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灰の舞い散るこの世界で 作者:
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炎の中で

どうも、新作始めました。
お読みいただければ光栄です。

更新は気まぐれかな。
星の明かりを隠すほど生い茂った木々の中を、木の根につまずかない速さで駆ける。
片手には石でできたナイフ。もう片方の手でまだ小さな妹、ラウの手を引っ張る。
この小さく忌々しいナイフは、ラウを襲おうとしていた赤い皮膚の小人のような体躯のモンスターの持ち物だ。鍬を肩に叩きこみ、のたうち回るモンスターから奪った。
そして、俺はラウの手を引き、母さんのゼニを追い立てて村から出た。
――――周りで殺されていく、顔見知りたちを置いて。

モンスターたちの襲撃があったのは、ほんの数時間前だった。それからほんの僅かな時間で村は蹂躙された。
男たちは盾となって、女子供を逃がす時間を稼いだ。それでも間に合わなかった村人たちは、全員殺された。
駆け抜けながら、俺は見ていたから。ついさっきまで生きていた奴らが、生きたまま解体されるのを。

それから、俺たち3人家族はずっと森の中を逃げている。
手足が短かく腹が膨らんだ、いわゆる幼児体系の妹の足に合わせているので、移動速度は遅い。だが、ラウを責めるのは酷というものだろう。村から逃げ出してから、一言も泣き言をこぼしていないのだから。

幼くても分かっているのだろう。今俺たちが死に包み込まれかけていることを。
しかし、ラウの根性も緩やかな傾斜がある丘を登っている途中で尽きた。剝き出しの根っことデコボコの酷い足場は、体力を消耗させる。

「にいちゃん………疲れた」
「ラウ……頑張って」

そう励ます母さんも言葉とは裏腹に、物言いたげな顔で俺の方を見ていた。
母さんもくるぶしまであるスカート姿という森を歩き回るには適さない服装で疲れを見せている。
俺に頼るなよという言葉が出そうになるが、脳裏によぎる血濡れた地面に倒れる男の姿がそれを思いとどまらせた。

「……分かった。少し休もう」

地面に座り込む2人の疲労は深い。ラウもそうだが、母さんはこのまま死にそうなほど酷い顔をしている。このまま行っても行き倒れるだけだ。
夜も更けた。どこか隠れられる場所で休まないと。

「少しここで休んでて、寝れる場所を探してくる」

不安そうな顔をするラウの頭を撫で、母さんに目線で頷いた。

「……すぐ戻ってくる、それまでラウをお願い」
「………気をつけてね」

―――――死なないでくれ。
周りの剝き出しになった断崖絶壁に洞窟でもないか探す。
―――考えるな。
血と悲鳴が飛び交い、燃え上がった家に人でないものたちの姿が照らされる。その足下に倒れる誰かも。
―――ゼロ!ゼニとラウを連れて逃げろ!ここはもう駄目だ!
決して太くはない腕で、鍬を振りかぶる男の姿。そして、地面に叩きつけられ、刃が次々と―――

「クソがっ!!」

自分で自分の頬を殴りつける。狂人のような行動だが、いっそのこと狂ってしまいたい。だが、まだ駄目だ。少なくとも母さんと幼い妹は助けないと。
だから、こんな幻聴は気にせずさっさと寝床を探さないと。―――幻聴?
違う。誰か男の声が聞こえる。それは―――悲鳴だ。

助ける?バカ言うな。モンスターがいるなら、さっさと逃げないと。
けど、男が俺を助けてくれるなら?それなら、男の方が俺たちを襲うかもしれないだろ。そもそも、悲鳴を上げるような奴じゃ、頼りにならない。

それでも、身体は悲鳴が聞こえた方に向かっていた。
何故。何故。
クソっ、クソがっ!
なんで俺はこんなことをしてるんだ!

