103 新しき技術
あらすじ:
チートハーレム勇者はゲロ夫と化したが嫁たちはそれも可愛いと言い、タカシはチートハーレム勇者など爆発して死ねばいいのにと一瞬思ったが、よくよく考えれば自分もリア充の仲間入りをしていたことに気付いた。ただ、気に食わないものはやはり気に食わなかったので寅井くんに唾を吐きかけてやりたい気持ちになった。
あと、転移門の遺跡のある町に着いた。
「ええと、こんな感じっすかね。それで地図の光点……座標をこの図式に従って計算して指定をするわけです。そうすると……出てきましたよね」
「おお、転移門の術式をこうも鮮やかに。まさか、こういう使い道があるとは」
俺が転移門の前にある水晶玉に魔力を通して、表示された光のパネルに映るマップを表示しながら説明をすると管理官長さんがメチャ驚いていた。
転移門の遺跡ある町にメルカヴァから降りた俺たちは、実際に転移門を使えるかの確認のために遺跡まで来ていた。とはいえ寅井くんやダルシェンさんらはここにはおらず、この場にいるのは護衛のマキシムと聖王都から一緒に来ていた転移門の管理官長と俺の三人だけだ。この管理官長は俺がアルゴから聞いた転移門の操作について知りたいらしく、説明したら盛りのついた犬のように狂喜乱舞し始めた。
「あまり操作としては難しくないと思いますけどね。ここをこうして、こうすると……ほら、出てきた。こっちが今止まってるだけのヤツで、こっちの黒いのが壊れてるヤツっすね」
「ほぉ。薄い光点が出てきた。これが非稼働中の転移門で、黒いのはすでに稼働が停止した転移門ということか。非稼働中ということは、これを稼働させれば新たなるルートが用意できるという事で。て、転移門の操作にこんなものがあるとは……これは凄い」
「まあ、非稼動っつってもスリープモードみたいですし、一定時間操作しないと節電? 節魔力? のために止まっちまうだけみたいで再稼働もここからできますしね」
「今まで転移門の遺跡は発見してこの水晶球を通して稼働させないと繋げられなかった。だが、今後は未だ確認できていない遺跡へも行けるということだなタカシさん!」
マップに表示されているのがこの世界全体の地図で、散らばっている色違いの光点は転移門の場所だ。どうも世界地図を見ると地球と似た感じになっていて、今ここはイギリスに該当する場所でサンダリア王国は欧州内だな。ドイツ辺りか? ヨーロッパはヨーロッパってぐらいで国の境とか俺にはよく分からんけど。
そんでパネル下に表示されているのが転移先の転移門のシンボルで、今まではそこに表示されていた転移先しか行けなかったんだと。
でも実際にはこのマップの光点のある座標を指定して転移先を変えれば移動可能な転移門ならどこにでも行けるわけだ。つまり俺の教えた通りに使えば好きな場所に移動できるようになって超便利になるわけだ。
「しかし検索と移動先の変更か。これは……相当不味い……のだろうなぁ」
「ああ、やっぱり不味いんですかねえ」
管理官長さんの言葉に俺は苦笑いで返した。
霊峰サンティアに向かう為の転移門の説明のときにうっかりこの話を漏らした際に教皇様に「何それ?」的な顔されて全部ゲロらざるを得なかったんだよな。
「タカシ、それってつまり、今後は転移門はどことでも繋がってしまうってことだよね?」
「まあな。一応転移門同士の距離だかの問題で転移できる制限があるし、いくつかの転移門は指定できないみたいだ。どういう基準でできないのかよく分かんねえけど」
神竜の力を注ぐと霊峰サンティアは解禁できるけど、他はダメだ。なんか別の条件があるっぽい。
「今までの研究でもこの地図を出す事はできたが……まさか、こんな操作が可能だったとは。タカシさんはこの転移門研究を1000年は進めたかもしれない」
「アルゴに聞いただけっすけどね。どの道、神竜の力がないと選択もできなかったでしょうし……はい、魔力は記録しましたから管理官長さんでも操作できるようになりましたよ。霊峰には神竜の力がないといけませんけどね。あと管理官長さんが設定すれば、他の人も使用できる権限も付与できるようになりましたんで」
