けっきょくなくのかよ
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天からの災いとは……?!
ソレは空を征す覇者だ。
激しい風を纏い、足下の木々を踏み倒しながら 目の前に降り立った。木よりも小さな俺達なんて簡単に踏み潰せそうな黒い巨躯、気性の激しさを感じさせる荒々しい息遣いと焔色の眼、空腹を示すように滴る唾液……最悪だ。死ぬ気しかしない。
とりあえず、リルの一番苦手な でっかい爬虫類 を視界に入れないように、此方に引き寄せていた彼女の後頭部を押さえ、後ろを向けないようにする。
「リル、絶対に後ろ見るなよ。滅っ茶苦茶 怖い思いするからな」
「ぷはっ、無理ですシャル君! もう怖いです! 背後から怖い気配がヒシヒシどころかビッシビシしていますっ! せめて、現状の認識をさせてください!!」
「絶対 泣くからヤダ」
ダメだ、見上げて来た目が もう涙目になってる。いくら強力なリルの火魔法でも、流石に火を吹くドラゴンは 火魔法に耐性もあるし 分が悪いかもしれない。
「《氷結の祝福》」
竜の息吹で美味しく焼き上げられる前に、どうにか追い払えないかと水属性の上位にある氷魔法を放ってみた。ブレス繋がりの駄洒落じゃない、俺の使える最大級の氷魔法がコレだっただけだ。ちくしょう、唾液を凍らせて上半身に霜を貼り付けただけか。
「ひぃー! なんだか怒りの波動が!! 恐ろしいものが来ますっ!!」
うるさい。だけど、見えない割には言ってることは的を射ているのが不思議だ。身震いひとつで霜を払い落とし、ブレスを吐くために 大きく息を吸い込むドラゴンを前に、有りったけの魔力で氷の障壁を張る。
やっぱり俺は防御をしなきゃならない運命なんだろうな。大抵はリルの魔法の余波を防御してるけど。
「いやぁぁぁー! 熱……くはないですけど! でも、シャル君!周りが激しく燃えてますーーー!!」
「ちょ……黙って……」
今かなり集中してるから。ドラゴンは最高峰の討伐難易度と言われるのは伊達では無いらしい。火力が馬鹿みたいに高い。
障壁が破られるのが先か、ドラゴンの息切れが先か。微妙だな。
「リル。障壁が消えたら、走れ。絶対、後ろ 見るなよ」
リルが学舎へ駆け込む時間、稼げるか? いや、稼ぐ。学舎へ行けば、先生達がなんとかしてくれる筈だ。少なくとも、名家の跡取りのリルは最優先で守ってくれるだろう。
今にも破られそうな障壁に歯噛みしながら、リルを抱えたままドラゴンに背を向ける。よし、息切れ目前だ。周りの火が弱まった。障壁が割れると同時に押し出せば、次の攻撃までの隙にリルを無傷で離れさせられる。
ピシ。。。
まずい。
「シャル君……? きゃあ!!」
「ぐ…あぁぁっちい!!」
竜の息吹が止む前に障壁が割れ、背中が炎で炙られる。でも まだ死ぬほどじゃない。……というか、火傷も運命なのかな? かなり嫌なんだけど。
「ぃ……行け!」
「シャル……く、ん???」
押し出したリルは、目を見開いてこっちを見ている。走れよ。そう思うのに、リルは動かない。見開いた瞳の、瞳孔が広がる様を見た気がした。
「あ……ああ、あああああああっ!!」
俺を見ていたリルの瞳が、背後のドラゴンに向けられた。終わった。
せめて、火炎を放つだろうリルの邪魔をさせないように、射線から退きつつ 砕けた障壁の破片をドラゴンの顔へ飛ばして目眩ましをする。これは逃げる時間稼ぎに使う予定だったんだけど……。
「シャル君になんてことするのーーー!!!!!」
は? 俺???