あれは、小鬼?
枯れ木のような手足に、不釣り合いに出っ張った腹と、白髪のようなものが僅かに生えたでかい頭。その顔はボロ雑巾を斧でズタズタにしたように醜い。
そんなモンスター、合計3匹が男を襲っていた。男はナイフを必死に振り回していたが、主婦の方がいい包丁さばきをするのではないか。
その男の恐怖に歪んだ優男風の顔と、誰かが重なった。

「え?」
「ギャギヨ?」

俺の跳び蹴り、というか地面を踏み切っての踏みつけが、男から一番離れた小鬼の頭に決まった。小鬼の頭を足の裏で地面に叩きつけた。
奇襲は一瞬で決めないと勝機はない。これはケンカと同じだ。絶対に違うと分かっていても、そう思っていつも通りに動け。

無理な着地で体勢を崩しながらも、もう一匹に突っ込む。
突き出した石のナイフが小鬼の喉に刺さり、衝撃に耐えきれず――――折れた。喉を押さえてゴボゴボと口の端から赤い液体をこぼす小鬼。
最後まで立っている一匹と俺の目が合い、お互いバカみたいに見つめ合っていた。
正気に戻ったのは小鬼が先――しかし、選んだのは逃走だった。

「てめっ逃がすか!」

子供と大人ほどの体格差で逃げ切れるはずもなく、タックルして地面に引き倒した。ナイフを持つ手を押さえつけ――コイツっなんて力だ!ここでナイフを取られると死ぬと分かっているからだろうか。

俺はその喉を掴むと、持ち上げて地面に叩きつけた。デブのガキ大将にやられて3番目に痛かった攻撃だ。効くだろ?
何度も何度も叩きつけると、腕の力が緩み、そして奪ったナイフでその喉を掻き切った。

――――やっ、た。
俺の下で事切れる一匹、喉にナイフが刺さったままの一匹、首が変な形に曲がっている一匹。全て死んだ。俺は生きている。
全力疾走したように息が乱れていた。
そのまま座り込んでいると、遠慮がちな声がかけられた。

「あ、あのー大丈夫ですか?」

その声が死を生み出した場所にあまりにそぐわない、脳天気なものだったので、イラついきながら振り返ると、男はびくりと身をすくませた。
身なりがいい男だった。マントを纏いブーツを履いていて、使いこなせていなくとも、ナイフを持っているし―――背中には荷物らしきものがある。
つまり、どう見ても俺たちと同じように村から焼け出された奴らには見えなかった。

「………あんた、どっから来たんだ?その格好、村人じゃないだろ」
「え……いや、僕は流れの旅商人で、村に商売しに来たら、モンスターに襲われて。それで逃げてたら、小鬼どもが追ってきて、そしたら、君が助けてくれて。ってか、君凄いな!最後とか素手で倒したろ!」

コイツ、死にかけた直後で元気良すぎだろ。
笑顔は引きつっているし、ナイフを抜き身のまま振り回すし、空元気を出しているのは丸わかりだったが、テンションが異様に高い奴がいることで、逆に俺は落ち着いた。

「僕はクスター、ありがとう。君は命の恩人だよ。名前は?」

まあ、とりあえず、

「俺は、ゼロだ。近くに妹と母がいるんだが、水とか食料持ってないか?」

こいつが背負ってる、その荷物。それは役に立ちそうだ。


「ありがとうございます、クスターさん。食料を分けて貰って」
「ははは、いえいえ遠慮しないで下さいよ、ゼニさん。ゼロには命を救ってもらったんですから。危うく永遠におまんまにありつけなくなるところでしたよ」

クスターを連れて戻った時、2人は最初は見知らぬ男を警戒していたが、荷物から堅パンと干し肉を出した瞬間、どうでもよくなったようだった。
洞窟を見つけるのを諦めた俺は、少しでも見つけにくいよう、木に囲まれた場所に移動してそこで食事をした。ラウはクスターから食料を奪い取ると、一心不乱に食べている。

「そうですか、それならいいんですが。けど、お前、あんまり危ないことしないでおくれよ?」
「わかってるよ。今回は小鬼3匹で、油断してたから助かっただけだ。そう何度も上手くいくとは思わないよ」
「まあまあ、ゼニさん。あまり責めないで下さいよ。彼がいなかったら、僕はどうなっていたことか……」

