トイレで。前編
もう梅雨が終わり、爽やかな晴れ空が気持ちいい初夏。
子供たちは何週間か後の夏休みが待ち遠しいと、言っているだろうこの頃。
俺たち大人にはそんな長い夏休みが有るわけも無く、ただひたすら会社勤めの毎日だ。
俺の場合はデスクワークだから良いものの、そうでない人にはちょっとキツい時期だ。
会社はクーラーが効いているので、外に出るのが億劫だ。
気付けば蝉の野郎も数を増して鳴き始めている。
そんな蝉時雨が降り注ぐ町に出ると、暑さを余計感じるのは何故だろう。
毎年毎年、今年は猛暑だ、酷暑だなんて言い換えてるけど、何時になっても夏は暑いものなのだから「今年も暑い」で良いじゃないかと、最近天気予報に反発している。
そんな猛暑だ酷暑だと言われる夏でも、管理者の仕事は欠かしてはいけない。
涼しい避暑地あらばそこに行きたい所だが、それと同じでこの仕事も避けられない。
なんたって、「やめてやるかよ!」と前回宣告してしまったからな…。
会社帰りの道すがら、首をさする。
どうでもいいけど、さっき新婚したての同僚から「宮園も早く相手見つけろよ!」なんて下らないことを言われた。
そういや、祖母も亡くなる前に「早く好い人見つけて結婚しなさい」とか言っていた。
余計なお世話だ。
そんな出会いがあればいいが、いやまず俺はそういう人間関係なんて皆無だ。
気が付けばいつもの公園まで来ていた。
「……ついでに寄ってくか」
安定の公園探索。
花壇もよし。砂場もよし、多分落とし穴はないだろう……うん、多分。
公園を見回っていると、にわかに便所に行きたくなった。
直ぐ様公園の端に設置されているトイレに駆け込む。
「うっわ…汚ねぇ」
入ると臭いはするわ、トイレットペーパーがぐちゃぐちゃに散らばってるわで、気持ちの良いものでは無かった。
「ったく、何処もかしこも汚くしやがって」
挙げ句の果てには、個室のトイレの壁に落書きをされている始末である。
こういう公園のトイレは大抵綺麗ではない。
俺は管理者としてきちんと公園を管理していたつもりだったが、トイレには全然手をつけてなかった。
「こりゃ、今度の休みの仕事はトイレ掃除に決定だな」
ごしごしと落書きされた壁を指で擦ってみる。
落ちそうもない。
「ペンキで塗るしかないか…」
うう…俺の財布がまた薄くなりそうだ。
この間草むしりが大変だったので、除草剤のセットを買ったばかりなのだ。
それも致し方無いことか。
「む?」
暫く書かれた落書きを眺めていると、一つだけ気になる落書きを発見した。
個室のトイレのトイレットペーパーがあるところの上。
小さく鉛筆で書かれていた。
力強く書いたのか案外はっきりして見える。
「ダレカタスケテ、コロサレル……?」
こんな落書き、どうせ遊びで書いたのだろうとしか思えないのだが、一瞬何だかただならぬ物を感じた。
「まさか…な……」
心霊スポットじゃあるまいし…冗談で書いたやつはよく書けたものだ。
ちょっとその落書きにビビりながら、急ぎ足で家へと帰った。