105 必要な犠牲
あらすじ:
主人公が普通に強者ウェーブを出し始めた。
どこかで痛い目にあわせなければならない。
おっし、倒したな。
竜水の聖矢のコントロールも上手くできてる。戻ってきた矢をまたカードに戻せば再利用もできるし、消費した爆裂の神矢も明日には復活するだろう。近接戦も未来視とカウンターで無敵だし、俺も随分と強くなったもんだぜ。どうやら俺の時代がきたようだ。
それと今のヤツも窓から飛び込んできた連中も人間の姿から怪物に変わったってことは、あいつらやっぱり魔族だったのか。だったら核石も回収しておかないとな。
前に倒した上級魔族は確か換金と報酬の合計で金貨400枚だったけど、今回の逃げたヤツの強さはそれほどでもなかったから多分中級で、部屋に入ってきたのは下級ぐらいかな。
さすがに今から換金してガチャをする時間はないけど……いや、ギリギリ間に合うか。と……あれ、なんだ。町の奥で何か光って……
「タカシ、何があったんだい!?」
「おお、マキシムか。魔族が襲撃してきたんだよ」
「え、またなのかい」
うん、またなんだよ。ホント聖王国のセキュリティのガバさ加減がやば過ぎる件。で、マキシムがようやく出てきて、寅井くんやダルシェンさんたちも奥の階段から上がってくる姿が見えた。
「隣の部屋にいたのに、また僕は……」
あ、マキシムが落ち込んでる。でもマキシムも気づかなかったってことは前にあったみたいに音を遮断されていたのかもな。あと鬱るのはちょっと待って欲しい。窓の外から少しやばいのが見えているんだよ。
「なあマキシム、ちょっといいか?」
「役立たずの僕に何か用かい?」
「あの……ほら窓の外のさ。あっちの町の南の方。なんか燃えてるっぽくねえ?」
「燃えてる? ああ、確かに火事みたいだけど。って、あれ……あの方角ってもしかして転移門の遺跡のある場所じゃないか?」
「あー、やっぱりそうだよな。お前もそう思うよなぁ」
俺たちの目に入ったもの、それは燃えている転移門の遺跡だった。
実は俺に魔族が襲撃したのと同じ時間に、転移門の遺跡も攻撃されていたのだ。
そして遺跡を襲撃したのは魔族が召喚した魔獣たちだった。俺たちが急ぎ向かって到着した時には転移門は破壊され、修復こそ可能だが今すぐの転移は不可能だと言われてしまった。
つまり、俺たちは霊峰サンティアへの移動手段を奪われたんだ。
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「まさか、魔族はすべてを予期していたということか?」
状況確認を終えた俺たちが再びホテルに集まった後、ダルシェンさんがそう口にした。まあ、俺たちが来たのを狙いすましたように襲ってきたんだ。それに本来転移門の守護をしていた騎士さんらも聖王都奪還のために今は留守で警護は最低限の数だったらしい。ダルシェンさんがそう思ってしまうのも仕方がないな。まさか、たまたま勇者が来たことを知ってちょっかいかけようとして、転移門も嫌がらせに壊しただけ……なんてこたぁ、さすがにないだろうし。
「予期していた……ということはないだろうな。メルカヴァの操者からの漏洩もあり得ないし、一緒に降りた転移門の管理官長様も襲撃を受けて重傷だ。命には別状ないらしいが」
寅井くんの言う通りにあらかじめ知らされていた……裏切り者がいると言うのも考え辛い。
マキシムと俺はあり得ないし、ダルシェンさんはサライさんを助けようと動いているわけで、寅井くんは嫁ーズとイチャイチャしていたらしいしなぁ。
「ともかくだ。問題はこれからどうするかだってことだな。タカシ、転移門を修理することはできるのか?」
「できるわけねえだろ。少なくとも俺には無理だ。俺が知ってるのは使い方だけで構造を理解しているわけじゃあねーんだからよ」
スマホが使えるからと言って、スマホを直せる道理はない。
「ただ、ほかの転移門からでもサンティアへ飛ばすことはできるぞ」
「それは、今から別の転移門に向かおうってことか?」
「ああ。時間がないのは分かってる。明日の朝8時には突入していないと聖王都奪還戦には間に合わない。けど、それでも行くしかないとは思うんだけどな」
「まあ、聖王都の奪還に合わせて動けずともアルゴニアス様の救出は進めるべきではあるか。ソニア、聖王国の地図を出してくれ」
「はいドーラ。これよ」
寅井くんのパーティメンバーの神官戦士ソニアさんがポシェットから地図を取り出してテーブルに広げた。結構大きな地図があんなに小さなポシェットから出せるってことは……もしかしてあれって無限収納的な袋か? そういうのもやっぱりあるんだな。
そして広げられた地図には海に囲まれた聖王国全体が描かれていて、転移門の遺跡のある場所も記載されていた。ええと……それで南の転移門の遺跡がここで、それ以外にも聖王都内の遺跡はあと2つあるみたいだな。
「聖王国内の転移門の遺跡はここを含めて三箇所。ウチ一箇所は聖王都を挟んだ国内の真逆の場所にあるから除外するとしてだ」
「残りひとつはそれなりに近いよな。今から向かえば十分に間に合いそうに見えるんだけど?」
「直線で進めれば近いな。けど。ここにセルカ運河がある」
「セルカ運河?」
「大きな川があるんだよタカシ。日が出ているなら船を使えるけど……夜は厳しいね。魔物が活性化してる上に暗くて対処が難しいし、船を確保できるかも……けど、この状況ならやるしかないか」
俺の神竜の盾を船代わりにできなくはないけど……乗れて二人か三人だよなぁ。
「ソニア、お前の空中浮遊の魔術でも無理か」
「うーん。できてふたり運べる程度かな。この人数を渡らせるのにはさすがに魔力が足りないわ。転移門を操作できるタカスさんと後はドーラだけなら行けるかも」
「レビテーション?」
「空を飛ぶ魔術だよタカシ。賢者クラスなら飛び続けることもできるらしいけど」
なるほど。便利な魔術もあるんだな。
「申し訳ないけど、スキルジェムは重ねられていないし私の技量と魔力では大したことはできないのよ」
そう言ってソニアさんが申し訳なさそうな顔をするが、けどちょっと待って欲しい。もしかすると行けるかもしれない。
「マキシム、そのセルカ河まではここからどれくらいかかる?」
「僕のユニコフなら二時間。タカシには神撃の戦車もあるし、みんなも移動用の手段はあるよね?」
マキシムの問いに全員が頷いた。移動手段の確保って結構必須なのね。しかし二時間か。今から出れば今日中にはギリギリ間に合いそうだな。
となれば……俺はマキシムの仲間のソニアさんを見た。金髪の流れるような髪をしたクッコロさん的な感じの神官戦士。彼女の協力があればどうにかなるかもしれんない。そう彼女を……俺は……