111 WAR
あらすじ:
HJ大賞2019二次を落ちたショックによりデモンエクスマキナをエンディングまでプレイしてしまった関係で更新が遅くなりました。すみません。全部デモンエクスマキナとかいうヤツが悪いんだ。そんなわけでタカシは霊峰サンティアに転移した。
「これより我らが行うは聖戦なり。我は汝なり。汝は我なり。皆、白の神ガルディチャリオーネの使徒なり! 我が右手、汝が右手は剣を振るい、我が左手、汝が左手は盾を携え、いざ進軍せよ!!」
時間は朝の八時。聖王都の正門の前に並び立つ魔物の群れと、それに対峙する聖騎士を中心とした聖王国軍がそこにはあった。そして戦いは錫杖を掲げた教皇の宣誓により動き出し、鬨の声を響かせながら兵たちが進軍する。その教皇の宣誓は教皇の錫杖を用いたアーツだ。アーツの名は『聖戦』。それはひとりひとりに対しての効果はそう高くはないものの軍全体に発動し、さらには同調した兵たちの意志によって効果が引き上げられる効果があった。
対して迎え撃つ魔物たちは召喚されて数日で質は悪く、戦いはすぐさま一方的になった。
「ハッ、やれるぞ魔物どもめ」
「突撃しろ。大盾持ちで動きを止めながら槍で突いて仕留めろ」
「このまま一気に……おい、あれはなんだ?」
「ワイバーンだ。凄まじい数の黒いワイバーンが攻めてくるぞ!?」
けれどもそれは空より襲来した数百という黒いワイバーンの群れによってすぐさま逆転される。一体一体ならば手の打ち様もあるが高低差のない場所でブレスを吐かれ続ければ対処は困難だ。すぐさま聖王国軍も防御魔術を張り、矢や魔術を放って対抗するが数に押されて進軍速度が鈍り始めていた。
「普通のワイバーンより速いぞ。魔術が当たらない」
「レッサードラゴン並みのブレスだ。化け物どもめ」
「広域魔術の使い手を前に出せ。アレを止めないと……う、ぉぉお!?」
そのワイバーンの存在に聖王国軍が脅威を感じ始めた直後、天より無数の雷が降り注いだ。
「なんだ、あれは!?」
「ワイバーンたちに当たっている。あれは味方の攻撃だぞ」
それは次々にワイバーンたちへと直撃し、さらには直下の魔物の群れをも巻き込んで拡散していく。そのあまりに苛烈な白銀の雷の乱舞に魔物は絶叫しながら弾け飛び、人も咆哮しながらその様子に目を見開かせた。
「こ、これは『神威の雷雨』か。しかしこの威力はなんだ!?」
広範囲に神の威が込められた雷の雨を降らす神聖魔術『神威の雷雨』。その一撃の力は極限の神罰に劣るが効果は広範囲に及ぶ範囲魔術だ。たった今放たれたものはその魔術に近しかったが、けれども明らかに規模が違っていた。そして、その魔術を放ったのは……
「恐れることはありません。この地は我らが地。白の雷は正しき者のためにお借りした神の御力。さあ、私と共に前へと進みなさい。不浄なる者たちより聖地を奪い返すのです!」
「おお、オスモウ様だ!」
「オスモウ様が来てくれたぞぉぉお!」
四大司祭のひとりであるナウラだった。
タカシの神の薬草より得た神力によって放った神聖魔術が大きく増幅されていたのだ。さらにナウラは、自らも戦場へと飛び込み、シコを踏み、凄まじい勢いでハリテで魔物を倒し、ブチカマシで弾き飛ばして道を作っていく。
その表情は決意を秘めた戦士の顔をしていた。知らずデミディーヴァをその身に宿し国に危機をもたらしたナウラは自らの責任を果たすために最前線で戦うことを決めていた。その身が果てようとも聖王都は取り戻すという決意がそこにはあった。
しかし、未だ彼女らは聖王都の正門を取り戻すべく戦っているに過ぎず、それすらもまだ達成はしていない。故に戦いは未だ序盤。真なる対決はその先にある。
一方でタカシたちの方は……
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「霊峰サンティア、まさか本当に転移できるとはな」
「信じてなかったのかよ」
「いや、そういうわけではないが、ただあまりにもアッサリと来れたから驚いてる」
転移門の遺跡を出たダルシェンさんが周囲を見渡しながらそう口にする。
ここはもうすでに霊峰サンティアの中だ。そして霊峰サンティアとは聖王国の要であり、不可侵の神域。本来は限られた者しか立ち入ることはできない場所で、裏口があるなんてダルシェンさんたちも想像すらしていなかったみたいだ。
だけど現に今、現実としてここに俺たちは立っている。転移は成功。全員、問題なくサンティアの隠し転移門の遺跡に到着した。俺の仕事は完璧だ。
