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011 紅蓮の炎は彼の者を待ちわびる

「あれ……だな」


 見通しの水晶がはっきりと紫色のオーラを捉えている。木々の先、そこには粗雑な作りの建物があって、それから町で買った双眼鏡を使って奴らがいるのを確認した。

 それは全身緑色の子供ほどの大きさをした、けれども醜くただれたような顔をした怪物ゴブリン。そうだ。俺たちはあいつらの集落をようやく発見したんだ。

 ま、今回は最初からある程度の場所は分かってたから楽だったけどな。とはいえ以前に出会った際には危うく殺されそうになった相手だ。油断はできない。


「タカシ様、ようやくですね」

「ああ。町に戻ったら夕食は豪勢なものにしよう!」


 何はともあれ金が欲しい。そのためにあいつらを倒す。

 一昨日に酒盛りをしてさらに残金が少なくなったし、リリムもお金を貸してもくれなかった。なので資金繰りのためにロウトの町の討伐依頼所に向かって、このゴブリン退治の依頼を受けたというわけだ。

 で、討伐依頼所ってのは近隣の村や町から寄せられた魔物の討伐依頼を受けることができる場所だな。その依頼をこなすことで核石の換金だけでじゃなく、依頼達成報酬のお金も貰えるってわけだ。


「それにしても依頼って結構あるもんなんだな?」

「最近は特に多いですよ。闇の神の力が増しているそうでして魔物の出現率が上がってるんです」


 そういえばガチャの神様も世界の危機とか言ってたな。やっぱりやばいんだろうな。どうすっかなぁ。元の世界に戻れんのか、これ。


「まあ、ともかく……ゆっくり近付いて神弓で狙うかね」

「接近されたら私が仕留めますよ」


 リリムが流水の槍を握りながらそう口にする。

 一応魔物討伐はこいつもビギナーだが前回のゴブリン戦では死に物狂いではあったものの善戦はしてくれていた。まあゴブリンと一対一ならなんとかやってくれるだろう。と、思ったんだが……


「ギィ」

「あ、やば。リリム、上だ」

「ええ? きゃあ」


 気が付けば木の上にゴブリンがいた。いつの間に?

 それにドロリと変な液体のついたナイフを持っている。まさか毒か。


「来ないで!?」


 けどリリムもとっさに流水の槍を振るって飛び降りてきたゴブリンを叩き落とし、そして……


「ギャァアアアア」


 念のために仕掛けていた竜鋏に挟まって絶命した。うわぁ、胴体が千切れかかってる。


「これ、結構強力だな」

「それはドラゴン用の罠ですからねえ」


 そう言い合ってる間にもゴブリンが黒い霧に変わっていく。それと遠くから「ギィィイ」という声が聞こてきた。倒したゴブリンの悲鳴で仲間が気付いたっぽいな。


「不味いな。バレてやがる。リリム、アーツを使うぞ」

「ええ、急いでください。分散されたら効果が薄くなります」


 ああ、分かってるっての。俺はすぐさま見通しの水晶をしまって、雷霆の十字神弓の弦を引いた。アーツ、ようするに必殺技的なやつだ。

 雷霆の十字神弓は前回のドラゴン討伐の際に一段階成長しアーツが使えるようになっている。さらに新しい仲間もできた。


「頼むぞライテー、アーツだ」

『ラーイ!』


 俺の声に反応して神弓から小さな少女が浮かび上がってくる。

 この子こそが魔導器が成長した証らしい。元々魔導器には精霊が宿っているそうで、ウルトラレアほどのレアリティならば精霊がこうして顕現することもあるんだとか。で、こいつは俺の力を導いてくれる。俺の魔力を吸い取り、黒い雲を帯びた雷の矢を形成してくれる。


「アーツ・サンダーレイン、ヤツらに雷の雨を降らせてやれ!」


 そして俺の放った雷の矢が直線に突き進み、ゴブリンたちの頭上まで到達するとその場で破裂して黒い雲を発生させていく。


「ギキィ?」


 その様子をゴブリンたちが不思議な顔で見上げているが、何が起こるかまでは分からないだろう。だが、それでいい。さあ、落ちろ雷!


『落ちる』


 そうライテーの言葉が発せられた直後、凄まじい落雷音と共に黒雲の中から無数の雷がゴブリンたちへと降り注いだ。見るからにやべえ量だな。土塊が跳ね上がって、ゴブリンたちもぶっ飛んでいる。こりゃあすごい。


「アーツってのは強力だな。ちょっとヘロヘロになるけど」

「仕方ありませんよ。タカシ様は魔力もそれなりに高いようですが、その神弓のアーツは上級魔術に匹敵する威力ですから。ですが全滅とはいきませんでしたね」


 リリムが冷静な表情でそう口にした。

 なるほど、ヨロヨロとではあるがゴブリン二匹が走って逃げてるな。けど、逃がしゃしねえ。


「聖貨2枚分だ。とりこぼしてたまるかよ!」


 二匹倒せばあの限定ガチャ一回引けるんだぞ。

 けど二匹か。狙いをどうするか……うぉっと、矢が二本出てきたぞ。


「タカシ様、どうしたんですかそれ?」


 リリムも驚いているが、俺も予想外だ。

 そういえば神の薬草を食ったときは百本出せてたっけか。

 確か力の強さで増えるとか……そんなことを俺は言っていたような。

 ええと、つまりこれって腕力が上がったからできたってことか? 確かにこのドラゴンっぽい右腕のパワーはちょっと普通じゃないけどさ。けど、出せるならそれはそれで良しだ。


