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117 血肉は子へ、憎悪は骨へ

あらすじ:

 強そうな敵を倒してアルゴたちを助けてリリムに給料を払った。

 勝ったな。ガハハ。

「つぇええい!」

「「ギュアァアアアアアアア!?」」


 マキシムの振るう神巨人の水晶剣に斬り裂かれた竜頭のひとつが宙を舞う。

 タカシを先に行かせ、五頭ドラゴンと対峙していたマキシムであったが、戦いは常にマキシムの有利な形で進められていた。

 確かに五頭ドラゴンの火力は高く、恐るべき魔物であることには違いなかったが、ゴッドレアの剛力の腕輪で強化されているマキシムはそのすべてをかわし、またドラゴンをも十分に斬り裂ける5メートルある神巨人の水晶剣によって着実にダメージを与え続けていた。勇者としてあらゆる魔物と戦ってきたマキシムにとっては五頭ドラゴンとてそこまでの脅威ではなかったのだ。

 しかし、すべてがマキシムの想定どおりだったわけではない。


「これで三本目。ようやく動きも鈍くなってきたね」


 苦い顔でマキシムがそう口にする。

 五頭ドラゴンはまだ生まれたばかりなのだろう。経験不足によるものか攻撃は単調でマキシムも当たる気がしなかったが、体力と再生力が尋常ではなく、また全身を覆う鱗も並のドラゴンを大きく上回る硬さであった。


(こいつは恐らく対軍を想定したドラゴンだね。これと同じタイプが聖王国軍と戦っていると厄介かもしれない)


 そんなことを考えながらマキシムは水晶剣を振るい、それを受けたドラゴンが怒りの咆哮を返す。しかしその声にはマキシムたちが遭遇した時ほどの力はもう宿っていなかった。吐き出す炎も残ったふた首からのみ。翼も傷ついているために空を飛んで逃げることもできない。すでに死に体一歩手前。であればとマキシムの目が光った。


「タカシが待ってるんだ。悪いがこれで終いにさせてもらうよ」


 マキシムがそう口にして一気にドラゴンに向けて駆け出す。


「「グギャァアアアアアア!」」


 対してドラゴンの二首から連続で火炎弾が吐き出された。

 しかし剛力の腕輪によって強化された膂力のマキシムには掠りもしない。放たれる炎を木々を縦横無尽に飛び跳ねて避け続け、遂には木々の上部にまで登ったマキシムがそのまま水晶剣を振り上げながらドラゴンに向かって降下した。


「「ギュギャ!?」」


 ここまででももっとも勢いのある一撃にドラゴンがとっさに横に飛び避けようとするが、


「逃がさない。アーツ・クリスタルツリー」


 マキシムが叫び、次の瞬間に神巨人の水晶剣の刃先から無数の水晶がまるで木の枝のように生え始め、針葉樹のような広がりを見せて次々とドラゴンの体を貫いていく。


「「ギュギュギャァァァアアアアアア!?」」


 そしてドラゴンが断末魔の悲鳴をあげながら崩れ落ちると、水晶樹は大元である水晶剣を残して砕けて消えていった。


「ふぅ、終わったか。思ったよりも時間をとった。早くタカシの元に……」

「マキシム!」


 ドラゴンが確実に死んだのを確認し、マキシムがすぐさまタカシの元に向かおうとしたその時、先ほど自分たちがやってきた方角から自分の名を呼ぶ声が響いてきた。そちらに視線を向けると、それぞれが森の移動用の召喚獣に乗って走ってきているダルシェンたちの姿が見えた。


「ダルシェンにドーラたち、君たちの方もカタがついたのかい?」

「ああ。ドラゴンニンジャは強敵だったが勇者ふたりにその仲間を相手どるには少々数が足りなかったな」

「そういうことだ。で、そちらも終わったようだな。タカスさんは先に行ったのか?」

「そうだよ。タカシはひとりでアルゴニアス様を助けに行ったんだ。だから急がないと。ユニコフ来い!」


 マキシムがユニコーンを喚んで飛び乗るとすぐさま動き出し、勇者たちもそれに続いていく。途中、敵の妨害はなかったが正面の先でバキバキと何かが盛大に崩れていく音に気づいた彼らがさらに加速してその場に到達すると、そこには崩れ落ちていく空間の穴と、その前に集まっている者たちの姿があった。

