、無理です」
「ソッコーかよ。出番のないお前を気遣っている主人の気配りを感じてくれよ」
「そういうのいりませんから。大体、前回私が食べたのはその後のことを考えて……でしたし、強化するなら普通にタカシ様の方が強いはずですよ。それに今回は後でマキシムたちがきっと来てくれますから。さあ、遠慮なくどうぞ!」
ぬぅ。
「アルゴ、お前は?」
『卵に何を求めているんだ?』
ですよね。ローエン様は防御力特化の後衛で強化したところで戦力としては微妙。確かにここは自分に使うしかない局面だ。
『ふむ。なにやら良からぬことを考えているようだな』
「いやいや、所詮俺なんて勇者でもないただの雑魚ですよ」
鋭いな、この骨ドラゴン。
『自己評価が低いのは結構だが、我はクライマー様を殺した者を雑魚とは思わぬよ。それにだ』
なんだ? あいつの周囲を漂う黒い霧が増えている?
『新たに生まれた我が子をすべて亡き者にされたのだ。もう周りを気にする必要もない。であれば最大の力をもって』
あ……不味いぞ、これ。
『ここで屠ってくれよう!』
次の瞬間、全周囲から押し寄せた黒い霧に潰されて俺の全身がズタズタになった……『未来が視えた』。