118 結ばれる因果
あらすじ:
レイド戦にソロで挑めとか言われた。
「俺が戦う? それ無理ゲーだろ」
『ゲー? なんだゲーってのは。つーか無理って言われても他に選択肢がねえだろ。ローエンは戦闘職じゃねえから戦えねえし、リリムは力不足だ』
「申し訳ない。治癒と防御程度ならばできるのだが……」
「あれと戦うとか勘弁してください。なんでもしますから」
なんでもしますだと。クソッ、聖剣がないのがこんなに悔やまれるとは。いや、嘘です。リリムの場合、薬草食った時のことを思い出すので聖剣があっても抜く気が起きません。ええ、いい意味で。ローエン様がどこぞの師匠ばりに武闘派だというのを期待したがそんなこともなかった。つまり、やっぱり俺しか戦えないのか。いや、待て。
「いやいやアルゴよ。ここはマキシムたちを待つとかあるだろ。ほら、なあ。そこの骨のドラゴンさんよ。あんただって、こんな雑魚っぽいのと戦っても面白くないだろ」
「タカシ様。以前の男の姿ならそこそこの雑魚臭を感じさせましたが、今は歓楽街を取り仕切ってる妖艶な悪女的な雰囲気があります。その点では大丈夫ですよ」
「うるせえリリム。何ひとつとして大丈夫じゃねえよ。あと雑魚臭って言うな」
『女よ』
「あ、はい」
骨ドラゴンが眼底を光らせながらこっち見てる。おお、怖え。
『我はな。非常に苛立っておるのだよ』
「ああ、分かります。そこの駄竜がこそこそ逃げてたからですよね。まあ卵の殻も取れないヤツでして。ははは、笑っちゃいますよね」
『テメェ、あとで覚えてろよ』
馬鹿め。お前のことで俺が覚えているのはこれが終わったら報酬をくれるということだけだ。
『それもある』
ですよねえ。
『だが、それだけではない。この苛立ちは我らが主人クライマー様が立てた計画、それがことごとく妨害されたことに起因している。或いは瓦解しそうなほどの……な』
「なるほど?」
『クライマー様の策は本来完璧であるはずだった。一度はドーラたちに討たれはしたがクライマー様はナウラを逆に支配下に置き、世界を破壊する計画をここに至って実行した。デミディーヴァ様方を各国で一斉顕現させて国々の戦力を分断し、その間にこの場で召喚された我がそこのアルゴニアスを仕留める……はずだったのだ』
んん? なんか、すごい重要なこと言ってないか、こいつ。
各国でデミディーヴァが一斉顕現? 多分サンダリアのヤツもそのひとりってことだよな。ということは、別の国でもデミディーヴァが顕現してるってことか。
『だが、そこの竜は最後の最後で我をも討ち取るほどの力を発揮し、逃げおおせた。まったくもって騙されたわ。こちらの予想を覆すだけの力を隠し持っていたとは。さすが白神の剣の名は伊達ではなかったと言うことか』
ああ、それ神の薬草のせいだわ。
『おかげで我は回復に力を注がねばならなくなった。さらには聖王都の深淵堕ちが可能な状況になったことでクライマー様とその配下が教皇たちを亡き者にしようと出向いたが、帰っては来なかった』
ああ、それ神の薬草のせいだわ。
『残された我の気持ちが分かるか? 何もかもがままならぬ。深淵堕ちしようが、聖王国はすぐさま反撃を仕掛けてくるだろう。となれば我は自身の回復に時間を費やす余裕などなく、然りとて反撃に出るにはこの身は傷つき過ぎていた』
苦みばしったという声で骨ドラゴンがそう口にする。ガタガタと震えているのはその時の苦悩を思い出してるからだろうかね。ストレスマッハで追い詰められていたのは伝わってくるな。
『アルゴニアスの居場所までたどり着くための次元を斬る能力者もいなくなったために……その卵も探せず、この霊峰の完全なる支配もままならなかった。故に……我は、我は生者であることを捨て、この身を呪いに浸し、亡者となって己を保たせるしか道が無くなっていた』
