115 斬・斬斬斬斬・爆爆爆爆爆爆爆爆爆爆
あらすじ:
君は先に行け。こいつは僕が倒す。
登場人物紹介
リリム:ヒロインレース周回遅れの今や準レギュラーとモブの中間の生物。
アルゴニアス:神竜と呼ばれる凄く偉いドラゴン。凄く態度が悪い。
アルト:タカシにぶん殴られた人。マキシムのただの幼馴染。
ザイカン:TSの伝道者。娘を男にして下腹部を拝んだことがある。
サライ:勇者の中では最弱。
ヒナコ:魔術士。
ローエン:教皇様のパパ。
森の中を神撃の戦車で疾走していく。
寅井くんたちもいない。マキシムもいない。ライテーとふたりでのランデブーだ。アルゴの反応からしてもうそろそろってところだろうが、その前に敵と会ったらソロで挑まないといけなくなるんだよなぁ。
となれば敵を見つけてもすぐには攻撃せず様子を見てアルゴたちとの挟撃を狙うべきかね。
ガギィィン
ん、なんだ? この先から甲高い金属音のような音が響いてきた。
何かが起きてるな。けどアルゴの反応に変化はない。逃げたり移動したりしている感じもない。なら、この音を出しているのはやっぱり悪母竜側の敵か?
「となれば、このままだと見つかるか。戦車を止めるか」
『ラーイ!』
さすがに近づけば車輪の音でバレる。なので神撃の戦車を停めてひとまずは解除。そして神撃の戦車に付けていた加速のスキルジェムを神罰の牙にセットし直して、SRの神桜の杖を出して……と。
この神桜の杖は桜の木っぽい素材を使った杖で、サモンジェムのボルトスカルポーンと守護天使、それに攻撃魔術の三枚重なったスペルジェム神炎の嵐をセットしてある。召喚で頭数を増やせるし、神炎の嵐は範囲魔術だ。こいつなら集団戦でも対応できるな。
ガギィィン
おっと、また響いてきた。なんなんだ、この音?
さて、実戦では初投入の守護天使召喚だ。
「出てこい守護天使!」
『アーゥウ』
『ラーイ』
よし、召喚完了。金雲に乗ってるライテーと仲良く並んで飛んでいる。こいつは翼の生えた赤ちゃん姿の召喚天使だ。どこかのお菓子のロゴマーク的な、犬と一緒に天国まで運んでくれそうなこいつが身を呈して守ってくれるらしい。マキシム曰く結構有効な召喚体とのことだ。未来視である程度の回避はできるとはいえ、こういう備えがあれば一段と安定性は増すからな。
ガギィィィイイン
今のはさっきよりも大きいな。
それでボルトスカルポーンも召喚してからナイトに昇格させる。で、あとは爆裂の神矢を出して……よし、準備は完璧だ!
バッキィイィイイン
あれ、なんか完全に壊れたっていうような音がしたぞ?