クスターの言葉に皆黙り込み、食事を終えると寝る雰囲気になった。
だが、俺はここで寝るのに躊躇があった。それはクスターを信用できるかどうか、ということだ。

今回は快く食料を分けてくれたが、一気に消費量が4倍になったことを危惧するだろう。
1人立ち去るならまだ良い、ひょとしたら俺たちを害そうとするかもしれない。いくらへっぴり腰でも、あのナイフを使って寝込みを襲えば俺たち全員を殺すこともできる。
そうでなくとも、俺を殺してラウと母さんをどうこうする気かもしれない。こいつが旅商人というのも本当か分からない。
思考の海に沈む俺に、クスターが何かを手渡してきた。

「そうだ、これを渡しておくよ。僕が持つより、君の方が上手く使ってくれる」

クスターが渡してきたのは、彼の生命線とも言えるナイフだった。石のナイフと違って、金属の輝きを放つそれは、俺の掌ほどの刃渡りを持ち、戦闘に適していた。
母さんがとんでもないとばかりに、返しなさいと俺に目線で訴えてくる。

「そんな、受け取れませんよ、クスターさん。それはあなたのでしょう」
「これを渡さないと、息子さんは眠れませんよ。僕がこれでお母さんたちを害さないか心配してる。……良い息子さんですね」

気付いていたのか。
正直、俺はクスターを舐めていた。腰抜けのボンボンがお先真っ暗で途方に暮れていると思っていた。
だが、こいつは俺のことを見て、何を考えているのか読んでいた。
―――その人を見る目。商人というのも、嘘ではなさそうだな。

「ゼロ、それはもう君のものだ。命を救ってくれたことへのささやかなお礼と思ってくれ」

それだけ言ってクスターは地面に寝っ転がった。
母さんの咎めるような視線を感じつつ、俺はそれを袖の中に入れて、奪われないよう柄を握って寝っ転がった。
クスターの評価を改めてなければならないな。そんなことを思いながら、意識は闇に落ちていった。
悪夢は―――見なかった。
現実が悪夢と化した今は、神様たちも手加減してくれているらしい。
死がまき散らされている、この現実では。


朝起きると、クスターはもう起きていて、ラウに朝食のドラフルーツを渡していた。相変わらず何も言わずにそれを食べるラウは、俺が起きたことに気づくと、傍に寄って来た。

「にいちゃん、今日は起きるの遅い」
「お前が早すぎるんじゃねえか?」

そう言いつつ、身体を起こしてナイフを取り出す。腕にナイフの跡がついていて、ずっとそこにあったことを証明していた。

「ああ、そうだ。それを身体に固定する革紐を渡さないとね」

ドライフルーツと共に差し出される革紐を受け取り、少し迷ったが小鬼から奪った石のナイフを渡した。

「一発で折れるナマクラだが、ないよりマシだろう」

クスターはそれをぽかんとした顔で見ていたが、にこりと笑うと石のナイフを受け取った。

「ははは、ありがとう。けど、これで戦うのは期待しないでね?」
「あのへっぴり腰じゃな。ナイフを構えて、ラウの前に立ってくれればそれでいいさ」
「へへへ、分かってくれてるようで」

なるべく嫌味にならないよう、笑いながらドライフルーツを食べると、クスターはへらへらした笑みを返してきた。
そうやって笑い合う俺たちを、母さんが見ていた。
朝食を摂ると、直ぐに出発した。とにかく、さっさと森を出ないといけない。太陽を頼りに歩き、森を出るとクスターが役に立った。

旅商人を自称する彼は、街道を直ぐに見つけ、最寄りの城塞都市への道を割り出した。
俺たちのように、モンスターや災害により村や町を追い出された者たちは、あちこちに建設された城塞都市へと避難する。
町としての名前は他にあるのだが、緊急避難先としてか皆興味ないので、どこどこの城塞都市、なんとかの城塞都市としか呼ばれない。

俺たちが向かうのは夜明けの城塞都市。ここから歩いて3日の所にあるやつで。中央になる王都から見て、東部に位置する場所にあり日が昇るたびに人々を守ってきた城壁を照らすことからついた名前らしい。
他国でも同じようなシステムが取られているようだが、農民のガキに過ぎない俺がそんなことを聞かされても覚えているわけがなかった。自分の住む地域から歩きの範囲で皆暮らし、死んでいくのだ。知る必要などなかった。

