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あの公園で。  作者: 齋藤翡翠
9/10

ベンチで。中編

「何やってんだ、俺は……」



机上に開かれたノートを見て、俺は頭を抱えた。


そのノートには元々書かれてあった一文の下に、新たな一文が書き加えられている。



『貴方は誰ですか?』



ほんの出来心で書いた一文。

別に真に受けた訳ではない。


ただ、捨てるのには些か抵抗があった。


いざ捨てようにも人の物であって、自分がイタズラでやっているように感じた事であっても、もしかしたら書いた本人には大事な代物かもしれない。


だったら、捨てるのは止めるべきでは……。


「もしこれで、返事が来たらそのまま置いておこう。返事が来なかったら捨ててしまえばいい」



そうだ、俺は至って真面目な判断をしたのであって、決して下らない事に現を抜かした訳ではない。



そう心の中で自分を正当化しながら、ノートをあそこのベンチに置いてきた。



会社へ出勤する道のりで公園に寄ったのだ。


何はともあれ、これであのノートのことは一段落つける。


ノート一冊ごときで何をこんなに葛藤していたのだ。


仕事をせねば。



俺はデスクにある書類を片端から片付けていった。




「宮園さん、今日は何だか何時にも増して気合い入ってますね」


「良いことでもあったんですかね?」


「いやぁ、逆かもしれんぞ」




黙々と仕事を進める俺を見て、皆ヒソヒソと話をしていた。


そんなに今の俺はおかしいのだろうか。



そんなこんなで今日の仕事は手早く済んでしまった。



「宮園、今日はもう帰っていいぞ」


上司にそう言われ、昨日よりも早く帰宅することになった。


「お前どうかしたのか?今日はやけに早いな」


「別にどうもしないさ」


隣の五月蝿い同僚が、珍しく小さな声で話し掛ける。


「ま、まさか……やっぱりこれか?」


小指を立てて驚きと卑猥の表情が混じった顔で言う。

そこはいつもの同僚だった。


「…俺がそんな風に見えるのか?」


相変わらずアホ臭いことを抜かす同僚に、俺は冷たい視線を向ける。


「……見え、ないな…」


悪かったってと謝る同僚に「またな」と言って、会社を去った。




帰りがけに公園に寄ろうか迷った。


今朝置いていったあのノートが未だベンチにあるのか、それとも持ち主が持って行ったか気になるところだった。


有れば捨てなければならないし、無ければ自分が書いた一文を読まれるわけだし……どちらにしても気がかりだ。



そうこうしているうちに公園に着いてしまった。


「見るだけ見るだけ……」


呪文でも唱えるように言いながら、例のベンチに向かう。


「……ある…」


ベンチの上に白いノートが置いてあった。


ごみ行きかと思ったらそうではなかった。


何となくノートを開いてみる。


最後のページを見た時、俺は目を疑った。



返事が帰ってきたからだ。



『貴方は誰ですか?』

の下に、やはり女性の字でこう書かれていた。




『本名は秘密にしましょう。偽名としてリリーとでも名乗っておきます。返すようですが、貴方は誰ですか?私と交換ノート、してくれますか?』



「うわぁ、マジかよ…」


残念な事にこれはイタズラでも冗談でもなく、ガチなやつらしい。


そんなする気なんて更々無かったのに……。


どうするよ、俺。

これは見なかったことにしてスルーするか、いや丁寧に「ごめんなさい、出来ません」と返すだけでもしておくべきか……。



でも、交換ノートくらい別に対して自分に支障は無いし、名前を出さないくらいだからもし誰かに見られても、プライベートな事を書かない限り誰が書いたものかわからない。



ならば、別にいいのではないか?


ここでスッパリ断るのも期待させていたら相手に悪いと思い、俺はそれから名前の知らない相手と交換ノートをし始めた。


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