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104 ナイトフライト

あらすじ:

 魔族がタカシたちを狙っている。ピンチだ。

 転移門のレクチャーも終え、俺が泊まる宿に到着した頃にはもう夜になっていた。明日は霊峰サンティアに転移門経由で進入してリリムやアルゴたちを救出し、可能であれば聖門を制圧するか悪竜を討伐もする。まあ、最悪リリムたちを見つけたら逃げちゃえばいいわけだけど、マキシムたち勇者組はやる気だしどうなるかな。


「それにしてもスイートルームにひとりとか……持て余すよなぁ」


 ふわふわのベッドにひとり寝転がっているが、部屋ひとつが無駄に広くて落ち着かない。マキシムと一緒で良かったんだけど、マキシムは男ということになってるし、今の俺は女だからってんで部屋は別で用意されたわけだが……ん?


 コンコンとドアのノックの音が聞こえてきた。


 こんな夜中に誰だ。マキシムか? まさかリリムのときみたいにまた魔族が侵入してくるとかないよな。いやいや。ここもセキュリティ高めの宿らしいし、大丈夫だろ。


『申し訳ありませんお客様。勇者様がお呼びです』


 で、相手は宿の人で勇者からの呼び出し? マキシムなら直接来るだろうから、となるとダルシェンさんか寅井くんか。まあ、今の俺は女だし、夜中に直接出向くってのは不味かったってことかね。しゃあないな。


「へいへい。行きますよっと」


 俺はゆっくりとベッドから降りると、そのまま入り口のドアに向かって歩き出し、そして次の瞬間に窓が割れて男が三人侵入して、ドアが破壊されてゴツイおっさんが飛びかかってくる。


 ……という光景を『視』た。なるほど?




  **********




 準備は万端とヴェイガンはほくそ笑みながら、そのドアの前に立っていた。町中での情報収集の結果、やってきた勇者一行の泊まっている宿も知ることができ、今はこうしてその宿の中にまで侵入していた。


(まったく、この国の魔術結界などクライマー様がすでに解析を終えている。それに気付かず、ノコノコと我々のいる町に来るとは運がなかったな)


『へいへい。行きますよっと』


 中から女の声が聞こえてくる。この部屋にいるのは勇者マキシムと共にいる神託者だとヴェイガンは聞いていた。ここに来るまでに得た情報ではやってきた勇者はマキシム、ドーラ、ダルシェンの三人で、さらにドーラのパーティと神託者も一緒にいるということだった。

 ドーラとそのパーティは夫婦であり共にいて手が出しづらく、危機感知能力が異常に高い勇者に対して奇襲をするのも難しい。だからまず彼らが狙ったのはタカスと言う名の神託者だった。ヴェイガンたちはまずタカスをマキシムへの人質として捕らえるつもりであった。


(くっくっ、緩いな。まあ神託者などあの白の神の声を聞いただけの人間よ。部下たちを差し向けるまでもなかったろうが)


 とはいえ、すでに作戦は進んでいる。中にいるタカスが動き出したのと同時に外から配下が侵入し、ヴェイガンも中へと入り、確実にタカスを捕らえるつもりだった。

 そして中で窓ガラスの割れる音がした。それで部下たちが侵入したと理解したヴェイガンはドアを破壊して自分も侵入しようとして


「ッぐあ!?」


 直後にドアが破壊され、ヴェイガンは顔面を殴られ壁に叩きつけられた。


(何ぃ!?)


 全く予想外の一撃にヴェイガンの頭の中が真っ白になる。けれども目の前で窓際が爆発して配下が吹き飛んでいる光景を見たことでヴェイガンはすぐさま意識を取り戻す。


「窓もドアもぶっ壊しちゃったけど……まあ、侵入されたのが悪いんだし大丈夫だよな」

『ラーイ』


 そんなことを口にながら部屋の中にいたのは黒髪の妖艶な美女であった。それが銀のガントレットでヴェイガンを殴り付け、さらには雷を宿した弓で窓際に爆発する矢を放ちヴェイガンの配下を仕留めていたのだ。


(一瞬? たった一瞬で)


  ヴェイガンが戦慄する。女の持つ弓もガントレットもURの魔導器であろうことは気配で察せられた。それを使う女の威圧はほとんどないが、一呼吸する程度の時間で自身ら全員を倒した腕前は明らかに強者のソレだ。今もヴェイガンの顔についた拳の跡が聖水を浴びたかのように悲鳴をあげたくなるほどの痛みに襲われている。


