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116 終焉の竜

あらすじ:

 君は先に行け。その背中を俺が射る。

『おぉおおおおおおお!?』


 悪虚竜メイベルが爆煙の中でのたうち回っていた。

 防御は間に合わなかった。翼腕は折れ、全身は灼かれ、ズダボロとなっていた。

 それはあまりにも突然の出来事だった。生まれてまだ間もないとはいえ、戦闘の知識、勇者たちの詳細などをあらかじめ頭に焼き付けられている悪虚竜メイベルはこの攻撃がなんなのかも理解できていた。


『あの女の力を帯びた矢ですか。なんという……私が油断をしたですって?』


 喰らったものは爆裂の神矢だとメイベルは把握していた。

 虚斬爪は無属性だが、メイベル自身の肉体は闇属性。神属性に対しての耐性は低い。

 本来神属性とは神の域にある力で属性というものには縛られない。ただ根幹たる存在の差によって違いは生じ、ガチャ産の神属性は白の神ガルディチャリオーネを、デミディーヴァなどは闇の神クライヤーミリアムを根に持っている。そして神ならぬ身ではどちらであっても大ダメージを与えられてしまうし、白の神の力は闇の神の眷属たるメイベルにはなおさら天敵といえるものだった。

 また己がなぜその攻撃を喰らってしまったのかも予想はできていた。

 自身が破壊した空間の歪みが別の空間からの攻撃の気配を断っていたのだ。

 もっとも空間が歪んでいるのだから本来であれば正確に狙うなど不可能に近い。それこそ『未来が視える』のでもなければ。


『しかし、まだ私は負けたわけではない』


 メイベルは悪母竜アヴァドンの力を多量に注がれた悪竜だ。当然のように高い再生能力を持ち、また再生し終えたとしても魔力が底をつくことはない。故に爆発による土煙の中でメイベルは己の肉体の回復を優先しようとして……


 直後に周囲が金色の霧に覆われ、雷が全周囲から放たれてメイベルの体を貫いた。


『ギャァアアアアアアアアアアアアア!?』


 雷一本一本には大した威力はない。けれども爆発により傷だらけのメイベルは放たれ続けるソレらを回避しきれず、なすすべもなく喰らい続けていく。


『これは一体……うぐ!?』


 さらには金の霧の外から無数の雷の矢がメイベルに突き刺さる。


『馬鹿な。なぜ当たる? 何も見えぬというのに』


 視界の及ばぬこの金色の霧の中で何故にこのような精密射撃ができるのか?

 メイベルの疑問は次の瞬間には別の思考に切り替わった。正面から何かの影が迫ってくるのが見えたのだ。


『髑髏の騎士!?』


 正面から雷を帯びた髑髏の騎士が飛びかかり、メイベルの脇をランスが貫いた。

 メイベルがとっさに虚斬爪で斬り裂き、髑髏騎士の右腕が千切れ飛んだが貫いたランスは地面まで貫通し、メイベルをその場に押さえつける。


『ぐぁあああああ!?』


 メキメキと嫌な音が響く。それでもメイベルは竜に連なる者。


『な、舐めるなぁああ』


 すぐさま力を込めて立ち上がろうとして……


『っは?』


 その直後であった。腕一本分はあろう太い雷の矢がメイベルの頭部に突き刺さり、そのままメイベルの意識は霧散した。




  **********




「……ヒュウ」


 思わず口笛を吹いちまった。うーん、なんていうか完璧?

 ガシャーンってガラスが割れるような音の場所に急いで向かったら空間が割れてて、その先でリリムたちが変な白いのと戦ってたんだよ。俺はピンっと来たね。人型の白いやつ。こりゃあ強敵だって。

 まあ、実際のところはそうでもなかったんだろうけどな。だって未来視でも初手の爆裂の神矢が一切外れる感じがなかったんだよ。今までだって強そうなヤツってのは大抵狙った時点でこちらに気づくんだ。それがなかったってことは雑魚……いや中ボス程度のやつだったんだろう。そんで遠慮なく十連発ぶちかましてやったらブッ飛んだねアイツ。けど体力だけはあったみたいで死んではいなかった。

 だから続けて俺は新技のサンダークラウドを使ったわけだ。

 こいつは運河で戦った魔物リバージョーを倒した際に手に入れたふたつめの十字神弓のアーツだ。ソニアさんの件で慌ただしかったから話にはあがらなかったが、雷霆の十字神弓も成長してたんだよ。で、こいつはサンダーレインに比べて雷の威力は低いが、広範囲に金雲を発生させるんで目くらましになるし、こちらからは十字神弓を通して雲の中の敵の位置を把握できるっていう弓使いとしては非常に有用なアーツだったんだ。だから敵の位置は正確で面白いように矢が当たった。

 それから俺はボルトスカルナイトであいつをその場で押さえさせて、その間に九本の矢を纏めたナインアローで頭を潰した……というわけだ。うん、正直サンダークラウドと未来視があれば大体の敵は完封出来るんじゃないか。やるな俺。凄いぞ俺。


「す、凄い」

「あなたは……一体どこの勇者様なのですか?」


 おっと、近づいてきた聖騎士たちがなんか勘違いしているな。こいつら、どうやら俺のことは見たことはないらしい。


「俺は勇者じゃねーよ。まあ今、マキシム、ドーラ、ダルシェンさんは敵を倒しながらこっちに向かってるけどな」


 おぉぉおお……という歓喜の声があがった。


「それでこの場のメンツは……リリム、全員いるな?」

「は、はい。あ、あなたのおかげで無事です。本当にありがとうございました」


 なんだ、こいつ。随分と他人行儀に頭下げてきたぞ。

 実際には三日程度だけど体感的には十ヶ月くらい会ってないような感じすらしてるからな。他人行儀になるのも仕方がないか。まあ、いい。とりあえず用事を済ませちまおう。


「じゃあ、リリム。ともかく、まずはこいつを受け取れ」

「え? なんです? お金の入った袋?」

「お前の給料だ」

「は?」


 よし、手渡したぞ。ええと鏡を出してと。おお、額の刻印が消えていく。これで神様に殺されずに済むわ。ミッションコンプリート。このまま逃げ帰っても大丈夫も問題ない。


「あの……これ、どういう? いきなり、見知らぬ人からお金をもらうというのも」

「見知らぬ? お前、何言ってんだよ。俺だよ、俺。え、マジで分かんねえの。いや、そうか」


 あのクソデミディーヴァのせいで見た目も変わってるんだったか。


「あの……」


 やっぱり気づいてないか。確かに女になったときは女装よりやや女よりって程度の姿だったからな。今じゃあバインバインのボンボーンだ。ウフン。セクシーポーズを見舞ってやろう。


『モドキ。気色悪いぞ。その姿はなんだ?』

「うっせぇよチンドラ。空気読めよ」


 お前のせいでこっちは散々なんだよ。ちょっとポーズ決めたときぐらい黙ってろよ。


「モドキって……あ、もしかして……あなたはタカシ様!?」

「「「は?」」」


 何そのリアクション。そうですよ。俺ですよ。ほら、みんなのタカシさんですよ?

 バインバイン。


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