**********
『こいつは外から空間を破壊されているな』
タカシの戦闘準備が終わる少し前、神域の隔離空間の中でアルゴニアスがそう口にした。周囲にはリリムとサライ、ローエン、それにザイカンたち勇者パーティと護衛の聖騎士たちがおり、彼らの前の空間がわずかに歪み始めていた。
「アルゴニアス様。これって助けが来た……というわけではないんですよね?」
不安そうな顔をするリリムの問いにアルゴニアスは『違うな』と言葉を返す。
『あのモドキが来たならすぐにでも空間を解除してやったさ。だが、あいつはまだ少し離れてる。どうやら間に合わなかったようだな』
「しかし、近づいてきてはいるのでしょうアルゴニアス様」
そう口にしたのは神鞭の勇者サライ。またマキシムの仲間である神官戦士ザイカン、自由騎士アルト、魔術師ヒナコ。さらにローエンの護衛である聖騎士たちも一歩前に出た。
ヒビ割れ始めている空間の隙間から邪悪なる気配が漂っていることは彼らにも理解できていた。つまりはその先に敵がいるのだ。空間を斬り裂き、ここに来ようとしている恐るべき敵が。
「そうですね勇者サライ。であれば最悪でもこの場で籠城すれば、希望はあるってことだ。あいつが来てるのは少々気になるが」
アルトがそう言って剣を抜いた。その光り輝く剣の名は光輝剣ルミナス。光の属性の力を持った最上位の魔法剣のひとつであった。
「リリムさん、ローエン様とアルゴニアス様を頼むよ」
「はい、アルト様!」
リリムがわずかに昂揚した眼差しでアルトに微笑んで頷く。リリムは主人には厳しく、甘いマスクには弱い女である。
『頼む……か。死ぬ順番が早いか遅いかの違いでしかないのでしょうけどね』
その言葉が響いた次の瞬間にこれまででもっとも大きな破砕音が鳴り、空間がガラスのように崩れ落ちていく。その直後、
ゾクリ……と、その場の全員が寒気を覚えた。
「なんで……す。あれは?」
そこにいたのは人の形をしているがヌルリとした真白い体皮を持ち、その頭部はまるでワームに近い、円状の口の中に無数の牙を持つ怪物だった。
その姿を見てリリムはかつてダンジョンでデミディーヴァと遭遇した時のことを思い出す。いや、感じたのはそれほどの脅威ではないが程度問題だ。己で太刀打ちできない相手であることには変わりなく、何よりこの場の誰よりも強いだろうとリリムは感じていた。
『ワームタイプの竜人……なのか? けれども、その内の力はドラゴンそのものか』
アルゴニアスが苦々しい声をあげる。そこにいたのは人型の竜。すなわち竜人の類。
なお竜人とは人と竜の間の子として認識され、タカシの腕のような竜種の特徴を持つ人間やリザードマンのような蜥蜴属のようなタイプも存在しているが、アルゴニアスが認識する限りでは目の前の存在に人の因子は感じなかった。つまり、それは人の形をしたドラゴンであった。
『我が名は悪虚竜メイベル。いますねアルゴニアス』
悪虚竜メイベルの視線がリリムの持つ卵に向けられる。
『なるほど、卵に戻って力を温存していましたか。白神の剣とすら呼ばれたあなたが脆弱な』
『そういうテメェはあのアヴァドンのガキか。あのデブ竜も大概だったが、テメェはそれに輪をかけて随分とブサイクに生まれちまったようだな』
その言葉にメイベルから強烈な威圧が放たれた。
『母への侮辱は許しませんよ』
『ククッ、その上にマザコンと来てる。救いようがねえ親子だ』
『貴様ッ』
そう言い切ったアルゴニアスにメイベルが睨みつけながら右手を振り下ろした。
「「「アーツ・セントウォール」」」
対して攻撃を察した聖騎士たちが三人前に出て装備している聖盾のアーツを重ねた。聖騎士たちの装備は聖騎士見習い限定ガチャなどを用いて同系統の装備を揃えている。重ねているか否かの差はあれど、装備を均一化し訓練によってアーツを重ねて使用することができる彼らの集団としての性能は決して低くはない。
『甘いな聖騎士ども!』
しかし、そんな聖騎士たちの聖属性の防壁はメイベルの爪から放たれた飛ぶ爪撃によって破壊され、アーツを発動した三人が血を吹き上げながら弾き飛ばされていく。
『それは……無属性、次元を切り裂く爪か』