もう違うが。変わってしまった。
昼食として、堅パンと干し肉を食べたが水がなくて辛い。朝から歩き通しで、喉がカラカラだ。
ラウは無言だが、皆が食べ終わってものろのろと食べて嫌がらせに近い抗議をしている。
クスターが言うには、もう少し進んだ先に村があるからそこで分けてもらおうとのことだ。

どこにあるんだが。前にはそれらしきものは見えない。
延々と進んできた街道を振り返っても、大して進んでは―――何かが近づいてきている。
前を先導するクスターを呼び止め、異変を伝える。

「あれ見えるか?お前から見て、何に見える?」
「どうって、ははは、おかしいな目がおかしくなってかも。どう見ても、あれって……」
「モンスター、じゃないですか?」
「……人間、狼に乗らない」

土煙をたてながら疾走する狼に乗った、昨夜見たものとそっくりな小鬼。
2頭と2匹、2対の狼とウルフライダーの小鬼が迫ってきていた。
昨夜の小鬼――!?
まさか、昨夜の小鬼たちを殺した犯人を追ってきたのか。まさか、まさか、まさか!!

「走れええええええ!!!」
「ちくしょおおおおお!!」

凍りついていた身体を、大声を出して動かす。
全員、精一杯足を動かして走る。
そう、今は理由なんてどうでもいい。
必要なのは、この人数でウルフライダーに襲われて、犠牲を出さずにいられるかということ。無理だ。
例えクスターを囮にしても1匹しか引き付けられない。俺がもみ合っている内にラウたちに牙を向けないと誰が言える?小鬼が狼を降りれば、頭数も増えるんだ。支えきれない。攻撃されたら最後だ。

じゃあ、どうする。
誰かが気をそらさくては、村で盾になった男たちのように。
誰が?
俺が?
死ぬ?死ぬのか?身体を切り刻まれて、餌にされるのか?
嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ!
死ぬなら弔われ、灰となって大地に恵みをもたらしたい。そんな死に方は嫌だ!
死後遺体を焼き、子孫家族に恵みをもたらすのが命の循環。それを崩した者は家族と共にいれない。同じように輪を外れた者たちと、どこかへ去っていく。

自分に残された妹と母。行きがかりで拾った男。この2人を、こんな頼りない奴に託して死ぬのか。
――――待てよ、灰?
クスターの背負う鞄。昨夜は目立つからという理由で使っていなかったもの。
いける、か?

「クスター、松明と油、種火を出せ。走りながらでいい。さっさとしろ!死にてえのか!」

死という言葉にびくりと震えると、クスターは鞄の中から荷物をさっと取り出した。松明、火打石、油壷。掌サイズの壷を振ると、殆ど満タンのぼちゃりとした音が返ってきた。

「クスター!」

情けない顔をした男を見つめ、絶対に忘れるなと言い聞かせる。

「もう一度だけ、命を助けてやる。その代わり、この2人を安全な所まで送り届けろ」
「な、何をする気なんだい?」
「俺が、俺が残って」

―――奴らを足止めする。
顔を真っ青にするクスター。制止の声をあげる母さん。不安そうな目を向けてくるラウ。
それら全てを一蹴する。

「ごちゃごちゃ言うな!このままだと皆死ぬ!俺だって死ぬ気じゃない!片付いたら、追いつく。絶対に止まるな。いいか?行け!」

1人、足を止めて後ろの小鬼たちを見据える。
さっきまでは小石ほどの大きさだったのに、もう卵くらいになっていた。
足を緩めようとする3人を睨み、叫んだ。

「行けえええええええええ!!!!」

これ以上は俺が耐えられなかった。
3人に背を向け、油をまく。街道に生えた雑草から、両側の生い茂る草原の草まで、道を遮るように。
目前に迫った怪物どもに、笑ってやる。
―――――お前ら、火は好きか?
松明に火をつけ、油に触れさせた。炎の壁ができ、一瞬でも小鬼たちの乗る狼を怯ませる。
獣が。