一応、これで俺のお役目はごめんだ。管理官長さんが使えるように設定したし、同じように使える権限も付与できるように設定した。
それにしても検索とかマップ表示とか権限付与とかインターネットの管理者権限みたいなことしてるよなぁ。昔の遺跡の技術だし、時系列的にはインターネットが似てるというべきなんだろうけど。人間ってのはおんなじことを考えるってことかね。
「ああ、分かった。ありがとうタカシさん。ただ、この件に関しては教皇様にも秘密を厳守するように言われている。現状では今まで通りに。権限を与えるにせよ人選は教皇様と相談し決めていこうと思う。いや、それもアルゴニアス様にお伺いを立てなければならないが」
「そこらへんはお任せしますよ。俺もアルゴに説明受けただけですし」
ここら辺の説明は全部アルゴから教わったものだし、それを俺から教えられても勝手に使うのは恐れ多いから最終的にはアルゴの許可次第ということになったらしい。アルゴが死んで俺が死ぬ可能性もあるから、こうして先に教えてるけどな。
ただ、その交渉がうまくいけばあとで俺に報酬も支払われるとのことで俺のテンションは高い。報酬、なんとも素敵な言葉だ。アルゴからの報酬もあるし、さっさとあいつを助け出さないとな。ああ、あとリリムも。
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「勇者たちがこの町に来ているだと?」
タカシが転移門の遺跡で管理官長に転移門の操作をレクチャーしている頃、その町の片隅の宿に三人の男たちがいた。
いずれも見た目は冒険者といった風貌であり、彼らは今日の朝にサンダリア王国からこの転移門を通って聖王国へとたどり着いた者たちであったが、その内側は人のソレではなかった。
「ハッ、ヴェイガン様。天の車メルカヴァが到着し、勇者マキシムと数名が降りたのを確認いたしました」
「妙だな。話によれば今聖王都はクライマー様のお力により深淵に堕ちたと聞く。勇者とは白神の使徒。何故に戦列を離れた?」
彼らは人間に偽装してサンダリア王国側から転移門を通ってやってきた魔族たちであった。元々はクライマーの配下であったのだが、新たなるデミディーヴァの誕生の神託を受けてその下に付くべくサンダリア王国内で待機していたのである。
しかしタカシたちがデミディーヴァを倒したこととクライマーの動きが本格化したことを知らされた彼らは止むなくここまで戻ってきていた。
「マキシムはサンダリア王国出身の勇者。或いは聖王国はすでにクライマー様に対しての勝利を諦めたために、マキシムを自国へと戻したのではないのかと?」
「なるほど。あり得ない話ではないか。デミディーヴァ様を殺したとはいえ、一個人で戦況は覆せぬ。勝利望めぬのであれば返すが道理か」
勇者とは形式上は施しの神にして白神ガルディチャリオーネの使徒であり、国の境を超えた存在とされている。だが、その多くは所属している国が存在している。
そしてドーラやダルシェン、サライはガチャリウム聖王国所属であり、マキシムはサンダリア王国所属の勇者だ。
この魔族たちのいう通り、聖王国がすでに戦況を覆せぬと考えているのであれば、その後のことを考えて聖王国がメルカヴァを用いて所属国に戻すという選択もおかしいものではなかった。
「くく、どうやらクライマー様は聖王国をもはや手中に手に入れたも同然らしい。それにこの町に勇者がいるとなれば……」
「その首を手土産にできますな。あの小うるさいティモンなどにデカい顔をさせずに済む」
彼らは知らない。すでに聖王都に巣食っていたデミディーヴァ『クライマー』もその配下たちも討伐されているという事実を。
もっとも、すでに聖王都が落ちているという情報だけは耳に入ってきていたために、彼らが今もクライマーが生きていると認識しているのは仕方のないことではあったし、仮に死んだことを知っていたとしてもその行動が変わるわけでもなかったろうが。
「戦いから逃れるためとなれば明日にでもサンダリアに帰還するやもしれん。であれば今夜仕掛けるぞ」
「「ははっ」」
その場のリーダーらしき魔族ヴェイガンの言葉に全員が頷き、そして彼らはすぐさま動き出した。そして戦いは霊峰サンティアに到達するよりも早く始まろうとしていた。