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あの公園で。  作者: 齋藤翡翠
6/10

トイレで。後編

その週末、俺は公園のトイレへ掃除をしに行った。


相変わらずの暑さで、トイレの臭いも蒸されて酷く臭う。


「うえっ、芳香剤持ってくるべきだった…」


鼻を摘まみながらトイレ掃除に取り掛かる。


棒ずりで床を掃き、たわしで丁寧に便器を洗っていく。


「やる前よりはマシになったな」


見違えるほど綺麗になったトイレを見ながら、溜め息を一つ吐いた。


「ついでに除草剤でも撒いとくか」


壁の落書きはペンキを買った時にするとして、今は大分伸びてきた草退治をしなければ。


俺はトイレ裏に設置してある清掃道具用の箱へと近づく。


この中に買ったばかりの除草剤セットを入れてあるのだ。


「ふふふ、これさえあれば雑草など敵ではない!」


掃除用具箱の蓋に手を掛ける。


「ん?何か固いな」


蓋を開けようとするが、妙に固い。よく見ると鍵をつける穴の所に太い木の棒が刺さっていた。


鍵も掛けてないのに、変に開けられないと思ったわけだ。


「またイタズラかぁ?」


刺されていた木の棒を抜いて、蓋を開ける。


「ああっ!?」


中を見ると驚愕するものが目に入った。




人だ。

中学生くらいの男子。いや、多分学ランを着ていることからして中学生だろう。


手足を紐やガムテープでぐるぐる巻きにされていて、口もやはりガムテープで塞がれている。


「し、ししし死体!?」


初めは殺人事件の死体を発見したような気持ちになったが、よく見ると男子は息をしている。


「お、おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」


急いで塞がれた口や縛られた手足を解放させる。


男子は汗をかき、ぐったりしていた。

初夏とは言えど、この暑さだ。何時からここに居たのか定かではないが、長時間居て熱中症になっていてもおかしくはない。


「と取り敢えず、み水!あと救急車だな!」


119番のダイヤルを回し救急車が来ることを確認すると、近くの自動販売機へ行って水を買ってきた。


木陰のあるベンチへ男子を運んで横にさせた後、水を口に流し込んでみる。


「ううっ…ゲホッゲホッ」


噎せながら男子は気がついたのか、身を起こした。


「気づいたか?無理するなよ、気分悪いだろ」


男子は話し掛ける俺を見て、訝しそうに眉をひそめた。


「あなたは……?」


「この公園の管理者だ。何があったか知らないが、もう大丈夫だ。救急車が時期に来る」


「救急車?」


それを言うと、男子は血相を変えて立ち上がろうとする。


「どうしたんだ!?大人しくしないと、倒れるぞ!」


「大丈夫です、俺帰るんで」


帰ろうとする男子を止めるが、何か嫌なことがあるのか言うことを聞かない。


何故かこのタイミングであるものが脳裏を掠めた。


「トイレに『ダレカタスケテ、コロサレル』って書いてあったんだが、あれは君じゃないのか?」


もし、この男子は虐めか何かであの箱の中に入れられたのだとしたら…

あれはそのSOSだったのではないか…?


