転移
「う、うぅ……」
目を覚ますとそこは暗闇だった。
地面に倒れこんでいるらしい。身体は気怠く、特に頭にはガンガンと殴られたかのような痛み。
どうやら僕は悲鳴を出すこともできないまま穴に吸い込まれた後に気を失っていたらしい。
吸い込まれた直後に何か大きな力で背をぐいっと引かれ、水流のようなものにされるがままにされたところまでは覚えているが、気を失っている間にどこかに運ばれてきたようだ。
水流のようなものに流されたと思ったが、身体や髪は濡れていない。ならあれはなんだったのだろうか。
そんなことを考えていると突然目の前に光がじわじわと広がり、古代ローマのような、もしくはゲームなどに出てくる神殿のような扉が僕の目の前に現れた。
「やあ最理くん、目を覚ましたようだね。他の二人はもうとっくにここを出ていったよ。」
光に目を鳴らしている中で、突如どこからともしれなくカード店の老人の声が聞こえた。
文句の一つでも言わなければ気が済まない!と声を出そうとしたが上手くいかない。呼吸はできるのに声が出せない!
「ああ、すまないね。今君とは会話をする気は無いんだ。時間がいくらあっても足りそうに無いからね」
これは老人の仕業か!こっちには聞きたいことが山ほどあるっていうのにどうやら質問の機会も与えてくれないらしい。
「君にはこれから望む世界に行ってもらうわけだけど、君たちは異世界の人物だ。文明も常識も違う。
まあ常識は向こうに行ってから慣れれば良いかな?詳しい説明は君に接続した精霊に聞くと良いよ。
向こうの世界では君の案内人として活躍してくれるだろう。」
なんかとんでもないワードが聞こえた。
異世界?接続した?精霊?
なんだか頭痛がひどくなって来た。ああ、これから僕はどうなるんだろう。
「ーーーってわけだから……って最理くん?聞いてたかな?」
僕はハッとして老人の話に思考を傾けた。どうやら聞き逃しがあったみたいだ。
僕はもう一度話をお願いしようと、寝ている状態のまま右手で数字の1を表して頭の上あたりに掲げた。
周りには誰もいないのでとても滑稽な姿になっているだろう
「ハッハッハ!やる気だねえ最理くん!やっぱり私の目に狂いはなかったよ!」
ヘ?
僕は今何かをしでかしたのだろうか。まさかさっき常識が違っていると言っていたけど、もしかしてそれのせいかな?
この老人は間違いなく僕たちの世界の住人ではないだろう。僕たちを異世界の人物扱いしてたし間違いなさそうだ。
「さて、これで説明は終わりだ。君に幸多からん異世界生活が送れることを心の片隅程度には思っておくよ。
君をここに留めておくのもこれでおしまい。さあ言ってきたまえ!」
オープン!と老人が叫ぶと目の前の扉がズズズと引きずられるように開いていく。
光が流れ込んで僕の体が包まれていく。
いやいやいやちょっと待って聞いてなかったのは僕の過失だけどこれはあんまりだ!
なんの決意もしないまま異世界に飛ばされるなんてこんな理不尽は許されないだろ説明もと
そうして僕は倒れたままの姿で圧倒的な光に飲み込まれていった。
ーーー
あまりにも眩しい光だったので、僕は目を腕で覆うようにしていた。
豪風の中にいるようなゴオオオオォオオとうるさい音も止んで来たが、その代わりにガヤガヤという喧騒の音が聞こえる。寒さに体を震わせながら周りの声を聞くと
「可哀想に……追い剥ぎにでもあったのかしら。」
「何かの仕返しにでもあったんじゃ無いのか?」
「お母さん!なにあれ!」
「しっ!見ちゃいけません!」
なんだなんだと思わず立ち上がると、喧騒は止んだ。
まだ強い光に慣れていなかったのか、ボヤける目をゴシゴシとこすると、僕の周りに人が集まっていた。
エプロン姿のおばちゃん、頭に鉢巻を巻いていかにも職人そうな見た目をしたおじちゃんに、カップルのような二人や、手を繋いだ親子などがいる。
そう、今僕は囲まれているのである。それも大勢に。
頭の中は真っ白になり、必死に原因を考えようと思考するが思考が靄がかっていて上手くいかない。
しかしどうしてだろう。大体の人が僕から目をそらしている。そんなに僕を視界に入れたくないのだろうか。
しかし寒い……ここは寒冷地なのかな?もしくは季節があるのかな。
うん?寒い?
見ると周りの人たちは基本的に薄着のようだ。さっきのおっちゃんなど少し煤けた白い袖のない服を着ている。
もしかして……
僕は冷や汗が大量に出てくるのを感じた。
もしかしてええええ
ゆっくりと”今の僕の姿”を見る。なぜか時間がゆっくりと流れているように感じる。
もしかしてええええええええエェェ!!!
僕は生まれたままの姿でこの世界に転移していた。
開放的