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あの公園で。  作者: 齋藤翡翠
1/10

花壇で。前編

今日も一日怠かった。


会社帰りの道、俺は怠い足を半分引き摺るようにして歩いている。



ある程度歩くと、一旦俺は足を止めた。


「はぁー…」


何故こんな深い溜め息を吐いているのかと言うと、目の前に急な坂が立ちはだかっているからだ。


俺の家はこの坂を登ったところにある。


そう、家に帰るにはこの坂を今から登り切らなければならない。


「何で俺、こんなとこに住んだんだろ。」


今日はいつにも増して疲れている気がする。


駅からここまで歩いて約十分。

それだけでももう息がダエダエだ。


三十を過ぎて初めて年を取った気分を味わった。



(三十一歳なんて、そこらの女子高生からすれば俺もおっさんなのかなあ。)



この年にもなれば、結婚して妻がいて、子供が居たって可笑しくはないだろう。


だが、俺は独身だ。


別に欲しいなんてことは思わない。


そういうことは面倒臭いし、人と関わるなんて御免だ。


いや、嫌いな訳ではないのだ。コミュニケーションを取るのが苦手なだけ。


(疲れてんのかな、嫌なことばかり考える…)


早く家に帰って冷蔵庫にあるキンキンに冷えたビールを飲みたいが、立ちはだかる坂を見上げるとその楽しみは揺らいで小さくなった。


少し苛々している所為かもしれない。



「あ、そうだ」



ふとあることを思い出し、足先を坂とは逆の方向に向けて俺はもと来た道を歩き始めた。


向かう場所は、とある公園。

坂の下にある小さな公園だ。


特別子供が喜ぶような遊具なんて無い。二人分のブランコと一台の滑り台があるだけだ。


たまに近所の子供や老人がやって来るぐらいで、人気も無い侘しい場所だ。


どうしてこんな所に立ち寄るのか?

寂しいおっさんだなって?

失礼な、俺はこの公園の立派な管理者なのだ。

元々は俺の祖母がやっていたことだったのだが、その祖母は一ヶ月前他界した。


俺の両親は俺が幼い頃に不慮の事故で亡くなっており、唯一の有権者が俺だけになってしまったのだ。

祖母は亡くなる前に「適度に管理するだけでいいから」なんて、簡単に言ってくれたものだが、そんな容易なものではない。


公園の指定管理者には色々条約があって、その規制に掛からないように気を付けなければならない。


それだけではなく、近所の人から「子供が花火をやっていて音がうるさい」やら「誰かがBBQをしていて匂いが臭い」などのクレームがあれば、速やかに対処しなければならないのだ。



全く、こんなこと地方の自治体にでも押し付ければいいのにと思うのだが、祖母はそれを許さなかった。


何でも思い入れのある場所だからとかなんとか言って、遺言書にもきっちり「公園の管理を放棄または他者にさせることは禁ず」と書いていた。


だから嫌でもやらなければならなくなったのだ。


公園の入り口から入って、端の方を沿って歩く。


何か異変や廃棄物が無いか確認をするためだ。


「あ」


早速、異変を発見した。


公園の花壇で俺は足を止める。

花壇の花が無惨にも千切られたり、引っこ抜かれたりした跡があった。


その千切られた花たちは、少し離れた別の場所に捨てられてあった。


「また、ガキの仕業か」


この間は、お菓子のクズや菓子パンの残骸が落ちてあった。食べかけの物だけでなく、封を切ってないような物まであった。


多分、食べ物的に若い輩の仕業だろう。


今回は花壇をやられた。


「学校で『来た時よりも美しく』って習わなかったのかよ」


捨てられた花を一つ一つ拾い上げていく。


そうしていると、あるものが目に入った。


「段ボール…?」


中には薄汚れたタオルが入っていた。


少し獣臭い匂いがする。


見覚えがある。確か一週間程前に子猫が捨てられていたのだ。


はっきりと目にした訳ではないが、子猫の鳴き声を聞いたのだ。



雨の降る夜だった。その時俺は傘を持っていなかったので、走り帰ったのを覚えている。



「あの猫、拾われたのか…」


見たところ居ないので、拾われたか自分から何処かへ行ったのだろう。


ま、どちらにしてもそれが本望だと思い、俺はその場を後にした。


未だ重い足取りで、家へと続く帰路を辿った。

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