「まあいい。射るぞ」


 俺は集中して、頭の中で二匹同時のゴブリンを突き刺すイメージを浮かべると、すぐさま矢を射って命中させた。おお、ホント当たるな。

 この命中率、絶対に俺の技量の問題じゃあないわ。ライテーが「うむ」ってドヤ顔してるし神弓の力恐るべしだな。




  **********




「核石は全部で9個。つまり金貨18枚か」

「大戦果ですね」

「ああ、そうだな。普通に考えたらボロ儲けだな」


 日本円で三十六万円か。悪くない。

 戦闘終了後、集落から離れた場所でリリムと戦果の確認をしているんだが戦果は上々だ。核石以外は特に成果はなかったけどな。

 一応集落に寄ってみたけど、依頼書に記載されていた盗まれたヤギや牛らしき生き物の死骸が確認できたもののろくなものはなかったし、ゴブリンからドロップできたのも毒のナイフぐらいだった。

 まあ、これは持ち帰る途中で毒に接触する可能性もあるので土に埋めておいた。いらない魔物素材はそうしておくと勝手に消滅していくらしいんだけど土壌汚染とか大丈夫なのかね。

 にしても今回は依頼を受けたのでゴブリンのいる場所も大体分かっていたけど、やっぱり一日がかりにはなっちまうな。

 依頼の村に行くまでに馬車で半日かかったし今日はその翌朝。戻りで二日は使うとして限定ガチャには間に合うだろうけど……他に金を稼ぐのは無理そうだ。ドラゴンの角は結構高額で売れるっていうけどライテーのパワーアップに使えそうだから手放したくはないし。


「ところでタカシ様。最後に二本同時に射れたのは何だったんです?」


 核石を並べながらリリムがそんなことを聞いてきた。まあ、気になるわな。リリムも知らなかった能力みたいだし。じゃあ、ちょっと見せてやりますか。


「ライテー、出てこい」


 そして俺は神弓のカードを抜いて精霊のライテーを呼び出すとカードから小さな少女が出現した。


「ライテーちゃん、すごいですよね。人型の精霊というのも珍しいんですよ」


 トテトテと歩いてライテーが俺に神弓を渡すと、そのまま座り込んだ。成長した魔導器はこうして精霊を出すこともあるらしく、戦闘の助けにもなってくれる。もっともライテーはまだ生まれたばかりでできることといえば神弓の説明や魔力を込めてくれるぐらいだけどな。いや、それだけでも十分なんだけどさ。


「ありがとなライテー」


 俺が頭を撫でると、なんだか満足そうな顔をした。うん、かわいいぞ。それから俺は神弓を構えて弦を引く。すると雷の矢が一本出現した。


「一本ですね」

「まあな。けど強く引くと、ほら」


 俺はそう言って右の竜腕に力を込める。この異形の腕は魔力を吸うことで膂力が増していく。そして俺が弦をさらに強く引くと雷の矢が二本出てきた。これなら三本はいけるか。けど、これ以上はちょっと本気でいく必要があるな。

 それから俺がゆっくりと弦の力を緩めていくと二本の雷の矢が消えていった。


「という感じだ。力を込めるほどに矢が増えていくんだ。頑張れば三本、無理すれば四本はいけそうかな」


 俺の説明にライテーがうむと頷いているので正解らしい。


「なるほど。さすがウルトラレアの中でも最高位のひとつと謳われているだけはありますね」

「最高位とかいう基準があるのか?」


 ウルトラレア中のウルトラレア的な?


「そうですね。討伐者たちの間での評価なのですが、雷霆の十字神弓はUR+++と言われています。使い手はこの国では現在王都で活動しているロジャー・ハーケンという方がいますが、その方もまたすごい使い手だと聞いていますよ」

「へぇ」


 神弓使いの先輩か。そりゃあ会ってみたいな。有効な使い方とかも聞けるかもしれないし。ま、機会があったらだけどさ。

 それにしても全部で核石9個か。金貨に換えれば18枚。聖貨で9枚。限定ガチャ4回か。


「私の成功報酬と基本給もお忘れなく」

「分かってるよ」


 俺の目の色を見て何かを察したのか、リリムが視線鋭くそう言った。

 気付いたか。だが基本給は残念ながら後日渡しだ。限定期間が終了したらゴブリンの首を並べて渡してやろう。


「なあリリム。これからのことを考えると、この神の薬草をちゃんと使わないとガチャ代を稼ぐのは厳しそうだな」


 神の薬草のカード。こいつこそが俺の切り札だ。だが今は安易に使えない。

 普通に暮らすだけなら正直ゴブリンを倒しているだけでも十分なんだろうけど、ウルトラレアにゴッドレアを持っちまってるもんな。ぶっちゃけ選ばれてるよ俺。うん。それにふさわしいガチャ生活を送るとなると今後も金がいる。やはりガチャは自分の金で稼いでこそだよ。うん。


「それを試すのは不安なんですよね」

「ああ。能力が上がって、その後に筋肉痛になるだけならいいんだけどな。身体がぶっ壊れるのも気にしなくなるし、自分が自分じゃないみたいな感覚になるのは結構怖いわ」


 早々に学都とやらに行って調べてもらった方がいいかもしれないな。ひとまずは限定ガチャをしてからにはなるだろうけど。


 それから俺たちは狩りから戻ってきたらしいゴブリン三体とも遭遇したが危なげなく勝利し、計四十八万円の成果となった。

 リリムに成功報酬を渡すとしても限定ガチャ5回分は確保できたわけだ。ウルトラレアを手に入れるにはあまりにも弱々しい残弾数だが望みをかけて俺は大型魔獣討伐ガチャに挑むつもりでロウトの町に戻ったんだけど、なぜか町が燃えていた。


 うん……なんで?

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