しかし、身に覚えが無いのか男子は首を傾げるだけだった。


「知らないよ、そんなの。兎に角、俺は帰らないと……」


見栄を張り続けていたが、やはり具合が悪いのか男子は倒れた。


「おいっ!…だから言ったのに」


直ぐ後に、救急車のサイレンが近づく音が聞こえてきた。



*******************

男子は病院に運ばれた。


軽い脱水症状だけで済んだようだ。


付き添いで病院に行った後、彼のご両親に会い何度も頭を下げられた。


昨夜から帰って来ていない息子をずっと心配していて、警察に届けを出していたらしい。


彼は予想通り同じ学年の輩に虐められていたようだ。



病室へ彼の様子を見に行くと、不貞腐れた顔をして口をつぐんだままだった。


「こら、圭斗(けいと)。助けてくれた方にお礼言いなさい」


圭斗君のお母さんが叱って言った。


「いいんですよ、俺はお礼を言われる程のことはしてませんから」


きっと彼は両親に虐められていることなど知らせたくなかったのだろう。


「君の友達に聞いたよ。智輝(ともき)君って子だ」


友達の名前を出すと、圭斗君は目を見開いた。


「智輝が?…あんなやつ友達じゃねーよ!」


「圭斗やめなさい、何てこと言うの!」


「あいつも虐めてくる奴らのグルだよ。智輝は俺を裏切ったんだ!」


ベッドのシーツを握り締め、剣幕を立てる圭斗君。


その彼を見て、俺は静かに話した。



「裏切ったんならこんなこと教えないだろ?それに彼も言いたくても直ぐに言えなかったんだろう。その代わりに別の方法で知らせようとしてたんだ」


ポケットからスマホを取り出して見せた。


「何だよ、コレ」


写っているのはトイレの落書きされた壁。


「ここを見てごらん。『ダレカタスケテ、コロサレル』って書いてあるだろ。それにその隣に『トイレの裏の箱』って書いてある。これ、智輝君が書いたんだ」


「……」


「これには流石に気づけなかったけど、君を助けたいって思ってた友達は居たんだよ」


圭斗君は満更嫌でもないような、複雑な顔をして黙ってしまった。


「俺もね、昔虐められてたんだ―――」



両親が居なくて、参観日とかは祖母が来てよくクラスメイトに不思議がられた。



いつも大人しくて黙っている俺の性格が余計不思議に思われ、いつしか危ない奴だと他人から避けられるようになった。


目付きが悪かった所為もあるかもしれない。



中学生の時、教室で女子が俺の話をしているのを聞いたことがある。


「宮園君って、両親亡くなってるんだって」


「それ、聞いたことある。事故死なんでしょ?」


「何でも火事で死んじゃったらしいよ」


「え、本人はその時どうしてたの?当時五才だったんでしょ?親と一緒じゃなかったの?」


「公園で遊んでたんだって、それも一人で」


「一人で遊ぶとか、不気味ー」


「あいつが親殺したんじゃね?放火ってやつ?」


「ちょっと男子、声でかいってば!」


「あいつなら殺りそうじゃね?目付き悪ぃし。この間なんか先輩に喧嘩売ってたぜ」


「そのうち、誰か殺したりしてー」


別にそんな噂話は気にしてなかった。

だけど、他人と関わろうとも思わなかった。


勝手に噂話に乗っかって、人のことを避けるような奴らなんかと友達になんてなりたくないと思ったからだ。



中学の時は目付きが悪いとかなんとか言われて、年上の先輩に絡まれることが何度かあった。


その時は独学の護身術を使って巧く逃げていたが、噂を増長させるだけだった。



だから、俺はたまに両親を嫌に思った。


何で先に死んでしまったのか。





自殺なんてマネをしたのか―――。



「俺にはそういう友達になんて居なかったから、君がちょっと羨ましいよ」



病院からの帰り道、見上げる夕焼けは綺麗だった。


俺を照らす夕日は嫌に眩しく、くっきりと俺の後ろに影を作った。

何かダークな話になっちゃいました。


イジメ、ありがちな話ですよね。


いや、でもちょっとヤバすぎるイジメの例を書いてしまいました。


イジメってやっぱよくありませんよね。



最近はよくニュースでイジメの事件を上げられていますが、快い気持ちはしませんね。



リアルガチなもうダメだろそれ!みたいなイジメの現場を見たことはありませんが、イジメと同じくやってはいけない虐待を僕は見たことがあります。



近所で、いや目の前で小さな子供を男の人が蹴り上げている所を。



僕たち家族が駐車場で車を置いている最中でした。


人の目があるのに全く気にせず、痛がる女の子をその人はずっと蹴り続けていました。


僕の母が注意しても「ああ?何か文句あんのかよ!」と食ってかかる程のおかしな人でした。


その人はよく警察沙汰になっている人で、女の子の母親の恋人だったそうで。



そんな虐待の現場を見た僕は、虐めと同じくそれを反対します。



暴力は良くないです。言葉の暴力もです。


最近の子供は言葉に敏感なので、「えっ、そんなことでイジメになるの?」って思うかもしれません。


それでもよく考えれば、ちょっと言ってはいけないことだったな…ということがよくあるんです。



そんなトラブルが減ることを僕は願います。


そんな思いで書いた話でした。


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