 そして、その集団の中に見知った者の姿を確認したマキシムが「お父さん!?」と声をあげた。そこにいたのはザイカンたちであったのだ。


「マキか。そうか。タカシの言った通りにお前たちも来ていたのか」

「うん。今は外で教皇様がた聖王国軍が都市奪還のための戦いを開始していて、僕らはそれに合わせて救出に来たんだけど……お父さん、今タカシに聞いたって言ったよね?」


 マキシムの問いにザイカンが暗い表情で頷いた。

 その様子にマキシムは眉をひそめた。であればなぜ、今この場にタカシがいないのだろうかと。それどころか……


「タカシにアルゴニアス様それにリリムとローエン様。なんでみんながいないんだいお父さん?」


 マキシムの問いにザイカンが苦い顔をしながら視線を高くそびえ立つ、今は黒い雲に覆われている山『竜の牙』へと向けた。


「恐らくタカシやアルゴニアス様たちは……悪母竜の元にいる」




  **********




「は?」


 ええと、何が起きた? 俺勝ったよ。リリムたちを攻撃してたなんか白っぽい敵を倒して、アルゴを救って、リリムに給料渡したよね。あとはマキシムたち勇者組がアヴァドンと戦って、俺は勇者の誰かに神の薬草を食わせてあとは後ろで矢を射ってるだけの簡単なお仕事で、まあ勝てなかったら逃げればいいか……のつもりでいたわけですよね。はい。


「た、タカシ様、これは一体?」

「いやいやいや。俺が知りたいよ。どこここ? 何あれ?」


 けど、周囲を見渡す限りはどこぞの洞窟の中。俺たち以外は誰もおらず、俺らの前にいるのは紫色のオーラを漂わせているでっかいドラゴンの骨だ。まるで食べ終わったあとみたいに骨に肉片がこびりついているし、何より気配がヤバい。見てるだけで吐き気がしてくるほどに殺気立ってる。


「アルゴ、どうなってんだこれ!?」

『見ての通りだ。クソッタレ。こいつ、予想以上に神域を支配下においてやがった。俺様の気配を察してピンポイントでここまで転移させやがった』


 マジか。となると、この目の前の骨のドラゴンさんは前に戦ったデブッチョの悪母竜アヴァドンってことか。しかもアルゴのそばにいた俺とリリムとローエンさんだけがここに飛ばされてきた。周囲の警戒でサライさんたちが離れていたのが仇になったか。不味いだろ、これ。


『余計な者もついてきたようだが……まあ良い。ようやく会えたな白神の剣アルゴニアス』

『悪母竜アヴァドン。ダイエットには成功したようだな。スマートになりやがって』

『戯言を。貴様にやられた傷のおかげで我は死んだ』


 その骨だけの姿を見れば分かるが、あの時のアルゴの攻撃は致命傷だったんだな。


『故に我が血と肉によって我が子を生んだ』


 ズルリと骨から腐肉がこぼれ落ちて、地面に落ちたそれがワイバーンに変わっていく。なるほど、そうやってあのワイバーンの群れを作っていたのか。っていうか、肉片からどんどんワイバーンが生まれて増えていく。嘘だろ。


『そして我が意志はこの骨に』

『おいモドキ、気をつけろ。こいつはネクロドラゴンだ』

「ネクロ?」

『つまりはドラゴンのゾンビ……もうスケルトンだがな。己が憎悪を糧にして存在を維持している化け物だ。こいつはやべえぞ』


 そうかヤバいのか。でもこっちはマキシムもいない。サライさんもいない。みんないない。ローエン様は疲れたお爺ちゃんの顔してるし、リリムはほとんど戦力外だし、アルゴは卵だし……つまりは


『こうなりゃ、お前だけが頼りだモドキ!』


 やっぱり、俺が戦うしかないのかよ。


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