それは絞り出すような、慟哭の言霊だった。こいつが邪悪な存在だってのは分かってる。それでもこいつの嘆きの声は俺の心を震わせた。
『もはやネクロドラゴンに堕ちた身は二度と戻らぬ。再召喚されようが、かつての肉の姿を取り戻すことはできぬ。だが、この地を退いてはここまでの行いがすべて無に帰す。それだけは赦せぬのだ』
おお、文字通りに血の涙を流してる。どういう理屈なんだろうな、あれ。見た目はただの骸骨なのに。それにしてもだ。
「もしかして、こいつって、すごい苦労してないか?」
『ああ、追い詰められた挙句、死霊化してまで撤退しなかったしな。アレをやっちまうと完全に己が存在を上書きしちまうから復活しても元には戻れねえ。ちょっとゾッとしねえな』
「ちょっと、可哀想になってきた」
『同情は禁物……というか、聞いた感じはほぼすべてお前のせいだろ。こっちからすればよくやったというところだけどよ』
「……う。止めろよ、聞こえたらヤバイだろ」
『聞こえているぞ』
「げ!?」
こいつ、耳がいい。いや、耳とかもうなさそうだけど。
『貴様、タカシと言ったな』
「なぜ、俺の名を!?」
『そこの女が口にしておったろうが』
「リリムゥ、敵に情報を与えるような真似をしてんじゃねえ!?」
「あ、すみません」
反省しろよ。まったく。アレ、アヴァドンさんがプルプルしてるぞ?
『その名は知っている。サンダリアに顕現したデミディーヴァ様を殺した勇者の仲間だったな。その腕の神竜の気配にも覚えがある。アルゴニアスを取り逃がした際にわずかに感じた気配。あのときは勘違いかとも思ったが、だが聖門を介さず、ここに侵入したことといい、アルゴニアスが我に致命傷を負わせた時、お前……もそこにいたな?』
バレてる!?
『それに、それにだ。その身を纏う呪い。クライマー様のものだろう』
『どういうことだタカシ?』
「ええ……と。クライマーを倒したら女にされる呪いを受けた的な?」
『そうかい。お前が倒したのか。さすがだぜモドキ。俺様が見込んだだけはあるな』
止めろ。大声で言うんじゃねえチンドラ。アヴァドンさんの周囲の瘴気が目に見えて黒々としてきたじゃねえか。ヤバイよ。ヤバイ。めっちゃ怒ってる空気出してる。
『なるほどな。すべて分かったよ女。すべてがな。神竜の腕を持ち、擬神を殺し、その呪いを受けてなお狂わぬ精神性。さらには我が子を屠り、今も我が障害として立ちはだかる。恐るべきだ。驚嘆すべき存在だ』
「過大評価に過ぎると思うのですが!?」
『否。否だ。ここに至って我は理解した。危険なのは勇者などではない。貴様か。何もかもが貴様なのだな』
「待て。話せば分かる」
『全ての元凶よ、滅びよ!』
「不味い!?」
未来視発動。対処は、
「出ろ神竜の盾。セイクリッドブレスだ!」
骨ドラゴンが瘴気を煮詰めて燃やしたような漆黒のブレスを吐いてきた。けど、それはこのセイクリッドブレスなら防げる。聖なる炎で燃やして相殺……できた!
『クククク、さすがだな。我が攻撃を読み、的確に防ぐとは』
「ちょっと待ってくれ。誤解。それ、誤解だから。さっきのも含めて」
『いや、結果的に見れば全部事実じゃねえか』
「口を挟むなチンドラ。アヴァドンさんが誤解するでしょ」
『分かっているぞタカシ。我が、我らが宿敵よ。どうなろうと貴様だけは逃すことはできぬ。そうでなければ我らにとって大きな災いとなろう。ここで貴様を四肢を引き裂き、生かしたまま臓腑を喰らい、死してなお永劫に悶え苦しむ死霊に堕としてやろう!』
クソッ。超乗り気だ。やるしかねえのか!?