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あの公園で。  作者: 齋藤翡翠
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花壇で。後編

「はぁー……」



やっと家に着いたと深い溜め息を吐く。

公園から坂道を登って五分。


それだけなのにもうくたくただ。


「宮園」と書かれた表札の下にある郵便受けに手を突っ込み、中に入っている手紙を取り出す。


坂の上にある一軒家。少し古い建物だが、手入れをしっかりされていて全く年季を感じさせない。


黒塗りの門に手をかけ家に入ろうとした時、背後から声をかけられた。



「あら、(まもる)君?」


振り返ってみると、近所に住むおばさんだった。


「誰も居ないはずの家に人が入っていくのが見えたから、誰かと思ったら…やっぱり帰って来てたのね、ここに。」

この人は山下さんという、俺の祖母を慕ってくれていた方だ。


俺が祖母と暮らしていた時にもよくお世話になっていて、面識がある。


「はい、ご無沙汰してます」


「元気にしてた?まぁ、立派になって。しっかし、偉いわねえ。おばあさん先月亡くなられて大変だったろうに、公園の管理ついでにこっちに移り住むなんて」


そう、俺はこの一ヶ月程前まではここに住んではいなかった。その理由もこの人が言った通りだ。


「いえ、もう慣れましたから」


「そお?管理とか大変だろうけど、頑張ってね」


それじゃあと手を振って去る山下さんに軽くお辞儀を返し、俺は家に入った。


「ただいまー…」


誰も居ない家。ついこの間まで、祖母が一人暮らしていた幽かな気配だけが残っている。


「あー疲れた……」


リビングにあるソファーに倒れるように横になる。


首を締めるネクタイを緩め、壁に掛けられているカレンダーを見た。


「……明日は土曜か…」


今日は花の金曜日。明日は思いっきり休める。



「よーし、今日は早く寝よう」


そのまんまソファーで寝るといけないと思い、鉛のような体に鞭を打って風呂に入り、夕食を済ませて眠りに着いた。



*******************


「……買い置きするの忘れた…」


翌朝目覚めて腹が減ったので、食べるものをと冷蔵庫の扉を開けたが、中は空っぽだった。


仕方がないので、俺は坂下にある近くのコンビニに朝飯を買いに行った。


ボケーっとしながら帰りに公園の側を歩いていると、目の端でちらつく物があった。


「ん?何だ?」


今俺が立っている場所から向かい側の公園の端で、二人の子供が屈んで何やらいそいそとやっている。



あの場所は花壇がある所だ。


「もしかして……あいつらが花壇を荒らした犯人か!」


またやってんのか!許せん!と意気巻いて、二人がいる方へと向かって行く。



「おい、君たち、何やってるんだ!」


少し遠くからそう叫ぶと、二人は肩を縮み上げてこちらを振り向いた。


小学校低学年くらいだろうか、小さい男の子と女の子だった。


「……え…あ………」


二人は固まったままこちらを見上げ、ポカンと開けた口から小さな声を漏らした。


思っていたよりも小さな子供だったので、俺は荒げていた声を押さえた。


「何をやってるの?ダメだよ、こんなことをしちゃ。この花はね、俺のばあちゃんが大事に育てた花なんだよ」


二人のいる場所の近くを見ると、昨日と同じように千切られた花が落ちていた。


案の定、花壇の花を漁っていたようだ。


注意をすると、直ぐに女の子の方が謝ってきた。


「…ご…ごめんなさい」


今にも泣きそうな顔をしている。


泣かせるつもりはないし、泣かれると困るので、俺はそれ以上言及するのはやめにした。


「いいよ、今回は許してあげる。だけど何でこんな所に花を捨てたりしたんだい?」


不思議に思って俺は聞いた。


子供のすることは大人には理解出来ないことが多い。


自分も確かに子供の時はあったが、今思い返せば可笑しなことばかりやっていたものだ。


だが、花を捨てるという行為は些か分からない。


俺がこの子たちと同じくらいの年だったら、花を摘んだら持って帰るだろう。


そんなことを考えながら答えを待っていると、今度は男の子の方が口を開いた。


「すててるんじゃないもん!」


「え?」


少々起こり気味に答える男の子の発言に、俺は訳がわからず戸惑う。


「ちがうもん、“おそなえ”してただけだもん!」

「“お供え”?」


男の子はコクリと頷き、花が捨ててある場所を指さした。


「ミーのおはか」


指で示す所をよく見ると、少し土が盛り上がっている。

花も乱雑に捨てられているのではなく、その上に丁寧に添えられてあった。


「この間、ちっちゃなねこちゃんがすてられてて…家に持って帰ったらおこられるから、ここでエサをあげてたけど死んじゃった…」


悲しそうに女の子が言った。


女の子が言うには、家で飼えないからここで世話をしていたのだろう。


だけど、幼い子供の乏しい知識では子猫は直ぐ死んでしまう。


考えるに、この間の雨で体温を維持出来ずに死んでしまったのだろう。

思えば、菓子パン等の食べ物が捨てられていたのだって、その子猫にあげる餌だったと考えれば合点が行く。


「そうか…それは可哀想だったね」


俺があの日無視して通り過ぎたことを、小さくも尊い命をこの子たちは救おうとしたのだ。


子供の心はなんて純粋なんだろう。

逆に俺はいつからこんなに情けない人間になったのだろうか。

この二人を前にして自分が恥ずかしく思えた。



「でも、お花ちぎっちゃダメだよね。おじちゃん、ごめんなさい」


再度謝る女の子の言葉に、俺は幼い日の事を思い出す。


祖母が管理していたこの公園で遊んでいた時、花壇の花を摘んで持ち帰ったっけ。


その花は祖母が特別気に入っていたもので、持って帰って見せた時は祖母はそれはそれは悲しい顔をしていた。


その後直ぐに謝ったら、祖母は「摘んでしまいたくなる程綺麗だったのね」と言って笑って許してくれた。


それから俺が摘んでもいいように、祖母は沢山の花を植えていた。


「いいんだよ、俺も小さい頃に同じことをしたことあるから…」


花壇の花を育てる祖母はもう居ない。

お陰で花ももうあの頃よりは少なくなってしまった。


それでも、残った花たちは綺麗に咲き誇っている。


二度と花壇の花を摘まないと約束して、二人は去って行った。


「ガーデニングなんかは出来ないけど、水やりくらいはするか」

コンビニで買った朝飯が入った袋をぶらぶら振って、また坂道の先にある家へと向かった。


その時は何故か、坂が辛いとは思わなかった。

初めましての方は、初めまして。

いつも読んでくださっている方は、今日は。


齋藤翡翠ことsui(スイ)と申します。



前作『カンテラの街』に引き続き、新たな小説『あの公園で。』を投稿させて頂きました。


自分はミステリーやファンタジーが好きなのですが、思わずヒューマンドラマを書きたくなりました。



今回はある公園でのお話です。


短編を書きたかったのに、話が膨らみ過ぎて不可能でした…(笑)


ですが長編にはしないつもりです。



少しネタバレになりますが、話数によってダークだったり恋愛物になったりするので、ジャンルに迷ったものですがほっこりするものにしたいなと思います。

もうすでにブックマークしてくださっている方がいて、本当に有り難いです。

ありがとうございます。



出来れば毎日更新するように勤めます。

拙い文章ですが、これからも宜しくお願いします。

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