「うおおおおおおお!!」

火の中に身を投げ込み、身体が燃えるより早く出る。目の前に現れた人間に驚く狼に、油壷を叩きつけた。
狼共々、焼かれて死ね。
松明から燃え移った炎が、狼と小鬼の身体を焼く。絶叫しながらのたうつモンスター。

ここからが正念場だ。
焼け死んだのは1匹のみ。もう1匹は健在。
まともに戦えば死は必須。だから、火を使う。
燃える地面を背にし、松明を右手にナイフを左手に構える。
――――俺は死ぬつもりはないから、お前が死ね。

「グルアアアアアアアアッッッ!!!」
「ギュギュギャギャギャッ!」
「来やがれ、クソ野郎!」

牙を突き立てようとする頭を松明で殴りつける。ギャンという鳴き声をあげ、後ずさる。それを何度か繰り返すと、焦れたように身体全体で跳びかかってきた。
横っ飛びに地面へ転がり、すぐさま立ち上がる。
狼もその場を跳び退っていた。炎の壁がすぐ傍にあるからだ。

危うい。
この均衡は直ぐに破られる。火の勢いが変わってきた。街道の部分は消えていき、草原の部分は油を撒いていない部分にまで燃え広がっている。
火事になる。長丁場はまずい、煙を吸ったら動けなくなる。
どこかで賭けに出ないと、俺が死ぬ―――!

身をねじりながら前に出る。かぎ爪が肩を切り裂き、下から突き上げたナイフが狼の胸の辺りを切り裂いた。
浅い!無意識に腰が引けていたか。
松明を振り回そうとした時、視界を何かが覆った。肥溜めのような臭いの、生温かいナニカだ。ナニカが肩に鋭利なものを突き立て、足に狼が噛みついた。身体が地面に倒される。足をめちゃくちゃに振り回すが、放れない。
この――!
松明を手放して、視界を覆うものを掴みナイフを突き立てる。引き抜ぬいて、また刺す。
引きはがして放り投げたものは、小鬼だった。狼から飛び降りて、俺に組みついたか。
自由になった視界で狼の位置を把握して、無事な方の足で蹴りつけて放させる。

立ち上がるが、ズタズタになった片足には体重をかけられなかった。次はかわせない。小鬼に刺された肩は問題ない。
なら―――――
喉を狙ってきた牙の前に、左腕を差し出す。
腕はくれてやる。代わりに死ね。
片足では踏ん張りがきかず、狼に押し倒されながらも、刺す。刺す。噛まれても刺す。刺す。はらわたを切り裂く。

「オオオオオオオオオオオオオオッッ―――――!!!」

両手で握ったナイフを頭に突き立てた時、狼は動きを止めた。
狼を身体の上からどかし、手足を投げ出して倒れ込む。
終わった――――
全身が痛い。もう疲れた。
――行かないと。
もういいだろ。俺、よくやったろ?
――ここにいたら死ぬ。約束を果たせない。
そんなのあったか?こんなになってまで果たす必要あるのかよ。
――2人にはお前が必要だ。立て、クソガキ。
もう、寝かせてくれよ。
――立て!ゼロ!走れ!生きるんだ!お前の命だ!

いつの間に気絶していたのか。目を開ける。周りは炎に包まれていた。
煙を吸って、思うように動かない身体を起こす。片足の潰れた、亀の歩みでも前に進む。
なんでここまで生きようとするんだろうな。お先真っ暗なのに。
火の粉が風に巻き上げられ、空に舞った。
――炎が大地をならし、人の子の糧をつくり出す。灰の中から、我らが命を紡がれん。
村の婆が言った台詞が耳に蘇った。
けど、俺は命を生み出すためにこの炎を使ったんじゃない。消すために使ったんだ。

涙が出た。
もう二度と戻らない日々を思うように。誰が死んでも、つい昨日、父が目の前で殺されても流さなかった涙が。煙のせいじゃない。自分でも分からない何かのせいだ。
止まらない涙を流しながら、俺は炎の闘技場を後にした。


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