『その通りですよ。聖属性は我らにとっては厄介極まりないが、この虚斬爪は違う。まあ、あなたの隠れ家を掘り起こすために用意したものですがね』
「は、随分と威勢の良い怪物じゃあないか。もっとも当たらなければ意味はないさ」
そう言ってサライが鞭を構える。ゴッドレアである次元の神鞭。それは虚斬爪と同じく空間に干渉する武器のひとつだ。
『勇者サライ、気を付けろよ。そいつは上級竜以上、悪竜の力をそのまま凝縮させたようなヤツだ。デミディーヴァほどではないだろうが、それに近い威圧を感じる』
「うわぁ、マジですかぁ?」
「ヒナコ。弱音を吐くな。サライさんの言う通りだ。当たらなければどうということはない」
アルトがそう口にして光り輝く剣を構えて最前列に躍り出た。
『ホォ。あなたは確かマキシムの腰巾着のひとりでしたよね。勇者ですらないあなたが私に挑むというのですか?』
「確かに僕は勇者ではない。けれども」
アルトの剣が光り輝く。
「マキと並び立つために僕が手に入れた、この光輝剣ルミナスの刃ならば」
『面白いですねぇ。では、その光、私が打ち砕いて見せましょう』
その言葉とともにどちらもが一斉に動き出した。
アルトが駆け、その後ろでヒナコが神炎の雷という魔術を、ザイカンが極限の神罰を同時に発動させたが、
『おやおや、一対一ではないんですか。ふむ』
メイベルが左腕を上空に振ったことでどちらも構築された魔術が破壊されて霧散した。続けて聖騎士たちが聖槍の投擲を放ったが、対してメイベルは右手の五本の爪から互いにぶつかり合うに爪撃を繰り出し、自身の目の前の空間を斬り刻んで歪ませ、投擲された聖槍の軌道をすべて逸らした。
「なんという力だよ」
「けれど、両腕を使った今のヤツならば」
そこにサライとアルトが同時に仕掛ける。サライが振るう次元の神鞭は空間を歪めて視界内の距離であれば鞭を届けさせることが可能なシロモノだ。そしてアルトは彗星の脚甲と呼ばれる魔導器を発動させて加速し、凄まじい速度でメイベルに突撃した。それはまるで彗星の如く。
『なるほど。いいコンビネーションだ』
正面は未だ空間干渉の影響で歪んでいて突撃できぬためにアルトは右から回り込み、それに合わせてサライは左から鞭を打ち込む。すでに両腕の爪は使用され、その隙を狙った形での左右からの同時攻撃だ。それは確かに有効であるはずだった。腕が『二本だけ』であれば……の話だが。
『だが、甘いですね』
「なっ!?」
アルトが気づいた時には遅かった。メイベルの背中から突如として生えた二本の翼腕の先の虚斬爪によって神鞭と光輝剣の一撃は弾かれた。
『そして、攻撃を行った瞬間こそが最大の隙であるのはあなた方も同様だ』
「しまっ」
また攻撃を弾かれて隙を見せたアルトが前の両腕に掴まれてしまう。
「アルト!?」
『注意不足ですね。ワイバーンならばいざ知らず、私はドラゴンですよ。翼に準じるものがあるのは当然のことでしょうに』
メルベルがククッと笑う。一瞬の攻防。そこで互いの実力と互いの格がはっきりと出てしまった。
「不味いな」
ザイカンが険しい顔をしてそう呟いた。しかし次の一手が思い浮かばない。戦力差は知れた。アルトはすぐさま殺されるだろう。人質を取る必要すらない。そして虚斬爪の攻撃は再び使えるようになるだろうし、その攻撃をサライは避けられるだろうが聖騎士たちには無理だ。また回避するしかない次元を斬る攻撃は後衛にとっても天敵なのだ。ザイカンとヒナコも苦戦は必至であり、リリムとローエンも戦えなくはないがこの場では戦力外でしかない。アルゴニアスは言うまでもない。どちらもが先の未来を理解し、片方はそれに絶望し、片方は笑みを浮かべる。
『では、終わりにしま……ガッ!?』
その直後だ。メイベルの背に何かが刺さり爆発が起きた。
「うぁぁああああああ!?」
同時にアルトが吹き飛び、さらにメイベルを中心に爆発が繰り返し発生していく。
「な、なんだ!?」
「アルトが吹き飛んで、それに」
繰り返された爆発の回数は実に十発。そして……
「殺ったどぉおおおお!」
聞いたことがあるような、ないような女性の声が崩れ落ちた空間の境界の奥からリリムたちの耳に届いたのであった。
……一体、何カシなんだ?