107 人類史を無に帰す機構
あらすじ:
ビリビリビリー。うわー美人な神官戦士さんの服が破けちゃったぞー。
『WRYYYYYYYYYYYY!』
おいおいおい。ヤバい。想像以上にヤバいぞ。
つーかこれ、リリムのときよりも数段変化が激しくないか。ほら服が破けたと思えば、もう肉の塊になって、なのにソニアさんの顔がそのままで肉塊から浮かび出るような形になっていて、それに背中っぽい場所から光の翼を無数に生やして浮き始めてる。
こいつは見た目が完全に天使ベースのクリーチャーですよ。このまま『我は虚空より生まれし存在。人類史を無に帰す機構なり』とか言って文明を破壊したりしそう。ん、元ネタ? 特にはないよ?
「た、タカスさん、これはどういうことだ?」
おおっと、寅井くんが顔真っ青にして聞いてきた。そりゃあ嫁さんが天使型クリーチャーになったら驚くよな。うん、分かる、分かる。分かってる。けど、俺にも分からないことぐらい……ある。
「どうって言われてもな。これまでこんな感じになったことなんてないし。うちの従者のリリムもお相撲さんを肥大化させてエグみをつけたぐらいな程度だったんだけど。なあマキシム。お前、これがどういう状況なのか分かるか?」
よし、困った時のマキシエモンだ。こいつならきっと、なんかいい感じの言葉で俺を安心させてくれるはずだ。頼むぞ。
「うーん。多分なんだけど、まずナウラ様はデミディーヴァの影響を受けていて神力に対する耐性はあったけど、器としては大きくなかったから身体が肥大化したよね?」
俺は頷いた。今も維持できてるからね、あの人。でも神力の量には耐え切れなかったからかなり膨よかな体型に変わったんだよな。
「逆に僕は普段神剛力の腕輪を使っていて神力に耐え切れる器があった。けど継続して神力を使うほどの耐性はなかったから途中で限界を迎えたんだ」
マキシムは見た目変わらなかったものな。その後は残念なことになっていたけど。
「タカシは全身のボリュームが増して筋肉が肥大化したんだったよね。僕やナウラ様のように普段から神力に慣れていたわけではないけど、タカシは所持者だから薬草と親和性が高く、かなり君に最適化された形になったんだと思う」
なるほど。あとはアルゴの件もあるけど、あいつの場合は過剰供給か。元々神の薬草食ってるのと同じような状態なのが神竜だって話だし。
「けどさ。リリムは違うよな?」
あいつもここ最近はガチャを引かせてちょいと強くはなったけど、どちらかというと一般人枠だ。あれ、マキシムの顔が難しい感じになってる。まさかリリムにも何かあるのか?
「いやタカシ。リリムは天使族だよ。彼女の一族はそもそもがガチャ様の眷属。だから彼女も神力に対しての耐性があったと考えるべきだったんだ」
あー、確かそんな設定あったよね。いやもう忘れてたし、そういう落とし穴があったのかよ。畜生、マジかよ。
「つまりマキシム。もしかしてソニアさんは今までの薬草でキメた人間の中じゃ一番耐性が低かったってことか?」
「考え直してみるとそうなると思う。それに君は以前に言っていたよね。神の薬草には興奮作用があってタガが外れるから服用前に使用する目的を強く意識したほうがいいって」
「ああ、そうだったな」
鑑定士のパスカルにそんな説明を受けていたな。
あ、そうか。さっきは慌てて飲ませたから……
「レビテーションを使うことを強く意識させてなかった?」
「それも要素のひとつだと思う。定まらぬ意志と、時間制限で焦っていた上に彼女には耐性がなかった。あとは……」
まだ、あんのかよ!?
「もしかすると神の薬草が成長して強力になっているのかもしれない」
「薬草が成長ってどういうことだ?」
「魔導器が成長することでアーツを解放できるのは君も理解しているよね?」
「ああ、そうだな」
雷霆の十字神弓のアーツはサンダーレインで、神罰の牙はシルバーハンマーとシルバーエンチャントがある。十字神弓もそろそろ新しいアーツを覚えられても不思議じゃないし、神撃の戦車もいずれはアーツが使えるようになるはずだけど……まさか薬草も?