ここは「いやぁぁぁ! おっきいトカゲぇぇぇぇ!!」とかが来るかと思ってたのに。
「あなたなんか凍ってしまいなさいっ!! 《絶 対 凍 結 っ!!》」
キィィ……ン。。。
火魔法じゃないのかよ! いや、属性の相性的にはこっちのが良いんだけどさ。いつも虫やら蛙やら蛇やら蜥蜴なんかを跡形も無く燃やすのは……姿を見たくないからか。そんな気がする。一応 考えて魔法を使ってるのかもな。不思議と死人は出ないし。
完全に凍りついて動きを止めたドラゴンの頭を、圧縮した風魔法で落としてトドメを刺した リルが振り返った。魔力を使いきって、炎に炙られて、予想外の氷魔法に脱力して うつ臥せに倒れ込んでいた俺を見る。じくじくと痛む感じから、おそらく 焼け爛れて酷いありさまだろうから、あんまり リルには見せたく無いんだけどな。動けない。
「シャル君……! いまっ、今 治してあげますからね!! 死んじゃ嫌ですよ!!」
「いや、大丈夫だから」
斜め上からの竜の息吹(息切れ直前)で 後頭部の髪の毛は大丈夫じゃないけど、肩と背中の上の方が火傷しただけだから。今すぐに死んだりはしないから。それよりも、リルの2つに結った長い髪の毛の先が焦げてる。ふわふわで綺麗な髪なのに。
というか、治療の魔法は四元素を複雑に組み合わせた 最上級魔法 じゃなかったっけ? ……もう良いや。リルのやることにいちいち驚くのも疲れた。彼女が魔法を使う時の天性の勘を信じよう。
「《治療》」
清浄な風が俺を包む。火の気が俺の命の炎を活性化させて生命力とともに治癒力を高める。水の気が火傷を冷やしつつ身体を廻る水の流れを浄化して調える。最後に、土の気が肉体的な治癒を促して さっきの新芽が延びるような早さで傷を負った部分が再生されてゆく。
その様子は俺には見えないけど、そんな感じの不思議な感覚がする。治療魔法なんて高いから受けたこと無かったけど、これは すごいな。
「どうですか シャル君、痛くありませんか?」
「うん。全然 痛くない。むしろ、これから ひとっ走りできそうなぐらい」
すごく調子が良い。恐る恐る後頭部にも手をやってみれば……良かった。治療魔法って本気ですごい。
「よかったぁ~。……ふ、ふぇぇ~」
……俺は無事なのに、結局 泣くのかよ。
(´;ω;`)*(´;ω;`)*(´;ω;`)
リルは泣き止まない、泣き止まない。安堵から泣き始めたけど、後から来た恐怖も混じって収拾がつかなくなった。
ヤケになった俺は、いつまでも泣き止まないリルの目許に唇を寄せて 涙を吸い取る……というか軽く舐めてやった。効果は覿面だった。
「~~~~~っ?!?!」
リルは、呼吸3つ分ほど硬直した後、声にならない叫びを上げて腰砕けになった。すごく驚くと、いつも固まるよな。
「……」
一瞬、唇にキスしてやろうかと迷ったけど、止めといて良かった。リルにはまだ早かったらしい。ロゼフィーナ様にも笑顔で「15歳までは手出し厳禁よ」って締め上げられそうだし。実際 言われたし。
その後、大人しくなったリルを背負って学舎へ向かう。お姫様抱っこ? 俺は頭脳労働派だから無理無理。リルが我に返って騒ぎ出す前に帰らないと。
呪文は英語の正しい意味よりも語感を重視していますm(_ _)m
ちなみに、アブソリュートフロストを検索すると 、ゲームの技や小説の呪文ではなく 真っ先に外国のガラス製ビーズが出てきます( ̄▽ ̄;)
ちょっとだけ糖分らしきものを入れてみましたが、お口に合いましたでしょうか?
ワタクシに「さあ、砂(糖)を吐け! 壁を破壊せよ! 爆発の呪詛を撒き散らすがいい!!」などと 高笑いしながら糖分過多のお話を紡げる日は来るのでしょうか……(遠い目)
これで物語は一区切りです。小さな仕込みですが、サブタイトルの頭が「き(起)」「しょう(承)」「てん(転)」「けつ(結)」になっております。物語自体は起承転結になってるか微妙ですけど(=_=;)
拙作にお付き合いいただきまして、ありがとうございました(*^人^*)
後ほど、軽い人物紹介を投稿します。