(だがな、不意打ちは食らったが)

「この距離であるならば女の力など!」


 ヴェイガンが腰を落として一気にタカスへと迫った。ヴェイガンは黒神器という魔族の魔導器の手甲を用いて戦う魔戦格闘家だ。不意こそ打たれたが接近戦でならば負けはしない。そう考えていたヴェイガンだったが……


「アーツ・シルバーエンチャント」

「ぐあっ!?」


 次の瞬間には銀色に輝くガントレットが鳩尾に叩き込まれ、ヴェイガンは再び壁に激突する。


『おー。タカシ、なかなか効いてる』

「おう、そうだな。さすが補助系アーツだ。パンチの威力がめちゃ上がってるぞ」


(アレは……神罰の牙か。魔族にとっては天敵である白の神気を放つUR魔導器。しかもガントレットの中にも何か仕込みがある。俺の攻撃を見切ってカウンターを仕掛けたことといい、こいつは高レベルの格闘家だ。間違いない。或いはこいつも勇者なのか?)


 恐るべきは今こうして攻撃を食らってなおヴェイガンは目の前の相手を強者とは認識できないでいることだった。明らかに近接戦を得意としている者ではない、ただの素人のような立ち振る舞い。しかし、だからこそヴェイガンの警戒心は大きくなる。認識できぬほどの力の差があるのだと理解する。状況は不利。であればヴェイガンの決断は早かった。


「あ、逃げた!?」

『ラーイ!?』


 ヴェイガンは戦略的撤退をおこなった。

 元々はクライマーの元に帰還するという本来の目的から外れた、欲をかいた作戦だったのだ。それに失った配下は下級魔族で戦闘能力は低く、自分さえ生きていれば問題はないとヴェイガンは考えていたのである。

 そして通路の先の窓を飛び破り、そのまま魔族としての姿に戻ると翼を広げて夜の空を飛んだ。

 それから少し距離を取ったところで後ろから雷の矢が飛んだが、それはヴェイガンを越えて天へと伸び、


「外したか……は? 雷だと!?」


 ヴェイガンの目の前で光り輝く雷の矢が金色の雲となり、さらには雲が雷を生み出して周囲に拡散していく。ヴェイガンはそれを避けながら舌打ちをする。直撃すれば無事ではすまなかっただろう。


「しかし、当たらなかったのだ。であればこのまま逃げることも」

「おーし、雷の光で姿が見えたなライテー。とっととぶっ倒すぞ」

『ラーイ』


 背後からの声にヴェイガンが苦々しい顔をしながら後方へと魔法障壁を展開する。先ほど己の配下を仕留めた攻撃手段が爆裂の神矢と呼ばれるものであることをヴェイガンは知っていた。

 それは神器限定ガチャなどのごく一部の限定ガチャでしか手に入らない、対魔族の決戦武器のひとつだ。消費武器のためレア度はSRではあるがその威力は並みのUR魔導器のアーツに等しい上に攻撃範囲も広い。だが、その矢は着弾した時点で爆発が起こるため、魔法障壁などを用いれば防ぐことはそれほど難しいものではないはずだった。


「ぬ、来ない?」


 しかし爆発は起こらない。そのことにヴェイガンが疑問を感じ、後方へと視線を向けたのと同時のことだ。


「カハッ」


 金の雲の中より水でできた東洋竜が一気に下降し、ヴェイガンの体を貫いたのだ。


(馬鹿な。まさか雷の光と音を隠れ蓑に……すでにこの攻撃を仕掛けて)


 ヴェイガンは察した。タカスが放った金の雷雲は夜の闇の中でヴェイガンを視認するための灯りであると同時に水竜に気付かせぬための隠れ蓑であったのだということを。そして雷雲を抜けて雷を帯びた水竜の攻撃を受けたヴェイガンは自らの意識を手放し、そのまま消滅したのであった。

未来視による先制→タカシパンチ→爆裂の神矢→敵は死ぬ→カウンター&シルバータカシパンチ→竜水の神矢(射出)→サンダーレイン(目視のための灯り)→竜水の神矢(着弾)→敵は死ぬ

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