「なあマキシム、神の薬草は魔導器じゃないぞ」
「そうだね。ただガチャしたアイテムは魔導器でないからアーツは覚えないけど成長はするんだ。それによって効力も上昇する。魔導器でなければ微々たるものだから普通は気にしないんだけどね。それが神の薬草だった場合、どの程度伸びるものなのかの想像がつかない」
マジか。ただでさえ強力な神の薬草がさらに成長する? そりゃ凄え……っていうか、そんな劇薬そのうち誰も食えなくなるんじゃねえの?
「というわけでね。色々と考えてみたのだけれども、今の僕の予想が正しいとすれば彼女がこうなった理由としては十分だったとは思わないかいタカシ?」
「確かにそうだ。そりゃあ参ったな」
「そりゃあ参ったな……ではないだろう、お前たち!?」
「ていうか、ちょっとソニア。僕もなのぉ?」
「止めろソニア。私はお前を斬りたくはない。うわぁああ!?」
あ、マキシムと話している間に寅井くんが肉塊に取り込まれている。パーティメンバーのカトラさんとレナさんも一緒だ。どう見ても奇怪な肉塊が人間を捕食しているようにしか見えないが多分あれはハグってヤツだ。スキンシップの一種だろう。そうだよな? そうであってくれ。中で消化とかされてないよな? あ、食われた寅井くんが肉塊の中から顔だけ出てきた。
「タカスさん。ちょっといいかな?」
「あ、はい」
「わ……私はソニアにかなりの負荷がかかるとは聞いてはいたが……こんな……クリーチャーになるとは知らされていなかったのだが?」
「そうなんだけど、個人差があったみたいだな。ワリィ」
「いや、これはもう謝って済む問題では」
『ドーラ……私がいるのに……別の女を見てる?』
あ、肉塊から浮かび上がった人面瘡にしか見えないソニアさんの顔がニッコリと微笑んで寅井くんを見た。けど目が笑ってない。ハイライトがない。怖い。しかもチラッと俺に向けた視線が殺し屋の目をしていた。
「いや、見てないぞソニア。ああ、違うとも」
『レナやカトラはいい。でも他の女は……駄目……ね?』
「ままま、待て。そに」
あ、寅井くんがまた肉塊の中に取り込まれた。
「ええと、ソニアさん?」
『何? 他の女に目移りしないようにみんなでドーラを調教しないといけないのーー』
「あの、とら……いや、ドーラの女癖の件についてはあとでジックリ話し合ってもらうとして……この運河を渡りたいんですけど、お願いできます?」
「いいよぉおお」
おお、やった。無数の肉塊の翼が広がって、マキシムとダルシェンさんが浮かび上がった。そうか。あの背中の翼はレビテーションの力の具現化なのか。ソニアさんは始めから俺たちを運ぶための意思を持っていたんだな。さすが勇者パーティの一員だ。なんだよ、最初から心配する必要なんて……あれ?
「あの、ソニアさん? 俺が浮かんでないんですけど?」
『君は美人だしドーラが目移りしてたから』
は?
『だから君はダメェエエ』
「マジかよっ!?」
「ちょっとタカシ?」
「おいおい、あいつが一緒じゃないと意味ねえだろ」
うわぁ、嘘だろ。本当に俺を残して飛んでいっちまったぞ。
置いてかれたよ。マジで。どうすんだよ、これ?
ソニアフェイス:愛する男の前で醜くなりたくないという意思の強さにより変化がなかった。
ソニアウィング:レビテーションの具現化。一応考えてはくれていた。
ソニアアイ:真実を見抜く(※見抜きません)。
ソニアマインド:カトラとレナは良し。ナウラとタカスは駄目。顔面偏差値が影響していると思われる。
ソニアボイス:変化後の口調はドーラに甘えている時のもの。かわいい。