114 ファイブヘッド
あらすじ:
こいつは俺たちが食い止める。お前たちは先に行け。
「た、タカシ。これはいくらな、なんでも、はや、速すぎないか」
「しゃべんな。舌噛むぞ」
マキシムの言葉に答えている余裕はないんだ。
今、俺たちは森の中を神撃の戦車で一気に突っ切っている。
地面はグチョグチョで、木の根や岩で凸凹。普通なら車輪付きの乗り物が進めるはずもないんだが、神撃の戦車の車輪には魔力のフィールドが覆われていてタイヤよりもはるかに衝撃を吸収して走ってくれている。さすがウルトラレアというところだな。
「そ、それで、方角はあってるのか?」
「勿論だ。ここまでくりゃあ右腕でも感じ取れる」
神竜の盾は解除しているが、右の神竜の腕はもうアルゴを捉えている。だんだん人間離れしていってる気がするが、まあいい。ちなみに今は神罰の牙を装備し直して雷霆の十字神弓を背負ってる。どこで敵と遭遇するか分からないからな。いつでも攻撃可能にしておかないと。
「おっと」
「うわぁっ!?」
危ない。跳ね上げるところだった。まあ、事故りそうなのは全部未来視で回避している。ああ、まったくよく『視える』。一秒後の未来。その可能性を見通す未来視。最近は特によく視えてる。どうにも調子がいい。
「ホント未来視は使い勝手いいな。ライテー、サンキューな」
『? どういたしまして?』
キョトンとした顔をしやがって。お前の力だろ。この照れ屋さんめ。
『タカシ。上』
「あ、なんだ?」
「ワイバーンだ。けど、五つ首だって? それに大き過ぎるし、あれはもうドラゴンだね」
ドラゴンとワイバーンの違いは四肢プラス翼があるか両腕なしの翼と足だけかってことらしいが、例外として成長し種族限界を超えて巨大化したワイバーンはドラゴンに数えられるんだとか……まあ、そんな話をマキシムから前に聞いていたが、今飛んでったのはつまりワイバーン寄りのドラゴンか。あっ、Uターンしてきやがった。
「タカシ。ブレス……いや、火炎弾だ。来るよ!」
「チッ、しっかり掴まってろよ。ってなんじゃありゃあ!?」
ヤバい。火の球が連射で放たれてる。ひと首ごとに撃ち続けて途切れさせねえとか。ガトリングか、あいつ。
「うぉぉおお、こいつはやべえ」
このまま射線にいたら当たっちまう。けど、このままじゃ捉えられちまうな。未来視で避けられるのは、避けられる可能性があるものだけだ。確実に当たるもんなんざ避けられねえ。
「マキシム。このままじゃ避けきれない。ここは一旦止めて戦闘を」
「いや、タカシ。君はこのまま進め!」
「なんだって?」
そりゃあ、どういう……
「あれは僕がどうにかする」
「おいおい。それって俺ひとりで行けってことか?」
「ここで逃げ続けてもジリ貧だ。けど、ここで留まっても相手の思うツボだろう」
そうかもしれねえけどな。俺ひとりかぁ。まあ、あっちにゃマキシムの親父さんやサライさんもいるしな。合流できりゃあ、どうにかはなる……のか?
「しゃあねえ。やっちまえマキシム!」
「任せて。とっとと片付けてすぐに追いつくさ!」
マキシムがそう言って神撃の戦車から飛び降りた。この速度で生身で降りたんじゃあ普通は死ぬか重傷だろうがマキシムは勇者だ。そのまま大木に飛びつくと神炎の鎧をまとって上まで駆けていく。そして空中を跳んだマキシムが飛んでいた五頭ドラゴンの上に飛び上がると同時に神巨人の水晶剣を出して一気に振り下ろした。
「タカシの邪魔はさせないよ。たあっ」
「「「「「グギャアア」」」」」
「やったか。うぉぉおおおおお」
マキシムの攻撃を食らった五頭ドラゴンが森の中に落ちたが、すぐさま火炎弾がそこら中に乱射され始めた。こいつは危ねえな。ともかく、ここは任せていくしかない。頼んだぜマキシム。さっさと倒して合流してくれよ!
**********
「大丈夫。タカシ、君ならひとりでもやれるさ」
マキシムがそう呟きながら、走るタカシを背に水晶剣で火炎弾をはたき落とし続ける。五頭ドラゴンのソレは強力なれど、狙いも定まらぬものならばマキシムが弾くのは容易い。ソレを悟ったのか、或いは撃ち過ぎたせいか、火炎弾を放つのをやめて、燃える森の中で五頭ドラゴンがマキシムと睨み合う。
「「「「「グルルルルル」」」」」
「その威圧、上級竜にも届くんじゃないかな。まったく厄介そうな相手だよ」
マキシムが水晶剣を構えながらそう口にした。
もっともマキシムの表情にはいささかの絶望の影もない。この程度の鉄火場は何度もくぐり抜けてきている。最強種と名高い竜種が相手だとしても勇者であるマキシムは怯むことはない。
(しかし……胸には巨大な核石がはだけて、周囲がヒビいっている。高出力の核石を得て、体が耐えきれずに崩壊しかかっているのか。その上に頭部を五つに追加して火炎弾を連射させているとは……随分と無茶な強化をしたものだ)
目の前のドラゴンは明らかに力が暴走しており、わずかな時間しか生きられないだろうとマキシムは把握する。もっともそれは今すぐに死ぬ……というものではない。目の前の相手は短期決戦を見込んで生み出された魔物なのだ。この戦闘中に力尽きる可能性には期待できない。
「まったく、恐れ入るね」
「「「「「グルルルルルゥゥウ」」」」」
五頭ドラゴンがひび割れた全身から赤い煙を上げながら咆哮し、そして核石の光が増していく。
「しかし……悪母竜アヴァドンは悪竜の中でも上位であるとは聞いていたが、それにしてもおかしいな。どうやってこの短期間でこんな強力な魔物を生み出しているんだ?」
すでに深淵堕ちし魔都化した聖王都に魔物が生まれて溢れかえるのは分かるが、聖門前に飛んでいった大量のワイバーンといい、ドラゴンニンジャといい、アヴァドン自身が産み出した眷属が大量に存在するというのは解せない。なぜならばアルゴニアスは未だ生きており、支配権の奪い合いは続いている。それが完成するまではアヴァドンに余裕などできるはずもないのだ。
(何かを見逃しているのか?)
「「「「「グォッン」」」」」
「おっと、そうだね」
再び放たれた火炎弾を避けながらマキシムが不敵な笑みを浮かべる。
「考えるよりも今は君を倒さないと。すぐ追いつくとタカシに約束した。僕はもう約束を違えない!」