「あの先に見える山は竜の牙だな。山頂を霧が覆っているが……こうして遠目に見るのは初めてだ」
「そうなのか。けど、勇者組ってみんなここには来たことはあるんだろ?」
「僕たちが入った時は聖門からアルゴニアス様の寝所の近くまで行っただけだしね」
「あたしらは決められた道を決められたように歩いただけ。こんな奥地に来た人間自体がほとんどいないはずだよ」
寅井くんの仲間であるモンクのカトラと大剣使いレナからそんな言葉が返ってきた。まあ、確かにお寺のお参りだって参拝ルートは通れても、奥の森とかに勝手に入ったりはできないか。その上にこの裏転移門の遺跡付近は隠蔽されていて、本来は神竜の力がないと近づくこともできないってアルゴも言ってたな。
「それで悪竜はあの霧の中の山の……竜の牙って言ったっけ? の山頂にいるわけだけどさ」
「丸々とした巨体を持ち、ワイバーンを大量に生み出す。悪母竜アヴァドンだろうと言われているドラゴンだろうと報告にはあったな」
「そうそう、それ。アヴァドンね。戦うにせよ、逃げるにせよ気づかれずに動きたいけど」
悪母竜アヴァドン。闇の神クライヤーミリアムの眷属の中でも『産むことに』特化した悪竜らしい。俺が以前に戦った上位竜よりも格上のドラゴンだが、あいつはアルゴの一撃で相当な深傷を負ったはずだ。まだ回復しきってはいないとは思うけど……
「そうだな。それでタカスさん。アルゴニアス様をどうやって探すんだ? 当てはあると聞いているんだが」
「ああ、こいつを使う。出ろ神竜の盾」
そして俺が出したのは3メートルある竜族専用の盾だ。
思えばこいつには随分とお世話になってるな。火を吐いたり船にしたりと大体は盾以外の用途でだけど。
「相変わらず巨大な盾だが……これでアルゴニアス様の居場所が分かるのか?」
寅井くんの問いに俺は頷く。元々アルゴの探索用にはあいつの鱗をもらってたんだ。手のひらに乗せるとあいつのいる方角に向いてくれるヤツ。だけど、そいつはリリムが持っていっちゃったので今はない。で、一応念のため、予備の方法としてこれを聞いてはいたんだけど……
「この神竜装備と俺の神竜の力を同調させることでアルゴの場所が分かるらしいんだよ。まあ、そもそも前提としてこんな事態は考えてなかったし、アルゴも軽い口調で言ってたからどの程度の精度かは分かんねえんだけど」
「おいおい、大丈夫かよ」
「どうするにせよ、ほかに方法ないしなぁ。とりあえず見ててくれよ」
俺は神竜の盾の握りを神竜鋏で挟んで、鋏から伸びた鎖を握った。こうすることで距離を離れても神竜の力を盾に供給できるようになる。それから俺の意思に感応して神竜の盾の表面の竜の飾りが動き出し、立ち上がった。
「お前、相変わらず奇妙なことをするな」
「便利なんだよなぁ」
何しろ俺の意思に反応してとはいえ盾が自ら動く上に金属で硬いし炎も吐くんだ。実際、いいモン引き当てたと思うよ。この点だけはアルゴに感謝だ。
「んー、行けそうかな」
神竜の盾を通して離れた場所に何かの反応を感じる。かなり弱ってる様子だし、途中に壁があるような感じもするけどこれがアルゴかな? ほかに神竜もいないだろうし間違いないだろう。そんで契約が生きている以上はリリムも生きていて、アルゴの反応もあるってことは他の人間も生きている可能性は高い。アルゴを殺せば霊峰の支配権は完全に奪えるはずだし捕まっているとも思えないから、リリムたちはひとまず安全な場所に隠れてるってことだろうな。
「よし、大丈夫そうだ。アルゴの反応がある。あいつは生きてる」
「そうか。良かった。アルゴニアス様は無事か」
「うん。それにリリムも生きているんだからみんないるはずだ」
ダルシェンさんがホッと一息つき、マキシムも安堵の顔を浮かべた。
どちらも身内が一緒にいるはずだからな。まだ油断はできないがひと安心だろう。
「方角も大体把握した。まずは神竜の盾の反応している方に進んでいこう」
「分かった。俺たちもそれについて行こう。しかし、その姿……なんか犬の散歩みたいだな。昔飼ってたドンスタリオンを思い出す」
寅井くんの犬って……確かポメラニアンだったっけ。黄金好きだからゴールデンレトリーバーが良かったのにお母さんがデカいのは嫌だって言って結局ポメにされて愚痴ってたとかいう話を昔聞いたことあったような。噂話だから本当かどうだか知らないけど。まあどうでもいいか。とりあえずはアルゴの反応に向けて進んでみるか。